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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第五章「征西/冊封体制」

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人間の使用法/Bottleneck.

『M6 Bayonet』

:銃剣。国連軍で一番使用されている兵器。実際に人間を狙って撃ったことがある兵士は少ないが、銃剣で死体を刺したことがある兵士はそれなりに居る。

軍事参謀委員会は

「近代兵器と戦術が帝国に理解されれば戦争に負ける」

と考えている。

実際、中世レベルの兵器と可能な戦術で対抗するプランは幾らでも作ることができる。よって、最悪の瞬間を可能な限り遅らせる為に、敵を戦場から生還させないことに全力を尽くす。

その手段がオーバーキルを突き抜けた火力重複投入であり、入念な死亡確認となる。



現代人の脳容量、五感はクロマニヨン人と変わらない。


映像音声数値などの情報が光の速さで伝達されても。

ゼタバイトヨタバイトの情報量が自由に利用できても。

どれほど長い間に記録され続け整理され続けたとしても。




行き着くところは人間だ。



例えば

「市場」

という言葉がある。


経済を学ぶのではなく、信仰する人々のイコン。


むろん、それが成立し得ない理論上の仮定であることは論を待たない。いくつも理由はあるが、一番代表的な原因は、それゆえに司祭(自称経済学者)の糾弾を招く。


司祭以外の、理解できない教義を拝聴している皆は

・・・・・・・・・・・・・・・信徒はそもそも教義を疑ったりはしない。



すべての消費者が同時に質量ともに等しい情報を得られることは、物理的にあり得ない。

故に需給バランスがそもそも出現しないのだから、均衡することは論理的にあり得ない。

よって市場価格と言われているのもは、ありえない仮定に対する妄想が生む錯覚である。


とまあこれが異端者(一般的な経済学者)の指弾。

司祭たちは唱える。


情報化社会はすべての人々にリアルタイムで情報を入出力することを保証する。かつて未成熟であった市場は、情報技術により完全に具現化したのである。

すべての金融市場がオンラインで接続され、あらゆる商品情報が多くのショッピングサイトにあふれ、個々の消費者は自ら評価を発信する。

これこそアダム・スミスにより予言された「見えざる手」である。

瑕疵は常にあるだろう。

これまでそうであったように、これからそうであるように、未来に向けて永久に改善されていくのである!



さて問題。


一万年前から見て人間は進化したであろうか?

学者の答えは、NO。



情報が増えれば増えるほど。

知識が得られれば得られるほど。

機会が与えられてしまうがために。


確認することすらおぼつかない。

理解することが追い付かない。

選択肢を把握しきれない。


保存領域を生かせないから

認識能力が小さいから。

処理能力が無いから。


判断はおろか、反応すらできない。

当たり前だ。



ありとあらゆる「すべて」に対応できる存在がどこにいる?



知識の洪水は無知を産む。

自由の氾濫が牢獄を築く。

情報化社会は無情報社会。





「すべて」のボトルネックは、人間だ。




【ガイダンス】


参謀旅行にいらっしゃいました皆々様。


あれが大陸で標準的な地下迷宮です。


明らかな人口建築物ですが、建築者を含めて来歴は不明。地上部分は三層構造の神殿上建築物で、地下構造は8層以上あるようですね。

いずれにしても、この世界の建築技術では再現不可能、とされています。ただ、ドワーフの鉱山坑道ならば、同規模のものが確認されております。


標準的、と表現した理由がお分かりいただけましたでしょうか?

そう。

この異世界大陸では、あのようなものがいくつも存在します。

そして、管理されている。

帝国によって。


しかしそれを作ったのは帝国ではありません。


帝国以前から存在し、各地で放置され、あるいは畏怖されていた建造物。UNESCOが確認した限りでは数百年前から今と同じ状態で異世界の人々の前にあり続けていたようです。



何なのか?


