最期の十日間
登場人物&設定
※必要のない方は読み飛ばしてください
※すでに描写されている範囲で簡単に記述します
※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします
一人称部分の視点変更時には一行目を【語る人間の居場所】とします。
次の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの特徴となる一人称を入れます。
以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。
(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)
【登場人物/三人称】
現地側呼称《某農業大学生/エルフ愛好会会長》
?歳/男性
:エルフオタク。某農業大学の学生。学内にとどまらず一都二府十二県にて幾千の同志とともに異世界のエルフを愛でる人生を驀進していた。今はさらに悪化中。極めて常識的な副会長がついているが、その忠告は聴いてるだけのようだ。農業については詳しいらしく、一時的に公開されたエルフっ子画像の背景に映っていた太守府農村の風景から不自然さに気がつく。そのことが軍政部隊による農村偵察の契機になったのだが本人は知らない。神父が渡した画像データで完全にエルフっ子を崇拝しており、在学中の大学をまるまる太守府の農業解析に動員するまでになる。
登場は「第78部分 沈黙の春」以来。というか、本人登場は初めて。
われわれわぁぁぁ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!
独占資本主義の存在を粉砕しぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!
親愛なるエルフさんたち同志のぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!
生存権うぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~即時即日今この瞬間の遥か以前の産まれる前からあいしてましたますましょ――――――――――う!!!!!!!!!!
ふゃが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「国際エルフ友好開始促進協会会長の挨拶でした」
会長万歳!
協会万歳!
Yes Elfs、No Touch!
―――万雷の拍手―――――――
ここは日本武道館。
国際エルフ友好開始促進協会とは?
一都一道二府四十四県136ヶ国に同志を擁する世界最大の異世界種族人権団体。
世界のサイズが小さくなったからと言って、侮るなかれ。ざっと異世界転移前の1349分の1でしかないといっても、総人口で言えば70分の1くらいいるのだから。
そんなところで国際エルフ友好開始促進協会は世界最大を誇っているのである。いや、誇ってはいないかもしれないが。
・・・・・・・・・気づいていない可能性もある。
そして、どこかから入知恵されたらしく同志を選挙権の有無で名簿分けしている国際エルフ友好開始促進協会会長は、農業大学の学生である。
ただの学生と侮るなかれ。
異世界の某地域に関して農業研究を進める為に大学全体を巻き込んでしまった行動力の持ち主である。実際は副会長がすべて仕切っているのではないかとも言われてるが。会長自身が何も気にしていないからいいのだ。
「では、各団体会長リーダー総統総裁第一市民議長からご挨拶を。その後に来賓を代表し異世界多種族友好促進議員連盟代表よりご挨拶とさせていただきます」
国際エルフ以下略副会長は進行を続けた。
次は世界ドワーフ相互理解推進評議会議長。
一都十二県45ヶ国に跨る中堅組織だが、誰も疑問に思わなかった。
ホビットを愛する者。
ウンディーネを愛でる者。
マーメイド尾びれ鱗えら脚付き連合。
獣人人獣を巡る耳尻尾人寄り獣より各セクトも、他の組織も。
エルフの次はドワーフだよな、と思ったのだ。
多数の団体の演説挨拶独り言。人数が多い割には時間はそれほどかからなかった。来賓も名簿ゲットにきている議員がさっさと話しを終わらせたために、後に続く挨拶も簡単に終わる。
そして出てくる以下略会長。
