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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第三章「掃討戦/文化大虐殺」

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129/1003

せいぎのみかたになったんだ/Dream come true!

【用語】

※今回の用語は物語に取り込んではおりますが、あなたや私が生きている、現実世界の史実です。


『9月30日事件』

:よくある経緯で起こった、よくある大虐殺を含む事件で、その時は虐殺した側が勝った。「共産主義者ではない」と証明できなかった者。「共産中国と関係がない」と証明できなかった華僑。その他が殺され続けた。

犠牲者数は数十万から数百万と諸説あり。

ここまでテンプレ通り。

特徴的なところは一つ。

一般的に虐殺事件の後、


1、「この恨みを忘れてはならない」

と勝利した被害者側が記念碑を建てる。

2、「そのような証拠は確認されていない」

と勝利した加害者側が隠蔽する。

3、「そんなこともあった気がする」

地域的によくあるために風化する。


・・・・・・・・・・普通はこの三類型をたどる。

のだが、


4、「いや~それほどでも」

と勝利した側が自慢する、という経緯をたどったレアケース。

加害者たちは、今日も元気です。そろそろ高齢故に体が利かなくなっていますが、平和に豊かに長生きしたから仕方がないね。

で、日々


「いや、お前たちぐらいの歳だったから見つけるのが大変だったよ」

孫たちに戦果(殺した数)をやや誇張して自慢。

(またおじいちゃんの自慢話が始まった、と飽きられている模様)


「いや、皆の心を一つに合わせたからこそですよ」

TVのトークショーで互いの戦果(殺した数)を譲り合い。

(・・・・・・・犠牲者数が一定しないわけだ)


「いや、その発想はなかった!」

虐殺の過程(誰をどれだけどのように)を歴史映画にしましょう、と海外の映画監督に提案されて膝を打つ。

(公開されました)


なお、「仲間外れは正義に反する」というわけで、その時に親を殺された遺族を製作スタッフに誘っている。

親の罪を子に問うなどという前世紀的な発想とは縁のない人々なのだ。




『副長~~~~~~』

「辛いかね?正確に報告しなさい」

『はい!!!!!!辛いです!苦しいです!!これ以上耐えられません!!!』

「よし、我慢だ」

『サ~~!イェッサ~~~!!え~~~~~ん』



魔法使いは空を飛ぶ。箒を使って空を飛ぶ。なぜに箒か知らないが。


それはいつしか解るだろう。

百年、千年十万年。たかが時間の問題に過ぎない。


今、判っていることは、一つ。


異世界に置いてさえ、魔法使いが箒にまたがり空を飛ぶ。

それだけだ。



「三千」

『寒いです~』


「四千」

『風が風が!』


「五千」

『そそ、そろそろ』


「六千」

『い、いひがはぁはぁ』


「七千」

『くくくクロふふフくくく』


「八、ロスト」

「回収開始」


当然、細かい指示はいらない。

箒隊、陸海空自衛隊、日本列島にはいない在日米軍。皆が所定の手順に入る。


随伴機から空挺兵が四人飛び降りた。一組目二人が落下中の魔女を掴んで内一人に固定。もう一人がバックアップ役である二組目の二人と共にサポートに入る。


泡を吹いている魔女の気道を確保し、地上の治癒魔法使いが見やすいようにヘッドセットカメラを向ける。魔法の箒で空を飛ぶ本隊が三千m付近で、空挺兵から失神している魔女を受け止め減速開始。二千m付近でヘリが失神した魔女を収容。

同乗の医療チームが与圧ケースに彼女を放り込む。



「よし」


通称、黒副。黒い副長。

異世界に存在しない褐色の肌からついた通称。黒旗団副団長にして、国際連合軍独立教導旅団<UNMC>副長。

同格同職同階級にある白い魔法使いローブのエルフ。彼と区別するために、団員たちが呼び名を分けた。


団員たちとは、異世界人、異世界異種族(エルフ/ドワーフ/獣人他)、地球人(ASEAN諸国軍部隊)のこと。


白い副長、ことエルフの同輩は別任務。

現地、異世界を知り尽くした彼にしか出来ない。捕虜をレストアするときに使う、カバーストーリー作成。異世界人の魔法使いに刷り込むのだから、異世界人にしか作れない。


(中でも彼は逸材だ)

