善意の檻から外を見る
『高貴な実験』:The Noble Experiment.合衆国禁酒法への評価。揶揄ないし侮蔑。「禁酒法」とは、いわゆる「酒」の流通販売を一切禁止した法律の総称。
密造酒には法規制がないために粗悪なものが増え健康被害が増加。違法である以上、飲酒は隠さなくてはならず、他人の注意や節制から隠れてしまうため重度のアルコール中毒が増加。違法とすることで酒市場が完全にブラックマーケットへ移行して、莫大な利益が組織犯罪を爆発的に流行される。
とりわけ組織犯罪は深刻で、一つの街に一つ、犯罪組織ができる勢いとなった。犯罪組織は「違法である飲酒」を管理することで「違法行為を犯している」ユーザーである市民への影響力を強め、行政立法司法を掌握する。
禁酒法を維持するための酒製造密売の取り締まり、酒利権をめぐる酒組織同士の抗争、禁酒法を糧に新権力として台頭する組織と既存の連邦政府の対立。
結局、禁酒法廃止(酒利権の剥奪、資金源の接収)に成功した連邦政府が一応の勝利を収めるものの、犯罪組織も確固たる基盤を手に入れて「痛み分け」で終わる。
この禁酒法時代だけを考えても13年10ヶ月19日7時間32分30秒間の間に無数の死者が発生した。その影響は組織犯罪の基本構造として、無数の死者を生み出しながら、人類史へ永久に刻まれる。
もちろん、今の瞬間も「禁止法が維持するブラックマーケット」は健在であり、ギャンブル、売春、麻薬は組織犯罪の背骨であり「そのもの」であるともいえる。
「よいっではないか♪よっいではないか♪♪」
「三佐!途中だったらどーすんですか!!」
「よいではないか♪♪♪♪♪♪♪♪♪」
「途中の途中だったら最悪の最悪ですよ!!!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「カミングアウト?」
「ちがうのよ――――――――――!
ワザとじゃなかったの!!!
お願いだから口きいて目をそらさないでおねーちゃんが悪かったから!!!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――って、なんで知ってんですか!!!うちの家庭の惨劇を!!!!!!!!!!!!」
「よいではないか♪♪♪♪」
オープン!!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「くろーず」
「まてぇー!!!!!!!!!!!」
【太守府/港湾都市/港湾地区/係留船内】
考えたら動かないとね?
オマエがいくら売人を叩いてブツを始末しても、ウチは痛くも痒くもない。
ああ、みんな、ウチの売人さ。
市場原理って、知ってるかしら?
知らないわよね。
ブツが減る。
値段が上がる。
売数は下がり、売上は変わらない。
ヤク中が減らないからよ。
知らないだろうけれど、需要と供給ってやつね。まあ、便乗値上げで儲けは増えたけれど。
あらあら。
いくら独占してるからって、信頼関係ってあるのよ。客、売人、他の邦の同業者、新しく増えるお客様。理由も無しに値上げ出来ないわ。
不満を潰すのは高くつくからね。
――――――――――皆様の為に用意した麻薬が、正義の味方に廃棄された。
だから、仕方なく、一番高値を付けたお客様に渡します。――――――――――
丸く収まるわ。
ねえ、正義の味方さん?
陰口一つまで、港でささやかれることで、ウチの耳に入らないことは無い。
もちろん、それとは知られずに。
悪口はいつも通りあふれているけれど、この点についてだけは、ウチを非難する声はなかったわよ。
誰が憎まれたか、判るわね?
―――――――――正義の味方は覆面をした男―――――――――
―――――――――背が高く、筋肉質―――――――――
そんな奴の悪口ばかり。
うちはオマエを
―――――――――不足したヤクを持ち逃げした売人の恋人―――――――――
って線で追ってたから。
正義の味方とはまた別に、ね。
ウチ以外からは追われなかったでしょう?
みんながみんな、正義の味方を追っていた。
日々、安心してクスリを買うために。
庇ってやったのよ。
お礼はいらないけれど。
なら、なんでココに招いたか?
オマエは考えたから。
オマエは考えて、動いたから。
そういう類の人が大好きだから。
考えたら動かなくちゃね?
だから、答え合わせをしてあげよう、って思ったのよ。
思い出してみて。
妻と喧嘩が増えたのは、ヤクを始める前か後か?
娘に無視され始めたのは、前か後か?
仕事で残業が増えたのは、前か後?
収入が減ったのは、前、後?
仕事を失ったのは?
