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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第一章「進駐軍/精神年齢十二歳」

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16/1003

裁判と呼ばれているもの(1867年以降日本式)

かつて神殿があった。


巫女と神官。


祈り(いのり)奉る(たてまつる)


寒さ暑さを和らげる。

豊穣と収穫を援ける。

病を防ぎ心を癒す。


万物を敬い。

世界を祝い。

互いを寿ぐ。



今も魔法があった。


魔法使い。


唱え(となえ)呪う(まじなう)


炎と氷を生み出す。

ゴーレムを創り空を駆ける。

傷を塞ぎ心を操る。


万物を究明し。

世界を探求し。

互いに競い合う。



祈り(いのり)奉る(たてまつる)

唱え(となえ)呪う(まじなう)


赤い瞳。

その瞳こそが。

皆に愛された。



かつては。




【王乃間/別室/中央】


俺は今更ながら話し込んだ事に気がついた。

時間も経っているし、のびている神父がいつ復活するかわかりゃしない。


この子等の事情は充分わかった。

俺がなにをすべきか判断出来る程度に。

薄い理解だが、これ以上は踏み込むべきじゃない。


俺たちは所詮、客なのだ。




【王乃間/別室/青龍の貴族の背後】


「ならばよし」


ご主人様はわたしたちを背にしたまま言われた。


「使命を果たすがいい」


ねえ様に。


「父親を手伝ってやれ」


ちいねえ様に。

ご主人様はそのまま部屋を出ようとする。

わたしはあわてて前に。


「御命令を」

ご主人様は不思議そうに見る。


「好きにしろ」


・・・・・・・・・・・・わたし、は、やっぱり・・・お顔がにじんで・・・。


「言いたい事ではなく、言うべき事を言え。為したい事ではなく、為すべき事をなせ」

ご主人様のお背中。

「復唱無用」




【王乃間/別室/青龍の貴族の背後】


わたくしは急いでお父様の元へ。

参事達も居るでしょうね。


「はい!」

一転して笑顔でほころぶあの娘。

嬉しいようで悔しいような。


・・・・・・ずっと一緒にいて、わたくしにもどこか距離をとっていたあの娘。


だからこそあの娘の遠慮を踏み越えていたのだけど。

ご領主さまには最初から距離がない、みたい。


・・・・・・ご領主さまも、それを赦しておられる。


わたくしの役目を果たさなきゃ。

せっかく機会をいただいたのだから、証をたててみせる。




【王乃間/別室/戸口】


あたしは笑いをかみ殺す。


なるほど。

なるほど。


青龍の貴族とはこういうモノか。


命令なし。

意志表示すら最小限。

回答は端的、すぎ。


それでいて皆が皆、貴族の意志を忖度して駆け回る。

青龍の騎士達も、都市の参事達も、妹たちまで。

貴族は彼らに黙認か処罰で応える。


青龍同士で、ではない。皆が皆、巻き込まれている。

それと気が付かず。


ならばこれは・・・・・・・・・・。


そこまで考えて驚いた。

今更ながら気が付いたので。


あの娘ではなく、あたしが青龍に関心を持っていた事に。




【王乃間/窓際】


俺はノートパソコンを開いた。


指揮所の完成は明日までかかるが戦闘指揮車の中枢サーバーは稼働中。

設営A/B、資材確認、事務の各班個人の作業進捗は更新中。


隊員だけではなく城の

・・・・・・・・・・奉公人?まあ、メイドや執事さん達は思いのほか頑張っている。


作業管理は時々書き込まれる質問や確認に○×、定形レスを付けるだけだ。

必要ないが隊員のバイザー越しに実景を見る事も出来る。


メイドさんが目の保養

・・・・・・・・・・いかん、横に幼女が。

眼をキラキラさせて覗き込んでいる。


ディスプレイに興味津々。

ファンタジーでも子どもは子どもだな。


・・・・・・・・・・と、和んでいると視線を逸らした。


チラチラッと、こちらをみている。

怒りゃしないのに。


パネルを開く。

テーブル上にポップ。

1mほどの範囲で全周投影。

フフン、どーよ。




【王乃間/窓際/大テーブル上座】


わたしは光たちに包まれた。


あわてて見回す。

光が動く。

右左上下。


わたしが視線を合わせた光が前にくる。


円を区分した形、長さの違う棒、割り振られる数字や文字。

青龍の文字。


米の量、金属の量、貨幣

・・・・・・・・・・人数は

・・・・・・・・・・場所?いえ、役割ごと。

次々と数値が変わっていく。


帳面

・・・・・・・・・・帳簿かな。

どんどん増えていく。


これはわたしたちの文字?


