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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第五章「征西/冊封体制」

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155/1003

敵地でピクニック

登場人物&設定

※必要のない方は読み飛ばしてください

※すでに描写されている範囲で簡単に記述します

※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします


一人称部分の視点変更時には一行目を【語る人間の居場所】とします。

次の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの特徴となる一人称を入れます。

以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。

(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)


【登場人物/一人称】


『俺』

地球側呼称《司令官/閣下/大尉/大尉殿》

現地呼称《青龍の貴族/ご主人様/ご領主様/我が君》

?歳/男性

:地球人。国際連合軍大尉(陸上自衛隊三尉)。太守府軍政司令官。基本訓練以外は事務一筋。


『あたし』

地球側呼称《エルフっ子》

現地側呼称《ねえ様》

256歳/女性

:異世界人。エルフ。『あの娘』の保護者。姉貴分。ロングストレートなシルバーブロンドに緑の瞳。長身(数値不明)。革を主体とした騎士服にブーツに剣が常備。


『わたし』

地球側呼称《魔女っ子/幼女》

現地側呼称《あの娘》

10歳/女性

:異世界人。赤い目をした魔法使い。太守府現地代表。ロングストレートのブロンドに赤い瞳、白い肌。身長は130cm以下。主に魔法使いローブを着る。


『わたくし』

地球側呼称《お嬢/童女》

現地側呼称《妹分/ちいねえ様/お嬢様/愛娘》

12歳/女性

:異世界人。大商人の愛娘。ロングウェーブのクリームブロンドに蒼い瞳、白い肌。身長は130cm以下。装飾の多いドレスが普段着。


『僕』

地球側呼称/現地側呼称《若い参事、船主代表》

?歳/男性

:太守府参事会有力参事。貿易商人、船主の代表。年若く野心的。妹がいて妻の代わりに補佐役となっている。昔は相当な札付きであったようだが、今は特定の相手以外には紳士的。


『あたくし』

地球側呼称/現地側呼称《メイド長》

?歳/女性

:太守府王城に奉公する女性たちの長。ストロベリーブロンド、碧眼、白肌。異世界でも地球世界でも一般的な、ロングスカートに長袖で露出が少ない普通のメイド服を身にまとう。まだ年若いが、老人の執事長とともに王城の家政を取り仕切る。

初登場は「第11部 大人のような、子供のような。」



【登場人物/三人称】


地球側呼称《神父》

現地側呼称《道化》

?歳/男性

:合衆国海兵隊少尉。国連軍軍政監察官。カトリック神父。解放の神学を奉じる。


地球側呼称《元カノ/団長/だんちょー/一尉/一尉殿》

現地側呼称《青龍の女将軍/団長/主》

?歳/女性

:国際連合軍大尉/陸上自衛隊一尉。国際連合軍独立教導旅団団長。『俺』の元カノ。インドネシア軍ベテラン兵士の副長(褐色)、筋金入りの傭兵エルフ(白ローブ)。黒副、白副の二枚看板に支えられ、ドワーフやエルフに異世界人と地球人類が同じ戦列を組む、初の多世界複合部隊「黒旗団」指揮官。


地球側呼称《三尉/マメシバ/ハナコ》

現地側呼称《マメシバ卿》

?歳/女性

:陸上自衛隊三尉。国際連合軍独立教導旅団副官。キラキラネームの本名をかたくなに拒み「ハナコ」を自称している。上官の元カノが勝手に「マメシバ」とあだ名をつけて呼んでいる。


【用語】


『太守府』:帝国の行政区分をそのまま国連軍が引き継いだ呼び名。領地全体の呼び名と中枢が置かれる首府の呼び名を兼ねる。帝国ではおおむね直径60km程度を目安に社会的経済的につながりが深い地域で構成する。南北が森林、西は山脈、東は大海で大陸のほかの地域からは孤立している。ただし、穀倉地帯であり海路につながっているために領地としての価値は高い。10年前までは古い王国があり帝国に滅ぼされた。




