モノの値段/Bad money drives out good coins?
【用語】
[兌換通貨]
金銀宝石穀物などなど。価値ある資源との交換を保証する「おかね」。資源と価値は総量がイコールである。
[不換通貨]
何物とも交換を保証しない「おかね」。価値は発行主体が保証する。価値の総量は資源に左右されず、発行主体の信用とイコールである。
江戸時代。
一人の勘定奉行が喝破した。
「幕府が保証すれば金でも瓦でも構わない」
物々交換の延長でしかない兌換通貨が、現代で言う「おかね」となった瞬間。過小資源に制約されていた経済が、人の営みに合わせたサイズを手に入れた。
経済社会ブレイクスルー、その瞬間である。
かくして幕府は貨幣改鋳を繰り返し、「日本国大君信用通貨」とでもいうべき日本両が国中に浸透、海をも越える。
戦国時代から三倍に増えた消費人口に支えられ、大量生産による工芸輸出、資源地域としての鉱物輸出。それらは「国家管理通貨」により実現した。
しばしば
「品位最低」
と称される、江戸期の大判小判。
※貨幣品位:貴金属含有率/鋳つぶした価値)
当時を含む誰もが貴金属としての価値は認めない、悪貨。
広く広く流通し続けた「質の悪い」通貨。
誰もが求め信頼した悪貨。
それは国家「徳川日本」の永続性に担保されていた。
現代人が、たかだか百年前には存在しない国家を信じるように。百年を超えた徳川幕府を信じた日本人、とオランダ初めとした諸国は、その後も百七十年近く裏切られなかった。
――――――――――そこで命題。
皆が信じたから、国家が保たれたのか。
国家が保たれたから、皆が信じたのか。
実証してみようじゃないか。
《国際連合経済社会理事会/安全保障理事会/軍事参謀委員会議事録》
【太守領中央/太守府/王城内郭/外殻側バルコニー】
俺が昨日の昼、昼食から助け出された後。何かを期待してアムネスティの『蝋燭亭』に乱入してきた三佐。何を期待してたんだ何を。
「wktk」
byマメシバ三尉
やかましい。
こっちも期待してたよ!!
プロフェッショナルな皆さんを選り取り見取り出来る瞬間を!!!
半月を超える清く正しい僧侶のような生活と今後何カ月続くかわからない正しい意味での神父みたいな生活に、耐えるだけの思い出が欲しかったんです!!!!
営業開始前の娼館で、お出迎えに出てきたのがシスターズ&Colorful。
8人の子供。
ゴロが悪いがそれどころじゃなかった。
魔女っ子お手製の昼食はフルコース。
アムネスティの店舗専属調理師(女性)も手伝ったらしいが、俺の分は一つ残らずお手製。
いつもすまないねぇ
・・・・・とかいたくなった。
え?
魔女っ子料理に文句は無いよ?
と言うより、旨い。
宮廷料理そのものな王城の食事。
上品ながら想像以上に滋味溢れる頭目や奴隷市場の来客料理。
みな美味い。
だがしかし、アレなのだ。なんか、舌に馴染まない。
乳製品が豊富らしく、こってりしてる。
なんか知らない油っぽいのは、オリーブみたいな植物系か?
そこになにやら肉肉肉、美味しいパンがちょっと。
偶にならいいんだけどね
――――――――――すいませーん、パンだけでも美味しいからいいです。
メインはいりません
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・言えんが。
料理人っていうか、王城の料理長的なひとが相手だと、気後れして。
小心者だから。
そのへん、魔女っ子料理は穀類主体。
聞けば普通の、全体から言えば上の下、中の上より上よりはそーいうものだという。
比べて悪いが自衛隊のレーションは、飽きない味で、悪くない。
異世界宮廷料理は、とても美味くて、馴染まない。
魔女っ子料理は、旨くて、よく馴染む。
毎日食べても楽しめる。
なんか魔女っ子には、俺の食べたい味付けが判るって。
見てれば判る?
