おかえりなさいませ

「諸君！ヘンリー少尉である。

貴様らの指揮官として命じる

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死ぬな」

Ｓｉｒ, ｙｅｓ, ｓｉｒ？

「では最先任下士官として代理指揮官を務めるサンダース軍曹である」

Ｓｉｒ, ｙｅｓ, ｓｉｒ！

「大尉殿の遺命に従い我々は降伏する」

Ｓｉｒ, ｙｅｓ, ｓｉｒ！！！！！！！！！！！！！！！

《「在日」米軍ジョーク/日本駐留経験がない兵士には意味が解らないらしい》

【太守領中央/太守府/王城内郭/正面玄関前/軍政部隊先頭】

「ご安心ください！大尉殿！！」

よく言った!!

やればできる娘マメシバ三尉。ニッコニッコ満面の笑顔。俺にはまるで天使に見える。今まで乙女チッククリーチャー扱いしていたが、

「愛があれば大丈夫！！！！！！！！！！」

これからは乙女チックサイコパスで決定。

君と出会って不幸（ふしあわせ）せでした。

「さあさあ手近な密室は何処ですか？」

おいよせやめろ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――と言うに言えない。

唇にエルフっ子の、剣士とは思えないほど柔らかく滑らかな肌が感じる。

これがエルフの恒常性維持機能か！

どれだけ外部から刺激（実践や訓練が生み出す手指への摩擦衝撃）を受けても、蓄積されない。肢体は健康な最良の状態にすぐに回復する。

ただ、冷たい手指がだんだんあったかくなっているような？

鼻呼吸は問題ない、が、もちろん、話がしにくい。骨伝導マイクで通信は出来るが、指揮官としてよろしくない。一人一人を完全にカバーする高密度部隊通信網が確立されてなお、小隊以下の指揮は音声伝達が中心なのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、まあ、気にするところが違うという批判は甘んじて受けよう。

というわけで、軍医マメシバ三尉、その職務をはたし、っておい。

マメシバ三尉は骨伝導イヤフォンマイクを外してみせた。

――――――――――これ見よがしに！！！！！！！！！！

命令を無視してはいない。

不幸にして聞こえなかったというわけか。わざわざ中止命令を持ってきた将官を泥酔させて潰したすきに、事変を起こしたどこかの佐官を彷彿とさせる。

・・・・・・・・・・・・・独断専行で戦争を起こすよりましか？独断暴走で恋愛を生じさせるのも相当だが？？？

よろしい。

黒旗団からの増援は期待できない。

「Ｈｅｌｐ！Ｈｅｌｐ ＭＥ！Ｂｒｏｔｈｅｒ！」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・元カノが盛んに地面を刺している。Ｍ-１４で、銃剣付き、筒先で。

