始業/In time
登場人物&設定
※必要のない方は読み飛ばしてください
※すでに描写されている範囲で簡単に記述します
※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします
一人称部分の視点変更時には一行目を【語る人間の居場所】とします。
次の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの特徴となる一人称を入れます。
以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。
(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)
【登場人物/三人称】
地球側呼称《神父》
現地側呼称《道化》
?歳/男性
:合衆国海兵隊少尉。国連軍軍政監察官。カトリック神父。解放の神学を奉じる。アフリカ系アメリカ人。
地球側呼称《坊さん/係長》
現地側呼称《僧侶》
?歳/男性
:国際連合出向中地方公務員。得度した僧侶。浄土真宗らしい。軍政司令部文官。
【ゲスト】
『ちぬーくさん』:CH-47輸送ヘリの各種バージョン一般。異世界の住民からは「飛竜」と認識されているが、外部スピーカーで呼びかける現場に居合わせた住民は「チヌークがしゃべっている」と解釈し「飛龍」と認識している。
『龍』:基本的に巨大爬虫類の外観を持ち、「炎を吐く」など特殊な能力を付け加えている異世界生物が「竜」。中でも人語を操り高い知性を持つといわれるモノを異世界では「龍」と呼んでいる。
人は奴隷にされたとき、奴隷頭になりたがる。
【太守領中央/太守府壁外門前/軍政・黒旗団混成戦闘部隊本部(前衛)】
かくして、まもなく、午前9時。
国際連合軍、勤務時間開始。
9時から17時まで。拘束時間が8時間。当たり前の、8時間労働。
まあ、文官は、だけどね。
特別職国家公務員は、労働者の権利が制限されているのだ。
勤務時間が終わったから、戦場から引き上げる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・出来たらいいな。
兵隊さんは月月火水木金金
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・非人道的なお仕事です。
もちろん、基本勤務は拘束8時間労働。
待機任務中も拘束時間とみなされ手当てがつくが。
給料増えなくていーよ。
時間が欲しい。
人生を換金するなんて、あり得ないよね。
現地のみなさんと対面中、あまり、時計を気にしちゃいけないんだが。
さておき始業まで
――――――――――あと、少し。
【太守領中央/太守府東街道/青龍の騎士団本陣/馬上/青龍の貴族の乗騎前/エルフっ子に抱かれて】
ご領主様は呆れた様子。
頬が心持ち動かれたので、間違いありません。
わたくしは、思わず睨んでしまいます
――――――――――お父様を。
一週間程の間を与えられながら、為すこともなく漫然と過ごす。農民達が街を囲むに任せて、手に負えなくなってから、ご領主様にすがる。
一触即発な農民たちと市民たち。
今日まで保ったのは、両方、ご領主様のお帰りを待っていたから
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何を、期待してるのかしら?
――――――――――なんてみっともないのかしら!!!!!!!!!!
このまま、暴動?鎮圧?皆殺し?
あの娘が悲しむじゃない!
だいたい、我が家は太守府が王都になる前からの老舗。
太守府は庭のようなモノ。
庭の前をカラスに荒らされて、見てるだけなんて軟弱な!!!!!!!!!!
ご領主様みたいに気が付く前に踏み潰す、なんて、期待はしませんけど。
でも、村人は五月雨式に集まった、のよね。なら、個々に話をつけて追い返しても良かったじゃない。こんなに大勢集まる前に、防げば良かったですのに。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、問題が起きてから、の方が、手柄とわかりやすいけれど。
目の前で山と積まれた荷物を、お片付け。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ううん、違うわ
――――――――――それは邪道。
わたくしなら、どうするかしら?
メイドが一人で苦労して片付けをしていたら。
別なメイドを呼び、終わったら二人をねぎらって、メイド頭に確認させるわね。
苦労するほどに、役目が滞っていたのは何故か。
普段からこまめに片付けを出来なかった、のかしら?
任された役目が能力を超えていた、のかしら?
不測の事で対処出来なかった、のかしら?