もしも。

あくまでも、もしも、だが。


「友に感謝しなさい」


などと叫ぶ者がいたら、その両の眼をくりぬいて、心の底から反省し、言葉ではなく真心で


「過ちを繰り返さないために殺してください」


と語るまで教育してやるだろう。



わたしたちには友人がいる。

彼らは彼らの祖国が今まさに滅びるとき、滅びた後に。

正義の為に異国に残り、正義の為に戦い、正義のために死んでいった。


彼らに対して「感謝しろ」などと、どの口が誰に向かって言えようか。



「尊敬しなければならない」


そんなことを言われるモノはなにか?


滅びるべきモノだ。

滅ぼすべきモノだ。

生まれてきてはならないモノだ。


教えてはならない。

教わってはならない。

教えようなどと思うなら、教えなければならぬ身の愚かさを知れ。

喉を突き腹を割って死にたまえ。


わたしは、わたしたちは、正義を教わったりはしない。

おのずから悟ってこそ、わずか百万人ほどではあるが、悪を殺しえたのだ。

それは正義に限らない。


なすべきこと。

大切なこと。

尊いこと。


敬意とは、そういうものだよ。



《青龍の褐色のおじいさんがおはなししてくれたこと》





【太守領中央/太守府/王城内内郭と外殻の間/演習場】


「挨拶に向かう」


明くる朝。


「夕方には帰る」


僕らを一瞥し、青龍の貴族は執事長とメイド長に呟いた。留守居の青龍、僧侶に役人とは眼も合わせない。


「「いってらっしゃいませ」」


メイド長、執事長が平頭。

王城の奉公人、そのうち居合わせた者が手を止め、続いた。

――――――――――青龍は、無駄を好まない。


奉公人たちの見送りは、儀礼を守る範囲。雑事を任された奉公人達は、基本的に手を休めないこと。あえて見送りに来たのは、必要がある者だけだ。


青龍の貴族、その不在と帰城予定に合わせて家政を仕切るメイド長。

そのうえで奉公人全体を統括する執事長。


王城の留守居を務めるために、城主たる青龍の貴族から引き継ぎを受ける二人。

文官代表、青龍の僧侶。

武官代表、青龍の騎士長。



この四人だけが、出立に立ち会いを命じられた。

僕ら参事会の5人は、かってに来ただけだ。

故に、無視される。


僕らは平伏しながら、思った。

朝が弱いバ、議長が寝ていて良かった、と。

呼ばれてないならいーじゃない、とグズるバカ女を、ベッドから引きずり出して着替えさせたのだ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・二度寝してやがる。



平伏した形のままだから、まあ、いいが。


バカがバカなのを青龍は気にしない

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・駄犬を見逃す通行人のように。

極めて生暖かい視線を、僕に向かって感じるのは、気のせいか?

――――――――――きのせいにきまっている。


だが、後で釘をさして置かなくては。


バカ女の家人は、何故、僕が主の寝所に押し入るのを防ごうとしないのか。

不用心どころじゃない!!!!!!!!!!




【太守領上空/西へと向かう機上/チヌーク一号機】


ヘリは征く。

征ってしまう。


目指すは西の山々。


敵地に近いという見方が俺の中で一般的。

国連軍基準だと、占領下にない場所は全部敵地。


敵地と占領地の違いは?

敵地では兵力兵器使用に制限がない。


占領地ではありとあらゆる手段を常に全選択全投入。

・・・・・・なにしろ状況が把握できているから、打ち漏らす心配がない。


なんだって、できる。

できてしまう。

だから、敵地にしておいた。



チヌークの中は、いつもの。

俺、神父、佐藤、芝。


要は軍政部隊の突撃単位。


俺が責任者。

神父が証人。

佐藤、芝が護衛。


よし、完璧だな!