魔法すげー。
誰にでも個別対応可能な料理人。
いずれ日本で定食屋をするなら、俺が出資する。
貯金が残ってたらね。
そういえば、ここ数日、魔女っ子が調理担当になっているな。
現地代表、皆が忘れている魔女っ子の肩書、を軍属として雇用するわけにもいかないし。個人的な好意でご馳走してくれてるんだから礼を払うのは筋が違う。
翌日、つまりは今日だが訊いてみた。
最初はキョトンとしていて会話がかみ合わなくて困った。可愛いが、それで終わらせるわけにもいかない。
一問一答。
Q
望みは?
A
お側においてください。
Q
何が欲しい?
A
もう、いただいております。
Q
して欲しいことは?
A
お、おそれ、おおおお
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ご、ごしゅじん、さまの、おこのみを、
肢体に教えてください!!!!!!!!!
Q
訊きたいことはあるか?
A
えーとえーと、おいしい、といってくださいますし、かかか、わいいと
・・・・・おっしゃってくださいますし、いいにおいとおっしゃってくださいますし
・・・・・・・大好きです!!!!!!!!!!!!!!!
聴いてない。
が、まあ、不満はなさそうなのは判った。世話好きな人っているよね。他人の世話を焼いて、それ自体に喜びを感じるタイプ。
男にもいるよ?(実話)
この年代から完成されているとは・・・・・・・・恐ろしい子!!
そういう人は人気があるし、周りに愛されるから過度な負担も避けられて、近所の顔役的な人生を送る。世の中そんなに悪人ていないからね。
世話され過ぎれば、世話される側の自制が働くもんだ。
ただ、女の子だからな、大きくなったら危ない。
悪い男に騙されないか心配だ。
おかんエルフと、しっかりものの親友お嬢が何とかするだろう。
・・・・・・・・・・・・・・撤退後もメル友として様子を見たほうがいいかな?
さておき、昨日の話。
世話をされるのは、まあいい。
俺で勝手に礼をすればいいだけだし。
みんなで食事もいい。
なんでかしらないが、仲間と食べると話をしなくても楽しいものだ。
関係ないが、俺は食後に雑談する。
食事中は黙々と食べる。
関係ないな。
だがしかし、シスターズ&Colorfulの衣装はどうにかならなかったのか、と。
アムネスティのシュリたちのような露出はないが、まあ、春から初夏にかけての女の子ならこんな感じだろうな、という感じにはオープンである。
普段は完全に肌を隠してるものね。
みんなが地球風っていうか、絶対に時代考証していない可愛らしさ優先の、ってか、それ以外考えていないメイド服。
日本列島内部のネットワークをつなぎなおして復活した検索サイトで、メイド服、って画像検索すれば出てくるタイプ。
一人一人違うバージョンだが、テイストは同じ。
すっごく、気恥ずかしいです。
良い店あるんだよ~っていう話で秋葉原の某店舗に連れていかれたときの想い出がフラッシュバック!
手早く食事を終わらせたいが、皆が入れ替わり立ち替り給仕してくる。
しかも、地球のマナーを誤解して。
だいたいわかるが、マメシバ三尉の悪戯だろう。
地球風の食事マナーには、膝に乗ってくるってないから。
いや、ないこともないけど、親戚とか身内だけだから。おれだって、姪っ子とかにしかやった事がない。癖になると高校生になっても乗って食うから困る。
蹴りだすわけにもいかないが。
もちろん、地球風の食事マナーにはアーンはない。
いや、それは恋人とか親子のやることだから。従妹にやってるやるところを見られて誤解されたのは悪い思い出です。
それを俺に対してしようとするシスターズ&Colorful。
何故に哀願してまで試みたいのか???
断固拒否するほどではないとはいえ。
そして、地球風の食事マナーには、女の子に座るとかないから!!!!!!!!!!!!!
女でも女の子でも、それは無いから!!!!!!!!!!