怠惰。
無能。
不運。
いずれにしても、メイド頭には暇をだすけれど。
怠惰を放置した無能。
無能を矯正しない怠惰。
不運を補強しない愚劣。
主人を煩わすなんて、有り得ない。
――――――――――わたくしが、ご領主様を煩わせるなんて、有り得ない。
見えないところでお好みを把握して、お見せするまでに整え終える。
それこそ、お仕えする、わたしの目指すところ。
あら?これは商いの基本かしら。
まあ、見えようが見えまいが、同じことよね。目立たなくても、ご領主様は見ていらっしゃる。例え隠しても、暴かれますわ。
さり気なく、お役にたち、暴かれるなんて
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいわ♪
――――――――――いえいえいえいえ。
そうじゃないわよ、はしたない・・・・狙うのは。
ご領主様は、何もおっしゃらない。
でも、意を汲む、わたくしを、きっと愛でていただける。
お父様が太守府を、さりげなく、守って見せれば
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わたくしも、いっぱい撫でていただけるわ。
あの娘よりいっぱい、責められる。
少しでも永く頑張れば、ご領主様もお悦び
――――――――――はともかく。
わたくしの実家も、わたくしはともかく、ご領主様の覚えが良くなりますのに。
――――――――――――――――――――――――――――――わたくしは大丈夫。
お役に立たなくても、ご領主様は手放したりなさらないし。それはそれとして、褒めてはいただきたいだけで。
つまり、その、わたくしは、ご領主様だけがお喜びになればいい。
とまでは割り切りません。
あの娘、ねえ様、あとはお父様。
わたくしの家が、ご領主様のお役に立てば、お父様にとっても良いことがあるわ。
きっと。
なのに、お父様ったら、何もされずに傍観したままなんて!
まったく
――――――――――――――――――――――――――――――へん、だわ。
お父様らしくないわ??
商いならば、わたくしごときに気遣われるような、雑魚じゃありませんのに。ここ半月位、どこかおかしいわ。
お身体、は大丈夫、よね。
何か、他の大事に気をとられていらっしゃる。
今も
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ご領主様を、睨んでるのは、なぜ?
【太守領中央/太守府壁外門前/軍政・黒旗団混成戦闘部隊本部(前衛)】
お、時間だ。
俺は時計を見る。
重要な事は、時間だ。
そう!
労働基準法にのっとった労働時間。
忙しいから時間外労働して
――――――――――――――――――――――――――――――有り得ない。
俺は犯罪者じゃない。
会社は仕事が忙しい。
だから、どうした。
雇用主、法人か私人か知らんが、俺たち被雇用者が、なんで貴様の都合などおもんばかる?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、もんである。
最大限好意的に返せば、大変だね頑張って、かな。
俺は頑張らないけどね。
別に協定を結ばない限り、一分一秒でも働いてはならない。
働かなくていい、ではない。
犯罪に荷担したくないなら、働いてはいけない。
それは善良な市民の義務。
崇高な使命。
大切な責任だ。
残業が認められるのは、予測し得ない業務の増加に対する一時的な措置、だけ。
今日は、明日は、明後日は忙しい、から、残業しろ?
予測出来てるからアウト!
もし勤め先に労働組合が無ければ、踊っていい。
協定がないから、まったくもって、残業は出来ない。
ハラショー!
残業が無くなったら、仕事が終わらない?
ちっちっちっ。
労働法の主旨はこうだ。
予測される業務に労働力が足りないならば、人を雇いなさい。
法は社会の為にある。
法が雇用を増やし、労働を減らし、我ら同胞の福利向上を目指す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・不思議なところがある?どこどこ??
もちろん、そんな事をしていたら、人件費コストがあがり、企業が成り立たない/競争に負ける――――――――――――――――――――――――――――――で?だから?
法の目的は、明快だ。
たかだか、私企業如きの都合など、考慮に値しない。
我らが同朋を、奴隷にしなくては維持できない企業?
おお!!
敵だ!!!
Public enemy!!!!
内憂死すべし!!!!!
諸君!祖国の敵がそこにいるぞ!!!断じて倒産させなくてはならない!!!!国民の崇高なる義務として!!!!!!
公正な条件で運営に足る利益を上げられない企業は、潰れなくてはならない。
そもそも設立するな。
それが資本主義なのだから。
それが嫌なら、共産主義国にでも行け。
破産も廃業も、労働組合も労働基準法もない、ノルマ強制と成果捏造!!!!!!!!!!
理想の為に犠牲上等!!!!!!!!!!
昇給もストライキもない!!!!!!!!!!
ブラック企業のパラダイス!!!!!!!!!!
起業家のみんな!!!!!!!!!!
イデオロギー的同志と握手!!!!!!!!!!
さて、正しい労働に思いをはせたところで、始業時間だ。
異世界に誇るホワイト法人、国際連合の力を御覧じろ。
御覧じろ。
ごろうじろ?
ごらんあれ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?
まだかな?
そろそろだよね?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9時じゃねーか!!!!!!!!!!
【太守領中央/太守府東街道/青龍の騎士団本陣/馬上/青龍の貴族の乗騎前】
あたしは父親をどやしつけにこうとする妹分を止めながら、青龍の貴族を見る。
(ねえ様!お父様ならお役にたてますわ!わたくしの将来、わたくしの子供たちの未来がかかっていると、わかっていただければ、ぜったい!!!!!!!!!!)
