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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第五章「征西/冊封体制」

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アナタのユメの互換性/Utopia≒Dystopia

登場人物&設定

※必要のない方は読み飛ばしてください

※すでに描写されている範囲で簡単に記述します

※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします


一人称部分の視点変更時には一行目を【語る人間の居場所】とします。

次の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの特徴となる一人称を入れます。

以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。

(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)



【登場人物/一人称】


『あたし』

地球側呼称《エルフっ子》

現地側呼称《ねえ様》

256歳/女性

:異世界人。エルフ。『あの娘』の保護者。シスターズの姉貴分。ロングストレートなシルバーブロンドに緑の瞳。長身(数値不明)。革を主体とした騎士服にブーツに剣が常備。着飾るのは好きじゃない、が、最近は時々ドレスアップするようになる。だが大勢が集まる場所で集まる注目が不愉快。なので、限られた場所でだけ服を変えるようにしている。

ピクニックに合わせて緑のエプロンドレスを身にまとう。


嫌いなドワーフ他に見られているのが不愉快。

特定の誰かに注目してもらえないように見えるのが心配。

256年生きていて初めて感じる感覚に振り回されている。



【用語】


『ハーフエルフ』:エルフと人間の間に生まれた混血種族。エルフに似た美しい容姿と不老、不妊、それ以外は人並みの種族。異世界全体として迫害される、奴隷であってもハーフエルフをいたぶるのは主人の義務と化している。


『エルフ』:異世界の種族。基本形態は人と同じく四肢がある。手足指の数は同じ。全体に背が高く細身。女性は概ねメリハリがあり、男性は細身でありながら筋肉質。人間の美的感覚で言えば総じて美しい。異世界の他の種族と比べて圧倒的に長命、絶対的な不老。10代から20代を少し超えた程度で老化しなくなる。俊敏で器用、五感が鋭く、感染症になりにくい。帝国から絶滅して異種族とされており、大陸では奴隷として以外の生存が赦されていない。

帝国以前に歴史が始まる前からドワーフが嫌い。


『ドワーフ』:異世界の種族。基本形態は人と同じく四肢がある。手足指の数は同じ。全体に縦横サイズが同じで厚みがある体つき。背丈は平均160cm前後と低めだが横幅も同じくらいあるので小さい印象はない。体毛が濃いが獣のように全身を覆っているわけではなく、厚くごついが皮膚も露出している。全身が筋骨隆々としており腕力持久力耐久力が強い。服装装備もごつごつしたものを好む。力仕事も得意だが、細やかな細工や彫金、合金精製など器用さこそ最大の特徴。世界を支配していた帝国においては貴族たる騎竜民族に魔法使い、その資源扱いの領民(エルフを除く異世界全種族)、絶滅指定のエルフなどとは別のカテゴリーとして、優遇されている。

