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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第三章「掃討戦/文化大虐殺」

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115/1003

帝国の統治

登場人物&設定

※必要のない方は読み飛ばしてください

※すでに描写されている範囲で簡単に記述します

※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします


一人称部分の視点変更時には一行目を【語る人間の居場所】とします。

次の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの特徴となる一人称を入れます。

以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。

(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)


【登場人物/一人称】


『俺』

地球側呼称《司令官/閣下/大尉/大尉殿》

現地呼称《青龍の貴族/ご主人様/ご領主様/我が君》

?歳/男性

:地球人。国際連合軍大尉(陸上自衛隊三尉)。太守府軍政司令官。基本訓練以外は事務一筋。


『あたし』

地球側呼称《エルフっ子》

現地側呼称《ねえ様》

256歳/女性

:異世界人。エルフ。『あの娘』の保護者。姉貴分。ロングストレートなシルバーブロンドに緑の瞳。長身(数値不明)。革を主体とした騎士服にブーツに剣が常備。軽装の革鎧や弓(短/長)は必要に応じて。


『わたし』

地球側呼称《魔女っ子/幼女》

現地側呼称《あの娘》

10歳/女性

:異世界人。赤い目をした魔法使い。太守府現地代表。ロングストレートのブロンドに赤い瞳、白い肌。身長は130cm以下。主に魔法使いローブを着る。


『わたくし』

地球側呼称《お嬢/童女》

現地側呼称《妹分/ちいねえ様/お嬢様》

12歳/女性

:異世界人。大商人の愛娘。ロングウェーブのクリームブロンドに蒼い瞳、白い肌。身長は130cm以下。装飾の多いドレスが普段着。



『僕』

地球側呼称/現地側呼称《若い参事、船主代表》

?歳/男性

:太守府参事会有力参事。貿易商人、船主の代表。年若く野心的。妹がいて妻の代わりに補佐役となっている。



ちょっとまて、かんがえなおせ、おいやめろ


――――――――――異世界川柳、詠み人、第七師団長。




男は疑問だった。

俺たちが負ける?


敵は2000のバケモノ。

こちらは10両。


『二尉、会敵まで300秒』


90式戦車は進む。斥候が地盤の硬さを確認した、ほぼ平坦な岩場。

50tオーバーの自重が岩や石を踏み砕く。

心地よい振動。

口元を歪める。



『全車隊列!』


目の前に溢れ出す、死者の群れ。ざっと二千余り。帝国の戦争魔法の粋。死なない兵士、痛みも渇きも感じない、怯えず飢えない死者の行軍。

二千を超えるアンデット。


黒いローブをまとい骨の隙間を隠している。

剣や槍が骨自体を狙いにくいように配慮。異世界の騎士や槍兵はこれに苦しめられた。

そもそも刺突斬撃は、骨には効きにくいのだ。だが、打撃系武器は対人戦闘を目的にしている中世の兵装には少ない。


骸骨たちは手に手に大剣や大槍、対竜用の装備を構えている。

人であることをやめた死霊たち。その骨が支えられる重さ、100kgを超える鉄塊すら軽々と振り回す。



偵察ユニットは画像分析で、数と外見を確認し警報を発した。



どんなに勇敢な、どれほど訓練を重ねた兵士でも、仲間が目の前で肉塊になれば逃げだすものだ。帝国軍もそうやって、戦う前に敗走し追撃されて追い首となったものが多い。


戦死戦傷者の大半は戦っている時ではなく逃げている時に生じる。それは現在の戦闘のみならず戦争の歴史を通して言える事だろう。



国連軍と出会う前から世界征服を目指して研鑽に研鑽を重ねた魔法戦争。ソレを磨き上げた帝国軍がソレを知らぬはずもなく、ソレに答えを用意しないはずもまた、ない。


アンデット。


死体は恐怖を感じない。死体は頭を撃ち抜こうが胴を貫こうがひるまない。

アンデットならば、敵を殺すまで戦い続ける。


死体の群れは国連が占領している街に向かっている。


だが、街を見捨てても国連軍には差し支えない。悪評?評判を流す生者がいなければ、問題ない。

だが、勝ってもかまわんのだろう?