ゴロゴロゴロゴロ。

ザシュ！！ザシュ！！！ザシュ！！！！！

おいおい、転がるなよ神父。

正面扉前は砂利で舗装されている。

銃剣が傷むじゃないか？

もう一度、言おう。

口が塞がれて言えないが。

黒旗団からの増援は期待できない。

マメシバ三尉は色恋沙汰を生成するのに夢中になってるし、元カノは躱すミノムシ（神父）を意地になって追いかけている。

・・・・・・・・・・・・元カノは負ければ負けるほど激高して努力と熱意と備品をつぎ込むタイプ。賭け事には向かないのだ。

戦争にも向かないよーな気がするが。

だが、元カノに言わせれば、戦闘は計画と予定に過ぎないから、だいじょーぶ♪

・・・・・・・・・・だとか。

戦争だの戦争だの、俺（自衛官）にはわからない世界だな。

さてどうする。

孤立無援の俺をエルフっ子は左腕と全身で抑えている。

背中で中世の防具が持つポテンシャルを実感。

革鎧というのは、かなり高い防刃能力を持つ。しかも軽くて動きやすい。軽いは薄いと言い換えてもいいだろう。

動きやすい、ということは柔軟性が高く体にフィットしているということだ。

なんと恐ろしいことか！！

エルフっ子のポテンシャルは命に関わる。

なにしろ普通に革鎧を付けたら、胸のせいで本人が圧死するくらいだ。ゆえにエルフっ子は特殊な注文で、胸の形に鎧を成形している。

この世界では珍しくはあるが、けっして特殊ではないらしい。

人間種の女性が戦場に立つことはまずない。だが、エルフや人獣など高い身体能力を持ち人間男性との比較優位から戦場に立つ女性はそれなりにいる。

それならたしかに、作り付けではない防具に需要があるわけだ。少ないとしても常に絶えない需要で、しかもソレを求めるのは高給取りの兵士が多い。

比較優位であるからこそ戦場に立ち、優位な分報酬が高いのは当たり前だが。

だから、帝国のエルフ絶滅政策が及んで日の浅いこの邦でも、エルフ用の防具の注文に応えられる武具職人は普通にいるわけだ。

俺はその、エルフっ子に背後から全身で締められている。

衆人環視の中で、だ。

エルフっ子の鎧に、熟練の職人が施したジャストフィットな部位形成と伸縮性。胸をカバーする正面は革をそれなりに厚く仕立て、水平方向に突き出した控えめに表現して、丘陵、の下部にあたる部分を薄くあつらえることで圧迫して固めないようにしているる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺の背中で、なにが起ころうか予想が出来そうなものだ。その予想は当たっている。

単純な、戦闘服ですらない陸上自衛隊の略式礼服を身にまとっているに過ぎない俺。プロテクターをつけていないことをこれほどまでに後悔した事はない。

当てられてもね？？

当てようとたくらんでもいない相手に当てられてもね？？？

テキトーに口説いてしまえばいいわけでもない相手に以下略！！！！！！！！！

そんな苦境が周囲に理解されることがないのは重々承知である。パワハラセクハラロリコン疑惑他いろいろ。

・・・・・・・・・・未遂だし、謝ればエルフっ子も許してくれるだろうか？

「謝ったら殺されますから注意してくださいね」

ｂｙマメシバ三尉。

・・・・・・・・・・・・中世こわい。

いやいやいや、たとえ殺されなくても収まるわけがない。エルフっ子がどうあっても世間が赦さん。

すなわち命の危機、社会的な、に晒されている俺。

「ですから密室に」

リアルに死ぬからヤメロ！！！！！！！！！！

うっかり手を出す自信がある？？？？？？？？？？

殴り倒されなかったら、シスターズの小さい二人にどう言い訳出来ないから！！！！！！！！！！

腹を斬らねばならないが怖いから、えーとえーと、三佐に介錯を頼まねばならん。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・背中に当たるエルフっ子のことから目を逸らす。

すると、左右からシスターズの小さい二人に取り縋られている現実が目に入るのだが。

右に魔女っ子、左にお嬢。

艶やかな金髪、クリーム色な白金髪。

二人の頭が、ぴょんぴょん、上がったり下がったり。

苦労してメイド長の様子を見ている小さい二人。

軍医（マメシバ三尉）が任務を放棄しているからな。

しかも、王城の構造図（占領開始前に元カノ率いる残党狩り部隊がこしらえたモノ）を検索中

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・趣味に走って自分を見失っているのか、新たな自分を発見したのか。

男女が居れば恋愛関係に結びつけるのは、世の常人の常。

過激な少女マンガよろしく、結論から始めさせようとしてるな。

まずはメイド長をなんとかしないと。結局はそこに舞い戻る。

メイド長が離れれば、覗き込む必要がなくなり小さい二人も離れて、俺を羽交い締めにするエルフっ子を二人が説得してくれるだろう。

――――――――――なんで俺が羽交い締めにされてるんだ？？？？？？？？？？

【太守領中央/太守府/王城内郭/正面玄関/青龍の騎士団周辺】

「仲良いのね」

僕は隣に立つバカ女、いや、バカ女を無視。再会を喜び合う青龍の貴族、メイド長を観察していた。参事会参事や使用人たちは微笑ましく眺めているだけだ。

いや、僕もそうだが、ほほえましい表情を創っているだけ、の者も少なくはあるまい。

――――――――――無理もない。

あの、何もかも手中に置いたまま、何もかも放り捨てている青龍の貴族。それがまるで、普通の人間のように、メイド長を抱きしめた。

つまりは、主と使用人のほほえましい再会。

・・・・・・・・・・・確かにありがちではある。

長年仕えた使用人奉公人と主は、互いの趣味嗜好まで知ろうとせずに知ってしまう。便利すぎるがゆえに、特定の使用人に身の回りを任せることはありがちで、そうと決めれば裏切られぬように主の側も気を遣う。

