真打登場!/あたくしじゃなくて、アタクシよ?(拍手、拍手!)
『SR-25』
:合衆国海兵隊狙撃銃。
小口径高速弾(5.56mm)が主流の合衆国兵器ラインナップに再び登場した、7.62mmNATO弾使用兵器。
現代の兵器開発において小口径高速弾(5.56mm)のコンセプト自体が過ちとして見直されている。結局、ベトナム戦争で華々しく評価されたことになっているM-16も、合衆国装備の中で数少ない速射性が評価されただけで、小口径高速弾の威力不足射程不足は最初から問題視されていた。
世界三大小銃、四大小銃と言われる実戦で高い評価を受けてきた銃器で、5.56mmを使っているのはM-16しかない。
合衆国が大量生産大流出させなければ五本の指にも引っかからなかっただろう。
SR-25の登場は冷戦後の米軍実戦頻度上昇に伴い、見掛け倒しのハリボテ兵器にも専門家のメスが、やっと入ったことを表している。
ソビエト軍と同様に、見せかけで張り合ってりゃよかった時代が終わったから仕方がないね。
そうした中、実戦に一番近い海兵隊や特殊部隊、狙撃兵などで7.62mmNATO弾を使用する兵器の復帰や採用が先行して進められている。全部一気に変えるのは予算として厳しく、またその必要もない。
実戦の頻度が上がったといっても、米軍全体で言えば戦わない、戦うことを想定していない部隊の方が多いからそれで十分。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もちろん、実戦経験からくる兵器の開発や改良などについて全く縁がない国もある。
ノーコンセプトで開発された性格不明な兵器が、耐久試験すら受けずに生産配備されているのだが。
試作テスト時点で、連射(制圧射撃)時の命中率(?)などと言う謎概念を課せられているあたりで、まあ、兵器を創る気などないのでしょうねぇ。
100周遅れの流行り廃りに乗って、想定戦場や任務も考えず、コストも効率も度外視して自国で生産することだけに執着した結果がこれだよ!
国産しないと、官庁の利権にならないから仕方がないね。
利権にならない救命救急キットや衛生兵の配備は無きに等しく、死傷者が出ない戦場を想定している模様。
配備した兵器の維持管理も等閑に付されているせいか、飛行可能な攻撃ヘリは共食い整備で部隊運用など想定外。
その国では戦争が憲法で禁止されているから、その精神に従っただけだという言い訳も成り立つ。いや、平和主義ってそういう意味じゃないから。
以上は悪夢ではなく、現実のお話。
宵闇に響き渡った化鳥の叫び。
「お――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――ほっほっほっほっほっほっほっほっほっ」
いやさ、こんな人里に、化鳥は住んでいない。
はるか南の森林地帯か、遥か北の樹林地帯。
いずれも人里離れた場所にしかいない。
巨大な樹草が繁茂して、大型の獣がのし歩き、昆虫が跳び交いながら激しい闘争を繰り広げる。そんな無人地帯にしか化鳥はいない。
「お――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――ほっほっほっほっほっほっほっほっほっ」
そしてここは、人里も人里、大陸北方の人類居住地。
厳しい自然に囲まれた温和な楽園。
豊かな耕地を幾百年手入れしてある人の住まい。
太守領、の中心であり最大に人口を擁する首府、太守府、の出入り口であり二番目に多くの人が大勢出入する門の前。
もちろん、都市の常として夜明けまで門は開かない。
夜の闇、人の及ばぬ世界よりの闖入者、判別できぬ客を避けるため。
無駄に篝火をたくこともなく、ただただ閉じて、固く加瀬木を幾重にも固める。
もちろん、戦やそれに近い時は、篝火がなくとも見張りは立つ。
今夜も城壁上には、幾人かの衛兵が立っている。
それらは不動の構えで、暗闇を凝視する。
星明り月明かり。
王城周りのような照明がなくとも、陽が暮れて夜半を過ぎれば目がなれる。
門前の様子くらいは判るモノ。
固く閉ざされているはずの門は微動だにせずとも、篝火が焚かれ、綱で支えられた人影が、ゆっくりゆっくりと門外に降ろされる。
長々と続いたその作業、ソレを見てなお、衛兵たちはしわぶき一つ、上げはせぬ。
都市の掟はこう定める。
日暮れより夜明けまで、門は閉じたまにせよ。
日暮れから夜明けまで、壁の外内行き来すな。
門外は都市の一部でありながら、夜闇はいずれにも属さず。
人の力の及ばない、言葉も起きても及ばぬ世界。
夜、門外にあれば、殺される方が悪い。
「お――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――ほっほっほっほっほっほっほっほっほっ!
