えるふさんとどわーふさん

魔法使いは空を飛ぶ

――――――――――――――――箒で。

ドワーフは穴を掘る

――――――――――――――――オッサン顔で。

エルフはドワーフを嫌いである

――――――――――――――――異世界においてさえ。

では、人間は？

検証して確認し、解体して組み合わせ、再現してファイルする。

観察して記録して、変化がないか比較して、アーカイブに積み上げる。

人が人をやめない限り、十万年が百万年でも、いつか宇宙が終わるまで。

でなければ、人ではない。

人でなしはいくらでもいるが

――――――――――――――――人間であることは、素質なのだから。

【太守領西部/西の山/その麓で一番風光明媚な隠しスポット】

お弁当に心を奪われてはならない。

戒め

――――――――――俺に。

食べ終わって、思う。

心は惹かれるくらいでいい。何しに来たのかという話である。

敢えて忘れたふりをしていた西の山。

ドワーフ住むと他人が言う。

しかもそれが何やら敵対的であるという。

俺たち基準で言えば手紙を無視されるくらいなんてこともない。

いや、いやな人は嫌かもしれない。

俺がメールや手紙を無視しやすいだけで、自分からは具体的な連絡しかしないから無視されるわけがないし。

・・・・・・もしかしたら、嫌われてるかもしれない。

いや、俺はいーんだよ俺は。

きっとそうたいしたことじゃない。

しかも、ちょっと遊びに来ませんか、程度のお話し。たかだかパーティーの招待状じゃないか。

都合が悪く機嫌が悪いってことはあるよね

・・・・・・・・・・・・・・とはいかなかった。

異世界では宣戦布告に等しい意思表示。

だってさ。

不都合がない限り相手の文化は尊重しなくてはならない。その不都合というのは俺の不都合ではないわけで。

で、考えるべき唯一の都合

――――――――――――――――――――地球人類の都合。

喧嘩を売られた可能性が否定できない？

ならば、なぜ先に絶滅させておかなかったのか！！

先手必滅

他者根絶

死者無害

・・・・・・・・・・・・・・と考えるのが国際連合のドクトリン。

しかしながらそれでは友達が増えない。

魔女っ子の。

――――――――――――――――――――俺はあきらめてるしね？

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・寂しくなんかないしね？

（繰り返し）

この子の人生。

付随するエルフっ子のエルフ生。

親友のお嬢の人生。

保証ができないのにかかわった俺。

うちの子に友達がすくなくて、と嘆く全国の親御さん見てますか？

助言求む！

ソレが無いので致し方なし。

いろいろ友達から助言を集めつつ、子供らの友達作りをコーディネート。

三佐が規定行動（虐殺＆消毒+焼却）に入らないように牽制。

装備（お弁当と食材とキャンプセットと、忘れていた贈答品選びを調達含めて元カノに依頼）を整える。

チヌークを出してもらい、怖いチヌーク機長を刺激しないように慎重にふるまい、はるばる来たぜ西の山。

の、麓。

しかも、地元ドワーフ推薦のピクニック地へ！

その間、罵倒されたり怒られたり殺し合い寸前までいっていたがそれはさておき。

ここまでたどり着いたのである！

忘れてはならない！

本来の目的はシスターズ＆Ｃｏｌｏｒｆｕｌと遊び

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・を遊ばせつつ、魔女っ子の本質＋αを地元のドワーフに売り込むこと。