ぜったい、ダメ。
貴女のお父様、今、この邦で一番、畏れ知らずになってるから。
(ねえ様の子供にも関わりますのよ?)
あたし?
と・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・の、子供。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!
その、あの、あれ、あたし、たちの子供たちの為にも、今は、抑えなさい!!!!!!!!!!
【太守領中央/太守府壁外門前/軍政・黒旗団混成戦闘部隊本部(前衛)】
「Head down!Head down!Head banging!!ズガタカーイタカーイ?」
なんでHead bangingだ?
コンサートじゃねーぞ。
騒ぐ神父。
困る俺。
あれ~~~~~~~~~~9時5分だよ~~~~~~~~~~??????????
社会人は時間厳守。
時間を守らせるのは職場管理責任者の仕事。
チッ!俺かよ!!
出勤時間を守るように指導し、退勤時間になったら速やかに退出させる。例えドMが嫌がろーが泣こーが追い出す。
勤務時間中に終わるよう、任務量を調整するのも俺(管理職)の任務。
めんどくさー!!!!!!!!!!
辞職しても良いですかダメですかそうですか三佐。
五分前に仕事の準備に入る待機に入る。
五分前に退勤処理の待機に入る。
定時出勤定時退社、基本だよ基本。
初めての就労後3ヶ月以内なら、習得期間だから待機時間は大目にみてもいい。
うちの職場にそんなピュアな奴は
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『閣下』
お?
『9時から業務開始、ですよ』
おう?
『業務の下準備は、趣味ではなく、業務の一貫です』
あ!
『軍政執務室(太守府王城王の間)からヘリポートに出発するのが9時なら』
皆まで言うな。
勘違いしてた。
俺は、坊さんに、謝罪した。
・・・・・・・・・ていうか、ヘリ使うんだ?
そう。
業務に必要な、職場内で移動。それは当然業務である。趣味なわけがない。当たり前すぎるが、業務は業務の時間中に行わなくてはならない。
大きなお城のど真ん中。
そこが軍政部隊の職場。
そこが出勤場所ね。
皆が出勤し、王城中枢からヘリポート(に指定した王城内の前太守の竜発着場所)まで移動するのに何分かかるのか?
移動に10分、離陸に10分、かそこら。
「HAI!eye close!みんな目~閉じて~!センセ怒らないから正直になりなさい~ワシントンは小学生でCherry blossomをキメて」
正体不明の神父MCで、何分持つかな?
小学生がカクテルを飲むのはどうなのか?
・・・・・・・・・・シスターズはマネしちゃいけません。
そろそろ群集が顔を上げ始めて、ざわめきが。
さすがに不条理トークの限界か?
間に合わない???????
『今朝はヘリポート出勤です』
【太守領中央/太守府東街道/青龍の騎士団本陣/馬上/青龍の貴族の乗騎前】
あたしは直上から迫る音を聴き、妹分を外套に隠した。
青龍の貴族は最初から、あの娘を隠しているけれど、更に隠した。
青龍の貴族と、あの娘。
あたしと妹分。
青龍の公女、青龍の女将軍は、馬を飛び降りた。
馬の尻を叩き走り去らせる。
――――――――――轟音!!!!!!!!!!
叩きつけられる翼風。
土、草、小石が巻き上げられる。
地に伏していた群集は、自らの頭を抑え、地面にしがみつく。
ちぬーくさん、と、その仲間。
青龍の使役する飛龍。頭を掠めるかのような、低空に羽ばたきながらとどまる。
『全員、傾注!!!!!!!!!!』
殴りつけられるような翼風と翼音。轟音を切り裂く龍の声。上空から轟音を圧して皆の耳に突き刺さる。
『拾い見ろ』
一際甲高い音が全員を圧して、ちぬーくさんたちは空に舞い上がった。
バサバサと音をたて、風に舞う白い羽
――――――――――――――――――――――――――――――羽毛?ちぬーくさん、龍に、羽毛?
大隼、じゃなかったわよね????
ばさばさと舞い落ちる白い――――――――――――――――――――
布?
四角い
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・か、み?
やたらと白く、輝く、薄い、紙かしら?
が太守府城門まえ、群集の上を、くまなく覆い尽くして降り注いだ。
あたしは、うち、一枚を中空から摘み取る。
頭に触れるかと思わせる中空から、豆粒のような高みへ。
龍の威圧から解き放たれた群集。
皆が慌てて、白い紙を拾い集め始めた。
【太守領中央/太守府壁外門前/軍政・黒旗団混成戦闘部隊本部(前衛)】
俺は紙を視界に掠めさせた。
別に拾う事もない、のだが、胸元の魔女っ子が目で追っている。
中空の紙を掴み取って、見せた。
「あ、ありがとうございます
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本年度納税免除のお知らせ」
抱きかかえられたまま、慌てて礼を言う魔女っ子。
「あふぃやぁ」
おなじみな撫で撫で。髪が乱れるからか、もじもじしてるが。
「ご領主様」
お嬢が抱きついてきた。俺を見上げ頭を突き出した
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、うん。
俺は前線にはあるまじき事に、魔女っ子とお嬢、二人を同時に撫でるという謎な状況。
あーあるある。
うちの実家の猫がね?