「無視すんな!!!!!!!!!!」


あーはいはい。

ギャラリー多数。

俺の両脇はシスターズの小さい二人。真ん前の機内座席はColorfulたち五人。そして通路にあたる場所にクッションを持ち込んで座り込む、剣を肩にあてたエルフっ子。


「HAHAHA!股間に美少女、両脇に美幼女美童女、前方陳列にエロ美少女ってココ何処????ファゴっ!!」

「エロって何か!!!」


俺がガバメントを投げつける前に、元カノが神父を撃沈。

魔剣で殴ってるよね?


「あたしを無視するな!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


そっちがメインか。

Colorfulへの風評被害にムカついたのはあるんだろうが、自分を抜かされたからな。

Colorfulがエロいって印象は間違ってない。


というか、一見するとそうは見えないように造っているマメシバブランド衣装なんだが。いやしかし、なぜか知らないが、婦人自衛官の野暮ったい衣装を着けてもなぜか、そう感じさせる艶がある。


ソレを言葉にしていいかと言えば、ダメなのである。

だから神父は殴られる。


王様の耳をばらせば火炙り絞首刑。

世間の常識です。



「だ~か~~ら~~~」


わかったわかった。

元カノも俺の前、エルフっ子に角突き合わせて存在する。ちなみに股間ではない。当たり前だ。椅子に座っている俺の前の床に座っているだけ。


「まあ、30cm圏内ですけど」


・・・・・・・・・マメシバ三尉はムシムシ。

それよりなにより、問題点は別にある。

なぜか。


「もっとなでろ!!!!」


やかましい!

相変わらず態度がでかい元カノがなぜいるのか。


「そこで和んでどうすんですか!大人の女が撫でられてゴール???」


マメシバ三尉!!

煽るのやめてくれない????

・・・・・・・・・まあ、いい、くはないが、ムシムシ。


つまり!!!

遊びに行く、って聴きつけた元カノが、かってに釣れた。

遊びに行くのは間違いではない。だがしかし、任務を兼ねているので純然たる遊びではない。だというのに勝手についてくるのはどーなのか。


「軍政部隊からの要請による現地民兵育成作戦の為の情報収集作戦の予備作戦試行

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


だからマメシバ三尉が付いて来た。適当な理由を付けて軍務にしている。


チヌークのキャビンスペースは大きいけどね?

完全武装の兵士が33人余裕で過ごせるけどね??

合衆国陸軍準拠のガタイがいい連中基準だから西欧基準の女の子が8人に日本基準の女が2人、男が4人くらい楽勝だが、それだけで済まないわけで。



「それよそれ」


大きく頷いたのは、縦横160cmのちっちゃいオッサンたち。おっさんたち、である。

わかっているようで、わかってない。

ようでやっぱり、わかってるのか?


ドワーフ達は、二代目黒騎士のセット。



黒騎士ってのは、ややこしいが元カノの異世界でのアダナ。エルフっ子証言で最近魔剣を持ってる事に俺が気が付いた元カノ。

その臣下のドワーフ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・臣、なんて柄じゃないから、手下か子分。


だから、元カノが遊びに行くときは、もれなく付いてくる。


いや、黒旗団、元カノの私兵部隊兼国連軍実験部隊にはドワーフ以外の種族も多いのだが。

エルフ獣人人獣異世界人に地球人

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いろいろ。


「「「「「「「「じゃのう」」」」」」」」


ドワーフ8名通常運転。

ドワーフに限らないが、なんか、こいつらドワーフはえらく馴染んでるな?

もちろん、元カノ&マメシバ三尉と馴染んでいるのである。

俺となじんでいるのではない。

断じてない。


「閣下と馴染んでいるのは女の子、たち(複数形)、ばっかりですものね~♪」


断じてない!!!!

たち、に口頭で、複数形、ってわざわざつけたすな!!!!