アタクシにかかればこんなものよね?????」
月光に映える前に、闇に埋もれ切っている、金髪長髪縦巻重ね。
夜明けから夕方まで、幼なじみの寝台を占拠してぐっすりゆっくり寝ること幾日、今日もまた。
最近は殴られもせず怒鳴られもせず縛り上げられることもなくなって、少し寂しく、肢体は好調。
寝台の主たる男の体調を気にしてあげる優しさにうっとりとしつつ、日暮れより夜半過ぎまで手練れの化粧師につくろわさせた紅も髪粉ものりが良い。
「お――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――ほっほっほっほっほっほっほっほっほっ!」
門前に敷かれた絨毯の上で腰に手を当て高笑い。
松明の明かりが届かぬ闇に、蠢く影がちらほらと。
都市からあふれた貧民が、灯りと獲物に寄ってきたのかもしれない。
「お――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――ほっほっほっほっほっほっほっほっほっ!
よろしくて?」
たった一人の腹心、たった一人のメイドにしてメイド長が抜き身を下げたまま、松明を振る。
周りを固めるのは、メイドの親兄弟と姉妹たち。
みなが悲壮な顔で、武器を構えている。
男はこん棒、女は鉈、子供はナイフ。
素人でもそれなりに使えるような、素人にしか役に立たない、素人が身を捨ててやっと意味を持つ凶器。
傍らには荷馬車と、馬が一頭。
一頭の馬だけは、駿馬と言ってよく、五大家の一つ、その家紋が轡を飾る。
肉眼のみで闇夜に見えるのは、松明の明かりだけではあるが。
すると、たった一台の馬車がゆっくりと、ゆっくりと、街道を門前まで進んできた。その姿を明確に見ることができた者は、感嘆の念をかみ殺していた。
黒檀にも似た素材と、細かな細工を施された工芸品のような、馬車と言う機能とは別種の品物。
それでもその馬車を操る御者はいある。
だが、丸みのある体を厚い革の外套で覆い、姿を見せない。
「お――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――ほっほっほっほっほっほっほっほっほっ!