手に手がかさな!

・・・・・・・・・・ご主人様だ。

え、えと

・・・・・・・・・ちょっと力を込める。


ご主人様が微かに微笑んで

・・・・・・・・・・いる?少


し顔が熱くなり、視線を逸らした。

私の手を優しく握り前に

・・・・・・・・・・ポンっ!


わたしが触ると音がした。


触った感覚はないのに。

「触った」気がした。

あわてて手が空を切る。


ポンッ!

ポンッ!!

ポンッ!!!




【王乃間/中央】


あたしは二人を見ていた。

いまさら青龍の魔法には驚かない、と思っていた。

まあ、驚いたんだけど。


でも、魔法より、もっと驚くべきものが見える。

いや、読める。


薄く浮かび上がった光。

兵糧倉、宝物庫、資材置き場、書庫、兵器庫、厩舎

・・・・・・・・・・数値と図形・・・・・・・・・


この城だ。

青龍の騎士、僧侶、役人やその周りの奉公人達も数字化。

何をしているか一目で解る。


青龍は城を、いや『太守領』を攻略している。


あらゆる資材、あらゆる人材、あらゆる資料を記録しなおして、記録を魔法で取り込む。

なるほど。


『征服』


まさに『征服』なのね。




【王乃間/窓際/大テーブル上座】


わたしはふと気がついた。


ひとつ?

いえ、ひとまとまりの数値が止まっている。

わたしの後ろからご主人様が光を触る。


光景が広がる。

青龍の役人が城勤めの人たちと向き合っている。

何か問いただして

・・・・・・・・・・詰問してる。


ご主人様は・・・・・・・・・・。




【王乃間/窓際】


俺はあの余剰人員に天を仰ぎそうになる。

クソバカゴミが。


付き添いの秋山にメッセージで確認。

やっぱりだ。


帳簿と実際の資材が合わない。

この倉庫にあるはずの品がない。

だからその原因を追求しようとしている。


城のメイドや執事たちが盗んだと疑い一人一人尋問する、と。


そのために執事長を呼んだとか。

先回りしてメール、足止め。


死ね。


放棄された拠点から何が無くなろうと当たり前だ。

しかも他人(帝国)の資産がパクられたってどうでもいい。


現状確認が遅れてるだろうが!


カスには出頭命令。

秋山に作業引き継ぎ、ボケが従わない場合の連行、マヌケを連行した場合の報告を指示。




【王乃間/中央】


あたしは僅かに身構えた。


青龍の貴族から殺気がしたのだ。

命が狙われた時も、広場で街中を滅ぼそうとした時も、露ほども無かった殺気が。


気配を探るが何もない。

しばらくして扉が開いた。


「HEY !ME~N」


隣の小部屋の。


「忘れモンだぜブラザー!ユア!ソウル!アウト!!!」


軽く放る。

鉄の塊。

その時、扉が開いた。

王の間の。


バァン!!!!




【王乃間/窓際】


俺は左手で保持した拳銃を、水平に伸ばした腕で縦に構え、背筋を伸ばした姿勢で衝撃を吸収した。


それでも痛い。

腕が。


ペンシル玉でもないかぎり、拳銃でも反動はそれなりだ。

アニメやゲームのシーンが楽しめなくなったのは職業病だろう。


あんな細身の少女が平然と撃てる訳ねーだろ!!


と思ってしまうのだ。

実写映画ならさすがにそんな無茶なシーンはないんだけどね。

(・・・・知らないだけ?)


ともあれ。


労災申請する!!

だいたい銃を投げるなよ!!

安全装置かけとけよ!!!

もしかしてフリーに腰から下げてたのか俺!!!!

しかも完璧に射撃態勢でグリップから受けたよ!

トリガーも絞ってる俺すげー!!!!!!!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今、暴発(フツーに射撃)したよね?


俺はCoolに、Coolに、やるべきことをやる。


誰か

・・・死んで

・・・ないな?


よし!