断固拒否して、しおれるシスターズ&Colorfulは撫でてごまかして、当日中にマメシバ三尉の首を絞めた。
食事を口に放り込まれ、膝に寄りかかられ、背中に張り付かれ、入れ代わり立ち代わりしていれば時間がかかる。
魔女っ子が冷製スープや温めなおしても問題ないメニューを用意していたのは、計画的なモノだった?
そして俺の、夜まで開けておいたスケジュールを把握しているシスターズ&Colorful。眼が、その深い底が、らんらんと輝いていたのは気のせいか?
一日中、親戚の子供たちの面倒を見せられた時の悪夢がよみがえる。
子ども嫌いじゃないけどね?
全員が違うことを望んで引っ張られるのは困るよね?
苦難はそれで終わらない。
からかいついでにシュリ始め、アムネスティガールズがちょっかいを入れてくるし、プロフェッショナル女性のアピールは大変危険。
もともとが、ソレ目当てだったのだが、場違いでは苦行。絶対狙ってるのは判る。膝の間に誰かが入り込んでいる時に、必ずアピールしていくあたり。
・・・・・・・・いや、確かに、冷やかし甲斐があるシュチュエーションだが。
大人同士の連帯は?
職業意識的に俺を助け出してくれてもよくない??
どーせ営業開始してからでも来るんでしょう、ってそうなんだけどね???
そんなこんなで、何とか脱出を図っている時に、三佐が乱入してきたのである。
しかも、開いた扉(脱出口)をすぐ閉じようとしやがりました。
が、ソレを抑えて脱出。
助かった。
【太守領中央/太守府/王城内郭/外殻側バルコニー/青龍の貴族、腕の中】
わたしはご主人様を見ています。
ずっと、見ています。
何を飲まれるか。
何を食べられるか。
何をみていらっしゃるか。
朝、昼、晩。
ぱそこんで書付をしながら。
馬で、わたしを、ちいねえ様を抱きながら。
わたし、たちが膝に載せていただいて、ご主人様がくつろがれている時に。
眼が離せません♪
香りも伝わります。
ご主人様は香料を使われません。
わたし、たちに、あれるぎぃ、があると毒になるから。
もちろん
・・・・・・・・・・・・・・・皆にお優しいのですから、他のみなの、あれるぎぃ、も配慮されているのでしょうけれど。
そして、時折、ご主人様の、その肌に、わたしの唇が触れる時が
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わ、わざとじゃないんです!
つい、えと、ご主人様が、みていらっしゃっらない時に、その、抱きしめていただいたとき、たまたま
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うぅ。
『う~ん、処女をこじらせてますね』
ま、マメシバ卿!!!
『大丈夫!この恋愛マスター!ハナコにまっかせなさーい!』
ししょぅ!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
だから、わたしには、判ります。
香りと味で、わたしが作るべき味付けが、解ります。
【太守領中央/太守府/王城内郭/外殻側バルコニー】
だからまあ、俺がシスターズやColorfulから逃げ出した理由はさて置いて。
あの子たちが悪いわけじゃないしね。
うん。
昨日昼間、難行苦行の後で三佐に連行された場所。
麻薬工場ではなかった場所。
王城内郭、俺たち軍政部隊駐屯地エリア、一階。
中庭にぶち抜きの搬入搬出口まで設えた密造工場だった。
「麻薬工場だと思いましたが」
「ここじゃ人口密集地から遠すぎるでしょう」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・洒落になってない。
「現地習俗慣習に国連軍は干渉してはならない」
三佐が俺を見ないで言った。
国連決議。
俺たちが従うべき地球人類の意思。
まあ確か異世界での、麻薬流通をどう考えるのか、は俺たちが考えることじゃない。
麻薬一般に忌避感をもつ異世界。
全体かは知らんが。
そこに薬物合法化を導入すれば、俺たちの価値観(?)で干渉することになる。
国連軍は、地球人類は、異世界の有り様に干渉しない。
例えば雨乞いの為に、人間を生け贄にしていたとしても。それが地球科学だけではなく、魔法的観点から見ても無駄だとしても。
無意味で残虐な行いを、異世界人がするに任せる。
俺たちは異世界に責任を負わないからだ。
良い悪いの尺度を含めて、他人の文化を否定も肯定もすることは許されないからだ。
その文化慣習の背景を理解解析計算し、結果を導くことなど出来ない。好悪善悪美醜はその生物が自得すべきもので、プラスマイナスを問わずに干渉すること自体が醜悪の極み。
そのように、現在の地球人類は考えている。
だからこそ、不干渉政策。
彼らが俺たちの、いつかきた道、を繰り返しても知ったことじゃない。
ただし、三佐はそこで立ち止まるような女じゃない。
「作戦上の都合が関わらない限り」
――――――――――国連軍の作戦遂行は全てに優先される――――――――――
つっこまないぞ――――――――――!