自殺しようとしたのは?
筋金入りのヤク中が手持ちを一気に吸って即死、娘に会いに来た、手ひどく無視された、その後に。
――――――――――安心して。
オマエは悪くない。
考えなかったし、何もしなかった。
法を破ったわけじゃないし、誰かに責められもしない。
ウチは悪党。
考えて、麻薬を売りさばく。
法を破って、ヤク中も含めて皆から責められる。
ウチと違って、オマエの手は真っ白。
ウチとオマエの違いは?
・・・・・・・自分で自分を責めるかどうか。
さあさ、コレはお土産よ。
オマエの父親と同類、みんなが憩う無縁墓地に供えてやりなさいな。
このヤクは上物、薬方師が使う施術用だから。
考えたら動かなくちゃ、ね?
【太守領中央/太守府/王城内郭/???】
「アヘン戦争の原因は解るかしら?」
貿易不均衡だ。
互いの主力商品の競争力が違いすぎた。すると通貨が一方に流出する。兌換通過の時代でそれは経済破綻を意味する。
まあ、流出した側された側、両サイド破滅だけどね。
金が無ければ買えない。
それは同時に売れないでもある。
長い目で見れば調整される?
買えない。
売れない。
通貨の流出は止まり、輸入と輸出が逆転する。
かくして通貨保有不均衡は解消
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・な訳がない。
信用収縮。
心理恐慌。
資本逃避に社会不安、早い段階で経済問題ではなくなる。
現実を構成する変数は計算どころか把握も出来ない。
市場原理という、仮定。
リアルを根こそぎ振り捨てたジョーク。
わからない、そんな恐怖に耐えきれない弱者に向けたモルヒネ
――――――――――阿片と言ってもいいが。
机上の空論。
痴人の妄想。
存在しえない市場原理。
市場、そう口にする者は間違いなく経済を勉強していない。
学習してしまったアレな者。
だから、言葉の意味が抜け落ちて反射的に音を出す。
――――――――――し・じ・ょ・う――――――――――
そんな音に意味はない。
思わせず。
考えさせず。
選ばせず。
脊髄に植え込むのは訓練であり、学習とも呼ぶ。それはそれは有益な手順だ。
ただ
――――――――――人間に向いていないだけ。
考える葦、ならば。
思考を禁止して反射をねじ込むソレは、思考能力が無いものに向いている。平行並行進行出来る偉人もいるが。
ぜひ俺の代わりに考えて欲しい。
俺は考えるだけで忙しいから
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぜアヘン?
目の前でほほ笑むメフィストフェレス。
王城内郭いわゆる本丸奥深く。
俺の居ぬ間に三佐が施工。
俺たち地球人以外は近づけないエリア。
メイド長いわく、留守を任された三佐により接近禁止を命じられた。
俺に背を向け嬉々として語る三佐。
その背後で、申し訳なさそうに振り返る女性将校。
艶やかで長い黒髪をまとめ、しとやかな物腰で優美な笑顔を浮かべる彼女には癒される、が。
・・・・・・・国連軍事参謀委員会参謀徽章だけ付けて、階級章がない陸上自衛隊の制服をまとい、名前を名乗らない。
――――――――――――――――――――カメーさんかもしれない。
国連軍出向中の自衛官、その一部で流れる、戦場伝説。
軍事参謀委員会、あるいは、安全保障理事会、もしくは、とある衆議院議員と在日米軍や自衛隊中枢が談合している名無しの何か。
ソコに連なる仮名の参謀たち。
命令せずに、推奨し。
上申せずに、提案し。
権限無しに、指揮を執る。
将官の背後に立ち、将校の耳元でささやき、帝国の捕虜と肩を組む。
爆破しているという噂。
事故死させるという噂。
実験しているという噂。
偶然と必然に立ち会って、何もしていないという、風聞。
おいおいおいおいおいおい
――――――――――――――――――――嫌な予感しかしない。
【太守領中央/太守府/王城内郭/???/青龍の貴族、その後ろ】
あたくしは、御領主様の後に続きます。
先頭に立つ青龍の公女様。
御領主様の上に立つ高貴な方。
御領主様の大切なお客様で御座います。
――――――――――この先は青龍の公女様が御領主様の代理でらした時に、立ち入りを禁じられた場所に御座います。
とは申せ、御領主様が戻られました以上は過去のことにて。
後ほど、お尋ねいたしましょう。
御一緒の場合以外の立ち入りについて。
【太守領中央/太守府/王城内郭/???】
「麻薬対策にかかった資金、労力、資材、人命」
続く三佐の嗤い声。これを、悪魔的、と呼ぶのだろうな。
「無駄ムダむだ」
どこに向かうかこの話。
「麻薬密売組織を潰すなんて、どんなバカでも容易くできる」
どこに向かうか俺自身。
答えは判るが、答えたくない人多数な話題を異世界でフラれるとはね。
はーい、せんせー。
みんなが言わないようにしていることを、言わせないでください。
「麻薬を合法化するだけ」
禁酒法と理屈は同じ。
麻薬、売春、ギャンブル
――――――――――この三つが反社会的、とされた組織の存立基盤。
この三つを合法化すれば、組織犯罪に明日はない。
例えば麻薬。
非合法コストを抜けば、生産技術も原価はしれたもの。
今、麻薬組織が扱っているのは混ぜ物だらけの粗悪品。
純度が高い麻薬が安く合法的に誰にでも手に入ったら?