今確認されている限り、異世界の人々は知りません。

管理していた帝国も、その点は知りません。

起源の解明には関心がなかったようです。



帝国は地下迷宮を、その起源ではなくそこに在るモノを、研究してきました。起源には関心が無くても、彼らが持つ技術で再現できないモノから学び取ることはできる。

ココは彼らにとって、研究素材なんですね。


そして、我々との戦いにおいては、地下陣地とされた時もありました。




これを攻略してみましょう。


どんな方法がありますか?

砲撃、空爆、ミサイル攻撃

――――――――――――――――――――――――――――――無駄。


もちろん、皆さんご存知ですね。硫黄島の戦訓をみるまでもなく、バンカーバスター程度の玩具では、山をくり抜いた要塞には通じません。


そんなジャンク兵器では、例えがふさわしくないでしょうか。

表層に近い部分を崩す事には、なんの意味もない

――――――――――ならまだましです。



入り口を潰してしまえば、突入できません。

敵の守りを堅くして、別経路から逃げられるだけです。

時間と資材の無駄ですね。


利敵行為はオスプレイ送り。


戦死扱いにはしてあげましょう。まあ、この戦争で、敵に殺された人数は、戦死者の一割に満たないのですが。


・・・・・私が言うと、冗談になりませんか?



さて。

我々がやるべき事を、思い出してください。


安全保障理事会は国連軍兵士、全員に命じます。


敵の一体々を確認しろ。

頭を潰して首を落とせ。

死体を数えて記録しろ。


必ず銃弾を撃ち込め。

必ず銃剣で貫け。

必ず殺せ。

――――――――――まあ、常任理事国代表、その御一人の発言に、皆が首肯しているだけなのですが。



常任理事国メンバーといえば・・・・・・・・

警察畑のご老人、現役愛人のご婦人、大学院生に大学生、一度も戦争を体験したことがない父。

唯一戦場から戦争まで実行した最高司令官。



餅は餅屋、となるのも仕方がありません。

――――――――――誰がどの国の代表か、わかります?



流石に生涯一歩兵、歩兵の本懐ここにあり。


その大統領閣下なんですが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ことあるごとに一兵卒を連呼する、政界の黒幕と気が合う由縁ですね。



まあやれというならば在庫は、異世界人全てに10発ずつ撃ち込んでも足りますが。とはいえ、155mm榴弾を10発直撃させた残骸らしき何か、を組み合わせろとは申しません。



やれ!!!!!!!!!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・言いそうですね。


合衆国大陸軍軍人ですから。


ご安心ください。

上手く言っておきますから

――――――――――父に。




戦略概況を過不足なく把握されましたら、戦場を紹介いたします。






まずは地下迷宮の状況。


構造概略は、わずかばかりの帝国廬獲資料、並びに周辺住民の薬物聴取によるデータです。地下型であることと階層数、主な出入り口くらいしかわかりません。


いうまでもなく迷宮は帝国管理物件。


撤退する帝国軍は資料の大半を、我々が到着する前に、いち早く破棄。

・・・・・・・・・・・・・大変な損害です。



帝国軍は開戦初期と違い、資料を放置する事が少なくなりました。

国連軍が何をおいても必要としている、地球人類がこの異世界で生きるために必要不可欠なモノを、必死で集めている世界資料を、我々に渡さないようにしている。



・・・・・・・・・・・ように見えます。


しかし、資料処分を実行した捕虜の尋問して確認できました。捕虜自身が資料破棄のにどんな意味があるか理解していません。



もともと帝国は病的なまでに、ありとあらゆるすべて、

・・・・・・・・・・・・・・・地理、気候、人口、言語、作戦、損害、

戦果、などなど・・・・・・・

を記録して保存し蓄えます。



――――――――――魔法使いの性向でしょう。


騎竜民族の習慣ではありません。

ですので収集にあたっている兵士も、んじゃぜ記録して回収しているのか理解しておりません。

しかし、騎竜民族は魔法使いの指示を受ければ、盲目的に従います。

どれだけの手間をかけ資材を消費してでも実行します。


彼らを導いて世界を征服させたのが、知識の回収を命じる魔法使いだからです。



その帝国軍が、貴重な、大変な手間をかけて集めた記録を、破棄する。



なぜでしょう?