帝国以前に歴史が始まる前からエルフが嫌い。




私には夢があります。

いつの日か、かつての奴隷の子孫たちとかつての奴隷所有者の子孫が同胞として同じテーブルにつくことができるという夢です。


私には夢があります。

私の四人の幼い子ども達が、いつの日か肌の色ではなく人格そのものによって評価される国に住めるようになるという夢です。


――――――――――マーチン・ルーサー・キング





【国際連合安全保障理事会/諮問委員会/同化政策研究会会合/録音データ】



大きな檻を創ることで、小さな檻を解体する。



豊かさの絶頂期にあった、とある時代の合衆国で、とある実験が行われた。


「ファシズム再現実験」


とある高校。

とある授業。

とある生徒たち。


この実験に参加した人間は全て「実験」になるとは知る由もない


彼らはファシズムを否定する講義を受けている。



触媒は三つ。


ひとつ。

クラス全員の投票で指導者をえらび、常に「様」を付けて呼びかける。


その時は、担当教師が選ばれた。

無難な結果。

それは集まった生徒に、つまりリーダーになりえる人物が居なかった事を示す。


ふたつ。

簡単なスローガンを唱える。


スローガンは「同志は助け合う」となる。

解りやすく誰にも反対されない内容が選ばれた。


みっつ。

皆でお揃いの服を着る。


単なる真っ白なシャツとジーンズ、だけになった。

これも着ることに抵抗を覚えない無難な選択。ただ、色とりどりのファッションを楽しむ同級生が選びそうもない。



指導者は命令権を持たないし命令もしない。

スローガンに強制力はないし授業以外では唱える義務もない。

コーディネート無しの白いシャツで、互いを見分けやすくなった。



授業は選択制で、いつでも抜けられる。

そもそも生徒たちは選ばれていない。

自分で授業を選んだだけ。








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しばらく後、実験は「指導者の命令」で中止された。


その「運動」が校内を席巻し、外に溢れ出したからだ。


彼らは助け合い、同調者が増えていき、彼ら以外は無視されていった。

批判するものは疎外され、あと一歩で

――――――――――親衛隊が生まれるところだった。


指導者を、護る為に。


さて、ここで注目すべきところは、実験の結果ではない。それは既に定型化した社会心理のパターンに過ぎない。

いつでもどこでも再現できる、科学的な事実、は余談に過ぎない。






注目すべきところは、陳腐な結果ではなく、その過程にある。






彼ら被験者たちは様々な背景に分断されていた。

性別、人種、貧富、素行、成績、身体能力

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・決して交わらない関わらない、合衆国が平等を信じていた時代だからこそ造られた、モザイク。



「私には夢があります」

――――――――――と殺されて、なお残る理想を謳った声。


様々な差違を吸収し認めあい、互いを高め合う坩堝にしたい。

――――――――――と望んだ合衆国がどう終わったか?



言うまでもない。

20世紀までにその計画は理想になった。


ユートピア、どこにもない世界。


合衆国では一人残らず、仕事も住まいも生活も学校も、物理的にも精神的にも分離された。


憎みあわないように。

殺し合わないように。

気がつかないように。


街自体を壁で覆ったゲートタウンが生まれたのもこのころだ。


傷つけることも傷つけられることも、したくない。

ならば、互いに離れて、互いを忘れ合えばいい。


コレは自主的なアパルトヘイト。

ソレをつなぎとめるために必死に唱えさせていた愛国心は陳腐なアクセサリーへと変わった。あるいは、つなぎとめようとしたからこそ互いに反発し、モザイクすら維持できなくなったのか。



その同時期に、真逆の現象。


男が女を護り、女が男を庇う。

人種間の対立が高まった時、有色人種の盾になる白人種、白人種の盾になる有色人種。

貧困層のチンピラから富裕層の生徒を護るのは、同じクラスで学ぶ貧困層のチンピラ。

シャツが買えない生徒の分まで、白いシャツを買い込んでくる富裕な生徒。

真面目な生徒と不真面目な生徒が互いの家に行き来する。

勉強ができる生徒はできない生徒に勉強を教え、運動ができる生徒は苦手な生徒をフォローする。


何か不都合があるだろうか?

むしろ理想的なのではないか?


ただ簡単な、形式を守るだけ。

誰にも何も強制していない。

それだけのグループだ。


敢えて言えば「自分たち」以外にはなにもしないが、博愛主義者ですら批判する立場にはないだろう。



ならば「彼ら」に加われば

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「彼ら」が、瞬く間に、同年代の少年少女を席巻したとて不思議はない。




