地球人襲来!
あーゴメンゴメン!ほら、わかるでしょ!ひと月で十ヶ所!マジ勘弁!あんたみたいな内地暮らしにゃわかんないでしょーざっけんじゃねーっての。あんたも前線に来るんだから覚悟・・・あ、ああ、聞いたの。風の噂。ウルサい!!重要なのは!・・・いや、ほら、そう!でー疲れてたのよ。そんなところでドヤ顔されたらさー、キレかけちゃって・・・まさか!撃ってないって!やめてよ、もう。チョーッと愛想がなかっただけ!それだけ!!あーわかってるわよ!!!何様でもない下っ端よアタシは!!!あんたはハートマンかっての!!・・・だから話すわよ。・・・でまあ、アタシ史上最大に愛想がない応対した場所だと、印象悪いじやない。そうよね。アタシたちの印象が悪いわよね。がんばれ!!アンタの任地。そう。あ、任務、しゅつどう!!!じゃね!!!!またね!!!!!
【王城正面広間/青龍一行先頭】
俺はものスゴく思い出したくない同期との会話を思い出した。
俺と違ってバリバリに防大の、任官が同じ年ってだけの、俺より戦闘向きで学のあるバカ。
先遣隊。通称「残党狩り」。
増強中隊規模で後方や進撃路周辺の都市や街を回る。帝国の勢力が残っていないか確かめ、投降させるか追い払う。独力対処が不可能なら本隊に連絡。
二度の会戦に敗れた帝国軍は、寸断されながらも兵の集中を図った。
そして『すぐに逆転する』という圧倒的なまでの自信からか焦土戦術をとらなかったのだ。
軍事参謀委員会は残念だったようだ。
焦土作戦をとってくれていれば退却速度は遅くなるから常に追撃圏内における。
しかも分散して小火力の集中で殲滅可能な規模になる。
最高なのは部隊を維持し続けるから捕捉が容易。
しかも現地調達を想定していないこちらの兵站には全く影響がない。
なかなか上手くいかないものである。
ともあれ、多くの地域が速やかに放棄され、先遣隊の作戦は不在確認に近い。
が、偶に抵抗にあうために油断も出来ない。
帝国は初めての敗走中に、遅滞戦闘の概念を学んだからだ。
なんちゅー戦闘民族。帰納能力の高すぎ!
先遣隊は、そんな連中を相手にする面倒な仕事だ。
旧知のバカは開戦以来連絡が無いと思ってた、先遣隊やってた、コレだった、ワケだ。
ナニしやがったんだ・・・あのアマ。
いやいやいや。好奇心は身を滅ぼす。
何の気なしに、例えば『照れ隠し』のために、目についたものを調べたら、みんなのトラウマを引き当ててしまうように。
たっだっいっまっ体・験・中!
いやいやいや。
予定手順にもどそう。
好奇心は封印!
手順を守れば言い訳できる。
免罪される訳ではないが。
【王城正面広間/青龍の貴族前】
わたくしはなぜか城の奉公人とご領主様さまの間。
立ち位置に釈然としません。
あの娘が右手なら、わたくしは左手側では。
どうしましょう。
そうこうしているうちに、ご領主様が身振りで示すと、背後から青龍の僧侶が進み出ました。
青龍の僧侶は、貴族とも騎士ともそれ以外とも違います。
元になった形はご領主様の衣装と同じかもしれませんが、ゆったりと布地をとり、首元と腰回りで留めています。
「はじめまして。わたしは国連軍事参謀委員会大陸暫定統治機構三等文民を務めております」
僧侶は話が長い。
いずこも同じですね。
呪文のような言葉を差し挟みながら『コヨウジョウケン』を伝えていく。
「奉公人は引き続き雇用します。本人が希望すれば辞めてもかまいません。辞める場合は手当金を後日支給します。当面の生活に困る者は別に扱います。早急に申し出てください」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・辞めるかどうかは勝手次第?辞めた奉公人に手当金?
なんですか?これ?
「この場に居られる方々は継続希望とみてよろしいですか?」
執事長とメイド長が頷いた。
疑問は残るが選択肢が無いのだ。
「では詳しい話はお二人に。質問や希望はお二人経由で申し出るようにしてください」
僧侶は奉公人皆を見回した。
なぜ見られているのか・・・かの人たちに怯えが走る。
沈黙が続いた。
「あの」
誰も訊かないからといって、わたくしが訊く理由も無いのだけれど。見栄とほんの少しの義務感、なにより負けられない。
・・・・・・・・・・・・・・・?