それは

――――――――――――――――――――敵(我々)を苦しめる為に。



敵(我々)が、魔法使いが集めさせた資料を集めてる。

理由はわからないが、敵(我々)はソレを必要としている。

だから、それを破棄する。



それは帝国軍の末端部隊による、自発的な判断。


理由は判らない。

判る必要もない。

そして行動する。


――――――――――――――――――――恐ろしい事に。



通常の敗走時、戦場にいる魔法使いは資料を持ちだそうとします。帝国軍将兵は基本的に魔法使いに協力します。

まだ、印刷技術が未発達ですから、資料の散逸は情報の消失に直結しかねません。魔法使いたちが将兵の脱出よりも資料の後送を優先するのは当然ですね。


よって開戦当初は、魔法使いのいる場所を襲撃すれば、大量の資料が入手できました。


しかし、国連軍を観察した帝国軍の動きは変わりました。

・・・・・・・・・・・・・・・ええ、我々は帝国軍に監察されているのです。


玉砕しながら後方に、状況を伝え続けた殿部隊。

資料を護るために奮戦して、増援を求め続けた帝国魔法使い。

撤退後も現地住民に紛れ込み、国連軍占領部隊の傍らにいた密偵。



――――――――――彼らが、見ていたのです。



帝国軍施設に押し入って、資料となりそうなものを片端から集める国連軍兵士。

書庫から出られなくなった魔法使いを包囲したまま、一撃で葬り去ろうとせずに異常なほど時間をかけて包囲を続ける国連軍部隊。

UNESCO部隊が都市や街の富裕層の家々から記録や書物を略奪し、意識のはっきりしている高齢者たちちを連行する。



国連軍も戦場戦術の隠蔽は念入りです。

ですが、戦闘後までは配慮しなかった。

――――――――――だから気がつかれました。




国際連合安全保障理事会命令。


ありとあらゆる資料を回収せよ。

紙、木 、石、金属、種族を問わない知的生命体で基準を満たすものを確保して記録して保存せよ。

そのためなら全ての手段を無制限に行使すべし。


強奪、拉致、恫喝、拷問、自白剤、時々買収のち隠滅

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・UNESCO調査部隊は大きな成果を上げました。

今、この瞬間も、上げ続けています。


だからこそ、破壊的手段が抑えられ、帝国側から見れば観察しやすかった、と。




帝国はどうしたでしょうか?

これも帝国支配領域で活動中している我々側の密偵や、強硬偵察部隊が拉致してきた帝国人への尋問で判明しています。


帝国では、敵の偵察情報は速やかに帝国前線指揮官や太守たちが共有します。

そう、共有です。


我々と違って、一元管理ではなく、です。




魔法を重んじる帝国は、情報伝達の速度と質で異世界を圧倒しています。

そう、異世界を、であり

――――――――――21世紀地球技術に及ぶべくもありません。



赤い瞳、生得の資質しかない魔法。

普遍的再現性を誇る地球技術。


この差は埋められません。


異世界、帝国は、圧倒的に少ない経路で膨大な情報をやりとりします。



巨大な世界帝国を、ただ維持するだけでも足りない通信リソース。偵察、密偵、協力者、官吏、軍隊、etc.無数の末端が集める莫大な情報は、リソース不足を破滅的に悪化させました。


帝国全土、帝国統治機構各所で情報は停滞し、滞積します。



一元的管理が不可能であり、フィードバックも出来ない。

だからこそ

――――――――――情報を共有します。



新しく得た情報は、最終的には帝国中枢に達します。

しかし技術的な限界から、届いた時には古い情報です。


リアルタイムに情報が届くことも無ければ、情報元に指示を出すための経路が短時間で空くことは、まずない。

だから、帝国上層部は、おおざっぱな示唆以外できません。

だから、末端に任せざるを得ない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・ほかにしようがないから、そのようにした。