同志と共感者以外から、彼等が、どう見えたか。



同じ服をまとう。

同じ言葉を叫ぶ。

同じ指導者を仰ぐ。


奇怪に見えたし、疎外感を感じたし、なにより「彼ら」は元々既存のコミュニティーに所属していたのだ。

性別、人種、貧富、素行、成績、身体能力で別けられた、コミュニティーに。


「見限られた」側が反発してもおかしくはない。

特に、コミュニティーの中心にいた者ほどそう感じる。

「裏切者」

と。


「彼ら」はソレに反応する。

「侵略者」

と。


既に持っていたものを失い「奪われた」と憤る立場。

築き上げたものを否定され「奪われる」と怒る立場。


どちらも被害者だと思っている。


エスカレート。

互いの違いは、差別に至る。

不愉快だから同席しない

――――――――――多数派が少数派を駆逐する。


明確な組織と不明確な共同体。

「彼ら」が優勢になるのも必然だった。


意図していなくても「彼ら」が居ることでは「彼ら」以外が公共のスペースに居づらくなる。対立の当事者でなくても「彼ら」以外のすべてが同じ影響を受ける


自然に始まったそれは、習慣となり体系化され、提案が命令となるのにそれほど時間はかからない。


性別、人種、貧富、素行、成績、身体能力、ありとあらゆるカテゴリーを超越して機能するシステム。


世界は「彼ら」と「彼らの敵」で出来ている。



軽蔑されるべき旧支配者。

見下されるべき愚か者。

侮られるべき少数者。





――――――――――差別の完成――――――――――




科学の、いつも繰り返される、勝利に過ぎない。

自然現象を解析検証し、再現プロセスを獲得する。

これが、実験の成果であり、歴史上の類例で立証可能だ。



誰かが言った。

「差別は人間の宿痾であり不治の病だ」

ならば解決は簡単だ。


戦争をなくす程度には容易い。



特定のプロセスを踏めば、ありとあらゆる差別を失効させられる。

性別、人種、貧富、素行、成績、身体能力、種族、時代認識、出身世界すら。



差別は良くない。

なぜか?


社会を機能させるためのコストを跳ね上げる。

社会を維持しようとするリスクとして存在する。


では、コストとリスクをなくせばいい。



差別をなくすのではない。

差別をコントロールするのだ。






【太守領西部/西の山/その麓で一番風光明媚な隠しスポット/青龍の貴族/後ろ】


青龍の貴族の招いた、あたしたちには招かれざる客。


ドワーフ戦士長。


右手に杯。

左手に料理。


酒は自前。

料理はあたしたち。


いくつか用意したものの中から、野牛の肉塊に下味をつけ、炙って削り、青菜に挟んだ料理を選んでいた。まあ、山では獲れないものね、牛は。


余分な料理は元々、黒旗団のドワーフたちの為に用意してあったのだけど。


そもそも、あたしたち、青龍に敵対してきている西の山のドワーフたち。同席してお昼にするなんて思わなかったわ。



帝国太守の家族、その逃亡を助けた。

・・・・・・のは、あたしにはどうでもいい。


帝国は西の山のドワーフと敵対したことはないし、むしろ従わせた以上に保護していたもの。

好意的な付き合いがあった太守の家族を、新しい支配者に突き出して来たら、その方がおかしい。

・・・・・・・・・・その辺は、まあ、あれよ、感心していなくもないわ。



帝国時代に、優遇されている地位を盾に、あたし(エルフ)をからかってきたヤツもいたけれど。

・・・・・・・・それも、まあ、いいわ。


西の山のドワーフのだれかではあっても、ここにはいないし。

エルフに突っかかってくるのは、ドワーフなら当たり前ではあるし。

あの時は腹が立ったけれど、地位を嵩に着たつもりなんてなかったのかもしれないし。

・・・・・・・・・・帝国そのものに、ドワーフは無頓着だしね。



でも、敵。


無視したんだから当たり前。

あたしじゃなくて、青龍、青龍の貴族をね。


問答無用で滅ぼされても仕方ない立場で、邦中に所在が分かっている、新しい支配者に礼儀を示さない。

園遊会へ招待するという、好意的な呼びかけすら、無視を決め込む。

あげくに、わざわざ、わざわざ、彼がやってきたら

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――罵倒しやがった、わ。


なのに、のこのこ、やってきて。

それなりに気を使って

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あくまでも、

こちらのドワーフは味方だから配慮しただけだし・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

つくったお料理を。


なんでこいつらが食べてるのよ!

戦士長以外も食べてるし!!