うん、きっと、市井の者たちとご領主さまをつなぐのが、わたくしの役割です。
とはいえ、わたくしにも自信は、あまり、ありません。
だから確認します。
「・・・奉公人に・・・同意を問われています・・・か?」
青龍の僧侶は頷く。
皆も気圧され同意するように頷く。
「この場にいない奉公人に雇用条件を伝えて意思確認、継続希望は明日中に申し出るよう伝えよ。明後日までに名簿を出せ」
ご領主さまが、わたくしの言葉を受けてくださる。申出と提出は私に、とばかりに青龍の僧侶が胸に手をあてます。
つい、と、その青龍の僧侶が振り返りました。
【王城正面広間/青龍一行先頭】
俺は坊さんに一任して見物。
いやー持つべきものは優秀な部下だね!
らくちんらくちん。
「閣下」
呼んでるぞ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?ん?んん?んんん?
視線が痛い。
俺か?俺か!やば!!
慌てて応える前に坊さんは頷いた。
何故?何事?何時?
【王城正面広間/青龍の貴族前】
わたくしたちに背を向ける青龍の僧侶。
「それは」
一瞬詰まりました。ご領主さまの視線が、もしかしたら、すこし不思議そう?
「承りました」
一礼。青龍の僧侶は慌てて向き直ります。
【王城正面広間/青龍一行先頭】
俺は坊さん改め係長の背中を痛ましく思った。
ついに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・係長、改、坊さん悟っちゃったか。
「帝国に仕えていた兵士、官吏、他」
と思ったらなんか言い始めた。
「その給与は労働債権と扱います。我々が帝国より接収した財貨から優先的に分配されます」
は?
「未払い分は、戦死、あるいは役務を離脱した、そう推測される月まで有効とします」
日本語でOK?
「死亡、死亡推定者の遺族は未払い給与と死亡補償の申請はお早めに」
確定申告?
「その中から生活困窮者、希望者は、新規に人を雇う場合に優先的に雇用してください」
執事長が、呆然としながら、頷いた。なんかざわめいているがそれどころじゃない。
それだよ!
労働債権の優先!
帝国を破産企業に見立て、俺たちの接収資産を回収債権とみなしたら、未払い賃金は優先される。
帝国まだあるけどね!
元気に戦闘中だけどね!
でも、俺たちが賠償のために債権を回収してると見立てることもできなくはない。
理屈は立つ。
その発想はなかった!
その手があったか!
脳内カーニバル!!!
GJ!坊主!
他人の資産を預かる人間(特に公務員)には二種類いる。
資産を盾にして舌も出さない奴。
資産を手練手管で活用してみせる奴。
前者は出世する。
市民が飢え死にしても、だ。
後者は逮捕されるかもしれない。
誰が救われても、だ・・・一歩間違うと政治家になるときもある。
係長は後者だな。
さぞ窓口の外と中で真反対の評価を受けたろうな~。
これで、穏便にぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー??????????????
【王城正面広間/青龍一行中央】
あたしは立ち尽くす。
「ありがとうございます」
あの娘は感激して顔も上げられない。
皆が続く。
妹分。
執事長。
メイド長。
執事にメイドに下男たち。
頭を垂れ、感極まっている。
有り得ない。
有り得ない。
ある訳がない。
もし、青龍の貴族の言葉でなければ信じられないだろう。
今も戦っている敵。
味方に犠牲を強いている敵。
憎むべき、倒すべき、倒し続けるべき敵。
その、兵士たちの遺族や家族・・・・・・・・・・・を保護する、ですって?
何の得になる?
・・・・・・・・・・なにも。
何も得にならない。
あえて言えば、領民の中のほんのひとつまみ、旧領主に連なっている者たちは味方になる、か?
形式的に跪いている参事たち。
御領主様、青龍の貴族、の慈悲と徳をほめそやしている。
どーでもいい少数派がなにやら施されても、参事や市民には『どーでもいい』のが本音だろうに。
敵の味方は敵だ。
敵の家族血縁友人知人は敵だろう。
敵は殺すもの。
敵は苦しめるもの。
敵は追いつめるもの。
確かに、青龍の貴族には無縁の感情かもしれない。
青龍の行動は、もっとこう、石のような、煉瓦のような、粘性のない無機質なもの。
では。
憎むべきを赦す徳?
殺すべきを救う慈悲?