ここじゃない何処かの話なんか、知ったことか。
でま、あここは?
「戦略兵器のヒミツ工場」
なぜかカタカナ感。
ってのも気になるが、それよりなにより。
「なぜここなんですか」
「安定した世情、孤立した地勢、貴男という素材」
おい!
【太守領中央/太守府/王城内演習場/園遊会中心】
僕は配下、そして五大家当主、うち三人に目配せ。
皆が配置に付いた。
酒樽を酌み交わしていた黒旗団のドワーフたち。彼らも樽を置き青龍の鉄塊、大きな竜殺しを構えた。
相前後して、どよめきが広がる。
園遊会の会場、王城を揺るがすため息。
五大家当主二人が露払いを勤める、黒髪の女たち。青龍の娼婦たち。皆、すっきりとした肢体に青いドレスを纏う。
その青はこの邦では染められない色合い。
その布地の光沢は絹とも違い、比肩できるモノが浮かばなかった。
異質さと美しさで周囲を威圧する。
――――――――――青龍そのもの、だな。
そして、大先輩の参事が愛娘を自ら案内。
愛娘に続くのがハーフエルフの一団。色とりどりの、髪に合わせたドレス。首に青いスカーフ。フリルが付いた可愛らしいモノから、肢体の線を浮き立たせるものまで様々な。
共通点は肌をあまり見せないことか。
青龍の貴族、その所有物。価格を超えた価値がある、愛玩物でありながら装飾品。それを味わえるのは主のみ。
美しさと艶やかさ、その断片を皆に振りまくのは情けのようなもの。
僕はその時、目を血走らせていただろう。
誰を殺す時より殺気を発していた。ハーフエルフへの自然な侮蔑。一番、青龍の怒りを買う危険性が高い、瞬間。
その前に殺さなくてはならない。
ふと視線を走らせると、青龍の貴族の、まさに上から覗き込むような目。
感情をたたえていない、見知った虫を観察するような、見ていない、だが、観ている。
【太守領中央/太守府/王城内郭/外殻側バルコニー】
俺は魔女っ子を撫でながら昨日の思い出に浸る
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・訳がない。
思い出なんて甘い話じゃない。
浸るというより、囚われる。魔女っ子の精神安定効果はありがたい。
昨日。
三佐に確認させられた装備、っていうか、戦略兵器を思い起こした。
つまりは大型多機能プリンター複数。
裁断機。
各種用紙サンプルに、紫外線など各種波長の照射装置に、拡大鏡と連動した解析装置
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だんだん怪しくなってきたぞ。
「なるほど戦略兵器です」
農民たちに配った納税免除のお知らせ、十万枚。中継基地から運んだにしては、タイミングが良すぎたが。
――――――――――まあいい。
宣伝ビラに告知文 、異世界発の官報発行まで視野に入れれば、確かに戦略級だ。記者クラブでもつくって、日本かジンバブエ並みの民間っぽい言論機関をでっち上げるか?
そうなれば、プラウダか人民日報か日本の全国紙クラスの信用を勝ち得るだろう。
偉い人は言いました。誰も信じない新聞でも、それしか無ければ皆従う。
うん、焚書しなきゃ!(使命感)
だが、三佐の笑顔からは違う匂いがする。いわゆる真っ正面からかかる、犯罪じゃないことにされている謀略は、三佐らしくない。
じゃあ、何がらしい、かって言うのもはばかられるが。
三佐は取り繕うより、最初から開き直っているタイプ。
偽善が嫌いな大悪人。
誰もが否定することを、誰もが想定外な目的でやらかすのが三佐。
例えばあれ、あの照射装置は紙を特定の状態にするためでは?
