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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第三章「掃討戦/文化大虐殺」

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106/1003

おもてなし

登場人物&設定

※必要のない方は読み飛ばしてください

※すでに描写されている範囲で簡単に記述します

※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします


一人称部分の視点変更時には一行目を【語る人間の居場所】とします。

次の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの特徴となる一人称を入れます。

以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。

(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)


【登場人物/一人称】


『俺』

地球側呼称《司令官/閣下/大尉/大尉殿》

現地呼称《青龍の貴族/ご主人様/ご領主様/我が君》

?歳/男性

:地球人。国際連合軍大尉(陸上自衛隊三尉)。太守府軍政司令官。基本訓練以外は事務一筋。


『あたし』

地球側呼称《エルフっ子》

現地側呼称《ねえ様》

256歳/女性

:異世界人。エルフ。『あの娘』の保護者。姉貴分。ロングストレートなシルバーブロンドに緑の瞳。長身(数値不明)。革を主体とした騎士服にブーツに剣が常備。軽装の革鎧や弓(短/長)は必要に応じて。


『わたし』

地球側呼称《魔女っ子/幼女》

現地側呼称《あの娘》

10歳/女性

:異世界人。赤い目をした魔法使い。太守府現地代表。ロングストレートのブロンドに赤い瞳、白い肌。身長は130cm以下。主に魔法使いローブを着る。


『わたくし』

地球側呼称《お嬢/童女》

現地側呼称《妹分/ちいねえ様/お嬢様》

12歳/女性

:異世界人。大商人の愛娘。ロングウェーブのクリームブロンドに蒼い瞳、白い肌。身長は130cm以下。装飾の多いドレスが普段着。



【登場人物/三人称】


地球側呼称《神父》

現地側呼称《道化》

?歳/男性

:合衆国海兵隊少尉。国連軍軍政監察官。カトリック神父。解放の神学を奉じる。アフリカ系アメリカ人。


【ゲスト】


村娘:「第80部分 初めての地球人類」から登場。野盗の犠牲者の一人。


元貴族の少年:「第86部分 鏡の中の向こう側」から登場。十年前に滅びた旧王国時代の貴族、その血縁らしい。



上官に意見するような部下がいたら、除隊させましょう。

銃後で生産させていた方が役に立ちます。


部下に説明するような上官がいたら、出世させてあげましょう。

遺族のためにも年金が増えるのは良い事です。


隷下部隊に許可を与えるような上級司令部は敵の爆撃を誘導すること。

上申に対する返答は却下か命令です。




【太守領南端/森林境界線/軍政司令部戦闘部隊本陣】


「HEY!!!!!!!!!!ME~~~~~~~~~~N!!!!!!!!!!」


俺を揺るがす神父のマイクパフォーマンス。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マイク?


わざわざ手持ちマイクでポーズをとる神父。目の前の

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・聴衆?


やっと我に返り、まあ、視覚聴覚が回復した逃亡農民の皆さん。


彼らに水や食事を配布し、顔面頭部流血中な方々、さらに森の中で怪我をしていた人、にマメシバ流治療を施す村人たち。


後者がいわゆる予備戦力。


スタングレネード炸裂時点では、かなり離れた林のなかで待機中。一緒にいたマメシバ三尉いわく、爆音で逃げ散った人たちもだいぶ戻ってきたとか。


わかるわ――――――――――直に喰らった俺が一番わかる。


離れていても、あんな音と光がしたら逃げるよね。そんなこんな、な現地住民を前に神父がシャウト!


「Ye Not Guilty.

――――――――――――――――――――――――――――――OK??????????」


あ?マイクを突きつけられ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺かよ!!!!!!!!!!




【太守領南端/森林境界線/青龍騎士隊/本陣/青龍の貴族の後】


「汝らの罪を否認する」


青龍の道化、響き渡る宣言。

逃亡農民達は皆、固まって、あたしたちを見た。いや、青龍の貴族を見た。彼は立ち上がり、皆を睥睨する。


「そのまま聞け」


四周から響く、青龍の貴族、その命令。

手に手に椀を持ち、傷を繕われながら、固まる113人の逃亡農民。彼らの間を走り回っていた村娘たちも凍りつく。


――――――――――そのまま?