そんなモノはしっくりしない。
憎しみ、慈しみ、敵意、好意、悪意、善意・・・ない、な。
ないない。
そう。
・・・・・・青龍には『自分』や『自分たち』が、ない、ような。
自らの利害を超越したところで、どこか他人事のように、殺し、救い、戦っている。
そんなかんじ。
あたしは我に返った。
自分が囚われている思いを笑ってしまう。
青龍が、そんなものである、いや、ないとして、それがなんなのか?
だけど。
青龍の貴族を見ると、あたしに賛成しているように見えた。
【王城正面広間/青龍の貴族前】
わたくしは思わず姿勢を正します。
「よろしい」
ご領主さまが後を引き取りました。不機嫌、そう?みなは気が付いていないみたい。
よし!
ご領主さまは騎士達に目配せ。
「帝国領主、騎士、兵士の私物は残っているか?・・・個々人区分けして梱包しておけ」
何故?戦利品なら種類別にまとめればいいのですが・・・訳が分かりません。
要確認、メモメモ!
「ただし日記、備忘録、記録に相当するものがあれば別に預かる」
何故?帳簿や証文ならわかりますが・・・そもそも残しておくべきものなのでしょうか?
要確認、メモメモ!!
皆も不思議そうですが、ご領主さまはお構いなし。
「太守府の資材を確認する・・・・・・コイツ(ヒドい)を手伝え」
参事達を一瞥。
「コイツ」とばかりに僧侶の後ろにいた青龍・・・の役人?を引き出した。何かぶつぶつ言っていますが、あれは気にするほどのことはなさそう。
一瞥するご領主さま。
参事と奉公人、皆が反射的に一礼。
参事会に連なる大商会、その人手と手腕をあっさりと押さえてしまわれる。
わたくし以外、それと気が付いていないみたいです。
ふふん。
でも・・・お役に立てるようになるには、わたくしでも相当にかかりそうです。
「荷降ろしの手伝いに十人ばかり」
傍らの騎士の肩を叩いた。つまり荷降ろしの指揮を執るのね。
「動け」
執事長とメイド長が奉公人たちに指示。
ご領主さまは皆に手を振り、歩き出します。
執事長とメイド長は目配せ。執事長がこの場で指示することにした様子。
メイド長がご主人様に付き従います。
あの娘も、ねえ様も、そして、わたくしも。
【王城上層階/中央回廊】
あたしたちは青龍の貴族、そして騎士長他二名の蒼備えについていく。
何を言われたわけでもないけれど、あの娘が青龍の貴族についていくからあたし、そして妹分とみんながついていく。
何も言われてはいないが、おおよその見当はつく。
本陣つくり。
軍が任地で必ずやるべきこと。
青龍はほかの作業も同時に進めるようだから、早く腰を据えないと始まった作業から報告や裁可待ちがたまってしまうだろう。
帝国領主(太守)の執務室は私室と隣接、つまりは後宮の一角にある。
すぐに執務にかかれるように。
すぐに執務を切り上げられるように。
どちらにせよ帝国貴族は合理的だったようだ。
帝国以前。
王国時代には王の執務室がなくなった。「王の間」と呼ばれる一室で行われる御前会議。月一度程度の場で閣老から報告を受けて裁可する。
王は執務をしなかった。だから執務室はなかった。
それだけだ。
さて青龍の貴族は?
あの娘の後に続きながら、あたしは考える。
事前に間取りを把握しているのは、最初にやって来たという一軍から伝えられているのだろう。
青龍の貴族は何も聞かず、地図も出さずに城内を進んだ。
両翼に蒼備えの騎士、後にあの娘たち、あたし、そして・・・。
青龍の貴族が立ち止まった。かけて前に回ったメイド長が扉を開ける。
『王乃間』
儀礼にすら使われなくなった部屋。城内内郭、上層。大きな窓から街と市外を一望に出来る。
毎日手入れされ、十年来利用された事が無い調度品。
かつての王が閣老から報告をうけた大テーブル。
窓を背にした玉座。
閣老たちの椅子。
意外。
青龍の貴族は窓に歩み寄った。カーテンを開く。メイド長が慌てて窓を開いたが無視。部屋を見回した。
「このテーブルはそのまま使うが、別に動かしやすい卓を4、寝台と寝具を4、いや5持ち込め。この階の厨房を利用可能にし茶器を用意。湯殿は夕方までに」
わかったか?というようにメイド長を見る。
「かしこまりました」
すぐに下がろうとするメイド長の腕を掴み、とっさに放す。
「ひゃ」
転びそうになった彼女を支えた。
抱いてるよね、アレ。
目招き。あたし?