【王乃間/中央】


「まあいい」

青龍の貴族がつぶやいた。


あたしは驚きはしなかったが戦慄した。

扉から入って来た男はへたり込んでいる。


青龍の役人然とした優男だ。


貴族が構える鉄塊、砕けた扉。

両方を見て気絶した。


道化が跳びより、座り込んで白目をむいている優男に活を入れる。


「ひゃ」

短く鳴き、這い下がる。


鉄塊、竜殺しから何かが飛び出して扉や地面を砕くのだ。


人など容易いだろう。

その飛び出し口がゆっくり下がる。

這いつくばる相手に。




【王乃間/戸口】


あたくしは壊れる音がしたのであわてて王の間へ。


「ご領主さま」


誰かメイド、執事が粗相をしたのかと思い、はしたなくも駆け込みました。

すると魔法使いのお嬢様が、ご領主様にひざまずいておられます。


「どうか、わたしに教えてくださいませ」


教えを請うお嬢様の背後、床には取り乱された青龍の方、傍らに青龍の道化さん、戸口には騎士長様。

わたくしが控え部屋でお茶の準備をしながら、みなに指示している間に何が起こったのでしょうか。




【王乃間/窓際】


俺が教えて欲しい。

魔法少女が何を聞いているのか。


「これからなにをなさいますか?」


なさいませんが、じゃダメ?


ともあれ銃を

・・・・・・・・・あ、銃口を逸らして左手のテーブルに置く。


指が引き金から離れない。

無理な射撃で痛いからだ。


バカは何か言っているが、苦痛の声じゃないから無視。

暴発(通常射撃)の巻き添え(標的)になったかと心配したが、神父がついてるしな。


悪いとは思うけどね。

実際に悪いのは銃を投げた神父だけどね。

やっぱり俺、悪くないな、うん 。


・・・・・・・・・まあいいや。


まずはこの子だが

・・・銃声に怯えて・・・



ないな。

まっすぐに見上げてくる。




【王乃間/青龍の貴族の前】


あたしは息をついた。


あの娘が割り込んだ時は緊張したが、青龍の貴族は慣れた動作で鉄塊をテーブルに置いたからだ。

あの娘を殺す気はないようだ。


だが、まだ離さない。


あの優男を処断する意志は変わらないらしい。

あたしにも、あの娘にも青龍の規律はわからない。

しかし、あの娘は割り込んだ。


訳も分からずに干渉するのは誉められたことでは無いだろう。


だから、なぜ処断するのかを問う。

教えを請う形、新参者にギリギリ賭けられる範囲。


ひとまず間をとった、か。

あの娘らしいが

・・・・・・・・・・やめてほしい。


「Everybody!Attention!」


道化が手をたたいた。

皆が見る。


「Elucidate!Me!!」


説明するって?

へたり込んでいる優男をテーブルに座らせる。


「YOU!」


優男を指差す。


「神に縋りなさ~い。すべて、Cool!Cool!に、懺悔するので~す」


両腕を広げ天(井)を仰いだ。


「神はアナタをユルしま~す!!!」


優男はうなずいた。


「Question!」


大げさな身振りで指差す。


「命令は『現状把握』でしたね!YESかYA!でお答えクダサイ!!」


コクコクコク。


「OK!OK!Niceboat!」


讃えるように優男の肩を叩く。


「Second!」


優男に笑いかけた。


「アナタは帳簿と実態の差をキャッチ!誰かがパチった!JUSTICE!犯人trace!」


道化が周りを振り返って拍手。


「ツミをヘイト!正義はME!」


振り向く。


「デスね?」


コク。


「アナタは不正を暴く為に正しく行動しました!」


振り向く。


「デスね?」


「は、はい、決して、悪いことをしたわけでは」


また拍手。


「YAE!YAE!YAE!証言完了!命令を自覚して違反しました!反逆罪トウカク!」


皆を見回してから改めて優男を指差す。


「ギルティ!」


指さされた優男が口をパクパクさせた。


「国連軍事参謀委員会布告前線軍法会議成立要件!」


道化がテーブルに腰を預けた貴族を差す。

「原告」


優男を差した。

「被告」


左右の指を自分に向ける。

「判事」


皆を見回した。


「よってホン法廷はコンプリート!」

「ば、ばかな弁護士もいないのに・・・」


ベンゴシ?

意味がわからない言葉を優男が泣きわめいた。




【王乃間/窓際】


俺が悪いのかね~?