同僚を評する、のは、はばかりがあるので決して口にはしない。


それを束ねるのは、いささか規格外の自衛官。生粋の日本人なのに、老人がどこか懐かしさを感じる豪傑。まだ若い女性だが、よい笑顔をする。



老人は、記憶をたどる。



幼い日。独立戦争の英雄たる父を助けた、異国の英雄たち。

あの笑顔。

9月30日に、僅かに百万と恐縮する将校たちに「よくやった」と讃えた少将。

その笑顔。


日本出身の英雄たちと、似ていると思うのは不思議ではない。だが、生粋のジャワ人たる彼の人と、同じ表情をするのは、魂の問題なのだろ。


大統領になる前の兵を直卒していた将軍。

その眼差し。

皆が誓った。


次は一千万人を!!!!!!!!!!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・インドネシアの老人はパソコンを閉じた。

懐旧を楽しむのは、すべて、悪を吊してからだ。


決まった手順の決まった遂行。

指示はしないが確認はする。

修正はしないが考える。


修正は有害だ。

修正の為の修正。

自己満足の陶酔は、しばしば戦場に現れる。

その為に殺せなかった人数を思えば

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・若い頃ならば、無駄に暴れていただろう。


今は少ない人生、効率良く悪を殺し続ける為に、考える。



魔法の箒、実用限界高度は三千m程度。

それはオマケだ。


――――――――――魔女の意識が途絶えてなお、上昇は止まらなかった。

魔法の行使には、持続的な指示は必要ないらしい。


しかし、その力は制御されている。


空挺が魔女を確保すると、上昇は止まった。まるで脱力するかのような落下。専門家の考察はそれとして、自分なりに分析しながら、連絡を受ける老人。


『与圧電熱服は来週搬入』

「明日だ」

『はっ』

「搬入時間を1時間以内に報告。返答は明確に」

『了解いたしました』

「可否含めて連絡したまえ」

『かしこまりました』


(――――――――――ふむ)


老人は作戦の傍ら、事態の把握に務めた。会話の相手は黒旗団ではない。国際連合軍の兵站将校。在日していた米軍の兵士。


老人に例えさせれば、国軍並みの緩さ。

それらを教育するのは、老人に期待された役割だ。老人自身、それは吝かではない。若者を諭すのは、当然ではないか?

合衆国軍、自衛隊、インドネシア国家戦略予備軍。


老人にとって、多国間共同作戦は馴れたものだ。


だが、戦略予備軍の流儀は使えない。

今は。


海兵隊も陸自も、平時特有の問題がある。長所を生かし、その範囲で短所や障害を修正する。短所と長所が表裏一体ならば、手をつけるべきではない。

阻害要因を取り除けば最高の効果を生む。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・などという妄想を排除する手間を、老人は厭わない。

良くも悪くも、要因とは単独で存在していない。何かを取り除けば、別な何かが影響を受ける。すべては部分ではなく総体で見るべきなのだ。



老人は長年の経験から、それを知っていた。


『――――――――――』


ヘリの中から響く、声なき声。


(苦鳴が出せるならば問題ない)


笑みを浮かべた老人は、魔法使いを離陸させた。

可聴域を突き抜けた悲鳴は気合の証。

魔法と科学を複合した処方箋。


マメシバ(ハナコ)・カクテルと呼ばれる術式で、バイタルを一瞬で正常化された魔法使い。安全性は百通りのテストで確認されてはいるが、百一番目の事故を懸念して一部の団員にしか施されない。

