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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第一章「進駐軍/精神年齢十二歳」

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13/1003

あなたのご子息は我々が殺害いたしました。

戦死は意義のある死でなくてはいけません。


ご遺族はその物語によって精神を支えるからです。

社会福祉の一貫とお考えください。


戦死は綺麗な死でなくてはいけません。


無残な最後は交戦対象への感情的反発を生み出し国際連合平和創造活動の遂行を阻害するからです。

国際貢献の一貫とお考えください。


指揮官/同輩のコメントを求めますが、告知自体は専門部署にて行います。

しかしながら、告知内容の中心となる戦死状況の作成は指揮官の任務です。

物語にリアリティを与える為に、普段の戦死者の人間性を把握している必要があるからです。


間違っても、仮に事実であっても「何も成果のない無意味な最期でした」などと表現してはいけません。


「敵前逃亡の挙げ句ゴーレムの破片に当たって死亡」


だとしても、です。

戦場で死ねばすなわち戦死。

そう考えましょう。


無論、告知時には専門部署にて校正いたします。



最初に該当者の最期を考えます。

授勲対象とならない程度に英雄的であり、ご遺族が感情を外部に向けないように自己犠牲的である必要があります。

上記条件を満たせば実話でもかまいません。


テンプレートはファイル名+閲覧日時で確認出来ます。


次に現地住民、捕虜、交戦対象との友好的、あるいは敵味方の間にある敬意あるエピソードを作成します。

これは個々人のもの以外に部隊単位でもかまいません。

戦死者の名前を一文以上いれてください。


テンプレートはファイル名+閲覧日時で確認出来ます。


《国際連合軍事参謀委員会作成/士官用広報ファイル》




【王城正面広間/青龍一行先頭】


俺は言葉も出ない。二階?いや三~四階まで吹き抜けのホール。艶のある白亜の石で造られた柱と壁。ステンドグラスに近い硝子細工の窓から陽の光をふんだんに取り入れ、流麗な彫刻が歓待するようにホールを囲む。


その中央奥。竜をかたどった意匠、旗・・・か?帝国旗とは違うが、見覚えがある。確か、あれは・・・。

俺の視線に執事の一人が反応。


「ご領・・・先の・・・その・・・」


元々の主人を敬称で呼ぶかためらっているのがまるわかり。くだらない。イラッと来た。


「先領主の家紋旗です。(ご主人様は気にしませんから「先のご領主様」とお呼びください)」

と魔法少女。


早速、後悔。

命がかかってりゃ、そうだよな。いや、殺さないけど。

怖いし。わからないもんな。教えないし。


露骨にへりくだらないだけ、マシなんだ。


「!」

小声でフォローしてくれた魔法少女の頭を撫でた。頬を染めている。微笑ましい構図だろう。

が、なんか照れる。なぜだ。


「見ろ」

ぶっきらぼうに。照れ隠しだ。言わせんなよ。無言でPCのプロジェクターモード起動。

1m立方サイズの3Dを浮かべた。サムネイルを流し一つ選んだ。




【王城正面広間/青龍の貴族右手】


わたしをのみこむような、鮮明な幻。


魔法。

もう一度、ご主人様の黒い瞳を見た。青龍は黒い瞳が魔法使いの証なのだろうか?なら、付き従う僧侶も?