「バンツァーファランクス!」


死人の群れ、群体に戦車隊列が衝突した。

軽い破砕音が響き渡った。


装甲を叩く衝撃は、人間のそれではない。

津波のように向かってくるそれが人間のものであるはずがない。

骨の波。

鋼の波。

音の波。

突き抜けた。


『何をしとるか牟田口二尉!』

「撤退中であります」

『貴様が邪魔で砲撃出来ん!』

「了解!お任せあれ!全車後進用意!5,4,3,2,1」

『だから何をしとるか―!!!!』


戦車が一斉に逆進開始。

車間距離ゼロ(近く)。

34mの鋼の壁が一分とかからずに全速力に達し、60kmオーバーで逆方向に進む。

至近距離から砲撃を受け続けるがごとく、スケルトン、骸骨兵士は車体の上下に砕かれ潰され跳ね飛ばされる。


「第七師団は他世界最強!!!!!!!!!!!!!!!」


突き抜けた際に轢き砕かれずに後ろに跳ね上げられていた、岩場にたたきつけられて半ば砕けていた、骸骨の群れが果敢に挑みなおす。

90式戦車の群れに。

何体かは戦車の屋根にのぼり、衝撃で取り落とした武器に変わり、自らの骨でたたき続ける。


「一度攻撃を受けると、ずっと向かってくる、ですか」

「超信地旋回!」


左右のキャタピラが一斉に逆回転。

90式戦車が回転舞踊を始める。

たたき続けた指骨腕骨を失い、つかみつけずに振り落とされ、更に石臼にかけられたように砕かれるアンデット。


「クックック!見たかロメロ!見たかサヴィーニ!ゾンビごとき戦車の敵ではない!!!」

「ゾンビと言うよりスケルトンですけど」

「はっはっはっ!!近代兵器は他世界最強!!たとえゾンビがスケルトンでも挽き潰してやるだけだ!!!」

「洗うのが大変ですけどね」

「その点、骨は扱いやすいな、どれ」

「ハッチから出ないでくださいね」


牟田口二尉の首筋にあたる銃口。

9mm弾使用のベレッタ、しかも軟頭弾を装填している。狭い車内での発砲に際して貫通せず跳弾を防ぐ、安心チョイス。

ソレを構えている女性は階級章をつけず、軍事参謀委員会参謀徽章のみをつけていた。


「辻参謀」

「偽名ツジですがなにか」

「音を聞きたいだろう?」


骨の砕ける音。


「外部マイクで拾ってますよ」

「耳で直に聴くべきだ!絵を眼鏡越しに見るような」

「私にケンカうってますか?私も撃っていいですか?」


ツジ参謀はメガネだった。


「お客さんもお帰りです。私たちも帰りましょうか」


軍事参謀員会は純然たる装甲戦闘の優位性を、ある程度は認める答申を安全保障理事会に提出した。

それは今後の戦闘にも生かされた。

対アンデットには弾幕掃討よりも、装甲車ないし装甲トラックやロードローラーによる破砕処理が多用されることになる。


その機会は減ってしまった。

ゆえに、ツジ参謀の上司は本作戦の成功を確認できた。






この戦いを仕組んだ魔法使いの一団による帝国軍上層部への報告。

対竜戦闘すら想定した死霊術の実戦使用は不可。

長期的に研究を続けるも反撃には間に合わない。


《戦場点景1》






【太守領中央/太守府南馬乗一日程/大きな街の広場中央】


「御領主様、後は街の者にお任せください」


この街の参事や顔役が僕の言葉に頷いて、同意を示す。青龍の貴族、その意を受けた青龍の女将軍にどやされて走り回った住民たち。


手順が判れば簡単だ。

あのバカの取り巻きに奉公人達は、みな川辺に連れていかれた。目鼻口を痛みが退くまで水で洗う。激しく洗いすぎないように、注意して。


暴れる者は、青龍の女将軍が気絶させた。

指先から発する雷の魔法。


雷、それを起こす魔法自体は聴いたことがある。だが、こんなに小さな、使い易い形は、知らなかった。

僕は魔法について伝聞でしかしらない。


それでも、ある程度は察することができる。


魔法はより大きく、より遠く、を目指して来た。そして強く強く強く、と進歩して行くものだ。

つまり、危ない。


魔法使いに会っても、見せてもらおうとは思わない。


炎の魔法一度で、家一軒が焼け落ちる。

水の魔法一つで、ひと一人が圧死する。

見せてくれなどと、言える訳がない。


帝国の身分制度で魔法使いが貴族となった、その遠慮を考えなくとも、だ。


だが、青龍の女将軍は、指先?手先?から短時間雷を出す。

軽く首筋に触れる。


――――――――――それだけで、大の男、バカ女の趣味を反映した健康で大柄な美丈夫が気絶する。


しかも、死なない。

丸焦げにもならない。