ドワーフなんかが!!!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・彼、青龍の貴族が気にしてないからだけど。



あんまりドワーフには食べさせたくない。

でも、残念なことに、料理は十分にある。元々、黒旗団のドワーフたちの分は用意していて、あたしたちのだれもがドワーフの食欲を知らなかった。


青龍が使役する飛龍は、とっても力持ち。ドワーフの分なら王城厨房、その料理人たちの力を借りてもいい。

あの娘が心配性だから、余分に余分を重ねて用意したんだけれど。

・・・・・・・・・・・・コイツラなんかに食べられちゃうとは、ね。





マメシバ卿直伝の三色はーと弁当は、当然、一つだけ。三色はーと弁当の、材料はまだまだあるけど、彼専用。


でも、他の料理は連中や青龍の騎士の数も見越して用意したのよね。


材料を吟味して集めた、と言いたいところだけれど、流石は王城。厨房には最初から、あの娘がはしゃぐほどの食材が揃っていたわ。


前太守一家が王城を逃れるまでに、執事長が物資の購入を止めた。メイド長が残っていた生鮮食材を始末。

在庫は下取り、城内の畑は維持だけに留めて。


そのせいで王城の金庫、御金蔵じゃなくて日々の経費をしまう場所、にはお金が溢れてるみたい。

金庫にしまわれていたのは、昨年末に御金蔵から移された一年分。

数百人の使用人、百を超える役人と、二千の騎士、一人で街人の百倍はかかる貴族の家族の日々の費え。

それが三カ月ほどで、突然いらなくなったのだから。


出征していく騎士は当然現地で補給と給付を受けるから、自分の財布くらいしかもっていかない。

逃げ出した家族は御金蔵すら手を付けず、宝物蔵から重荷にならない程度を持ち出して行った。

役人や奉公人は身一つで出ていく。


あたしたちには青龍と違って、暇乞いをする奉公人に追い銭をする習慣はないわ。

奉公先を見限って、我先に逃げ出すことはごもっとも。

見限られた相手が何かしてやる義理はない。


普通は、没落の混乱に紛れて盗んでいくけれどね。奉公人であれ、番頭であれ、支配人であれ、家臣であれ。



執事長とメイド長はそんなことを許すほど甘くはなかった。



たった二人になってなお、礼儀正しく秩序を保って城勤めの者を退去させて、主家の家族を見送って

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すごいわよね。


そんな二人は、そこまでした挙句、王城を管理し続けた。

新しい主、青龍の貴族、をそのまま受け入れたから、太守の帰りを待っていたわけでもない。伝手も技能もあるのだから、どこの商家でも勤められたはずだけれど。


あとで、マメシバ卿に聞いてみようかしら?

二人とも青龍の魔法で、心の奥底までのぞき込まれているでしょうし。青龍の貴族、その周りにいてマメシバ卿の魔法で確認されていないのは、あたしたちだけだしね。




執事長とメイド長。

そんな二人が管理していたから、王城の勘定は、合っていなかった。王城経費で浮いたお金は、当座の王城維持費に繰り入れていたみたい。

まあ、一年分の経費から三カ月分を差し引いて、あるべき金額からして増えていたんだけれど。


青龍の、青龍らしからぬお役人が何度も確かめて、頭を掻きむしっていたのは面白いものよね。



だから青龍入城まで新たな食材の購入は無かった。

それでも厨房には、保存がきく香辛料や穀類はかなり残っていたわ。あの娘が喜んでいたのは、話に聴いたことしかない香辛料。


あるとなしじゃ、料理の幅が違うから。

・・・・・・・・・・・・あの娘に聞いたから、アタシでも知ってるし。



あの娘は正式に青龍の貴族、彼の料理役になる事で厨房が出入り自由になったのよね。

もう、大喜び。



太守不在で野に下り、領主入城で復職してきた料理長以下料理人たちも協力的だし。

本来の職制を無視されたら、普通は憎まれそうだけれど

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・青龍の貴族、そのものへの恐怖が、妬み嫉みを思いつかせない。



抑え込むんじゃなくて、抱かせないのが、その恐怖を物語る。



青龍の貴族。

その女に不快感を、抱かせる前に殺される、っていう危機感はあるでしょうね。まあそれは、あの娘だけじゃなくて、あたしたち全員に、周りが感じていることだけど。



なんか、嬉しく感じるのは、アタシの感覚もマヒしてるのかしら?