道化や騎士は目元を隠しているけれど。


ご主人様が執事長さんを促す。どよめいていた広間中の皆が止まった。意味が分かったのだ。

浮かび上がるソレ。


肉質の物体。

鱗のような物。

包み込んだ布からはみ出た首。

竜の首。


帝国の、飛竜の、クビ。



「・・・ご領主様の紋章だ・・・」つぶやき。皆がハッとして竜を包む布を見た。蒼白になる。ホール奥の家紋旗と同じ。


竜が殺される・・・有り得ない。

恐怖と権力、帝国の象徴たる竜が討たれる・・・有り得ない。

青龍の来訪を得てなお夢物語のようだった。

「有り得ない」こと。

ほんの一欠片の事実が、居並ぶ皆の世界を壊した。




【王城正面広間/青龍の貴族背後】


あたしは皮肉な笑みを浮かべていただろう。気がつく奴はいやしない。いてもかまいやしない。

以前と以後、見たものと見ていないもの。

それは『在る』世界の違い。



晩春、あたしは帝国の敗報と二次動員を聞いた。予感を胸に手間暇かけて、心配だったが出来るだけ手を打ち、あの娘を残して南へ。

・・・・・・あの娘のために打った手は足りなかった。

腹立たしいことに。



そしてはるか南、帝国新領土中央へ。


策を練り、手配りをして、安全確実な物見御行。

そして前線に近づいた。


正確に言えば瞬く間に下がり続ける前線に飲み込まれたのだが。



あたしが生き残れたのは幸運。理解を超えた異世界の戦場。

術があろうハズがない。

策が役立つハズがない。



竜が砕かれ、墜とされ、焼かれた。

ゴーレムが崩され、結界が穿たれ、魔法使いが悶絶する。

鋼の嵐に騎馬隊が薙はらわれ、爆炎で槍隊が砕かれ、轟音を上げる土竜に弓兵が挽き潰される。


城壁が割られ、大地が挽き剥がされる。森が、川が、山が燃えあがる。

喚声も雄叫びもなく、悲鳴と沈黙。


遥かな高みから叩きつけられる轟音と命令。


「剣を棄てれば奴隷として生きる事を許す」

(武器をすて抵抗せず捕虜になれば生命を保証します)


「帝国兵は跪け。それ以外は去れ。従わざるは死を」

(戦闘員は降伏、非戦闘員は退去してください。さもないと安全は保証できません)