「きゃ」
メイド長が渡された。あたしに。受け止めるけど、ナニやってんの。
「まだだ」
メイド長は慌ててかしこまり、傍らのメイドを目線で走らせた。
何故かあの娘たちが青龍の貴族の両脇につく。
青龍の貴族は怪訝そうな視線・・・フム、その趣味は無いみたいね。
妹分の父である参事が口を開いた。
【王乃間/戸口】
僕はずっと感心していた。
大先輩たる銀行家。
先の王国から続く旧家の当主にして参事会五人衆の一人。
帝国が滅ぶ日を迎えてなお、次の手を打ち終えている。
先見と度胸と実行力。
「畏れながら」
まだ結婚していない我が身がイタい。中途半端な妹しかいないしな・・・。
青龍は帝国より完全な『支配者』だ。
取り入ることができれば、豊かな豊かな太守領が『チンケな辺境』でしかない広大な世界にのし上がれる。
帝国が滅びる前、青龍が世界を手に入れる。
その過程こそが史上最大の商機だ。
「子供たちはそろそろ家で休ませたいのですが」
はぁ?
あーそう。
棄てるんだ。
末代まで続いても、今の一度しかない機会を。
ばっかじゃねぇの?うん。バカだったね。ジジイ。バカな親バカのバカな発言を黙って聞き流す。
わーざわーざ支配者に取り入る機会を捨てて、参事会のバランスが崩れないから良いけどさ。バカがバカなことするのはムカつくね。
僕の利益になってもね。
青龍も不思議そうにみてるよ。
無理強いする様子もないな。その筋じゃないか?
「わたし「わたくし」は残ります」
・・・なんて良い娘なんだ。僕は誓う。子供が産まれたらこの美談を毎晩聞かせる。目頭が熱くなるよ。
僕の、僕の家の利益にならなくても、称賛を惜しまない。
理性に従い。
家名を背負い。
少女のみで、愚かな親をふり捨てて、世界に挑まんとする麗しき姿。
商家に生まれた淑女は皆、すべからく彼女のようにあるべし!!
青龍の貴族はつぶやいた。
「・・・いいだろう」
夜伽決定!
チッ!やっぱソッチか!!駒がねーよ!駒が!!
・・・・・・まあ僕はケチな行商人とは格が違う。
他人の幸運を喜べないとな。
尻馬にのるか、のり損ねた反対派をあおるか。・・・赤目につく、ってのもアリか。
つらく当たったのはジジイ世代だしな。
おーそうだ!我が家だけが、この時に代替わりしたのは龍の加護に違いない。
いやいやいやいや、龍は帝国臭い、なら天か?いや、巫女と青龍は関係あるまい。
なら、青龍はさて、神々をどうあがめるのか?
お客様の望む姿に飾らないと。
「な、な、な」
愛娘の英断を受けた親父は赤くなったり蒼くなったり。バカを言い出されたら参事会そのものが潰れる。
我が家の危機だ。
余計な介入を防ぐ機を計る。
【王乃間/窓際】
俺はため息をかみ殺す。
子供の前だし。
事務手続が片づいたら、もともと魔法少女に話を聞くつもりだった。
ちんまいながら「家族同然」って子らが最後まで付き合ってくれるのが救いだよ。
衣食住ならどうにでも出来るが、メンタルは思いつかん。
1000km四方。
民生委員も児童相談員もいない。
行動力だけ無駄にあふれたお袋も叔父貴もいない。
どこの地域の議員でも必ず話が通せる三佐もいないから・・・やっぱ俺か。
経験も知識も無いってのに。
ムチャぶり過ぎるぜ。
だが、まずは仕事仕事・・・魔女っ子シスターズの話はその後だ。
早く〆て時間を作らないと。
まずは、微妙なお仕事を片付けよう。
【王乃間/中央】
あたし達をよそに、「ソウチョウ」と呼ばれている、おそらくは騎士長が号令。
「サトウ、歩哨。メディック」
騎士が一人部屋の扉に立つ。
もう一人が皆の前に。
「両脇の部屋は空です。軍政司令官閣下」
隣の隠し部屋から別な、あの娘たちを捕まえてみせた緑の騎士が現れた。騎士ではなく密偵かもしれない。貴族はそれが当たり前のように視線も向けない。
「自分は医師、こちらで言う薬法使いです」
メディックはそう名乗った。
『薬法使い』、ね。
青龍の薬方使いは騎士と同じ格好だが・・・面貌を外した。
瞳は黒い。青龍の薬方使いは魔法を使うのかどうか。