「諸君!小異をすて大同につきし君たちを同志と呼ぼう!!大同とは何か?資本主義拝金教徒共による暴挙である!!!奴らが企むものは何か??知っているだろう知るだろう諸君!!!!こともあろうに彼奴らはエルフさんを淫獣共の餌食にせんと公然と陰謀中である!!!!!異世界移民と銘打つ怪情報のの々!!!!!!大陸は一夫多妻???文明の光をもたらせば崇められる????肌もあらわな永遠のロリータが虜になる?????義務教育程度の知識とチューインガムと近代兵器で俺様無双??????薄汚い下衆を煽るキャッチコピー!!!!!!!!!!ざっけんなコラー!!!!!!!!!!ふがぁ」
副会長が後を引き取った。
「このステルスマーケティングの出所は、どこですか」
傍らの白人に尋ねた。ボスニア紛争に湾岸紛争など多くの交戦国や交戦団体と契約している、国際的な広告代理店のエージェント。
キャッチコピーを考えたり水鳥に石油をぶっかけたり戦場清掃後の墓穴に民間人の死体をつけたして撮影したり新聞記事を考えたり。
およそ広報屋さんが考えそうなことは概ねカバーする辣腕の主。
「日本最大の広告代理店ですな」
スクリーンを指し示す。その代理店内の各種文書が映し出された。情報管理という言葉しかない日本企業はいいカモです。なお辣腕の持ち主は国連と契約中で誰にも逮捕されないのだが。
「その目的はなんですか」
傍らの日本人に尋ねた。
「奴隷作りです。桃源郷を捏造して日本の若者たちを大陸に送る。現地住民を家畜化する為の奴隷としてね」
東南アジア系の女性が続けた。
アムネスティの労働問題担当。売春の労働化に先鞭をつけた組織の言うことは一味違う。
「人件費をほぼゼロにして、利潤を上げるつもりなのでしょう
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰に何を売るつもりか判りませんが」
すでに生産が止まった状態で、ストックだけで生活が成り立っている日本。だが、財界には産業再開の声が強い。
インドを植民地化したイギリスのように、現地の職工の腕を切り落とすところから進めるべきだろうか?
演壇に戻って来た会長。
「次は誰だ!!!!!!!!!!」
武道館を見回した。
「エルフさんたちの次は?ウンディーネか??ホビットか???猫ミミ娘か????犬尻尾ショタか?????(中略)ドワーフは鉱山送りか??????」
武道館が静まり返った。
「やらせはせん!!!!!やらせはせんぞ――――――――――!!!!!
造反有理!!!!!!!!!!
我々は頸木の他に失うものなどな――――――――――い」
武道館に怒りの絶叫が轟いた。
《全世界異世界異種族融和運動創立記念総決起集会》
【太守領中央/太守府/王城内郭/回廊/ご領主様の前】
あたくしの御報告と確認の申し出。
御領主様が遠征に征かれる前。御領主様にいただきました、御命令。その結果と経過をお伝えすべく、あたくしは願い出ました。
御領主様は時間をとってくださいます。必要とはお感じではなかったようですが、あたくしがお気持ちを察して退く前に一言。
「見せたいか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・成果を誇りたい気持ちを、気付かせていただきました。
あたくし、羞恥は強く感じましたが、恥ずかしくは感じません。
――――――――――御領主様が、楽しんでいらっしゃいますから。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたくし、そのモノを、楽しまれるというのは、かつてなかった体験。
驚かされてしまいました。
そんな場合ではありませんけれども。
おそれながら、御領主様の先を歩ませていただきます。本来は付き従う身分に御座いますが。されど各々の場に割り振られた役目を、確認の上でお伝えするためなれば。
お赦しを乞うばかりで御座います。
ご案内。
半月ほど前からはじまりました普段であれば、ご案内が要りますのは参事様方のみ。無論、進まれてはならぬ先をお伝えする為でもありますが。
本来の主に連なる方々には、無用のこととなります。
青龍の皆様方は、王城の間取りはご存知でいらっしゃいますので。初回一度の来訪、御領主様以前にいらした青龍の騎士団、方々が一晩でお調べになられた、とか。
この広いお城を、地図作りに専念するでもなく、地下室から隠し部屋、あたくしたちには知り得ない抜け穴まで
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうすればそんな事ができるのでしょうか?