粗悪品は一瞬で駆逐される。
生産者流通者販売者ごと
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・麻薬組織のことだが。
そうなって誰が困る?
麻薬のコストからみて、合法化後の販売価格はほとんど税金だろう。
つまり国家財政を潤す。
麻薬中毒者が増える?
化学的に言えば、薬物中毒は薬効では起きない。
そもそも依存症は精神疾患、ないし神経症なのだ。
酒や煙草と変わらないが、それは既に証明済みの事実に過ぎない。
実際、一番研究が進んでいるアメリカの例で言えば、麻薬利用者は中産階級以上が多い。
密売人も一定の顧客を抱えて、仕入れ部分のみ犯罪組織と関わる個人バイヤーが少なくないくらいだ。
麻薬経験者で中毒者にまでなるのはむしろ少数派。大統領に至るまで麻薬を嗜んだ人間がありふれているくらいだ。
いや、嗜んだ、じゃなくて、嗜む、が正解か。
――――――――――麻薬戦争――――――――――
単なるキャッチコピーでしかないのは誰もが知っている。
それでも、ソレをネタにすれば予算がとりやすいんだけどね。だから言葉だけが溢れるんだけどね。それはともかく、ヤク中とアル中の間に医学的な差はない。
ならば、なぜ、麻薬は麻薬それ自体の効果で中毒になる、と信じられる?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それが救いだから。
答えは簡単。
人は信じたいことにしがみつく。
中毒者、中毒者の家族、中毒者を生み出す社会を造って直さぬ無能な官僚や政治家。
アナタの家族(友人、知人、部下、同僚など自由に入れ替え可)が中毒になったのはなぜでしょう?
アナタが患者を孤独にしたからじゃありません。
麻薬が悪いんです。
麻薬に手をだしたアナタの家族が悪い訳じゃありません。
依存症気質が顕在化したなんて誤解です。
麻薬が以下略。
アナタの国民に麻薬が蔓延したのはなぜでしょう?
アナタの政策が間違っていたんじゃありません。
麻薬が以下略。
アナタは裏切り者でも無能者でもありません。
アナタの国の社会構造に問題があるわけないじゃないですか。
アナタを信じた多数の国民をアナタが経済的社会的に破滅させたからじゃありません。
誠実で無能な官僚/政治家。
国を信じる愛国者にして善良な市民。
家族を重んじる良き父、良き母、良き子供。
わかりますよね。
全部麻薬組織が悪いんです。
かくして。
気は楽になった。
麻薬組織は笑ってる。
中毒患者は救われない。
嗤うしかない。
麻薬組織じゃないけどね。
――――――――――麻薬の流通増加は、原因ではない。
結果だ。
ありとあらゆる麻薬対策が、無駄だった訳。
意図的な錯覚。
作為的な責任転嫁。
家族の命を犠牲にしてでも、守りたい、大切なものはなーに。
面子、自尊心、物語。
自分のせいだと気がつきたくない。
自分たちが悪いと思いたくない。
麻薬が無くなれば、酒。
酒が無くなれば、タバコ。
タバコが無くなれば、人。
麻薬をやったから仕事を失ったんじゃない
――――――――――仕事を失ったから麻薬に溺れたのだ。
麻薬中毒で家族に見捨てられた
――――――――――家族に見捨てられたから以下略。
「(お好きな例を入れてください)」
以下略以下略以下略以下・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
処置なし。
弱き方々の傷つき易い心は、決して救われない。
中毒を治すことよりも、責任逃れの方が重要だ。
ならば彼らは員数外。
論じる価値なし考慮の余地なし。
かくしていくつもの国々で、先進国ばかりだが、薬物が解禁され始めた。
一部解禁のオランダから、全面解禁のポルトガルまで。
だが、他の事は危惧する価値があるだろうか。
空が落ちてこないか心配する人間は、紀元前から絶えた事はない。
誰でも簡単に麻薬が手に入ったら、どうなる。
中毒者が増える?