ご苦労ね」
高笑いする女は、見送る皆に裾を持たせて、装飾過剰なドレスごと、馬車に押し込まれた。
御者は肩に構えていた斧を掴んで周りを見回し、メイドを見る。
メイドは頷き、馬を走らせ、馬車はそれに続く。
城門上の衛兵たちは、見て見ぬふり。
参事会内部の権力闘争が激しくなっていることは、太守府の権力機構の端にいる者なら誰でも聴いている。参事会上層部のやんごとなき方々へ御注進に及んでも、褒美と口封じ、どちらが与えられるかわからない。
ましてや、かつて最高権力を握り、今は没落中の家系になど、触らぬ聴かぬ喋らぬがまし。
それが彼等の分別だった。
その城門、さらに上の櫓にて、SR-25を構えた金髪碧眼の兵士が暗視スコープで何もかも見ていた。
門外では、灯りの中と闇の中、慎重に距離をとり何事もなく痕跡が消えていく。
何もせずに済んだことは、とても良い結果だった。
【太守府/王城内郭/五つの塔の一つ/上層階】
僕は使いを下がらせて、出迎えに向かった。
もちろん、金貨を投げるのを忘れない。
よくやった
――――――――――――――まったく平静に、息をきらせず、急がず、歩いて、行き過ぎる知人と雑談しながらやって来た『使い』。
何もかも昨日から言い含めていた通り。
ドワーフどもが、
――――――――――城門に着く。
使いが王城へ向かう。
参事会に取り継がれる。
参事に話が伝わる。
取りあえず一番若い僕が城門へ。
言ったとおりにできるというのは、僕の配下の基準。できることしか命じてはいないが、それでなお失敗する者もいる。
現場で僕を待っているのは、父の代から僕に仕える老傭兵。
完全武装のドワーフ騎兵隊列を前にして、騒ぐ衛兵を制し、怯える市民を抑え、王城に走り出す者がいないように私兵を動かす。
しかも僕は、先制を禁じている。
優位な立場で、一方的に蹂躙し、威圧する。
五大家に逆らいようがない弱い家を打ち壊し、命じられた相手を捕え斬り拷問する。
五大家の私兵たちは攻めることに慣れている。
それが私兵の役目だ。
それが最近と来たら、どうだ。
無数の農民とにらみ合いながら決して手を出すな、とか。
無数の市民農民を威圧しながら、決して青龍の貴族に手を出させるな、とか。
不快な視線をさせるな、罵声を上げさせるな、その気配があったらすぐ殺せ、とか。
不慣れな仕事が増えている。
普段なら、そのような状況を創る主、僕への不平が高まるところだ。
だが、まったくそんな動きが無い。
・・・・・・・・不愉快だ。
憎まれる侮られる恐れられる、なら、ともかく、な。
僕に限りはしないが、それで愉快になるわけじゃない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――諦められているのだ。
青龍を前にして、誰がどうにか出来る、訳が無い、とな。
僕の背後。
ゆっくりと歩くその後を、三歩間をあけて続く、町娘、姿の女。
つい先ほど、僕のもとに、ゆっくりと歩いてきたのは、私兵を預けた老人、その孫娘。
息子や娘、男の孫達は全員城門を抑えているからな。
仲が良い兄弟が、精強な西の山のドワーフどもと、一触即発でにらみ合う。
衛兵を抑え、市民を抑え、なれな役目に戸惑うのを抑える。
走ってきたかっただろう。
気が気じゃなかっただろう。
僕の命令を急かしたいだろう。
僕は命じておいた。
子供の使いの如くふるまえ、片手間仕事だと肝に銘じろ、誰が殺されてもそれと気づかせるな。
若く華奢な、お前にふさわしい役割だ。
見る者が見れば、足の速さを生かしている僕の伝令だとわかるだろう。
だからこそ、普段走り回っている娘が暢気に歩けば、伝わる。
判る者にはそのように。
判らぬ物にはそれなりに。
言ったとおりにできるというのは、値千金。
コイツの見事な仕事に、報いてやる、と見せかけねばな。
どうなるのかは解らん。
どうできるのかも知らん。
どうするのかを考えている。
太守府自体は壁に囲われた城塞都市だ。
この邦は大陸の他地域から隔絶されている為に、外敵に襲われた経験が少ない。