貴族、騎士としての矜持である剣、武器。

罪人として剥奪される事はある。

戦場で奪われることはある。

虜となり飾剣一つになることはあるだろう。


自ら、すべて棄てろと強いられる事はない。



青龍以前は。



従属を強いる声は威圧感もなく淡々と響く。


それは史上初。

騎士、貴族という概念への奴隷宣告。


多くが剣を握りしめて挽き潰された。

余力のある者は必死に逃げ出して討たれた。

より多くの者が死者よりも暗い目で剣を差し出した。


青龍と帝国の戦い。

いや、青龍の赤竜狩り。

青龍は犠牲の千倍万倍の戦果を上げて殺し尽くし焼き尽くし・・・奪わなかった。


街も村も無視して追い続ける。帝国兵が籠もれば街ごと破壊する。突き出された帝国兵には奴隷か死か。

回る車輪のように帝国軍を逐い潰した。



帝国を滅ぼす為「だけ」にやってきたように。



敗亡の情景。

短い人生で片手の指ほど眺めた変わり映えのない風景。


十年前。

今は太守領と呼ばれる土地は王国だった。

ここは今でも王城と呼ばれているが、もともとの王家が築いた城だ。


150年以上続いたくに。

一夜で蹂躙されたくに。

あたしたちのものだった、くに。


帝国の侵攻。

鎧袖一触。

王家も貴族も騎士も、竜と魔法に吹き消された。


しかし、今回のソレはチガウ。


赤龍たる帝国を駆逐する青龍。

ソレは万倍も億倍も凄まじく、乗じてすまぬほど「異質」で圧倒的だった。




【王城正面広間/青龍の貴族前】


あたくしが進み出るとお嬢様が駆け寄り、支えてくださいます。


御領主様は淡々と尋ねられます。


「同じ旗だな?」

皆が頷きました。


「お尋ねしてよろしいでしょうか」

責任上あたくしは尋ねなければなりません。

ご領主様はただ見つめ、傍らの魔法使い様が頷かれます。


「先のご領主様とその家臣、その騎士の皆さんは、どうなりましたでしょうか」

執事長さんが補足してくださいます。

「今は城に居ない奉公人、街のものの中には彼等と親しかった者も・・・」

言葉もその身も乗り出して、あたくしだけを前に出すわけにはいかないという配慮。



「控えろ馬鹿者!!!」

「ご領主様!そのような不届き者は一握りです!!!」

「先の領主は街の者達との交際を好みませんでしたから」


やはりといいますか、参事の方々が一斉にお叱り。

『今のご領主様』は視線も動かさず。

魔法使い様も肩に置かれたご領主様の手にご自分の手を添えて沈黙しておられます。


鉱石のように静謐な瞳のご領主様。

悲しみを浮かべる瞳は魔法使い様。




【王城正面広間/青龍一行先頭】


俺は頭を抱えた。

いや、実際にはしないよ。

こいつらウザい。

だが、それ以上に理解できる。


同じ小市民だからね。


軍政地の資料は読んでいる。

もともと帝国は、この土地から見て、外来の侵略者。とはいえ、俺たちと違い年季が入っている。

そりゃ千人からの人間が長年同じ街にいりゃ仲良くもなるわ。

例え支配と従属の関係でも。

仲良しがどうなったか聞きたいよね。

そりゃ人情だ。


だが、ソレで済まない立場もある。


『あなたたちの敵と仲良しな奴がいっぱいいます』

なんて占領軍に言える訳がない。


こちらも予想してない訳じゃないし、わざわざ上に報告しないが、改めて警戒はする。

それは、軋轢や不測の事態につながる。

誰でも予想がつく。

都市に基盤を持ち、自分を含めた市民を守る立場の有力者達が必死に否定する訳だ。


どっちももっとも。


だから一番首を突っ込みたくない話だ。

だから真っ先に魔法少女を制した。

この子は袋小路に貧乏籤を引くタイプ。

フラグ積み過ぎ。

なら誰にふるか。

当事者以外。

俺たち、奉公人、参事以外・・・。


あれ?なにゆえ?あ~、まあ、他にいない、俺が相方ならなんとか、なるか?




【王城正面広間/青龍の貴族前】


あたくしの傍ら。

すっと前に出る、お嬢様。

有力参事の愛娘である方だけに、参事の方々も唖然と沈黙。

お父様だけは蒼白で震えておられますが、動かない分別はさすがと申しましょうか。

とはいえ、落ち着いて微動だにしないように見えても、躰がカチカチのような。


「どうしたらいいかわからない、か?」


問いかけ。

御領主様に見つめられたお嬢様は頷かれた。


「わからない時は、正直になることだ」


お嬢様は息を呑みました。まるで・・・新しく奉公するメイドが面接を受けるみたい。堅くとも、まっすぐに相手を見つめる視線は好印象です。

そして正直に問いかけをなさいます。


「教えていただければ、皆が安心できましょう。先の領主がどうなったか」


あたくしは息をのみ、気がつかなかった己を恥じます。

同じ答えになるが、問が異なれば誰も傷つきません。


御領主様は静かに微笑まれました。有望な新人を見つけ出したマイスターのように。




【王城正面広間/青龍の貴族右手】


わたしが知っていたのは、お父さんの残してくれた地図のおかげ。

地図を毎日眺めていたから。


船乗り以外は港町の名前など知らない。

だからご領主様の語られた地名が判るのは限られた。

居合わせた参事と、何でも知っているねえ様くらいだろうか。


青龍は記録好きらしい。ご主人様は戦いの記録をかいつまんで読んだ。


2ヶ月ほど前の日付。

先の領主の家紋旗を掲げた船団十二隻のこと。

大きな港の沖で全て沈められたこと。

海に投げ出された者達に「バクライ」が落とされたこと。

その数日後に、近くの港町が集まっていた帝国兵とともに、街ごと砕かれたこと。

「シャシン」の竜は廃墟を検分した青龍の記録役がサツエイしたこと。

竜は雲の高さから撃ち落とされた残骸で、竜騎士の領主が生き残ることはないこと。

街に、この城にいた兵士は、運が良ければ片手の指の数ほど、生きているかもしれないこと。




【王城正面広間/青龍一行先頭】



俺なりに覚悟していた、戦場に行くんだから。ただ、この発想はなかった。

泣き出すものがいないようで、一息つけた。よかった、ホントに。


覚悟はしていたんだ。


「ご子息は亡くなりました」


とまあ、遺族に伝える機会もあるだろうと。戦死した友人知人はいないが、一味違う、ろくでもない未来予測図。

士官用マニュアルもあるし、熟読した。

だが、しかし、コレはないわ~。


敵の遺族、友人、知人、同僚に


「あなたがご存知の○○さんは我々が殺しました」


と伝える羽目になるとは・・・。


マニュアルはない。作成希望!

仕方ないから、事実だけを淡々と。


勝ち誇ってると思われたら最低ヤローになってしまう。


殺し方もなぁ

・・・・・・・・・・戦闘機のバルカンで帆船を掃射撃沈。

兵士船員たちが船から放り出されたところで、対潜哨戒機が爆雷投下。


シメて5分?