麻薬絡みの犯罪が増える?
麻薬のせいで事故が増える?
NO
――――――――――実際に麻薬を合法化した国々の事実は、とっくにすべて立証している。
合法化は完全解放から部分解放まであるが、共通点が多い。
麻薬中毒者は、減る。
当たり前だ。
麻薬が非合法なら、中毒者は逮捕リスクを負わなければ治療を受けられない。周辺の、とりわけ近親者も同じだ。
近代法制度は連座制など認めちゃいないが、それでも実質的に犯罪は連座させられる。患者と周辺の人間関係がうまくいっていなければ、余計に問題は拗れる。
だから、末期になってなお、まともな医学的対処が受けられない。刑務所に収監されることでのみ、麻薬治療が受けられるのが多数の現状だ。
だが合法化されたら
――――――――――言うまでもない。
恥ではあっても、罪ではない。
気が重いだけで治療が受けられる。
当然、心因性なのだから、周辺や家族関係まで含めてカウンセリングや投薬が受けられる。
――――――――――効果が上がって当たり前。
アルコールやタバコを非合法にしたらどうなるか考えたら、誰にでもわかるだろう。
どの国でも、何もかも理屈通りになった。
事件事故はどうか。
麻薬が産む犯罪は全て同じ。
貧困中毒者の購入資金目当ての犯罪。
麻薬組織の販売権益争い。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・解決、一瞬、合法化。
麻薬はお手頃価格になり、働けば手に入る。
毒性中毒性は酒と変わらず、ニコチンより弱い。
事故は酔っ払い運転と変わらず、発生率は肺ガンより低い。
中毒者自体が減れば、中毒が原因の事故も事件も減る理屈
――――――――――――――――――――理屈とおりになった(過去形+現在進行形)現実。
世は全て、理屈通りにしかならない。
つまらないことに。
実際、合法化した国々では一様に理屈通りになった。
――――――――――組織犯罪が減り、中毒者が減り、犯罪が減り、税収が上がった。
禁酒法が廃止された後、エリオット・ネスはどんな顔をしたんだろうか?
あれは映画だが、実在の彼は生涯アル中だったという。
麻薬捜査官がヤク中になるのとおなじ。
仲間を殺され、ギャングを殺し、あらゆる苦難を乗り越えて、うすうす気がついてはいても、ある朝、禁酒法が廃止されてしまいました。
「日々麻薬対策に走り回っている皆々様、徒労と無駄骨ご苦労様。今まで払った犠牲と人命に、深く深く嘲笑を」
三佐
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・せめて、言わないであげましょうよ。
まあ、責任ある立場じゃ、そうはいかないか。
無駄を無駄と嘲らなければ、未来永劫続くからな。
英霊に酬いよ!
英霊を侮辱するのか !!
英霊に顔向け出来ない!!!
思考停止の狂信盲信。
犠牲を神聖化して、方針転換を阻止して、みんなが犠牲になる。
いつも行く道、いつか来た道。
俺の征く道?
冗談じゃない。
他人を潰してまで守りたい見栄なんかない。
だが
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・麻薬生産配布事業に関わる気も、ない。
当たり前だ。
俺だぞ?
自分の命と安全しか考えない、考えられないんじゃなくて、考えない、あえて、全力で自己保存だけしか考えない、俺。
批判覚悟で世間を嗤う?
地球の失敗を異世界に持ち込ませない?
これから異世界と共にある地球を継続中の過ちから救う?
――――――――――ありえない。
他人を救う為に捨てる命なんぞない。
他人なんざかってに地獄に落ちりゃいい。
誰かに認められる社会改良にかかわるのだって御免なのに、結果が出るまで非難糾弾必至な正義なんぞにかかわるものか。
子どもの目が怖くて酒だって飲めないってのに。
例え三佐のお願い(命令)でも断固拒否!実質拒否!!なんとか言い訳考えないとな!!!
・・・・・例え、直前に救い出されたとしても。
シスターズ&Colorfulに囲まれて、やり場のないナニかを抱えながら昼食会という、何が何だかわからない修羅場!