マメシバ三尉の戯言に眉をヒクつかせる元カノ。


女の子。

それに自分も含まれるかどうか、怒り出したら含まれていないことに怒っているように聞こえるんじゃないか、自分は間違いなく女の子だし自分が怒っているところはそーいうことじゃないのに

・・・・・・・などなど考えているのが丸わかりだ。



女の子って年齢じゃねーだろうが。

子どもってのは、せめて未成年のことを言うんだ。

選挙権を持ったら子供じゃありません。


まあ、子供っぽいのは確かだけどな。

それ、自慢にならないぞ?


親分肌で戦国武将チックで軍閥将軍な元カノ。これで人望は厚い。何故だ。昔からガキ大将っぽくはあるが。

大人になってもあまり変わらなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・体以外、昔と変わってない、ような?


だからなのか、帯同志願者は山ほどいるようだ。

その中でまあ、たまたま使い勝手がよくてTPOにあっていて、防疫隔離によって任務を外されてから暇になって、神出鬼没確率論不定不測無法則な元カノ付きになった、八人のコビトなドワーフがセレクション。


そう。

今回ばかりは、TPOが大切だ。

更に大切なことは

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・魔剣って、なんだ?


元カノは肩をすくめた。


「知らない」


うん、知らないって知ってた。




【太守領中央/太守府/王城/参事会五大家に割り当てられた塔の一つ】


挨拶に行くだけ。


青龍の貴族が、いつも通り無感情に軽く呟いた言葉。


だが周囲は必死に聞き耳をたてて、聞き取った言葉

――――――――――挨拶、ね。




僕は、昨日の騎士たち、青龍の騎士二人と青龍の娼婦を思い出した。

酒を楽しみ、酒を選び、酒を買った。


娼婦は軽くのんでいた。

酔ってもいただろう。


騎士たちは、酒をのまず口に含むだけだった。

娼婦は騎士から口移しでのんでいた。


まるで女とじゃれついているだけにも見えるが、つまりは青龍は酒に酔う、ということで。

青龍の騎士については、酔う気がない、ということだろう。

――――――――――――――――――――僕らの前では。



おそらくは、娼婦がいなければ吐いていただろう。

酒を買いに来て、酒を口に含み、味わい、のみ干さない。

それは、こうした造り酒屋では不作法ではない

――――――――――まるで、高級酒の仲買人だ。



娼婦と戯れる様は、皆を、人足や手代に職人、帰るに帰れぬ他の客を和ませたくらいだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・男なんか単純なもの。

女を楽しんでいれば


――――――――――同じ男――――――――――


とまあ連帯感が生まれる。


そんな中で緊張感を高めたのは、三人。

僕と店主に親方だ。


店主は目利きの権力者を前に、緊張していた。

その権力者が、やることなすこと極端な青龍、その騎士たち。生きるか死ぬかなぞ、いくら名のある店の主でも、初めてだろう。


職人の 親方はまた違った緊張感。

青龍はまったく異質な世界からの来訪者。そばに立てば、ただ立つだけで、それくらいは伝わる。

最高の酒が、異なる世界にどう伝わるか。

自信があればこそ、気になって仕方がない。



そして僕はあたりを観察しながら、雰囲気を壊さぬようにさりげなく、剣を抜き打ち出来る姿勢。

気を緩めた連中が、何かをしでかしたら?

青龍が反応する前に殺さなくてはならない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まったく、めんどうだ。