魔法というものは解りません。
さらにその後、当代の御領主様がいらしてから青龍の公女様が、王城に手を加えられました。
その結果としてお城がどのように変わったか。
それとて御領主様にはご存知でいらっしゃいましょう。
ですので、あたくしに委ねられた部分をお確かめいただきます。ゆえに王城の主たる青龍の貴族様は、先を見通して闊歩なさいます。
【太守領中央/太守府/王城内郭/回廊/メイド長の後】
俺は将校に欠かせぬ技術を発揮中。
それは
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・知ったかぶり。
何もかも把握理解掌握している――――――――――訳ないじゃん。
だがしかし!
上に立つ者はそうあるべきだ、と大半の者が期待する。
ゆえに、俺はそう見せかける。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その程度でいいんだって。
いや、ホント。
見せかけだけで解決する。
実務は下士官以下に任せていればいい。
彼らが何をしているか?
そんなことを把握する必要はない。
興味があれば、興味があると悟られない範囲で慎重に、報告履歴を確認。
くれぐれもぜったいに、関心を気付かれないように。気づかれたら、解ってない、がばれるしね。
間違わないように。
間違えないように。
間違おうとしないように。
誰かが上から見張ってくれている。
家内安全。
無病息災。
商売繁盛。
―――――――――――――お守りみたいなもんだ。
上司への期待ってのは、たかだか、その程度。
許可する?
承認する?
権限を持つ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何もしてない出来ない居なくていい。
その類が勘違いすると大惨事。
稟議という名の紙屑は、上司たちの勤労意欲を満足させる
――――――――――だけ。
会議という名の説明会は、上司という名の部外者に判った気分を植え付ける
――――――――――だけ。
肩書きという名の文字列は、上司と名乗る奴隷頭のピカピカ光るブリキの勲章
――――――――――光るのは頭だけにしてくれ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰とは言わない駐屯地司令。
親が無くても子は育つ。
上司が見なくても部隊は回る。
その程度が出来なければ組織じゃない。
上に立つ者の仕事は、仕事の邪魔をしないこと。
その程度が出来ない上司なら
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・二階級特進をコーディネート。
――――――――――って、三佐が言ってました。
俺は言って無いですけどね?
【太守領中央/太守府/王城内郭/回廊/ご領主様の前】
青龍の騎士団が乗り込んで来た夜。
その時、あたくしは執事長さんと誰もいない王城に残っておりました。他の皆は何日も前に暇を乞うておりましたから。
もちろん
――――――――――その前に王城は主を失っておりましたが。
あたくし、そして執事長さん。
あたくしたちが僭越ながら皆の暇を預かり、王城にて役目を果たしておりました。お城を荒れ果てさせるわけにも参りませんから。
ただし、それは独りのメイドが果たせる範囲に過ぎません。
王城内の、部屋々。蔵に箱。扉に窓。皆が去る前に施錠封印させました。その確認がてら、手の届く範囲を掃除させていただくのみでございます。
――――――――――何を命じられた訳でもありません。
先の太守様が出征されて、お帰りにならず。それ以来、後々最後まで奥方様は何もおっしゃいませんでした。
直接のお声はもちろん、人を介してさえ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・心中、お察しいたします。
何も出来ぬ身ではありますが。
奥方様、姫様方、家宰の方々。ただ静かに立ち去られ、あたくし共もお見送りいたしました。逃れられるのですね
――――――――――とは、以前から、察せられましたが。