・・・・・・・・・・・・・・いや、別にいーんだけどね。
ニヤニヤ笑っているシュリが時々、出入りして
「フルコンプしたら、ウチらのばんね」
などと、思わせぶりなことを言ってくるし。しかも教育上よろしくない格好で、出てくるし。皆の手前ガン見もできないし。どんなお店ですかと抗議すらできないし。
ほぼゼロ距離を行きつ戻りつするシスターズ&Colorfulには、見透かされてるんじゃないかと大変だった。
小中高の子供たちとお弁当を食べている担任の先生(男)の前をキャバクラのオネーチャンが行きつ戻りつすると考えればいい。
・・・・・・・・・・・わかるよね???????
そうこうしていると、三佐が立ち止まった。
明らかに中世とは異なる電子ロック付きの倉庫の扉。
言い訳の瞬間が近づいて来たようだ。
うん、あれだな、中身を見る刹那の前に、おなかが痛くなる事にしよう。
「オープン」
いたたたたたた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なにこれ。
「麻薬工場だとでも、思ったのかしら?」
【太守府/港湾都市/港湾地区/係留船内】
盗賊ギルドの頭目。
港湾利権の中心。
荷役人や船員の手配。
酒場や賭場、娼婦の元締。
用心棒、人間狩り、奴隷集め、盗品故買、そして
――――――――――麻薬密売。
麻薬の売買は帝国でも違法。
理由は誰も知らない。
帝国は布告はしても説明はしない。
そのあたりは、新しい支配者と変わらない。
だが、たとえ帝国が禁止していなくとも、この邦で麻薬への忌避感は一般的だ。
――――――――――港街以外では。
上流階級には秘めやかな日々の娯楽。
下層階級には酒で堪えきれない日々に耐えて。
頭目は嘘をついていない。
麻薬の売人を襲うヤツはいる。
たいていは中毒者。
それだけなら、報告すらされない。
だが、襲ったのが若い女、しかも、腕が立つ、となれば?
希少価値
――――――――――珍品奴隷、珍しい拳闘士、有用な暗殺者。
幾らでも使い道がある。
当然ギルドの幹部から、無傷で捕らえろ、と厳命が下され頭目に報告された。
ただ、それはギルドの考え。
頭目は羨ましかった、それだけ。
父の仇と思い売人を襲い、麻薬を葬り去る少女。
その父親は、麻薬に溺れて死んだ。
何人目かの女に産ませた子供を放り出して、クスリに溺れたクズ。知り合った全員に見捨てられ、女にも他の子供にも相手にされない、拳法家の残骸。
ソレが妬ましかった。
富と権力を握る盗賊ギルドの頭目、新たな支配者である青龍の股肱にして愛人。
富と権力、権威を加えた支配階級の中心
――――――――――頭目はゴミ同然に死んだ残骸が、羨ましい。
そんな役立たずなのに。
何一つ娘に与えなかったのに。
血が繋がっているだけの、ただそれだけの、娘が命をかけて親の復讐を望む。
この大陸のどこを探しても、そんな異常な発想はない。それは自分の子供を殺されそうになって、氏族全員を殺した頭目が知っている。
頭目は愛娘の髪を梳きながら、思った。
まだ幼い、大切な娘。
一緒に生きて、一緒に死ぬ。
この子は大きくはなれないだろう。
父親がエルフだから。
ハーフエルフの子供に、この子を産んだ自分に、安住の地はない。
隠し、潜み、伝手と力を蓄えて、いつか邦を捨てて見知らぬ世界でのたれ死ぬ。
娘と一緒に。
――――――――――はずだった――――――――――
この子は、青龍の貴族、その庶子だと思われている。ハーフエルフであることは、青龍の権威の前に霧散した。侮蔑の眼は恐怖によって失われ、奇異な視線すらはばかられる。
頭目は母として、愛する子供の側にいる。
周囲はあくまでも、母のようなもの、と考えている。
庶子を預けられた股肱の臣下、ソレが女なので母がわりを命じられたのだ、と。
皆はそれを、新たな支配者への忠誠の証、とみてくれる。
だから。
誰はばかることなく、母と呼ばせ娘としてかわいがる。
青龍の貴族、彼がくれた幸せ。
いつまで続くかわからない、望むことすらなかった、今だけの幸せ。
愛することができる。
それで十分だったのに。
愛されたい。
欲が出てきた自分を笑った。
頭目は、自分を笑った。
笑いつづける。
――――――――――うれしくて――――――――――




