平和の求め方/県外移設と酒の席
さて、今日の仕事を始めよう。
《2月1日国際連合安全保障理事会理事5名を前にて/一衆議院議員による理事会最初の言葉》
諸肌脱いだ男たち。
肌も露わな女たち。
軍服姿の戦士たち。
皆が皆、着くずした制服姿。
全裸で踊り狂う例外。
皆が構え突き上げるM-14。
皆が染め上げた黒い髪。
カラーコンタクトで瞳まで黒くするレアなバカ。
科学を駆使して小麦色になったアホ。
ジュネーブ条約が無い世界。
地球人だとわかりやすい方が、捕虜になる可能性が高い。
だから、コーカソイド、碧眼、金髪は後方配置。
最前線から排除される。
――――――――――――――――――――そんな噂が流れたからだ。
ならば赤毛茶髪は大丈夫なのだが、勢い余ったのだろう。
中には染め落としを常備して、最前線で落とそうという猛者もいる。
黒髪で司令部の方針をごまかし最前線へ。
その後は金髪で暴れまわる。
捕虜になる気なんかない!
殺されるなら大いに結構!!
命など戦果のための供物なり!!!
そう、誇示する為に。
第3海兵遠征軍、総勢一万数千の戦士たち。
Semper Fi!
Semper Fi!
Semper Fi!
Semper Fi!
Semper Fi!
Semper Fi!
狂いながら、叫びながら、隊伍を組む。
雄叫びをあげ、雌叫びをあげ、軍旗を掲げて、待ちわびる。
Harry!
Harry!!
Harry!!!
Harry!!!!
Harry!!!!!
Harry!!!!!!
Harry!!!!!!!
Harry!!!!!!!!
―――――――――Fidelity,
――――――――――――――――Valor,
―――――――――――――――――――Honor
――――――――――――――――――――――――――Dooooooooooooo!!!!!!!!!!
背後に響く音
響爆弾。
歩いてくる人影。
海兵軍に向かう隙の無い制服。
合衆国陸軍の制服。
Boooooooooooooo!!!!!!!!!!
――――――――――――――――――――――陸軍へのブーイング。
無視して動じない合衆国陸軍将官礼服。
一糸乱れぬシルバーブロンドをアップにした女性。
駆け寄る女性海兵隊隊員に軍帽を預けた。
駆け寄る兵士が増える。
先に囲んだ兵士達が、M-14を上空乱射して後続を制止。
屈強な、時にマッチョな兵士達が道を開いた。
取り囲む女性隊員は姿勢を下げて前進。
皆の、なにより中央を歩く女性の視線を遮らない。
中央の女性はゆっくり歩きながら、海兵軍の隊員を睥睨している。
そして、最前列を越えた。
海兵軍司令官が駆け寄り、敬礼。
司令官は女性の視線に従い、M-14を捧げ渡す。
歓声が爆発する。
BBA!
BBA!
BBA!
BBA!
BBA!
BBA!
BBA!
BBA!
BBA!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――彼女が振り向いた。
ざわめきが退いていく。
静まり返った。
兵士達の視線がキラキラと輝くのは、サーチライトの為か。
皆、最前列は匍匐、だんだんと座り、しゃがみ、中腰、起立、肩車と段差をつくる。
彼女は兵士と同じ大地に立つ。
すべての兵士が彼女を見た。
銃弾が飛び交う戦場のように、中腰で走り込む将官が彼女の前にマイクを設置。
緊急が最高潮に
――――――――――――――――――大音響、高音質、ハスキーボイス。
コンサート用のスピーカーだ。
「死にたくない者は
――――――――――――――――――――――――――――去れ」
BUoooooooooo!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
キャンプ・コートニーが爆発した。
この場にいない門衛も、通信指揮スタッフも、基地中の兵士が、軍属も怒声を張り上げた。
肺の中身を放り出すような、否。
「生きたいヤツは
――――――――――――――――――――――――――――失せろ」
VUuuuuuuuuuuuu!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
彼女の眼光に、兵士、否、戦士たちが静まり返る
「貴様等」
――――――――――沈黙。
「困難な任務を与える」
――――――――――静寂。
「相手は人間、ドワーフ、エルフ、そして竜と魔法」
――――――――――生唾をのむ気配。
「知っているな」
もちろんだ。
全員、M-14の習熟をしながら、様々な異世界種族の姿形を目に焼き付けた。
わからない事が多い特徴も、想定される戦術も。
竜。
地を駆け、空を飛び、炎を吐く。
魔法。
巨大なゴーレムを操り、炎で薙ぎ倒し、風で切り刻む。
まだまだ調査中。
知らない事が多いという事も含め、すべての兵士が知っている。
「合衆国憲法により命じる」
もっとも困難な任務。
「戦って死ね」
最強の軍隊。
最強の兵士たち。
人類最強の戦士たち。
キャンプ・コートニーが爆発した。
声にならない歓声。
Granma!