手が届く範囲で、伝えやすい範囲で、可能な範囲で得られた知識を共有します。

情報を、今すぐに知りたいのは情報源に関わるもの達です。



敵の情報を知りたいのは、敵と対峙している部隊。

作柄を知りたいのは、その耕作地帯を管理している太守。

密偵の動きを知りたいのは、密偵が暗躍している地域の異端審問官。


そして情報は、情報源の近くで採取される。

ならばわざわざ遠くて経路が限られた、中枢に届けてから、再度フィードバックする必要などない。

指示を仰ぐなど、時間の無駄でしかない。

手が届く範囲に知らせればいい。


結果を含めて、皇帝陛下には、後で知らせればいい。結果が悪ければ処刑されるだけのことで、それは何をどうしても変わらない。


そう考えて

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・実行しました。


中世レベルでしかない、敵が、ね。



方針どころか、具体的行動、いえ、誰に情報を与えるかまで上部組織に委ねてしまっている現代組織を嗤うように。


我々、有線無線に同線電波光ファイバー、サーバーに交換機にデータベース。

時間と距離を技術的にゼロ化した、我々。


前線部隊の一兵士の視線すら、安全保障理事会の代表たちがに伝えられます。


そんな我々が、完全に出し抜かれました。

技術的にはるかに劣った相手の、情報処理能力に。

いえ、情報処理の放棄に、でしょうか?



帝国軍前線部隊は素早く、把握します。

国連軍が資料をかき集めている、と。


だからこそ、その意味など考えず、理解しようとなどせずに

――――――――――――――――――――反応します。



誰の許可も、指示も、追認すらなく

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・資料を破棄する。



帝国中枢が、中枢で力をふるう魔法使い達が、命より大切にする、様々な資料を焼き払う。記録を見る限り、証言を聴く限り、帝国は一度もだれも資料処分を命じていません。


莫大な時間と手間をかけて、帝国なりの管理タグをつけて整理した無数の、コピーがない資料。


その処分は規定も無く、命令もなく、責任者もいない。



誰一人、疑問に感じていません。


全ての帝国人を尋問すれば、あるいは、一人くらいみつかるかもしれません。やって良いかどうか、上層部に確認しようとする者が。


まあ、我々ならば、ゼロタイムで繋がった電話の前で保留音を聴きながら、敵の突入を待つのでしょう。



という訳で、緒戦で成功した我々の資料集めは、程なく失敗の連続に転換。

最近は、まあ回復基調にあります。


帝国の対処が早いのに、やっと気がついた我々が手を打ったからですね。

主戦線が静かな為に、余力を投じて易くなったから、でもあります。まあ侵攻作戦の進展で、資料採集対象地域に主力部隊が近付いたからでもあるでしょう。


しかしなにより、国連軍も、敵を見習って現場裁量を格段に増やしたからですね。


この地下迷宮の、最終に申し上げた、僅かな情報。

これでも現代組織が不得意な部分を、中世の組織から学んだ成果です。


帝国には官僚主義が萌芽すら見えません。



誰かの許可を得たからと言って、免罪されることなどありえない。

前例に従ったからと言って首が(物理的に)つながったりはしません。

稟議書もなく、会議もなく、合議制など考えたこともないでしょうね。



だからこそ、帝国では官吏の首が次々と跳びます。

物理的に。

もちろん、それで支障は起こりません。

まあそうでしょう。

――――――――――――――――――――代わりのいない人間など、いやしません。


誰にも選ばれていない官吏の席が永久就職になり、構想して決定して実行して、跳ぶのは選挙で選ばれた議員の首ばかり。

・・・・・・・・という世界もありますのに。




通信できないから自分で、情報量が少ないからすぐに判断せざるを得ない彼ら。

莫大な情報を咀嚼することに日を費やしている中枢の、決定を待ち続ける我ら。





情報戦、最大のネックは、人の頭の中に在る

――――――――――というわけです。




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