もちろん、主の詮索などはいたしません。
あたくしどもは居るだけでごさいます。
それだけで、家宰の方々がなさることを見聴きしてしまいますわ。
帝国の敗報を次々と集められる様。
海路が途絶え、参事様方から伝わる混乱に捕らわれるご様子。
帝国の魔法で繋がった編み目から、溢れ出す噂の数々。
何かを確かめる為に動いた各地の太守、軍、街々。
すべてがその直後に音信不通。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そして、家宰の皆様は何かを聴くのを控えられましたわ。
聴く代わりに、動き始められました。
宝石を、とりわけ加工が甘いもの、粒の小さなモノを選ばれました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・金貨銀貨は、見向きもされませんでしたわね。
そして銅貨だけをいくらか。
別に債権や手形の証書らしき、ものを選びだされます。
いえ、これは、あたくしの想像で御座います。少なくとも三種類以上の、見知らぬ邦の文字で綴られた文書。
同じ箱に収められている、あたくしには意味の分からない文字の書類らしきモノが幾通りも。それらの中、帝国公用語で書かれた文章が目に付きました。
それが証書証券、のような内容で御座いました。
ゆえに他の、同じ箱に在る文書はみな、そうしたものかと。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この邦の証書、つまりはこの邦の文字で書かれたものは見かけませんでした。
そして宝石、貨幣、証書以外も御用意しておられましたわ。
家宰の皆様は馬丁を追い払い、馬車を何台か仕立てられました。
奥方様方が城を捨てられる、一週間前。
何台かの空馬車が城を出ました。
今日まで、その馬車は帰ってまいりません。
また日を置いて、仰々しく飾り立て、戦闘奴隷に守られた馬車が王城を出入りいたしました。幾度となく出入りする都度、帰ってくる奴隷の数が減っていきます。
奴隷たちは皆、疲れておりませんでした。
出て、帰り、それなりの時間は不在でしたのですけれど。さりながら車輪に傷も少なく、遠くに行ってきたようには見えません。
ですので、太守府の城壁外に少しずつ奴隷を降ろして来ていたので御座いましょう。
城壁外にはほどなく旧王国時代から続く御料の森があり、時の城主様方の狩場であり王城で使う薪や材木の切り出し場。
領民は立ち入り禁止となっておりました。
先の太守様もそれを踏襲されており、その定めた禁を破ろう、という動きも目立ちませんでした――――――――――この時はまだ。
ですから、そこに先の太守様に連なるモノが身をひそめると、あたくしが想像しただけにございます。
その森には、先の太守様の狩猟小屋があります。
奴隷たちが逗留するのに不自由は無いでしょう。食事を用意し運ぶべきかと迷いました。指示こそありませんでしたが、王城にいた戦闘奴隷の出来不出来は承知しておりますれば。
彼らばかりでは、焼く炙る程度しか望めません。
ですがそれは、執事長さんに禁じられました。今、思いますれば、隠れ潜む奴隷たちの邪魔になりますわね。
深く反省いたしております。
――――――――――そして当日。
薄明の中。
奥方様は徒歩で城を抜け出されました。
正門を閉ざされたまま。
使用人、消耗品や廃棄物が出入りする開口部から。
しかも、奥方様も姫様方もメイド服を纏われて。
おそらくは、太守府城壁外に馬車を待たせておられた、とは推察いたします。着替えのドレスも、御用意があれば幸いなのですけれど。荷造りにも加えていただけませんでしたので。
あたくしに執事長様は、その時を王城にて最後のご挨拶とさせていただきました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ、最後まで御命令はいただきませんでした。
いつ、どこから、どのように。
それが判ってしまいましたから。
城を抜け出される奥方様方を、勝手ながらお見送りさせていただいた次第で御座います。
【太守領中央/太守府/王城内郭/回廊/メイド長の後】
メイド長は見た!