うんうん。

見れば見るほどかわいいよね。

俺は、魔女っ子の顎に手先を添えて顔を覗き込む。

失礼ながら、ではあるけれど。

俯いてもつむじが可愛いけどね。

魔女っ子。

ストレートの金髪は、細く絹糸のように背中を覆っている。

右手で俺にしがみついている、お嬢の髪はクリームブロンド。

魔女っ子が頬ずりしたくなるような絹織物なら、お嬢の髪はウェーブがかかって美味しそうな印象。

背後のエルフっ子の銀髪は、手に取ると

「あっ」

あ、引っ張っちゃったか？

指触りが良くて、金属質な光沢が宝石を思わせる。いや、すっごく柔らかいけどね。

「あぁ」

指に巻くと指輪みたいに見えるし。

やっぱり、人間ではない、異質な魅力がある。ここがファンタジー世界だって思わせるよね。傍らに置いてあるガバメントの鋼色が妙にマッチしているのが怖い。

あれか？

俺が日本人だから、妖精エルフっ子と銃器が、非日常連鎖して浮き上がっているのかもしれない。

魔女っ子。

この春の日差しに照り輝く金髪。

普段は魔女っ子ローブにしまっているのがもったいないくらいだが、今回は赤のエプロンドレスによく映えている。

足元はひざ丈スカートの下が同系統色のブーツ。

膝小僧の肌の白さは異世界人が白人種基調なんだと改めて思わせる。肌のきめ細かさは魔女っ子自身の特徴なんだろうけどね。

どうよ？

俺の目の前のドワーフにアピール。

お嬢のクリームブロンドと青いエプロンドレスは可愛らしい

エルフっ子の銀髪と緑のエプロンドレスは妖しい。

魔女っ子の金髪と赤いエプロンドレスは凄絶な美しさがある

――――――――――――――――――――魔女、という感じだ。

エプロンドレスと言えば、可愛らしい、と俺は思うのだ。

しかし、ＴＰＯというのがあるわけで、政治的場面だとそれだけじゃいけない。

着任一カ月もたたない現地代表、魔女っ子。

これから友好関係を築く異種族住民、西の山のドワーフ。

威厳が無くてはならないが、威圧するのもよろしくない。

その点でエプロンドレスのチョイスは良かった

マメシバ三尉

――――――――――――――――――――アリで。

西の山のドワーフ、この場の中で一番偉そうな、戦士長がゼロ距離まで近づいて来てくれた。他のむさいドワーフたちは、うちのドワーフともども離れてギャラリーしている。

まったくもって好都合。

遠目では美しさが目立つ魔女っ子。

この距離なら、可愛らしい、以外に感想はもてない。

動作も照れて人見知りしてる子供だしね。

格の不足を感じさせない威厳と庇護欲をそそる愛らしさ。

同時に一気に印象付け。

こんなにうまくいっていいのだろうか？

よってらっしゃい見てらっしゃい。

優しく気が利き、行動力があって、瞳が紅くて可愛い。

地元の皆さんが自慢に出来る逸品です。

皆様の推挙で、皆さまの代表に就任したことにしました、おれが。

なお、接触禁止です。

「触ろうとしたように感じたら殺しますよ？」

マメシバ三尉

――――――――――アリで。

【太守領西部/西の山/その麓で一番風光明媚な隠しスポット/青龍の貴族/後ろ】

あたしは、あたしたちの髪を無造作にいじってくる青龍の貴族、その背中に張り付いている。けっして、期待していないわけじゃないけれど。

でも、あまり解りやすくくっつくと、青龍の女将軍が手綱を噛みちぎるから注意しないとね。

「でんちゅーでござるでんちゅーで！！！！！」

「この遺恨覚えたか忘れてても刻み付ける！！！」

手綱

――――――――――マメシバ卿――――――――――

には今後も頑張ってもらわなきゃ、だし。

一応、青龍の女将軍は、あえて距離を置いてこの場所全体を把握している立場。

いざという時。

あたしと青龍の貴族が、妹たちとＣｏｌｏｒｆｕｌを護る。

青龍の女将軍が、この場にいる西の山のドワーフたちを皆殺しにする。

青龍の飛龍が飛来して、そのまま西の山をけん制して戦争がはじまる。

マメシバ卿がたてた、そういう手順。

――――――――――――――――――――まあ、大丈夫かもしれないけれど。

「よい子だ」

「よい娘なのか」

短い会話。

「間違いない」

「承知」

会話？

青龍の貴族。

ドワーフの戦士長。

座る青龍の貴族、あの娘はその膝。

髪を撫でられながら紹介されて真っ赤。

酒の話じゃなければ、女の話。

男の定番ではあるわよね。

すっごく、真正面から、自分の女を自慢するのが、青龍の貴族らしすぎて嫉妬もあまりわかないけれど。

すっごく、単純に、簡潔に、良い娘（おんな）、って言い切る。

どこがどうとは聞き返さずに、納得するドワーフの戦士長。

絶対に、本人の前では聞かない、なんて気づかいする人柄じゃないわよね。

ドワーフは納得できなけければ、どこがどう、良い娘なのかあけすけに訊いてくるでしょう。で、青龍の貴族も、全然そういうところに、ううん、女に限らずだれに対しても遠慮なんかしないからはっきり答えるでしょうし。