世界を圧倒する強大な魔法使いの集団、青龍。


彼らは、より小さく、より近く、より弱く、をも目指しているらしい。


――――――――――広い果てから、あまねく隅々まで。

何もかも満たすつもり、なのか。




【太守領中央/太守府南馬乗一日程/大きな街の広場/青龍の騎士団本陣】


あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・旅籠が崩れた。


あれだけ壁を破ればね。

支えを失った建物は脆い、か。


レンガや石片が跳ぶ。住民が悲鳴を上げる。騒然とした広場。


青龍は貴族も騎士も将軍も

――――――――――気が付いて、ない?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちがう、か。


魔法を使い、何もかも見聞きしている青龍。

無視、と言うほどもなく、知りながら意識されないのだろう。

道端の蟻の巣が、崩れたように。


――――無価値だから――――




【太守領中央/太守府南馬乗一日程/大きな街の広場/軍政・黒旗団混成戦闘部隊本陣(前衛)】


俺は、ことさら視線を逸らさずに、知らんぷり。


宿屋の建物は、広場に面した正面側の壁が爆破されていたわけで。二階部分が広場に滑り落ちたように、崩れたっていうより、倒れてつぶれた。


石積みレンガ造り。

二階建てで自重を外周の壁で支える構造か。近代建築のように頑丈なビルじゃない。同じく素手で破壊出来る近代個人住宅よりは頑丈か。


また破片が飛び散り、土石レンガの粉が煙りのように舞う。


誰も中にはいませんよ~。

はい、そういう問題じゃないですね。


もちろん、後ほど建て直し費用は接収資産、つまり前太守か帝国の奢りでなんとか。

いや、弁償すればいいってもんじゃないよね。


俺たちがぶっ壊した宿屋。

洒落た、住みやすそうな、建物だったのに。隅々に気を配ったことが見て取れた

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・破片から。


凝った造りの家具が広場に投げ出されていた。

宿屋、二階部分にあった調度品が、斜めに崩落した勢い余って窓から飛び出したのだ。


歴代の想いを引き継いだ、老舗の旅館。

いや、知らないけれど。


まあ、今更だが、慣れねーな。



あらゆる規定からして、佐藤と芝の、俺が詳細を確認しなかった、作戦は正しい。

進路上に驚異の可能性があれば殲滅/制圧する。

危険があるなら殲滅。

余裕があるなら制圧。

死体を調べるより、捕虜を調べた方が望ましい。


よって、俺がつけた作戦条件、なるべく殺すな、も規定とおり。

愛でたく誰も死ななかった。

失明もなし。

いまのところ。


他の地域で問題なくとも、ここではダメとかで、薬物の過剰反応で死人が出るかもしれないが。

仮にそうなった場合、軍事参謀委員会は喜ぶだろう。

貴重な情報として。



「建物以上に気にするべきコトがあるのではないですか」


歴史家カタリベが言う。

来てたのか。


俺の視線を追って察したらしい。なるほど、察しがいい子供(成人だっけ?)は嫌われる。何を言われているか、解るから、うんざりした。


気にならないんだよ、本当に。

だから、気にならないコトが気になって、いる。


死体や怪我人、元カノがグローブタイプのスタンガンで次々と怪我人を失神させたこと

――――――――――特に感じない。


壊れた建物

――――――――――悪いことをしたな、と思う。



マメシバ軍医に言わせれば、フツーフツー。

帰国した後で、PTSDを患わないように注意、か。



PTSDを患うのはいつか。


恐ろしい体験をした時?

恐ろしい体験と知らされた時?


何かの衝撃を受けた後、病床で目が覚めて。

「あれは事故で誰も死ななかった」と言われればほどなく忘れるだろう。

「あれはテロで何千人もが無残に死んだ」と言われれば一生悪夢が続く。



ならば兵士が心を病むのはどこで?



人を殺したら、傷つかなくてはならない。

人を殺したら、悩まなくてはならない。

人を殺したら、忘れてはならない。


そんな暗黙の了解が、かくあれかしという思いが、人を殺した事がない人々の条件反射が、戦場から帰った後で元兵士の心を押しつぶす。


事実(戦場)と観念(想像上の戦場)の乖離が生む混乱が、リアルを知らない多数派のファンタジーが、異端者を狩りたてる。


兵士が戦場を懐かしむのは、何故でしょう?