一族よりも重い関係を創ることがよくあるのだ。

僕はないがな。

青龍の貴族とメイド長。

慈しむようにメイド長を抱きしめ、周りを気にしながらも青龍の貴族の腕を受け入れる。

ただの使用人に対する振る舞いではない。

古くからの股肱の臣下？

身も心も手に入れた愛妾の一人？

僕は青龍の貴族とメイド長の出会い、とされる過程を、知っている。二人が過ごしたのは僅かに三日。出会ってすぐに、仕事を与えて走らせていた。

王城の旧奉公人達を集めさせつつ、青龍の部屋を設えさせ、参事会を移転する準備を進めさせ、城内資産接収も進めさせ、さらに

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありとあらゆる役目を言いつけて、全ての要になるメイド長を、合間合間を駆使して、愛人にでもした？

――――――――――有り得ない。

もしそんな動きがあれば、あの短期間ならば、同じ王城にいた僕の耳に入らぬ訳がない。

ならば、簡単なこと。

盗賊ギルドの頭目と同じ。最初から、おそらくは帝国を追い払う前から、メイド長も青龍の側だ。青龍の貴族、その直臣。

帝国を滅ぼすと決めたとき、いや、帝国の存在を知った時かもしれないが、青龍が大陸に送り込んだ尖兵の一人。

その中でも、いま彼女を抱きしめる青龍の貴族の、直接の臣下。

ならば、無事に役目を果たしたことを、主が自ら労うのは当然だ。

恩賞よりも、公然と労われる方が身命を賭した忠臣には、効く。特に、多かれ少なかれ陽の当たる場所にあこがれる陰働きの者達には。

そして、それをわざわざ僕らに明かすために、あからさまに皆の目の前で、メイド長を抱きしめて見せるということは

・・・・・・・・・・・・・・・・青龍の貴族は、僕たちに、いや、わかる者だけに伝えている。

――――――――――青龍に忠誠を誓う者は、まだまだいるぞ――――――――――

内通者がいる、それは隠してこそ意味がある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・というのが常識だったが、こんな使い方があるとはね。

手札を一枚晒すだけで、能のある者だけを見えない鎖で囲い込む。

盗賊ギルドのようなこの邦の有力者から、前太守の家政を半ば以上取り仕切っていたメイド長、魔女の側にいた奴隷のエルフまでが青龍の手先だった。

その反面、魔女自身や有力参事の愛娘たるお嬢様は、単に気に入られて娶られたに過ぎない。

いったい誰を信用できるというのか？

僕たちは、たとえ青龍に敵対しようとは思わなくても、常に頭においておく必要がある。

見回す範囲にいる人間が、青龍の人形である可能性を。

・・・・・・・・・・・・・少しでも能力があるモノは、皆、怪しい。僕自身も、疑われているだろうな。

「ん？どうしたのよ？」

「新議長は違います」

「あら？そぅ♪♪♪」

【太守領中央/太守府/王城内郭/正面玄関前/軍政部隊先頭】

すでに５分経過。

地元の皆さんの温かい視線に励まされ、孤立無援の包囲網（シスターズ・ポケット）を独力突破する、ことを試みる。俺が代わってメイド長を見ようと下を

「動いちゃイヤ！」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・魔女っ子からの嘆願。かなり、テンパってるな？