なんか、納得されてよかったわ。

事細かに語られたら、あの娘が悶絶して死んじゃうし。この期に及んで、まだ焦らされてるなんて、恥ずかしすぎること

――――――――――――――――――――いうでしょうね、訊かれたら、彼は。

考えない様にしよう

・・・・・・次に自慢されるのは・・・・・・

違う違う。

あたしは少し警戒しなおす。

西の山、そのドワーフの戦士長が目の前に座っているのだから。

青龍の貴族の目の前に。

向かい合う二人の間。

あの娘は照れたり嬉しかったり、髪を撫でられ気持ちよかったり。

真っ赤になった、イヤイヤしながら青龍の貴族、その胸に顔を埋めている。

まあ、それは戦士長のせいじゃないけど。

「そう怒るな」

戦士長は言った。もちろん、涼しい顔で戦士長を無視している青龍の貴族に、じゃないわ。

彼の周りで給仕する妹分、傍らで警戒するあたし、聴いてないかそれどころじゃないあの娘

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、彼の女、たち。

あたしや妹たちが嫌な表情をするのは当然よね。

――――――――――――――――――――あの娘ばっかり撫でられて褒められて自慢されて、ってことじゃないから。

邪魔されてることに腹を立てているだけ。

彼、青龍の貴族との

――――――――――逢瀬を。

本当は、西の山のドワーフたちに軽く挨拶して、そのまま彼と、青龍の貴族と一日過ごすはずだったのに。

青龍の貴族が誘っちゃうし。

西の山のドワーフが応じちゃうし。

青龍の貴族は、あたしたちの気分なんか考えもしないし。

・・・・・・・・・・・・・・・・あたし、たち、以外に彼の関心が向いているのが、愉快なはずはないわけで。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌの橙がうっかり頷いて、慌てて隠れた。

青龍の貴族、その背中に。

ここにいるのは、今は橙だけ。

この娘は一番素直よね。

注意して観察して演技して、他人の欲を読み取って自分の内心は悟らせない。主を中心とした人間関係に眼を光らせて、自分を護る。

それは愛玩奴隷となるべく産まれた時から仕込まれている、はず。

なのに橙ははＣｏｌｏｒｆｕｌのみなと比べても、どこか隙が多い。

素直なのは生まれつき？

だから

・・・・・・・・・口づけしちゃうわけだけれど、邦中が注目する中で、我も周りも忘れてふらふらと。

ある意味で、ここにいるほうがいいのかしら。

あたしの眼も届くしね。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌはみんな交代で料理の配膳、のような見張り。

人数が多いから、一人一人には配れない。そもそも、客も含めてみんな、花が咲き誇る草原で思い思いに座り込んでるしね。

だから一か所に料理をまとめて、好きにとりわけて好きな場所で食べる。

一通り、料理をとり終わった後。

別な料理を追加したり、同じものをお代わりしたり、やっぱり誰かしら料理を取りに来る。

とりわけを手伝う立場がＣｏｌｏｒｆｕｌ。

もちろん、少し距離を置いた青龍の騎士が銃を構えている。

標的は料理を取りにくる、ドワーフ全員。

一応は味方も含めて。

さすがにＣｏｌｏｒｆｕｌを、ハーフエルフだからと虐めたりはしないだろうけれど。

黒旗団のドワーフたちは、仲間意識が強い

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ドワーフだけじゃないか。

なにしろ帝国軍時代から、エルフが複数、正式に所属しているくらい。

っていうか、実質的に団を差配する副長がエルフだったしね。

法外の存在として虐待虐殺されるハーフエルフより、帝国法と軍規で抹殺されるエルフの方がマズかったでしょうに。

エルフ虐殺の発案実行強要を一つで兼ねる帝国。

その帝国軍の真ん中を、エルフと共に闊歩する黒旗団。

それを帝国に黙認させる、最強兵団。

世界で唯一、青龍の軍に互した部隊

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それが一時でも、帝国正規軍３０万が逃げ崩れていく最中でやり遂げたのだ。