爆雷って、近くの海岸や港に泳ぎ着かないように、だろうね。

一発の水圧で数百人が死んだかな。

潜水艦無しの世界で余ってるからね。

爆雷。

戦術的にまったく正しい。


・・・ガチンコ漁だよ発想が。


『英雄的最後』とはとても・・・いや、ドラマはあったかもしれないが、敵、まあ我々、にまみえる前に溺死、じゃあね。

そもそもが国連軍事参謀委員会の作戦通り。


偵察機が船で港に集まる帝国兵をキャッチ。

観察し、ある程度まとまるのを待って、海上封鎖。

威嚇に対抗して街に籠もり防御を固め始めた彼等は、地下陣地を作る知識などなく、ただひたすら壁を高くした。

その遙か高みから空爆砲撃で粉々にされるとは思わなかっただろう。

竜十数頭と2万余りの兵士が戦果。

国連軍犠牲ゼロ。

数不明の住人は員数外。


・・・?あれ?正直に話しちゃったけど、コレって旧敵領で孤立してる、俺の死亡フラグじやね?

興味本位で地雷踏んだ!

落ち着いて落ち着いて、俺。


ゆっくり・・・えーと、どうしよう。




【王城正面広間/青龍の貴族前】


わたくしは、少し、いえ、かなり誇らしかった気持ちに蓋をします。

見ず知らずのどなたかが亡くなられたからと言って、何を感じるわけではないけれど。周りにそれを悲しんでいる人がいるのなら、傷つけたくはありません。


ご領主さまは『終わり』とばかりに口を閉ざします。


いつ、どこで、だれが、どのように、青龍に殺されたのか。

幾千の最後を淡々と。


『聞かれたから答えた』それだけなのでしょうね。


決して軽んじている様子はないのですが、『ただそれだけ』という印象。

わたくしたちとは、異なる感じ方?それとも、あまりわたくしとかわらない?


こういうところは間違えてしまうと大変なことになります。


よく覚えておかないと。




【王城正面広間/青龍の貴族右手】


わたしは、あまり良い関係とは言えなかったけれど、けっして意地悪な人ばかりでもなかった帝国の騎士さんたちのことを思い出した。

肩にあるご主人様の手を放したら泣いてしまうかもしれない。


「領主の家族は?」


沈黙から一転、唐突にご主人が質す。先の、とは言わないが誰も誤解しなかった。


「ひと月と十日ほど前に城をお出になられました」


執事長の言葉を若い参事が補足した。


「帝国貴族の家族と家臣、奴隷が西の山地へ。以後半月程で主を失った役人や残された兵士の家族はバラバラに逃げ散りました・・・その、先に青龍の皆様がいらっしゃった時は・・・」



わたしは1ヶ月前を思い出した。



青龍の騎士団来襲。

遙か高みを竜が行き過ぎた日の夜。

轟音とともに市門が砕かれた。

竜が城に降り立ち、暗闇の中を松明も無しに騎士が城に向かう。

市民は怯えて閉じこもり、市壁の衛士は逃げ散り、城内の奉公人(執事長とメイド長だけしかいなかった)が捕らえられた。


翌昼。


わたしは慌てて駆け付けたのだけど、『ねえ様が帰るまでおとなしくしてなさいっていったでしょ!!!!』と凄く怒られた、後で。


隊伍を組み城内から引き揚げる青龍の騎士団に参事が対面。

対面というより勝手に騎士に近づいた。

有力参事五人衆とは違う中堅の参事は、独断だったのか示唆を受けたのか。

手勢と市民を使って「彼等」を狩り集め、突き出した。

彼ら、というより、ソレ、という感じで一群の人々を見る青龍の騎士団長、面貌を取らなかった。



貴族か?

いいえ。

その家族?

いえいえ。

騎士か?

ではございません。

では何か?

帝国に仕えていた者達の家族です。


わたしは付け加えた。

「兵卒や下役、その家族に過ぎません」

参事に睨まれた。

なにか言い募ろうとする参事を青龍の騎士が遮った。

もともと有りそうもない興味がさらになくなった仕草。



うせろ。



参事は青くなり卒倒しかけた。

騎士団はそのまま市外に向かう。

わたしは最後に声をかけた。


わたしたち、この土地は領主を失いました。どうしたら良いですか。


騎士は振り向いた。


好きにしろ・

・・・・・・・・・1ヶ月後に軍政官が着く。代表者を出せ。


そのまま騎士団は去って行った。

騎士達は装具を外す様子もなく夜から朝まで城中を探し回り、執事長とメイド長は簡単な質問を受けただけで、ほったらかしだったらしい。

彼等は領主を探し、邪魔な騎士を警戒していた。

それ以外に関心がなかった。

だが突き出されかけた人達。

太守府の下働き、兵士はいなかったけれどその家族達。彼等は街を逃げ出していった。

城の奉公人も下働きを中心に半分くらいしか残らなかった。



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