今は。




千一回目を目指して、万一回目を目指して。



国際連合軍独立教導旅団

<黒旗団/the United Nations Magic Corps>


その日常。


《戦場点景3》




【太守領中央/太守府東街道/青龍の騎士団本陣/馬上/青龍の貴族の乗騎後】


街道はいつしか北に向かう道から、西に向かう道に合流。


春の陽はすっかり昇り、辺り一面をくまなく照らしてる。起伏に乏しい草原。そこかしこから上がる炊煙。あたしが見たのは、他人の群れ。


気心が知れているのは、ほんの数人から一人。互いの様子を窺う、のではなく、互いの意図を目線で確かめる様子で判る。


小さな塊。

無数の塊。

互いを窺う塊。


つまり、塊同士につながりは、ない。


まったく同じ動作を、揃えて繰り返す、バラバラな群衆。

街道の両側を挟み囲む連中。



轟く轟音。

青龍の騎士が操るゴーレム。隊列後半の土竜たち。

青龍の隊列に気が付いた人々。一斉に立ち上がり、離れた場所にいた者は背伸びして確かめる。


――――――――――音により、青龍の接近に気が付いたから、思わず立ち上がったのね。



皆の視線が、あたしたち、青龍の隊列にあつまる。

悠然と進む騎馬。

青い帽子。

緑の騎士服。

うなり声をあげる青龍のゴーレム。


青い兜。

緑の甲冑。

地響きを上げる青龍の土竜。


青龍の隊列を見た人々。

彼らは倒れ込むように、地に伏した。


――――――――――見て、初めて、気が付いた。青龍の隊列は、ただの行進じゃない。行軍だ。


見てはならない。

畏れおおい。

殺される。


聴いて、立ち上がり。

見て、地に伏した。

誰もが、同じモノに出くわし、同じように感じたから、同じ動作をした。


――――――――――青龍というモノ。

向き合うのが恐ろしくて。

無視できるわけもなくて。


人々。

見渡す限りの草原。ざっと見て、一万に、少し足りない、人々。


――――――――――大地に額を押し付ける、人々。



青龍の貴族はそのすべてを無視。


時折あの娘を、あたし、と妹分を見る。何もかも飲み込んで、知り尽くした青龍の貴族。彼が確かめる必要があるのは、あたしたちだけみたいね。




【太守領中央/太守府東街道/軍政・黒旗団混成戦闘部隊本部(前衛)】


太守府には門が二つある。

西側に面し、港街に向かう正門。

東側に面し、内陸側に向かう裏門。


太守領の経済的な中心が、太守府と港街の間に在るために、西側の門が正門なんだろうな。ってのは、俺の想像だが。


だから、太守領の南北から太守府に向かって街道を上ると、正門側の街道に合流して西に進むことになる。主に年貢となる収穫物を集めるために使われる南北の街道のことだ。

まあ、門のすぐ近くで合流するから、それほど長く西進しないけれど。



合流地点からほどなく西。そして見えだす、太守府。その前。

見るともなしな、俺。



上がって下がる群衆。

人波、ウェーブ、マス・ゲーム。


直視して良いのか悪いのか?

拍手するべきか、空砲が良いか?

ドワーフの人間お手玉で対抗出来るのか?


だいたい何万人居るんだ、こりゃ。



何の行事か知りたいが、エルフっ子に訊いても無駄だろうな。異世界で一般的な話しなら、エルフっ子に訊けばすむのに。



この大群衆がなぜ生まれたのか?

その大群衆がなぜウェーブを行うのか?

この大群衆がどこからきてどこに行くのか?


・・・・・・・・・・・・・・・いくら俺でも、あたりがつく。


俺たち、地球人のせいで生まれた現象。初めて起こる、起こった、事は、誰にも説明出来ない。それでなお見当がつくなら、尋ねなくてもエルフっ子が俺に教えてくれるだろう。


俺がポカンとしていると、たいてい耳に囁いてくれるからな。なけなしの体面まで配慮してくれる。オカンエルフ、ここに在り!

・・・・・・・・・・・・・・・・良い子だな、うん。


シスターズとは、そのくらいの信頼関係はある。

――――――――――よね?まだ??


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嫌われてたら、どうする。



いやね??

好かれちゃいけないけどね?

畏れられなきなゃダメだけどね?


国際連合の、対異世界ドクトリン。


愛されるな。

憎まれるな。

畏れられよ。


でもしかし、嫌われるのは、最悪だと思うんだ。

エルフっ子を見る目が、ちょっと、イヤらしい

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・などとシスターズに思われていたら、切腹ものだよ、心情的に。


最近ちょっと、大分、失礼しました。


「HEY!!Confession!!!Brother?」


――――――――――――――――――――あ、忘れてた。


HMMWVフロントに掲げられた十字架に縛りあげられている、神父。

キリスト教徒に大変失礼ですね。

これは。



「神父様は決して他言イタシマセン!あなたの罪と肉欲を2000文字以内で告白Please!エンジンノイズに負けない元気な声で!!!ハラカラコエダセー!!!」


声がでけーよ!!!

Confessionって??

懺悔の内容を叫べというんか!!!


「シャッチョサン!!神の国に条例無し!!抱きしめている10歳児にナニをしたのかバックto12歳女児&エルフっ娘にナニをしたいのかオッシャイナ?本人と諮ってかならずやご満足が行くように取り計らいます!!お代は貴方の心で十分ですよダンナ!!」


悪魔か客引きか解んねーな。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ムシムシ。



俺は不躾にならない範囲で見えたモノを反芻した。

視線を向けないふり。



「OK!OK!Costume、Situation、Contemplation!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・エルフっ子の姿じゃないよ?