それは、凄いこと

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・全滅すれば良かったのに。

ドワーフだけでも。

そうなれば無害な伝説。

生き残り、寝返って、青龍の女将軍の手下になって

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・頭痛のタネ、あたしの。

その意味で、黒旗は、運を含む実力だけの集団。

単なる傭兵団ならこうはいかないわ。

傭兵なんか、最底辺クズの集まり。

クズは劣っていればいるほど、差別意識が強い。

より劣った者を探して群れて、自分たちより弱そうな相手を貶め

――――――――――ようとして、失敗する。

無能だから、自分たち同士で悪意の成果を称え合い、妬み合い、分裂する。

何年も続く傭兵団なんか、稀だ。

まあ、そんなろくでもなさは傭兵に限らず、世間一般にある傾向、だけれども。

エルフだって、永く在るってだけで、周りを見下してるしね。

器用だとか、速いとか、森での動きに長けているとか、容貌に自信があるとか

・・・・・・・・・・・・・・・・・あたしだって、その気がないとは言えない、か。

ふるまいに出なくとも、衝動は持っているのかもしれない。

あたしと同じ種族、エルフ。

血のつながらないハーフなら虐待するし、力が逆転すれば人間を虐殺したっておかしくない。

――――――――――ドワーフほど存在がヒドくはないけど。

帝国法以前に、エルフやハーフエルフはおろか、人間同士で貶めあうのが当たり前。

黒旗団は、そんな世界の異端。

エルフは名目上は団の備品、奴隷。

だがこれ見よがしに共に歩き、宿屋や酒場、金にあかせて娼館になだれ込む。

そして、うちの仲間に文句があるのか？

――――――――――と因縁をつけて大暴れ。

まるで縄張りで爪を研ぐように、出くわした連中の血肉を撒いて印づけ。

――――――――――黒旗を仰げ、黒旗に集え、世界で唯一尊い旗に。

黒い旗の元ではすべてが等しい。

文句が在れば、すぐ亡くす。

その叫びは広く知られている。

敵にも味方にも。

あたしのような野次馬にも。

最強兵団の名前とともに広く知れ渡っている。

で、誤解したハーフエルフや逃亡奴隷が逃げ込んでしまう。

彼等は、エルフを護っているのではないのに、勘違いしたよそのエルフに出くわせば

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・生きたまま袋詰めにされて、玉蹴り遊びに使われる、ならまだまし。

黒旗団では、ありとあらゆる者が、仲間とそれ以外、に分割される。

仲間でもない奴は、みんな等しく、価値がない。

だから青龍の女将軍、黒旗団の頭目が認めるＣｏｌｏｒｆｕｌは、彼らの仲間、に見えてるみたいね。

命に関わり悪ふざけはしても、意図して虐めたり殺したりはしない。

とはいえ日常的に賭けや喧嘩で殺し合う奴ら。

はずみで殺す危険は常にある。

意図していない蛮行は

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マメシバ卿が見てるし、青龍の女将軍が折檻するから大丈夫、かしら？

そんなドワーフを、Ｃｏｌｏｒｆｕｌが見張ってる。

青龍の騎士が見張る理由とは、別な意味で。

ドワーフたちは料理好き。

食べるのものむのも作るのも。

下手に一家言をもつだけに、あたしたちの料理に手を加えかねない。

体に悪い事はしないけど、心に致命傷を負わせるわ。

人魚を主菜にしようとしたくらい。

しかも、ドワーフたち自身、ナニが悪いかわかってない。

主の、青龍の女将軍が怒鳴りつけ殴りつけ正座させたけど

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・正座以外は辛くもなかったみたいね。

悪意がない、つまり、反省できない。

――――――――――絶対に。

悪気が無いって、そういうこと。

人魚を調理するな、と言えば、別な人魚ならいいか、と自然に考えるくらいに。

腕がいい、だけに、かえって怖いわ。

気を利かせて、さり気なく味付けをするかもしれない

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・美味の裏でナニを入れてしまうか。

料理長に聞いたのだけど、ドワーフ料理はもともと、そういうモノだと言う。

一応、世に名高い料理の種類なんだけど

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・頭痛いわ。

食べる奴も、なに考えているのかしら？

あたしの身近だと、妹分。ドワーフ料理が好きみたい。

ゆっくり聞かなくちゃね。

だからドワーフ料理を食べにくる美食家は、腕の立つ料理人同伴。

その場合、料理人はドワーフの食材を確かめる役目。

調理前、調理中、調理後、見て嗅いで聴いて確かめ続ける。

客の口に入るまで、ず～～～～～～～～～～っと。

客の懸念していることを伝えても伝わらない。基本的に人の言うことを無視する連中だし。

あのデカくてゴツくて節くれだった手が、異常に器用。

事前に確認しても、調理中に紛らせかねない。

そんな猜疑の視線を向けられても、嫌がるドワーフはいない。

嫌なら人間に料理してやろう、とならないし、してもいい、と思っているドワーフは、面白がっているのだ。

人間の困惑を含めて。

そしてそんんあ一般論は置くとして、あたしの眼のまえ。

ここは、ドワーフがいっぱい。

見知りたくなかったドワーフ、見知ってしまったドワーフ。

敵味方以前の問題として、気を抜けない。

彼の言葉に一喜一憂してる場合じゃないわよね！！！！！！