【太守領中央/太守府南馬乗一日程/大きな街の広場中央】


僕は青龍の貴族を商工会の建物に招いた。

港街でもそうだが、村の長はいても、街に長はいない。


旧王国時代は、王家直轄の主要な街には代官がいた。

それを皆殺しにした帝国は、替わる者を置かなかったのだ。


帝国は太守を差し向け、その下に騎士団と異端審問官を置く。

街は参事会に、村は村長に任せる。

というか、放置。


任せる相手として参事会や村の長たちが帝国に指定されたわけじゃない。

この邦では、それらが引き受けた、というだけだ。


帝国の統治。

騎士団の巡察と、異端審問官の内偵で街村の実態を調査。

人口、耕地面積や質、産物などの物質的数字だけを集める。


そして、税を割り当てる。

住民にあまねく知らしめる。決して誤解の余地がないように。


太守府に運び込むまでが、領民の義務。

量と期日が守れなければ、街や村単位で責めを受ける。

自然、皆をまとめて指揮を執り、徴税を担う役割が必要になる。


だが、当然、誰もやりたがらない。


恨まれる役割ということもあるが、それが理由ではない。

儲かるなら危険も悪評も必要経費だ。

太守の権威を盾に、税名目で余計に巻き上げれば、ボロい商売だ。


だが、その商売に手を出す者がすくなく、廃れるのも早かった。


帝国の貴種根絶政策のせいだ。

特定家門、個人が領域に影響力を及ぼす事を嫌う。


徴税を担えば、自然とその範囲での影響力がつく。

すると、帝国から危険視されて滅ぼされる。


危険と悪評を背負ってまで受ける商売ではない。


だから、この貧乏籤は、組織に委ねられた。

――――――――――押し付ける相手を創り上げた、と言うべきか。


村の長は実質的に合議輪番制。

これは元々の組織、いや、役割だ。旧王国時代からのソレを、危険が増した後も否応なしに引き継がされた。だから一斉に高齢化したのは仕方あるまい。

一番危険な場所に、一番労働力にならない人間を据えた。



街では商工会。

元々街では、そこを牛耳る有力商人がいる。彼らは後難を恐れ、商会を商工会につくり変えた。形式にせよ、中堅以下の商人商会を加えて合議制をとる。


有力家門が没落しなくとも、形に引きずられて軒並み影響力を減らした。

――――――――――それも、帝国の目論見なのだろう。


旧王国から在り続けた集団は参事会くらいか。


参事会は実力主義。

もともと競争が激しい組織故に、継承される実力者を嫌う帝国に、見逃された、というところかもしれない。


こうして、街の権力と富は商工会に集まる。


だから、街で一番贅沢な場所は商工会の建物だ。誰の物でもない、誰も責任を取らない場所を飾り立て、帝国の目から有力者を隠す役割もある。


だから、例え可能でも、その街の商工会より目立つ建物は誰も建てない。


此処のように太守領有数の街。

その商工会ともなれば贅を尽くした広く心地よい場所。

細工を凝らした部屋々。

常雇いの従僕メイド料理人。

食材も酒も街一番の娼婦や歌姫に道化も出入りする。


周りには帝国巡察役の常宿として、新たに建てられた豪華な旅籠。


太守の好みに遠慮して移転して来た劇場もある。


有力者達が自宅に帰りたくなくなるが、帝国の目を恐れるが故に泣く泣く帰らざるを得ない場所。有力者の自宅別宅からは距離を置く、街の、商いの中心。


まさに青龍を、青龍の貴族を歓待するに相応しい。

――――――――――のだが。


「ここでかまわん」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、確かに、広場がみすぼらしい、とは言わないが。




【太守領中央/太守府南馬乗一日程/大きな街の広場/馬給水所の前/お嬢の前】


わたしは、ちいねえ様と駆け寄りました。水飲み場になゆたう女性。

馬さんの飲み水ですから、決して汚くはないのですが。


ふんだんにフリルをあしらった、立派なドレスが水の中をふわふわ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・洗濯桶の洗い物みたい、です。


「なんで誰も来ないのよ寒いじゃない濡れてるじゃないアタクシになんてことを」


何か、嘆いておられますね?

ちいねえ様が、わたしに囁きます。


(想い合う殿方がいらっしゃらないのよ)


そうなんですか?