あたしたちの薬法使いも『魔法使い』の亜種ながら、魔法を使えず、瞳が紅いとは限らないけれど。
「大陸の民、とりわけ我らと過ごす機会が多い者たちへ警告します」
説明されたのは青龍の血にまつわる呪い。
異なる血の交わりを禁じた神々の意思。禁忌を犯すものは災厄そのモノとなり果てる。
疫病に侵され、呪いを振りまき、国一つを滅ぼしかねない厄疫を広める。
「よって当面、類似を含めて性行為を禁止します」
貴族が付け加える。
「兵等も承知しているが、違背があれば申し出よ。対処次第で厄災は最小限に抑えられる」
【王乃間/窓際】
俺は派兵オリエンテーションを思い出していた。
『いま人類は破滅の淵にあります』
と一席ぶったのは学者ではなく、医者でもなく、CDC(アメリカ疾病管理予防センター)の職員だった。
なんでそんなもんが日本、あるいは、日本列島、その近海にいたのかは知らない。
説明もなかった。
話しぶりからすると、パンデミックのスタート地点に突入するお仕事の方のようではあるが、説明もなかった。
だが、話自体は、俺たち素人でも予想がつくことだった。
いや、まあ、言われてみれば『そうだよなぁ~』というやつで『言われないうちに思いついたのか?』といわれると、思いつかなかったのだが。
俺は。
要はこういうことだ。
異世界転移・・・いつ始まって、いつ終わったのかな?(一般人)
資源不足・・・なにもかも、そこにある。(衆議院外務委員会委員)
戦争・・・国会日程と照らし合わせながら粛々と。(与党幹事長)
竜?魔法?・・・デカいね。スゴいね。(国連軍出向自衛官)
ドレもコレもとるに足らない。どうにでもなることばかり。
恐るべきもの。モノ。物。微小な生命、あるいは生命的な要素。
パンデミック。
系統から無縁な生態系の接触。
大気に混ざる、大地に蠢く、生きとし生けるもの全てに寄る因子。
征服戦争につきまとう(人類史において多数の人間が生態系を超える遠距離を移動するなど戦争がほとんどだ)、
『どんな敵より恐ろしい』
モノ。
ウェルズの火星人。
それが国連軍の、日本列島の末路かもしれない。
連合与党、議会、国際連合安全保障理事会は戦慄した。
WHO改組の決意を固めるほどに。
現在、大陸に渡った全ての人類は列島への帰還を許されていない。
大陸沿岸には「出島」と呼ばれる隔離地帯が設置。
広大な兵站拠点にありながら、その一角で賽の目に区切られた個別エリア。
出やすく入りにくい防疫要塞。
大陸渡航者が本土の人間と接触する場合、1ヶ月の完全隔離期間が定められている。
渡航者が本土に立ち入るには三ヶ月の隔離。
異世界転移から半年余り、開戦から三ヶ月。
隔離エリアだけで三ヶ月過ごせるほど不要な人間は今のところいない。
つまり、本土に帰還した人間はいない。
感染症の疑いがある場合、現地人/派遣人員問わずWHO防疫部隊に委ねられる。
・・・防疫部隊は火炎放射器と化学戦装備(対化学戦にあらず)を用意した『実戦経験豊富な』兵士、隔離戦闘服を着た『治療を主目的としない』医師団だ。
今のところ悪性な病原体は発見されていない。
ただし、あくまでも激症性のものについて、でありエイズのような長期潜伏型は見当もつかないが。
噂、というより公然の秘密だが、在日米軍の白人兵士が転移直後から大陸に潜入しているらしい。
異世界の社会環境、気候風土、地理地形などを把握するためだ。
それがわからないと戦争どころか交渉を呼びかけることすらできないので当たり前ではある。
つまり人類は異世界の生態系と半年以上接触している段階。
よって防疫体制は『機能している』と安全保障理事会は判断、現状維持とされていた。
だが引き続き、
「空気/飛沫感染に留意、血液感染への警戒重視」
と通達されている。
とそこまで思い出していると、メディックの話のは終わっていた。
集まった面々を視線だけ動かして見回す。
ファンタスティックに噛み砕いた説明を理解したのかしないのか。
状況次第では真面目にFAEを使われるんだがな。