考えるのは周りの、地元の皆さん方のことだからな?

馬上から見下ろしているように、見えないといいが。

・・・・・・・・なんか平伏している人々。



――――――――――男ばかり。


概ね中高年。

服はキチンとしているが、くたびれている。数人単位でまとまっており、各々のそばに焚き火。朝食の用意中、かな。


ならばこの何万人は、一つの集団じゃない。

集団なら、食事の準備はもう少し大勢単位でやるだろう。


小さいテントのようなものも、いくつかある。何日前から居たんだろう。全員分とは言えない。街道から離れた場所に、だんだんと増えている?

見れば見るほど、チグハグな印象が深まっていく。


俺の知識で、一番近い印象は、難民キャンプ。



だが、それもおかしいか。

皆が統一行動。

号令も信号も、合図らしきものがないのに、だ。


バラバラに、よんどころのない事情で集まった個人個人。それが、示し合わせて同じ動作をするわけがない。



俺は馬に連れられ、馬は隊列に釣られ、俺が、俺たちが進む。

群集は最前列でも、俺たちから十数m離れている。


そこからでも感じる。

彼らの



――――――――――恐怖――――――――――




【太守領中央/太守府東街道/青龍の騎士団本陣/馬上/青龍の貴族の乗騎後】


馬上から人々に、塵が目に留まったような視線を向ける、彼。


頭目の子供に向けるまなざし。

港街で紹介された少女たちを気遣う視線。

あたしたちに初めて出会ったときに、向けられた眼。


同じ彼とは思えない。



あたしたちには、青龍の貴族、彼が何を感じているのか判るようになった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・慣れた仕草、でも、うんざりしている。ここにいる全員から、彼に集まる、意識。



――――――――――畏れ――――――――――



青龍の貴族を、うんざりさせている連中。自分たちがどんな危険を犯しているか、ううん、危険を起こしているか解ってない、連中。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・身なりは良い。誂えの良い服は丈夫なだけじゃない。

羽や折り込み、刺繍もあるわね。

飾り付けを見れば、野良仕事用の服じゃないとわかる。


それなりの家で、代々仕立て直してきたような上物だ。


衣装屋に売れば一財産。

有力参事、しかも、五大家直系の女である新議長を見慣れたせいかしら?

真新しい仕立て服が、当たり前に感じてしまうけど。

普通は衣装屋から買った古着を、村や街、街区の中で仕立て直して使い続ける。

いわゆる庶民、の上の方で言う、一張羅。


「ねえ様?」


あたしの視線に反応する妹分

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・妹分は、別。


この邦一番の、富商の愛娘。

自分用にも、一度も袖を通せないほどの、着られないほど数多くの服を仕立て、あの娘の分すら古着を使わない。

着たことの無い服など目もくれず、お気に入りの仕立て職人、細工師、呉服屋を集めて、何もかも一から造らせる。

気が向いて、飽きて、思い出して。

あたしを園遊会に連れ出すのはあきらめた、あたしが逃げてしまうから。でも、誰に見せる当てもないうちに、あたし用のドレスを仕立てる事だけはやめない。


そのあたりは、マメシバ卿に通じるわね。


戦場だから、マメシバ卿自身は騎士服のみ。あたしたちやColorfulの分しか造らない。でも、平時なら服を全部、毎日新調しそうなところがある、マメシバ卿。


――――――――――妹分には、良い見本かも。




【太守領中央/太守府正門内側/門前広場】


僕は門が開く様をジリジリとしながら見つめた。


外には信用の置ける殺し屋共を伏せさせている。万が一にも、やり損じる事は有り得ない。

――――――――――と信じたい。


いや、僕らだけなら、信じるしかないが。

違う。

信じる必要などない。


それとわかってなお、イラつく。


「みなさん、よろしくて」


バカ女、な新議長は皆に呼びかける。

集まった平参事が大勢、の前に立つのは五大家当主。


ここは門前、屋外、衛兵たちが四苦八苦して隊列を整え、手練れの伝令が行き来していた。

門前広場。

つまり太守府に二つしかない、西側門の内側。

普段なら門前市が開かれる、太守府中心の広場に継ぐ、解放された場所。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・に、寝椅子をしつらえて、茶をすすり、無聊を慰められていたのだ。

忙しい皆を眺めつつ。


――――――――――新議長様は!!!!!!!!!!