Yes!
Granma!
Granma!
Yes!
Granma!
Granma!
Yes!
Granma!
Granma!
Yes!
Granma!
この場で生まれたコールだけにYes!Ma’amも混じっていたが。
彼らは明日、上陸戦を行う。
半月以上繰り返した訓練、死亡者すら出した訓練はその為だ。
だから今夜、薬も酒もやっていない。
脳内麻薬だけでこの熱狂である。
「さて」
彼女の一声に静まり返る兵士たち。
彼女は振り返った。
基地の外に。
フェンスの向こうに。
「県民諸君」
夜景の中に息を潜める人々に。
未だ宵の口ながら、家々でこちらに耳を澄ませる人々に。
「合衆国軍最高司令官より礼を言う」
彼女、現合衆国大統領が目に映らずに、声が響く一帯に語りかけた。
「世話になった」
夜の街、夜景の中を、地元の議員達が与野党問わずに駆け回っている。
不測の事態を防ぐために。
「我々は征く」
二度と帰らない。
なぜなら、征く先には勝利と死だけがあるのだから。
「後は諸君らの代表者に任せる」
壇を設けずに、傲然と大地に立つ彼女の姿。
「Good Luck!」
翌日。
嘉手納基地からオスプレイが飛び立った。
国際連合特使を載せて。
異世界の大陸がある方向へ。
合衆国軍最高司令官は彼らを見送ってはいない。
昨夜のうちに、チヌークで移動。
その朝上陸作戦の指揮中枢、第7艦隊旗艦ブルーリッジに詰めていたからだ。
不確定要素が一番多い初戦。
軍事の全権を握り、政治の最高指導者と直結した者が、最前線にいる必要があったからだ。
ありとあらゆる手段を、即時許可するために。
異世界転移後、最初に迎えた2月1日。
《在日米軍基地沖縄県外移設記念式典/合衆国大使館HPより転載/末尾の解説は編集による》
【太守領西部/西の山/その麓で一番風光明媚な隠しスポット】
「HE~~~~~~~~~~~~Y!!!!!!!!!!!!!!!!
Me~~~~~~~~~~~~~~~~~~n!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ドワーフども、うちもよそも、の背後で響き渡るシャウト。
かなり離れているが騒々しい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・春の日差しを受けた花咲き誇る草原だよ?ここ??
「ヤッテルカ――――――――――――――――――――――――――――――イ!」
Ypaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!
お前ら何人だよ!!!
ってか、元カノの子分たちに引き込まれている、西の山のドワーフ。
なら、あの雄たけびは元カノ仕込みか。
いや、マメシバ三尉も、怪しい。
ロシア語得意って言ってたしな。
「April Twentieth(4月20日付け)!牝種限定G1レースミスコン種馬カップ差別上等Fuckin Humanitarianismハッタハッタ一番いい女はどれだ???」
神父がアカペラで歌うように踊ってシャウト。
ドワーフたちも盛り上がる。
なんか指さしてるな。
魔女っ子。お嬢。エルフっ子。Colorful
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そっちか!!!
ドワーフたちは種族が
・・・・・・・・・・・・・・・エルフや人間とはカテゴリーが違い過ぎて、色恋の対象ではない、はず?