(わたくしたちなら)


ちいねえ様が振り返って

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ、その、ご主人様の手を煩わすのは、その、申し訳なく

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嬉しいですけど。


(この方は出会えなかったのね)


―――――――――まあ、


「違います!!!!!!!!!!」



きゃ――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!





【太守領中央/太守府南馬乗一日程/大きな街の広場/馬給水所の前/魔女っ娘の前】


わたくしは、あの娘をとっさに背中にかばい、慌てて叫びます。


「大丈夫です!!!!!!!!!!」


青龍の騎士、サトウ殿が思い切り後ろに引いた動作を止めました。


「ありがとうございます」


わたくしが一礼すると、サトウ殿は構えを解きました。

吊された女の懐に入って、身を低くし、逆手にもち思い切り引いていた銃。まるで鐘を突くか、門を破る丸太のような構え。


撃ちも刺しもしないでしょうが、わたくしが声を上げていなければ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この女、腹を砕かれて死んでいましたわ。


わたくし、たちは水飲み場に吊された女を見ました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・吊され?てますわ?



【太守領中央/太守府南馬乗一日程/大きな街の広場中央】


僕は青龍の貴族、その視線を追った。

――――――――――見なかった。


そして、向き直る。


「この場にてお待ちしておりましたのは」

「無礼者!!!!!!!!!!

離しなさい!!!!!!!!!!

早く助けなさい!!!!!!!!!!

何をしていますか!!!!!!!!!!

誰か在る!!!!!!!!!!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・キャンキャンキャンキャン。

うっせーよ!!!!!!!!!!




【太守領中央/太守府南馬乗一日程/大きな街の広場/軍政・黒旗団混成戦闘部隊本陣(前衛)】


俺は目を逸らした。


100mほど前から響く、響き続ける罵詈讒謗。そう、続いている。

ドワーフだ。

いや、ドワーフが吊り上げた女だ。


やっかいごと、だな。


苦しんだり、ぐったりしたり、気絶されたりしていれば困る。

騒ぎ喚かれると、ややましだが、困る。


まだ街の混乱が収まっていない。


まあ、なんでドワーフがいるかと言えば、俺たちの部隊、その後続がすでについているからだが。

街に自動車を入れるとパニックが起こる。

だからこそ、俺たちにエルフっ子が馬で先駆けをしていた。


平穏な街に、現地の人たちから見たらバケモノのような自動車で乗り付ければ、そりゃ混乱する。

しかしこの街は、すでに混乱中。


だから、浮き足立って慌ててる間に済ませてしまおう。そう思って、街に入らせたHMMWVとトラック。


混乱の中で、街の有力者や若い参事の指揮下に入った住民たち。

それ以上の混乱は起こさずに、パニックは防げた。

計画通り!


だから、広場にはドワーフたちも来ていたが。


若い参事が馬の水飲み場に放り込んだ女を、そのドワーフが掬い上げたようだ。

いや、吊り上げたか。

ハルバードの石突きを巧みに使い、襟足を引っ掛け、水中から中空へ。

苦しくはあるだろうが、首筋に負担はかかっていない。ドレスの上半身部分全体に体重がかかっているようだ。

叫んでるくらいだから、呼吸は大丈夫。



魔女っ子にお嬢が怯えるのも無理がない。

いきなり水中から飛び上がったようにしか、見えないし。

つまり、シスターズを怖がらせた責任は、ドワーフにある。


まさ、ドワーフとしては親切のつもりなんだろうな。

シスターズへの。

小さい二人がかけよって、大人の女(水分増量中)の重さを引き上げられるでもなく、困っていた。だから、引き上げてやったわけ、だな。


俺もドワーフに慣れてきたな~。



あの、吊され女に敵対行動は認められず。

今のところは被害者か?

だが、宿屋の中にはいたから、要尋問。

にしても

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・怯えるでもなく、泣き喚くでもなく、哀願もしない。

怒って、罵って、命じている。


良い度胸、嫌いじゃない。


「あれは誰だ?」


困った時のエルフっ子。




【太守領中央/太守府南馬乗一日程/大きな街の広場/青龍の騎士団本陣】


知りたくないわよ!!!!!!!!!!

と、あたしはいいたかった。


化粧が全部落ちて、顔が変わっているけれど、間違いない。

あんなバカな態度をとれるのは、アレだけだ。


太守府社交界の有名人。


妹分のような、社交界参加直前の世代は見知っていないだろうけれど。

それなら、あたしが答える必要はないわよね。

一睨みすると、若い参事が答えた。


「あ、あれが、参事会の新議長です」



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