そして今、五大家の当主たちに呼びかけている。

みな着飾ってはいても老人揃い。自然、色合いを抑えた生成りにまとめている。つまり、地味。細工や仕立て、素材を最高級、或いは金だけでは賄えない名品で揃えている。

要は、地味なんだが。


その中で、場違いな、若い、派手な女。


新議長の青いドレス、腰まで届く金の縦巻髪が目立つこと目立つこと。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この邦を代表する参事の服装じゃないぞ。


どこからどう見ても、公の場所にはそぐわない衣装。


商談でもなく、政治でもなく、社交でもない。

趣味と好みだけで、金持ちと取り巻きたちが私邸や別荘に集まる。

毒にも薬にもならない、暇人が金を流し、追従者が愛想を振りまく、知性も教養も必要のない、いわゆる茶会。


そこで見栄を張りあう女たちにふさわしい衣装。



「ねぇ、ま~だ?」


そしてなにより、門前広場に響く、緊張感のない、高い声。僕は配下の統制に腐心・・・・・・・・・つまり、無視。


「アタクシ議長よね?なのにその態度??・・・・・・・・・ゴメンナサイ」


なにやら騒ぐ声を、一睨み。


「門、開きました!」

「露払い前へ!」




【太守領中央/太守府東街道/軍政・黒旗団混成戦闘部隊本部(前衛)】


人力なんだな~、って、俺は当たり前のことに今更。ゆっくりとしたうごきで、5mほどの城門が開いた。いや、開き終わった。


重厚なだけに重かったろう。

しかも、戦時体制にない太守府、いや、この邦。

普段の開閉を急ぐ必要もないから、門の開閉担当に力自慢をそろえたりもしていないのかもしれない。

だから、ことさらゆっくりなのかもな。


施設科が帰らないうちに、歯車で開閉装置をしつらえてもらおう

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・などと呑気に構えていたら、鳴り響くラッパ、っぽい管楽器の音。



太守府城外、門前近くの人々が、慌てて壁と門の近くから離れた。

抜き身の刀を構えた、革鎧姿の数十人が門内から飛び出してくる。後に続くのは、衛兵。列をつくり前進。こちらは金属の鎧兜に身を固め、盾を持ち槍を立てている。


最初の革鎧が群集を威嚇して街道を確保、衛兵が盾と槍を構え道の両端を固めていく。おや、城壁、城門の上には、弓兵っぽいのが顔をだしていた。

赤絨毯ならぬ、兵士の道でお出迎え、か。




【太守領中央/太守府東街道/青龍の騎士団本陣/馬上/青龍の貴族の乗騎後】


門前から街道までを隔離して、集まった人々を街に入れないようにしてるのね。


あたしたちがいる、青龍の隊列は進む。何事も無かったように、周囲に盛り上がった喧騒を無視。

参事の私兵が街道近くの人々を追い払う。

衛兵が街道と人々の間に入り壁となる。


人々も、衛兵も、意識は青龍に向いたまま。


こういう乱暴な扱いをする、される時に起こりがちな、争いは起こらない。皆が、ビクビクしているわね。互いの態度を気にしている場合じゃない。


自分が青龍の怒りを買わないか。


押しのける者。

押しのけられる者。

考えるべきはそれだけ。


あたしは青龍の貴族や、公女、女将軍を窺った。標的を見るまなざしには好悪などない。妹分と顔を見合わせて、つい、笑ってしまう。


青龍は、青龍。

周りがどう変わろうと、彼らは変わらない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・周りのみなを、見てすら、いない。


背中越しでも、その程度は判るようになったわね。

あたしたち。




【太守領中央/太守府東街道/軍政・黒旗団混成戦闘部隊本部(前衛)】


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しくじった。

俺は猛烈に後悔。


なぜって?

事が始まってしまえば、今更、確認は出来ないからだ。カンニングペーパーやらフリップやら、間に合わない。


敵味方不明な群衆。

群衆をかき分けながら向かって来る衛兵。

」太守府の弓兵が群衆を警戒してる。


つまり、群衆は太守府の市民じゃない。


むしろ対立、しゃなくても、対峙してるな。

太守府市民推計5万、城門前の群衆数万。


何が起きてる?

何をしたらいい?

何をしちゃいけない?


三佐の背中に隠れながら、胸元の魔女っ子を隠し目にした。



こちらが西へ。

あちらが東へ。

互いに進めば瞬く間。


先頭の兵士たち。

抜刀して革鎧をつけた、練度の高さがうかがえる屈強な男たち。

衛兵の創る回廊を抜け、真正面から最短距離で、俺たちのところに走ってきた。




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