「毛並みが良い」
「鼻が渇いておらん」
「強そうじゃ」
「動きが速い」
「ヤル気に満ちておる」
「今日は何日じゃ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、そーいう見方、ね。
競馬場にたくさんいるオッサン、と言って悪けりゃ、俺たちが猫や犬を批評するようなものか。元カノも黒旗団の獣人や軍用虎をモフモフして喜んでたしな。
ほっとこう。
俺は子どもたちを見た
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・我慢だ。
あのエルフっ子も耐えている
――――――――――――――――――――――――――――――ドワーフに。
クールで、魔女っ子を守る時以外、笑みを見せないエルフっ子。
まあ、耳が凄く正直だけどね?
今もなんだかピクピクしてる。
あれはいらだってるな。
ドワーフと、俺にも
元々、俺は他人の顔色をうかがうことが得意だ。
女性の機嫌は損ねるけどね?
いや、別に、ワザと怒らせてるんじゃないよ?
突然急速に悪化する機嫌に、あらゆる努力が裏目に出るからね?
うん。
フシギダナー。
ともあれエルフっ子の気分はよく判る。
あれだけ正直だと、俺以外が気がつかないとは
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、会ってから一週間くらいは、俺だって耳に気がつかなかった。
間違いない。
魔女っ子に訊いたが、言われて見れば、という感じだったしな。
むしろ、シスターズの小さい二人、一番近い二人から見るエルフっ子。
――――――――――――――――――――――――――――――いつも静かにほほ笑んでいる、物静かで冷静な大人の女性。
それがエルフっ子
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰?
エルフっ子といえば。
魔女っ子の危機に駆け付けて突入
・・・・・・・・・・何も考えず武装した俺たちの中に。
初めて乗ったヘリコプター
・・・・・・・・・・空から見まわす光景にワクワクする笑顔。
好奇心旺盛で地球のファッションに挑戦!
・・・・・・・・・・ミニスカートに気がつかずに、内側を見られて涙目に。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、まあ、俺にとっても黒歴史だよね。
小さい二人から見たら、きっと、凄い大人なんだよ。
よーく考えたら、俺より歳上だし。
歳上~?
むしろ外見の年齢相応な感じがする。
まあ、見た目高校生くらい。
メンタリティも、日本の、その辺でうろついている子供らと変わらんような。
剣と魔法の世界、って部分を考えなければ。
だがしかし、それはむしろエルフっ子の美点だと思うよ、うん。
魔女っ子、お嬢も尊敬してるし。
尊敬っていうより、大好きだしね、エルフっ子のこと。
エルフっ子が狩りに出て、不在中に訊いたのだよ、昨日。
流石に目の前では訊かない。
学んだのだ、体験から。
ここ一月にも満たない貴重な経験値。
問いかけ。
本人や小さい二人に。
エルフっ子の様子が変だが、何かあったのか?
エルフっ子が楽しそうだが、何かあったのか?
エルフっ子が顔を伏せたまま俺の袖を掴んでいるのは、この世界の習慣か?
何の気なしに聞いただけなんだ
――――――――――本人がまた、スッゴく赤くなり、またスッゴく抗議された。
今まで5回もつねられたり、ペシペシ叩かれたら、俺でも流石に判る。
魔女っ子やお嬢、お嬢パパや坊さんに訊いたから怒った訳じゃない。
本人に訊いたからでもない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・訊いて欲しくないのだ、と。
だから、本人がいない時に、魔女っ子に訊いた。今は特に異常はないとわかったから、今後も時々聞くけどね。
――――――――――あえて念を押そう――――――――――
俺は、そっとしておいたり、助けを求められるまで待ったりはしない。
魔女っ子に、はっきり口止めしなかった、エルフっ子の不覚。
魔女っ子は、口止めされていれば、答えられないというタイプ。
あっさり嬉しそうに、エルフっ子の事は何でも教えてくれる。
家族自慢なんだと、よーく解りました。
さておき、我慢。
手を出さないように。
美味しそうなお酒だけどね。
エルフっ子も、耐えている。
そんな、表に出さないように我慢するけれどまあそれが成功していないエルフっ子を見れば俺も我慢がしやすくは別にならないが。
うん。
真理だ。
友達が風邪ひいても自分の風邪は楽にならない。
そんな俺の我慢と葛藤を無視するのは、ドワーフだ。俺にまっすぐ向き直り、グイッとオッサンらしくまっすぐに。
「のめ」
「後だ」
即答。
やったぜ。
いらん、と言わないのは、ほら、あれだよ。
俺は酒が嫌いじゃない。
だが量はのまない。そして探しもしない。
だが、酒好きの友達に連れられて、色々試すのは好きだ。
ドワーフ酒は、そんな友人にすすめ返せるような、そんな香りがする。
だが、のまない。
だーれが戦場で、味方以外がいる場所で、のむもんか。戦場に立つ者として当然の心得だよね。服務規定でもあるけれど。
グビグビとのむ、敵味方のドワーフ。
――――――――――台無しだよ!!!!!!!!!!