俺はまあ、一息つけた。
先の太守さまの家族は生きてるだろう
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・多分。
聞けば聴くほど綿密な準備。
目立つ金貨銀貨を避け、村々でも使い易く目立たない銅貨を用意。同じくかさばらないし換金し易い、小粒の宝石。紙切れサイズの手形や債権証書はそれだけで一財産。
道中には馬車や馬、おそらくは武器糧食に旅費まで先行待機させている。
身分を隠す常識もある。
太守夫人にご令嬢。
太守には息子たちがいたらしいが、不幸にして成人、ってか、元服済み。
太守本人とともに還らぬ人に。
竜ごと撃ち落とされたのか、船を沈められた後に爆雷をくらったのか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・墜死、溺死、圧死。
城を捨てざるを得なかった、太守の遺族たち。忠実な家臣や奴隷に護られて、一路西へ。西の山々から山脈を越え、南下すれば辺境の交易路に出るらしい。
山々のドワーフたちは帝国に友好的。
ってか、配下。
・・・・・・・ドワーフだけに、序列意識があるかどうかは怪しいが、今更無碍にも扱うまい。
山脈越えという、一番の難所はドワーフの助けを得られただろう。
そこから先は、基本的に北辺の人口過疎地帯。
帝国の撤退方針と俺たち国連軍の放置無方針。
僅かな人里は、この邦でいう参事会のような、地元有力者たちが統制したり出来なかったり。
そこさえ突破すれば、帝国支配圏。
数百kmか、行程千km以上かもしれない、無政府地域の逃避行。
いかん、気が重くなってきた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無事だといいねえ。
太守一族逃亡後、残された人達は大変だったみたいだが。
元城勤め、兵士や騎士の縁者、そして役人。
参事会がまとまって秩序維持を優先した。だから反帝国暴動こそ起きなかったが、嫌がらせではすまなかった。
没落した支配者に向かう悪意が、身代わりに向かうという定型反応。
地球で言えば、植民地が独立して欧米人が立ち去った後みたいなもの。
植民地統治の末端を担っていた、華僑や印僑が迫害された時と同じパターン。
支配者不在の辺境を、何百kmも逃避行する太守の家族と、どっちがどうやら。
・・・・・・・・・・・・・いずれの原因も、俺たちだがな。
【太守領中央/太守府/王城内郭/回廊/ご領主様の前】
あたくしは御領主様に向き直りました。ここから先が、先の太守様一族の、内宮。私的な場所。御確認いただく前に、お伝えすべきことが御座います。
「御領主様」
あたくしの背に、すなわち御領主様の前に、メイドを5名並べました。
あたくしは普段、メイド長たる職務を果たすための取継役のみを側に置きます。
あたくしの意に従って、メイドや下女たちに命令を伝え、皆の様子を見て、あたくしへの伺いを集める役目。
それは今も、あたくしと御領主様から距離を置いて控えております。数人、ですが、次々と伝えに走りますから入れ替わり立ち替わり。
もちろん、御領主様の目と耳に障らぬように、あくまでも静かに、すばやく、陰ながら。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・青龍の特殊な力には無意味かもしれませんけれども。気にする必要はない、とお言葉をいただいております。
しかしながら、御領主様の前に並べた5名は別なお役目。
御領主様のお世話をしつつ、メイド長の役目を果たすため、お世話役の手を増やしました。
御領主様の身辺は、あたくしが直接いたします。
もちろん、魔女様、お嬢様、エルフ様、それに愛玩奴隷の皆様のお邪魔にならない範囲で。5名は御領主様の外戚たる方々を、補佐する役目となります。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・しばらく、あるいは、今後も、御領主様以外の男性に近づくことができないかもしれませんから。
「御領主様にお礼申し上げたい、と望む者がおります」
「いらん」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・困りましたわね。
「・・・・・・・・代わりに聞いておけ」
天の采配、龍の気まぐれ。
畏れ多くも、御領主様に配慮をいただいてしまいました。しかしながら、ソレを楽しむ気持ちがわいてしまったのも、誠の話でございます。
あたくしは、己が欲深さに恥じ入りつつ、皆に頷きました。5名とも、まっすぐに、あたくしを見据えているように見えます。
あたくしより頭一つ背が高いご領主様。その視線の向きは背中越しにも察することができますわ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたくしは、あえて御領主様に重なるように立ちました。
「「「「「ありがとうございました」」」」」
あらあら。
あたくしは、初めて知ることができましたわ。
無表情な御領主様が、こんな表情をなさることがおありなのですね。