「検察官が取調訴追求刑まで行うのはニッポンのローカルルールでーす!訴追イコール有罪はニッポンの伝統ムリゲーー!!あえて精神的拷問と脅迫と自白偽造と証拠捏造をニッポンルールから省いて人にやさしい国連ルールネー!」


うん、言いたい事はすごくわかるから、ムカつくよね。

検察側の証人が一人残らず訴追事実を否定して、検察官以外がみんな無罪を主張しても、有罪判決が出る国だもんね、うちは。


他人に言われるとムカつきもひとしおだね!


おめーんとこも

・・・・・・・・・・・・法治国家を創ろうとして失敗してる国と、フリだけして最初から創る気がない国。


人知を尽くし時間を経てなお完成しないなら、それは無駄というのだろう。

知も時も欠片ほど尽くす気のない看板を飾りたてるなら、それは詐欺だろう。


徒労と悪徳。

どっちも滅びればいいと思うよ。


という間に話が進む。


「人権蹂躙だ!」

「セーフティーねー!大切なジンケンは大切に保管中!Millennium(せんねん)に一度、容量を守って正しくお使いくだサーイ」


進んでなかった。

意味が通じていない。


あるのか?

ジンケン?


「被告にはプラス法廷侮辱罪、ギルティ!異議申立はニューヨーク国連本部でキミと握手!ニューヨーク渡航可能ならTOKYOドーム国連本部(仮)に通報?アンダスタン?OK!」


被告優男は道化にとりすがる。


「神は許すと言ったじゃないか!」


ジンケンって食べ物かな。


「アナタはカトリックじゃアリませーン」


コントか?


「カトリックだよ!」


ああ、身上書にあったな。


「OH!SHIT!レアなナマモノ」


なんでシットだ。


「シカーシ!異宗派!」

「替わります!宗派替わります!」


軽いなおい!


「OK!汝以下略誓いますね!回収フルコンプ!では銃殺」


じゃねー!


「話が違う!」

「Oh~~~~~~~~~~~~!!!神は赦します!Maybe!国連は赦しません!OK?YES!」


ナンでだ!!!


「主は言われました『神の赦しは神に、UN軍軍事法廷の決定は事務総長にイギアリ!』と」


変わんねー!


「なお正式な事務総長はニューヨークNE!事務総長代行は春先にバーニングしました!!!オーマイガ!」


どうしろと。

っーか、新しいの選出されたろ!


「YOUー!オジサマでしたね?春先にローストされたシャパニーズ判決追認団体のアタマ」


いや、それ最高裁長官だから。

国連特使と事務総長を兼任した元外務官僚。

っていうか、アイツその甥っ子か。


「OK!OK!Nephew(おい)はサンズ・リバーGO!uncle(おじ)の後を追うものデース!人生途中下車無問題!審判の日に漏れなく赦され名誉回復!スリーデイでゾンビになれるかどうかアンブレラ次第!」


見回す。

うん、魔法少女と若おかんとメイド長は呆然としてるね。

曹長は無視だね。


なんか暴発(誤射)と作業遅延の話がごっちゃになってるが、結果オーライかな。

余剰人員も二度と仕事の邪魔しないだろ。


脅しは十分だ。


・・・脅しだよね?

ただの間違いだし。




【王乃間/中央】


あたしは反応する肢体を抑える。


青龍の貴族が前に出た。

道化は道を譲り、あの娘は立ち上がる。

いつの間にか鉄塊、竜殺しはテーブルに置かれていた。

優男は一歩も動けない。


「間違いだ」


は?

対峙する二人は蛇と蛙を思わせる。


「な」


コクコクコク。

優男が人形のようにうなずいた。

貴族が道化に合図。


「OH!SHIT!起訴ダウンロード不処分デース」


優男は崩れ落ち、騎士に引きずり出された。


「無罪ではアリマセンヨ~額に刻んでオキマショー!油性ペンで!」


あたしは、有り得ない想像をした

・・・・・・・・・・してしまった。


命令違反者を許し、道化を許させ、暗殺者を許し、欺いた参事達を許す。

『殺したがっていない』

ように見えた。


あたしはもちろん、馬鹿な想念を振り捨てた。

青龍の貴族は都市を焼き払おうとし、違反者を処刑しようとした。

そうならなかったのは、偶然に過ぎない。


だが。

ただ、それでも。


気になった。



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[一言] 誤字報告 >ファンタジーでも子供は子供たな。と、和んでいると視線を逸らした。 子供たな。→子供だな。
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