十年間の帝国軍侵攻が、百年ぶりの外敵だったというのだから徹底している。
それが、百年ぶりにして最後の外敵だったがな。
そして穀倉地帯で、北国のわりに気候も穏やかで安定している。
食うに困らなければ、争いも起きにくい。
建国当初こそ専制的だった王家は、歴史の半分以上で貴族や騎士たちの盟主とでもいうものに成り下がった。
穀倉地帯特有の土地争い水争いが原因で争いが絶えなかった時代。
有力な農民が武装して貴族になりつつあった時代。
個人の武芸一つで戦が左右された時代。
幾人かの人間とエルフとドワーフに魔法使いが王権を打ち立てた。
それが、この地方をひとまとまりとした、この邦の始まりだ。
王家の命令で争いが抑えられ、余力を動員して一通りの治水が終わってしまえば、争いの原因自体が無くなった。
中小貴族に騎士たちは、互いに利害を調整する。
その結果を箔付けする為に王家を必要としていたし、それとても深刻な対立と言うほどのことでもない。
農民たちは貴族騎士たちの横暴から身を守るために王家を支持したのだが、戦が無くなれば増税も徴発も徴用もなくなる。
他を圧する指導者など王家も含めて誰も求めていなかった。
農民たちは習慣的に王家を崇めているだけだし、貴族や騎士は階級特有の妬み嫉みで頭一つで抜きんでることを互いが赦さない。
他の地方より多い神殿故か、不作こそあれ凶作や飢饉の記録もない。
だからこそ、王家が力を失って以後、内乱反乱のようなこともおこらなかった。
そんな内憂外患に縁なき邦の、元王都。
それが城塞として一通りの設備を得るに至っている理由は一つ。
――――――――――腹くちくなれば見栄を張る――――――――――
ただ、それだけ。
穀倉地帯として安定し、どこででも売れる穀物が海上交易にのれば、それなりに富が流れ込む。小さな邦に見合わぬ富が、人の懐をうるおせば、何かを飾り付けたくなる。
王城を白亜で仕立てて磨き上げ、王都の外観を重厚にしつらえた。
皆で眺めて悦に入り、港に集まる稀人たちを、王都に招いて自慢した。
だから誰かの耳にも入り、竜と騎馬軍を呼び寄せたのだが。
幸い、十年前の王都陥落時、王城も城塞都市の外殻は全く傷つかなかった。
空から降りてきた竜が王城に舞い降りて、逃げる市民が開け放った城門から騎馬軍がなだれ込んで、終わり。
この邦の者たちが見せびらかした相手には、帝国の物見もいたのだろう。
見せびらかされるほどの代物を、傷つけたりするわけがない。
王城と城塞は丁寧に帝国の手に落ちた。
邦ごと。
それから十年後。
いきなり正門が破壊された。
正門が造られてから、初めてのこと。
それが二カ月余り前。
青龍は、この邦の連中が何を自慢にしているかなんて、調べもしないし関心ももたない。
帝国貴族、帝国騎士の首を狩りに来た。
門が閉まっていた。
壊した。
そして王城を家探しして、帝国が居ないと知るや立ち去った。
それが青龍の女将軍だ。
そして青龍の貴族が訪れるまで、一ヶ月。
正門を造り直したのは参事会。
これまで役に立ったことがない代物でも、何もなくあけっぱなしでは、恐ろしかったのだ。
それが、今回、この邦の歴史を通じて、初めて役に立つ。
僕が、役に立たせる。
太守府、裏門。
邦を南北に分断する大河、河沿いに伸びる街道を東西に受ける太守府の、西側出入り口。
人の数で言えば、太守府の東側、港に向かう正門近辺の方が人は多い。
人と物と金の流れは、太守府と港街の間が大半だからだ。
間口が広い正門の方が攻めやすい。
と、僕なら考えるだろう。
だが反面、西から来たなら西門に至るのが最も速い、とも思う。
ならば正門にわざわざ回り込まなかったのは、速さを優先したからか。
当然僕は、正門裏門双方に配置をしておいた。
西の山のドワーフたちには手練れの密偵が常についている。
青龍の貴族が毎日飽きもせず、西の山のドワーフ、その隊列を観察している。その様子は尋ねれば誰でも教えてくれる。
常に一定の速度で、日の出から日の入りまで進む、西の山のドワーフたち。
奇襲の仕込みかとも思ったが、まったくそんなことはなかった。