それを確認する為の解析装置、単純な印刷用じゃない鍬紙の数々。
「あ、紹介するわね」
参謀徽章をつけた、にこやかな東洋人。
「仮名すーぱーけー上校、っと、参謀よ」
「偽札工場ですか」
【太守領中央/太守府/王城内演習場/園遊会中心】
幸いに、青龍の貴族、その怒りを買ってはいない。
僕が見る範囲では、大半が問題ない視線だ。
ハーフエルフを値踏みして、その一人一人の価格に5人をかけて、感嘆している。青龍の貴族が、太守から接収したものだとはいえ、ハーフエルフの愛玩奴隷はそれだけで大財産。
しかも、金を出せば買えるわけじゃない。
払下げでも富裕な商家一つの総資産に匹敵する。商人たちの大半が、お宝の山をみて感嘆するのは当然だ。
僕らの習慣、何もかも値札をつけて解釈するそれ。
そのあたり、時として金より娯楽を重んじる港街より商人中心の太守府のほうがハーフエルフ扱いが良いともいえる。
どよめき。
三番目の、より大きな。僕に近づいて来た。腕が引っ張られた。
油断した!!!!!!!!!!
どよめきに惹かれ前に出たバカお、参事会議長。導き綱を手繰り寄せて、続かざるを得ない僕。
最後に園遊会に出てきた三人。
青龍の貴族、その愛娼たるエルフ。
青龍の貴族が飼う雌虎、懐いてじゃれつく女将軍。
その二人に続きながら、挟まれているのは?
少女と見紛う、青龍の
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マメシバ卿、か。
道化た仕草で、喰えない軍師。
フリなのか、場違いなのか。
庇護欲をそそらせる立ち居振る舞い。
血の滴る生肉を思わせる青龍の女将軍。
抜き身の剣に等しいエルフの情人。
獰猛な雌虎。
虎狩りの女戦士。
そして怯える少女の位置づけ。
二人の間にいるからか。
その三人に近付かされる僕は?
・・・・・・・・・・・・・・躾の悪い雌犬に引きずられる、飼い主、代わりだ。
【太守領中央/太守府/王城内郭/外殻側バルコニー】
俺はその時、事前事中事後知識を検索。
この世界に紙幣はあるだろう。貿易と通商があれば為替は必然。手形も証文もあれば証券がうまれる。だがそれは、明確な商品や金銭、最終的には資源に由来する。
まあ偽造の価値は無くもないが
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「軍票」
はっ!
略奪粉飾用こども銀行券が何だって?
軍票。
軍が占領地で行う悪行の代表。
紙屑を使って物質をソフトに略奪する演出道具。銃剣を背景にバラまく代用通貨。もちろん、つうか、と呼ばせてるだけ。
代理は代理のまま終わり、精算された話を聞いたことがない。
正規通貨が使えない貧乏勢力の定番。
軍票を使い出したら負け戦決定。
使った側は破産している。
使われた側にしても破産者を手間暇かけて打ち倒しても、何一つ回収出来ない。
戦場に勝敗があっても、戦争には敗北しかない。
当事者双方身の破滅。
近代以降の戦争は、より負けた方が敗戦っていう、自爆レースだから今更か。
「だだし、コレは違うわ」
三佐が取り出したのは竜の紋章。
異世界唯一の帝国の紋章。
印章が刻まれた紙。
「一応、軍票と呼ばれてはいるみたいで、帝国軍が管理発行しているけれど
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異世界すべてで通用する」
三佐の、というより、国際連合社会経済理事会の調査、その説明。
帝国軍が戦場で発行したソレは、広く商取引で使われている。
ざっと半世紀前から、大陸全体で。
帝国史は現地書類書籍口伝の回収から、だいたいわかっている。
帝国が世界征服を始めて70年くらい、だったか?