魔女っ子の砕けた口調は嬉しいので、なんとなく現状維持。

周囲の目が気になる小心者ですいません。

このドタバタがどうみえているやら。

「事情を知っている者には、閣下が押し倒されようとしている、と、見えますが」

そうかだからか。

恋する乙女の守護魔神、マメシバ三尉が煽るわけだ。マッチポンプでも構わない、結果から始まる恋もある。

やっぱりマメシバ三尉は少女コミック愛好者と見た。

見えているモノが真実ではない、と言ってやって！！！

「少女達に本懐を遂げさせん、とお考えなのでしょうな」

やろーってか、あのアマ。

第一その流れですと、遂げられるのは俺ですか？

恋愛至上主義狂信者に言葉は無効。

言っても聴かんが問答無用。

魔法翻訳すら通じない。

冷静にアルカイックスマイルしてないで、助けてください。俺は、坊さんを見た。軍政部隊人間関係調整担当に今任命。

【太守領中央/太守府/王城内郭/正面玄関/青龍の貴族の背中】

お・し・た・お・す

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・？

あたしはとっさに

――――――――――跳び退きそうになった。

まだダメ！！！！！

「――――――――――失礼」

青龍の僧侶が、一礼。

あたしたちに？

王城の使用人たちがざわめく

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたし、は、いつの間にか離れていた。

青龍の貴族から。

いつの間に？

動いた、ううん、動かされたのは、あたし？

青龍の貴族？

あの娘、妹分は呆然としている。

あたしが羞恥に気を取られた隙に、何が起きたの？？？？？？？？？？

青龍の貴族は、メイド長の肢体に軽く手を添えている。

【太守領中央/太守府/王城内郭/正面玄関前/軍政部隊先頭

俺がメイド長を立たせると、彼女は足元の感触を確かめた。

同僚を振り返るメイド長。

彼女の視線の先、並み居る彼ら彼女ら両サイドを従えるように、通路の真ん中に立つ執事長。

左側がメイドさんたち。右側が執事さんたち。左右の背後には、各種バリエーションが充実

・・・・・・・・・１２種類で左右６列。

最前列は、メイド長や執事長とほぼ同じデザインの制服。

１００名くらいか。

あとのは？

各々２～３０名。

計１５０相当。

（参事様方の使用人にございますわ）

メイド長が俺にしか聞こえない小声で囁いてくれる。

あーあれ、か。五つの主要な有力家系、その当主を王城に招いたんだったね、神父が。招いた、ってか、軟禁に近いか？

出入り自由なら、そこまでじゃないか。

今も俺たちの周りに、若い参事や参事会新議長、お嬢の父親がいる。使用人だか家臣団だかが、迎えに出て来たわけだ。

「お嬢様方、お帰りなさいませ」

執事長がシスターズに。

少し縮こまっている、Ｃｏｌｏｒｆｕｌに向き直るメイド長。嫌悪や好悪の気配はない。

「新しいお嬢様方、なんなりとお申し付けくださいませ」

メイド長が礼をしながら呼びかけた。。ＨＭＭＷＶから降りて不安そうだったＣｏｌｏｒｆｕｌ。少し安心したようだ。

個々に声をかけて、緊張がほぐれたところを確かめ終えて、メイド長はまた俺に向き直る。

両手を前に合わせて、流れるように美しい所作。いや、顔やスタイルもいいけどね？このメイド長さんの魅力は、仕草だと思うんだ。

シスターズのあどけなさ（エルフっ子の普段、戦闘中以外の、不器用さ）。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌのモデルのような立ち居振る舞い（不特定多数の前では、怯えた小動物的な可愛らしさ）。

そして、俺たち側

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わー見てるよ、元カノとマメシバ三尉。

ベンガル虎とチェシャ猫。

まあ、いいか。

元カノはまんま、肉食獣の迫力。

マメシバ三尉はいたずら妖精（グレムリン）だな。

そしてアムネスティガールズのシュリは、セックスアピール１００％。

そんな皆とは違う、メイド長。

うん、あれだな

――――――――――自衛官に近い魅力。

機能美、洗練されたプロフェッショナルの仕草だ。

長く後ろでまとめた髪が左側に垂れ下がる。

ピンク色じゃないよ？

ストロベリーブロンドだ。

相変わらず長袖ロング丈のメイド服。が、高級素材のしなやかさのせいでボディーラインを浮き立たせている。

胸に手を当てたシルバーグレイの老人。さりげなく友もなく自然に進み出る。つまりその老人、執事長が一礼。

「ご領主様。無事でようございました」

――――――――――カッコいい。

髪一筋の乱れなく、襟に一つの皺もなく、無駄に気負いを感じさせない無駄なき仕草。

――――――――――生まれ変わったら執事になりたい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今生ではニートで人生終えるしね。

外見だけは参考になるな。

綺麗に歳を食うって、やっぱり理想だよ。

こんな無職に、俺はなりたい。

うん、心の師匠判定。

などと考えているうちに。

「「「「お帰りなさいませ」」」」

両サイドに並ぶ皆さんが声を揃えた。最初から一礼状態だったのだが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・苦しくない？

皆を見回して、執事長が何事が合図を。メイドに執事たちが一斉に散る。そしてメイド長が俺の右側前にて一礼。

「お帰りなさいませ。ご領主様」

さっきまでのゴタゴタを、忘れるまでもなく、無かったように。

今、初めて俺、俺たちを迎えるように。

サラリーマンの基本スキル。

失敗を恐れるな。

過ちを繰り返すな。

それを追求するなどもってのほか。

みんなで忘れて無かった事に。

――――――――――メイド長とはよい酒がのめそうだ。