同時に撫でないと爪をたててくるんだ。
まあ、シスターズは
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、はい。
【太守領中央/太守府東街道/青龍の騎士団本陣/馬上/青龍の貴族の乗騎前】
違うわよ!!!!!!!!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも、言ってあげない。
あたしは青龍の貴族に、髪を梳かれるに任せていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・恥ずかしい、けど、気持ちいい。
決して、おねだりしたわけじゃ、ないのに。
ただ、なぜか、あたしが側に行くと、青龍の貴族は、あの娘と妹分に頷いた。
二人は訳知り顔で、少し、離れる、と、あたしを背中から押した!!!!!!!!!!
――――――――――だから、抱きしめて、もらう形になったのだけど。
「~~~~~~~~~~ぐるるるるる!」
青龍の女将軍が、青龍の貴族に背中をあわせて威嚇してくる。青龍の騎士二人だけでは、警戒に足りないと思っているのだろう。手が離せないから、吠えて威嚇。
だから、邪魔が入る前に、愉しませてもらうわ。
でも、てれるから、事の顛末を訊いてみた。
「予定通りなの?」
!!!!!
あたしが顔をあげたら、予定外に青龍の貴族が、近かった。
「ある意味でな」
とっさに、手に力を込めながら、顔を逸らしてしまう。
「命じていたんでしょう?」
「いや」
・・・・・・・・・・・・・・・え?
ちぬーくさん達を呼び、事前に何万枚もの布告文を筆写して、群集が貴男に注目すると同時に、開始。
不意をつき、全員を同時に威圧して混乱を封じる。
全員に告文をバラまき、皆が、一生懸命、手元の告文だけを読んで理解しようとしている。
群集は個々に答えを、全員が同時に、手に入れた。
もう、誰かと争ったりはしない。
それどころじゃないほど夢中に、告文を読んでいる。
まあ、自分たちの今年一年がかかっている、もしかしたら村の存亡すらかかっているから当たり前ね。
これだけの紙を調達して、これだけの枚数に書かせるのに、どれだけの時間がかかるのかしら。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それが、貴男の仕掛けじゃない、の?
あたしはとっさに振り向き見上げ、彼の唇が見えて、固まってしまう。
「問題を把握出来る時間があったのだから、対処出来るに決まっている」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「俺が何も知らなくとも、部下は太守府に帰還していた」
・・・・・・・・・・・・だから、か。
青龍の貴族が南部の農村を始末している間。
何日も前、先に帰還していた、青龍の部下たち。
青龍の騎士長や、青龍の僧侶、青龍の役人。
太守府にいたかれらが、何が起きているか気がつかないはずがない。気がついて調べないはずがなく、調べて把握できないなんてありえない。
だ・か・ら。
青龍の貴族が命じる必要はない。
対処の準備が整っていない、はずがない。
今朝まで対処しなかったのは、青龍の貴族を待っていたからだろう。この時この場に、青龍の貴族が、立ち会う必要があった。
だから、青龍の騎士団は、準備を整えて待っていた。
青龍の貴族、その帰還を。
準備の終わっている仕掛けをまわして、対処を終わらせるために。
わざわざ、青龍の貴族に、報告するわけがない。
彼はただ帰ってくればいいのだから。
対処できないならともかく、たやすく片付くことに、主を煩わせるなんて考えない。
青龍の貴族は、臣下を知っている。
青龍の騎士団は、主君を知っている。
だから、連絡する必要なんか、ない。確かめる必要も、ない。
あたしは、思わず脱力してしまった。
「「ずるいです!!ねえ様ばっかり」」
違うわよ!
胸元に顔を埋めたのは、その、偶然よ!!!
「なら離れなさいよ!!!!それはあたしの男だ!!!!!!!」
もう周りが見えなくなっている、青龍の女将軍。
まあ、もう安全ではあるけれど。
・・・・・・・・・・・・・あたしは、おびえることにして、顔をもっと埋めた。
心音だけが聞こえ、ざわめきが遠くなる。
――――――――――バカな――――――――――――――――――――
―――――――――――――よめる―――――――――――――――――
―――――――――――――――読めるぞ――――――――――――――
――――――――――――――おまえもか――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――どうなってるんだ?