普段ならば、バカを躾るなぞ人任せなのに。

もっとも、他人任せにもできない。


青龍の騎士には案内を求められても、つゆ払いなどもとめられはすまい。ならば、案内役が露払いを務めざるを得ない。

そして彼らから声をかけられるほどに見知られているのは、五大家の当主くらい。


新議長は女で、青龍の騎士たちは女を忌避する。

参事の大先輩は、青龍の貴族に可愛がられているお嬢様の父親。つまり彼らの主女、の父親とくれば声をかけたくはあるまい。

残る二人は青龍から距離を置いて安全策をとっている。距離とは具体的なモノの事で、声をかけられるほどに近づいたりはしない。


つまり、僕に役目が回ってくるわけだ。

面倒で時間と手間がかかる。

が、役に立たないわけじゃない。



超然とあたりを睥睨する青龍の貴族。

彼の人を知ることで、危険を避けることができる。避けさせることもできる。

――――――――――おそらくは。


人となりを直接知ることができるのは魔女やお嬢様、エルフなど青龍の貴族の女たちだけだろう。

魔女を後援して、その助けを得る。

ゆくゆくは魔女が世継ぎを産めば、その傘下に収まるのが目的だ。


それはそれとして。

青龍の貴族に近い、青龍の騎士二人。

彼らとの付き合いは、僕自身が青龍の貴族を知る伝手にできる。



だからこそ、思い出せ。


青龍の騎士たちの言動から、西の山で何か起こるのか、読み通さなくてはならない。




【太守領中央/太守府/王城/内郭/青龍の領域】


あたくしが気に留めることなし

――――――――――と申し上げれば嘘偽りとなりましょう。


その身と心をもって御領主様にお仕えするお嬢様方。

その首尾を期待せずにはおれません。


夜明けを待たずに御領主様と過ごす閨を抜け出された皆様。


お迎えいたしまするは、あたくしども、メイド、下女、女の料理人。

龍の加護を与えられた灯り、それを構えてお迎えいたしました。


コトの性質から、男性である料理長は参集出来ません。

ですから、王城の厨房にて執事長と一緒に助言に備えていただきました。

またこれも、龍の加護により声が伝わります。


そしてこれは、御領主様に誓えることでございます。


あたくしどもは、ただ付き添う以上のことはしておりません。

料理長以下料理人たちが獣を捌きました。

下女達が素材を運び洗い整えました。

あたくし、そして、お付きのメイドたちが火加減を見て混ぜたことなし、とはもうしません。

切り方、混ぜ方、食材や調味料をご説明いたしました。


さりながら料理の出来不出来に

――――――――――包丁や鍋に竈になんの功がありましょう。あたくしどもは、良き用具であることを誇るのみに御座いますれば。


しかして、まったくすべて、このお弁当は、お嬢様方の手際による成果と申せます。


お嬢様方。

御領主様に悟られてはおらぬと信じて、閨を行き来されましたが。

御領主様は見守っておられましたよ。


あたくし自らが、寝所に控えておられます御領主様に、なにもかも逐一お伝え申し上げましたから。

あたくしの逐次報告を耳にされながら、魔法でお嬢様方の様子を見守られる、御領主様。


お嬢様方が、火やお湯や油に近付くたびに、息遣いが変わる御領主様。

我知らず、不敬ながら、仄かに灯る想いも御座いました。


いつかお嬢様方にお伝え申し上げましたら、いかほどの喜びでございましょうか。

願わくば、可愛らしきお嬢様方に幸あらんことを。


――――――――――それが女としての共感などとは、あえて、申しません。




【太守領中央/太守府/王城/参事会】


「西の山が無くなった後、だ」


僕は参事会に意識を戻した。戻したのは半分だが、無駄に過ぎるか?


「既に声が挙がっている」


職人たち、いや、工房の親方連中から、声か。

さぞや喧しいのではあろうね。

伝え聞くだけでも、親方衆はもちろん、職人小僧までその話でもちきりとか。

同情するさ。


「鉄、鉄鉱石をどうするか」


こうしよう、ではなく、どうしよう、ね。

焦点が具体的なのは工房主から直接言われているから、かな。とはいっても、出来ることはたかが知れている。

備蓄を確認し、出荷を調整し、工房の稼働を抑え、職人を休ませ、腕のいい者たちに抑え金を置き、頭数だけの者を放り出し、小僧たちを蹴りだす?