【太守領西部/西の山/その麓で一番風光明媚な隠しスポット/青龍の貴族/後ろ】
あたしは耳を疑った。青龍の貴族にドワーフが
――――――――――酒を勧めた?
ドワーフにとって、それは好意の証し。
曲がりなりにも、無関心より好意より。
嫌いな味方もいるし、好きな敵もいる。
だから好意と敵対協力とは関係ないけれど。
とにかくどわーふが、相手、青龍の貴族を肯定的に見ている、ということ。
来訪者の同席を許す。
自ずから酒席に招く。
他人の酒を勧める。
自分の酒を勧める。
自分が造った酒を勧める。
ドワーフたち
――――――――――その好意の順番。
青龍の貴族がドワーフを招いた。
それは、基本的なやり方。
ドワーフとの付き合いを求める、誰もがやることだ。
最後に、だけど。
そもそも・・・・・・・・
付き合いを、求める?
彼が?
らしくないような、でも、らしいかしら?
ただ彼、青龍の貴族以外
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・普通いきなり初対面では、誘わない。
人間と違って誘いを蹴られたら、次はないし。
ドワーフは決して社交的じゃない。
気分次第で反応が変わる。
すくなくとも、あたしが知っている、人間の商人たちはそうしている。
ドワーフとの付き合いは、連中が偏屈で頑固でお調子者で気まぐれなだけに、難しい。
一人一人がなにをするかわからない。
部族全体としては、一応利害計算ができる。でなければ商売なんかできず、山奥で人と関わらずに暮らしているでしょう。
だから商人たちは、ある程度、互いの関係を付けてから、断られない状況で招く。
それは人間だから。
だから鉱物や細工物のためなら我慢ができるし、うまくドワーフに合わせることもできる。
なら、青龍は?
普通、彼は、青龍みんなかもしれないけど、特に彼、青龍の貴族は相手に何かを求めたりしない。
敵も味方も周りのすべてをひとまとめ。
稀に命じ、たいてい無視、そして一方的にたたき伏せる。
後は、勝手に差し出されてくるのをのを黙認
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たまに、奪うけれど。
改めて、まとめて考えようとすると、なんだかすごく
――――――――――――いーのよ、それでも。
だから意外よね。
青龍の貴族が、順番をたどることが。
でも、噛み合うわけがないし。
青龍の貴族が見切ったら、それで終わり。
西の山が消えるなら、あの娘の眼に入らないようにしよう。太守府から遠いから大丈夫。鉄不足で参事会が困ったところで、あの娘は商いに疎いから、妹分が誤魔化してしまう。
そう、思ってた、のに。
でも応えた。
青龍の貴族、その誘いに、見知らぬドワーフが
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぜだか。
そして、招かれたドワーフが、酒を勧めた。
これも意外。
あからさまに青龍の貴族を拒絶してたくせに。
まあ、返礼かもしれない。
強者が無理を押さずに退いた。
客観的に見れば、ドワーフは助かった。
面子を守られ、次に続けるならば。
生き残れるかもしれない。
もっとも、ドワーフは主観の塊。
状況を舐めている可能性だってある。
義理の一環として形だけ、とかね。
でも、礼儀で済ませるなら、招きに応じるだけでいい。
すぐ帰れ。
なのに酒を勧めるのは、もっと私的な行動のハズ。
ドワーフの戦士長が、そいつが役目を超えて青龍の貴族に好感を持った。
ドワーフのくせに。
で、それに対する、彼。
罵倒するドワーフ。
招く青龍の貴族。
応えるドワーフが酒を勧める。
――――――――――それを断る、青龍の貴族。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あなたたち。
戦いたいの?
戦いたくないの?