今日、この時間につくのも予想通り。
むしろ手前の街で、西の山のドワーフたち自身が間隔調整をしていたくらいだ。
私兵も衛兵も、ゆっくり一晩寝かせ、眼が覚めきる時間にたたき起こし、温かい朝食を与えた。
そして僕は、いつも通りに目を覚ましたことにして、商談を控えながらも、いつも通り決済を片付けていた。
むろん、今日に限っては、外出の予定をいれていない。
王城から出ずに、備えもしない。
奴らが太守府外周門前に着いてから、動き出すために。
到着の頃合いは予測できていたのに、それでも僕が、太守府中央の王城に留まっていた理由。
待ち受ければ、文字通り受け身になる。
無視すれば、責める糸口を失う。
まったく自然に日常的に、事前の予測に合わせて綿密に組み上げられた計画通り
――――――――――本当に、この過程を踏んでいる。
失敗に備えた仕掛けが三通りあったが、まあ、よし。
僕の動きは、特に、皆の耳目に入る。
王城内の参事や参事会のものたちの。
参事会に無関係な奉公人たちの。
そして市民たちも、これから目撃させる。
口裏を合わせるより、事実の方が効く。
知らせが来てから、わざわざ向かうのは、そういうこと。
へりくだるべきではない。
だが、居丈高にもならない。
舐められてはならない。
怒らせてはいけない。
幸いに、時間はある。
王城参事会の執務室を出て、廊下を行き交う参事会の雇われ達から礼を受け、王城の門へ向かう道すがら。待っている馬車に着くまで、ゆっくりと考えを確かめる時間。
僕が考えるのは、奴ら、西の山のドワーフども。
奴らの狙いを半月かけて、あらゆる手管でさぐり続けた。
その結果、奴らの狙いが
――――――――――わからない、と判った。
苦労したかいがあったというものだ。
これだけ手を尽くしても、影も窺えないとはな。
つまりそれは、西の山のドワーフどもが抱く、危機感の証。
あの、ドワーフをして、完全に統制出来ている。
それは、明確な目的がある、ということ。
先行きの見通しがあり、それが部族大半の合意を得られる、ということだ。
大勢が同意するってことは、突飛な思いつきではあり得ない。ならば、部外者たる僕にも理解ができるということ。
理解できる、だから、対処できるということ。
当たりがつけられたら、な。
【太守府/王城内郭中央部/上層階】
なにもかも御領主様の采配通り。
―――――閣下は、指示しません―――――
青龍の僧侶さまが示唆されたとおりに、あたくしも御領主様の意を汲みまする。そんな、あたくしを見て多くの者たちは、察して動き、時に止まります。
あたくしは、メイド服の裾を乱さす、走ります。
言わずとしれた、常に有らざる、予期した事態。
御領主様からお預かりした、あたくしたちメイド。
御領主様の命にて加わる他家のメイド。
皆が十日前から仕立てたとおりに、持ち場に走ります。多少裾を乱すのは、場にふさわしくもありましょうか?
互いに目配せ、囁きすらあげずに、慌てず急がずいち早く。
各々それぞれ一斉に。
他家の者たちが、半歩遅れるのも予想のうち。
この十年、ついぞ無かった、攻城戦。
皆に行き渡る御領主様の意思
――――――――――失せろ。
御領主様は、ずっとずっと、お待ちでございました。
それは、あたくしも、声を失うほどの驚き
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・待たれる、ということがおありなのですわね!!!!!!!!!!
女は待たせるのに、と、いささか奥方々様の心中お察しいたします。
皆が、お邪魔にならぬように、片付けに入っておりますわね。
お客様をお迎えするご用意は、よろしくて。
御領主様のお片付け、よろしくて。
大掃除の手順は、心得て。
あたくしは、立ち止まり、呼吸を整えました。
ここから先、青龍の皆様の、不入の回廊。
青龍の僧侶様が、お待ちかねでした。
これよりこの先は、御領主様の敵のみが、招かれし敵のみが歩まれます。
なぜかしら?
――――――――――心が躍りますわ。