何もかもすべて、ここ二日で終わっている。だから街が、特に下町が騒々しいのだが。それが青龍の耳に届いていないと思うなよ。

工房主たちもバカばかりじゃないからな。自分でできることはやった、やり続けているうえで、新しい庇護者を突き上げる。


まず守って見せろ。

金も利権もそれからだ。

・・・・・・・・・・・・・・もっともなことだ。


その庇護者とやらは、どうしよう、ときたものだ。

無策を晒してでも、あい努めた、と吹聴したいのか。判り切ったことなのに参事会で認識を共有しようという、生真面目な意図か。

バカの開き直りか、バカの開陳か。

それとも、韜晦か?


「鉱石全般、ですね」


僕は話を受け止めることで、聴いてますよ、皆に伝えた。


西の山から来るのは鉄鉱石だけではない。

だが、こいつ等が関心を持つのは鉄だけ、か。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鍛冶工房ギルドを取り込んだな。


ソレとわかるように関心を示すなど、素人臭いまねを。

商人ならば、ぜひ欲しいなどとは言わないものだ。みすみす値を上げるような真似をするときは、カラ売りを仕掛けるときか、それとも本当に尻に火がついたとき。


火をつけているのは鍛冶工房ギルド。


二人の傘下からすれば新参だろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・自ら陣営に誘った為に、頭を抑えられていない。

むしろ振り回されているな。であるなら、二股をかけられていても

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、そうか。


僕は新議長と大先輩以外の五大家当主二人をみた。

この二人は誘った相手に両天秤されているのか。


鉄の確保に必死な鍛冶工房ギルドは、職工ギルドでは最大規模。


鍛冶作業は完全に統制された集団作業。

その性質上、親方から職人まで大人数に統制が効いている。

農機具から工具、刃物までその販路は邦中に広がる。

だから濃淡はあれど、津々浦々まで影響力が及ぶ。


手駒に出来れば、大いに儲かり波及効果も大きい。

――――――――――出来れば、な。


躾られない駿馬など、驢馬にも劣り犬の方がいい。



先行きが見えずに過剰に怯えている、図体だけがでかい鍛冶工房ギルド。

勢力拡大の為に派閥に引き込もうと手を出して、でかい図体の集団錯乱に引きずり込まれる五大家の二角。



ご苦労なことだ。


僕は、自分の縄張りでもない話に、参事会を振り回させるつもりはない。

だから、鉱石や金属全体の話として受けた。


受けたというより、むしろ問題を掘り下げたのだ。

これで個々人の利権の話を、参事会全体の話に薄めてしまえる。もっともらしく頷いて、時間と期待値を稼ぐ。


必死な二人の家の力、参事会全体、僕の為に利用してやる

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふん、食い下がってこないな。


気が付いて、ないのか。

専門外に手を出すから、持て余す。


あるいはむしろ、鍛冶工房ギルドを持て余している?

はぐらかされたことにして、矛先を僕に向けるつもりかな?


ならばなりふり構わず怒鳴ればいいものを。商人ほど芝居が必要な仕事はないってのに、なにをしているのか。

ここは密室じゃないぞ。


書記や書生から、話を広めておこう。

鍛冶工房ギルドが当てにしている参事たちの熱意不足とな。



当主たちが暢気なせいで参事会を仕切る僕に、鍛冶工房ギルドの危機感が伝わっていない、と。

さて、次が楽しみだな。

鍛冶工房ギルドは二人の尻を叩くか、見切りをつけて直接、僕に誠意を見せてくるか。



・・・・・・・・・・・・・・・今、近付かれても困るな。


僕に何とかできる話じゃない。

西の山を、青龍の貴族がどう裁くか?

ソレを受けて立ち回るのだ。


ソレが決まる前に、鍛冶工房ギルドから早めに接触されて、手札が無いと気付かれても困る。僕が火を付けただけに、故に集まる期待と恨み、せいぜい長引かせないとならない。



西の山、ドワーフ共。

青龍の貴族、その恐ろしい眼に奴らを触れさせたのは、僕なのだから。





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