青龍の貴族、の女、か

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いじめられている、だけ、な身としては、複雑よね。

妻、愛人、情婦、恋人

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おもちゃ?



なんだか全然、艶っぽくない。


みんな、女としての矜持を踏みつけられて甘んじて、喜び苦しみ焦らされて

――――――――――あたしも。



そんな情けない状態は、あまり知られていない。だから青龍の貴族に向けられる畏怖が、あの娘にも向けられる。

だけど、それだけじゃないか。


あの娘が魔法使いだっていうのも小さくはない。

料理人たちは太守近くに居た分、魔法使いを仰ぎ見る癖がついているから。そういう意味で、王城内で一番、自由に振る舞いやすい、あの娘。



女主人に近いわよね。

そんな、あの娘が厨房を料理人ごと自在に使って仕上げた料理。



それをバクバク食べるならまだしも、酒で押し流すドワーフたち。


骨髄や香料を利かせたスープ。

クリームをたっぷりと投じたシチュー。

スープもシチューも種類を分けて、青龍の貴族専用と他四種類。

肉と根菜類でパイの包み焼きににしたり、肉の代わりにバターを利かせた魚を使ってみたり。

肉は昨日穫ったばからだから熟してない

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・コイツ等にはお似合いかも。



時間があるはずだったから、太守府周りにはない山菜を集めて一品、と思っていたけれど。作り置き中心で仕上げたのは、仕方ない。


待たせる訳にはいかないから

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・客を。



チッ!

あたしは心の中で舌打ち。


(ね、ねえ様?)


もちろん青龍の貴族に出す肉は、下味に凝って、肉の旨味は引き立て役。

今回は、ね。


味わってもらう分の肉は、王城厨房に預けてある。


管理は料理長、安全性はメイド長、統括は執事長。このあたりは、あたしたち素人の出る幕じゃない。あたしたちは、この先、熟成してから調理する日を楽しみにしてればいい。


あたしが、あの娘に教えてもらうレシピを考える間にも、西の山のドワーフ、その戦士長は一口で手の肉を咀嚼してのみ干した。


そして、酒壷を目の前に置く。


それはつまり、青龍の貴族、その前に置いた、ということ。



――――――――――ドワーフ酒。


それは人間世界では、特別な意味を持つ。

酷く酔い、味が濃い、癖が強い

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・稀少。


指先ほどの器にとり、舐めるように味わう、好事家の秘蔵品。

最高級の宴に供される料理の、隠し味。

破産した富豪が最期の夜に飲み明かし、酔って召される末期酒。


ドワーフ達は青龍の貴族からの手土産を山に送らせた。その運び手として、山から鉱夫のドワーフをよんだ。同時に鉱夫に山から運び出させたのだ。


――――――――――ドワーフ酒を。



味付けに使えるかしら。







《幾年月か後に発見されたカタリベのメモ》


私には夢があります。

いつの日か、「かつて一方的に蹂躙しただただ殲滅した者の子孫たち」と、「かつて罪咎なく叩き伏せられ隷属させられた者の子孫たち」が同胞として同じテーブルにつくことができるという夢です。


私には夢があります。

私の四人の幼い子ども達が、いつの日かエルフやドワーフたちと「同じ」憎しみと侮蔑を共有し一緒に石を投げる、そんな国に住めるようになるという夢です。





明日は12時間耐久バイオハザードにより、投稿時間を前倒しいたします。

よろしくご了承ください。


※通常スケジュール

毎週二回。

一回目、金曜日から土曜日にかけた夜中。

二回目、土曜日から日曜日にかけた夜中。

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