「未征服地域でも流通したのよ、この軍票」
帝国への、信頼
――――――――――絶対的な――――――――――
「今も通用しているわ」
大陸の大半で、金貨より大切にされる。
「帝国への、圧倒的な信頼」
三佐は軍票中央の、竜、の印章を指差した。
無敵、不滅、永遠の象徴。
この世界に竜を倒せる者はいない。
一般的にはそれで通じる。
剣と人間では歯が立たない。魔法でもよほど工夫しなければ自殺行為。
人海戦術なら?
戦意が保つものか。最初の十人が喰われた時点で、後の一万人は逃げ散るモノだ。
ソレを、竜を使役する、帝国。
帝国は、永遠だ。
それは日本の出現と帝国の敗走をもってしても、まだ、続いている。
まあ、そりゃそうだ。
転進、などという虚構を考えもしない帝国軍。
堂々と、全面的に、何もかも捨てて、敗走している。帝国の敗北を一番理解しているのは、帝国それ自体だろう。
だからこそ、一銭すら避けて主力を逃がす。
殿部隊は生還する必要がないとしか、考えていない。
それを追撃する俺たち。
近代兵器の優位性を信じていない国連軍。
竜を倒すところは誰にも見せない。
見た異世界人は殺す。
戦った帝国軍を逃がしたりはしない。
捕虜以外は皆殺し。
だから異世界大陸の住民にはこう見える。
帝国軍は整然と後退している。
帝国軍はいつの間にかいなくなった。
帝国は未だに健在だ。
まったくその通り。
反帝国暴動はそこかしこで起きている。
恨みは深く、妬みは強く、感情は理性を突き放す。
だが、帝国が滅びる、とは想像もしていまい。
孤立した帝国貴族を吊しても、皆がその事実を隠蔽している
――――――――――報復を信じている。
憎くて吊して戦って
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・反、帝国でも、誰一人、帝国以後は考えない。
「それはそれで構わない?」
三佐の、疑問のフリをした断定。
俺の内心をいい当てた三佐。
つまり。
「計画通り」
軍票、帝国紙幣と呼ぼうか。
それが現時点でも異世界の隅々に溢れかえっている。
それを、ここで、おそらくは他の場所でも大量生産する。
本物より本物らしい莫大なそれはあふれかえる。
誰もが使う。
金持ち、権力者から乞食まで。
皆が押しつけあう。
グレシャムの法則。
従来の金貨銀貨を隠して溜め込んで、他人に帝国紙幣、いや、帝国を押し付ける。
悪貨は良貨を駆逐する。
だが長いことは無い。
信用崩壊は瞬く間に世界を席巻する。
そして滅びる。
押しつけられた弱い者たちとともに。
皆が見下すだろう。
帝国紙幣を押しつけられた弱者を、帝国を。
「帝国という共同幻想が霧散する」
――――――――――何人、死ぬ、か。
機軸通貨の崩壊は物流の寸断。
良貨の溜め込みは、決済の停止を招く。
売らない。
買わない。
売れない。
買えない。
世界帝国が生み出した交易体制が崩壊。
大陸中が、群小国家に退行する。
維持できる人口も最小化するだろう。
まだ、帝国に併合されて日が浅い沿岸部は、マシ、かな?
元々が肥沃な土地。
統一市場に組み込まれて日が浅い。
経済的潜在力と失われていない体験は、役にたつだろう。
帝国中枢。
半世紀以上、帝国に支配されてきた、内陸部。
破滅的な影響をこうむる。
だが、それは、余談だ。
――――――――――地球人にとっては――――――――――
本題は信頼を失うこと。
帝国が、国家、あるいは社会として、成り立たなくなる。
これは外交としての戦争じゃない。
政治としての、戦争。
「良くできました。」
三佐は、おそらく、本気だ。最初からそのつもりだ。
「交渉する気がない」
「軍人より向いているわね」