介抱し、介抱され、水や温かいスープを渡して受け取って

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・皆、固まる。


そのまま、とは、静止しろ、という事じゃない。

それは皆、解っている。


いるのだが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・威圧感で周りを凍らせる、青龍の貴族、を前にして、飲んで食べて介抱を続けろ?


片手間に話を聞けばいい?





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本気だとは、わかる。



青龍はいつも本気。

青龍にとっては、いつもと同じ。

ただ効率がいいから、そう在れ、と命じている。


――――――――――それだけ。



善意も悪意も、っていうか、青龍の貴族にそんなせせこましいモノはないから、害意?もない。


長期間の原始生活で疲弊し、今、ある意味でトドメを刺された逃亡農民達。

何年ぶりかでまっとうに調理された食事を得て、怪我を治療されている彼ら。

だから、そのまま食べ続けて、治療されていていい。


もしかしたら彼

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・青龍の貴族なりに配慮しているのかもしれない。


でも

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――皆には、絶対に、伝わらない。


聞き逃したら、従えなかったら、誤解されたら

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――皆殺し。


ううん、皆、どころか村も、村々も、邦さえ消される

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今から話し始める、青龍の貴族、その判断で。



ここにいる皆が日々、思い知らされている。


特に、青龍の貴族が操る龍に追い回されたあげく、全員一撃で叩き伏せられた逃亡農民達には。それなのに、それなのに。




――――楽にして聞け――――――




それは提案じゃない

――――――――――――――――――――命令。


不可能じゃなく誰にでも出来る。可能なのに誰にも出来ない。



なら、やれ

――――――――――――――――――――あたしは、頭が痛くなった。




世界中で一番、恐ろしい青龍の貴族に、気楽にしろ(しないと殺される)、と命令される(実行出来ないと殺される)。


言われた皆が固まる以外ありえない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

毎回毎回、どうして、解らないの!!!!!!!!!!


貴男が命じるからこそ、誰にも出来ないのよ!!!!!!!!!!


まったく

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そういう、無頓着なところも、まあ、嫌いじゃなく

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大好きだけど。



――――――――――青龍の貴族は、自分を何だと思っているのかしら?




【太守領南端/森林境界線/軍政司令部戦闘部隊本陣】


エルフっ子が俺を何だと思っているのか、よくわかる。俺は、また、何かやらかしたらしい。


昔の人は言いました。眼は口ほどにモノを言う。まったく正しくその通り。コレはアレだね。俺から視線を逸らさずに、バカを見る目なエルフっ子。


俺はそーいう趣味は無いんですが、神父は喜ぶかも

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ジェスチャーでアピールしながら、エルフっ子に完全無視されて感極まる神父。


俺を置いて先にいけ、後から行ったりしないから。



エルフっ子の切れ長な眼に長い睫と緑の瞳、シャープな口元に浮かぶ呆れか蔑みに背筋をゾクらせたりいたしません。

決していたしません。


大切なことなので二回思いました。


その筋の人たちにはたまらないでしょうね、と思ったのは一般論です。

ドM世界の一般論??????????




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チガイマスヨ。




【太守領南端/森林境界線/青龍騎士隊/本陣/青龍の貴族の前】


ご主人様の沈黙。

わたしはご主人様を見上げようとして、止められました。髪を撫でてくださる、ご主人様の大きな手。わたしに教えてくださいます。



何が望みだ?




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ご主人様は望まれない。


ご主人様の顔色一つに一喜一憂している、わたし。わたしが自分の望みを我慢する事は、ご主人様が禁じられている。

禁を破れば、ご主人様が、わたしを、みてくださらな・・・・・・・。



ちいねえ様が、わたしの背中をさすってくださいました。いけません、いけません。気を失ってしまいました。余計なことを考えちゃだめです。それこそ、大変なことになります。


だから、わたしは、一歩前に出ました。ご主人様を見てしまうと、何もできなくなります。

だから、振り返りたい・・・・・・・・・・・・・我慢します。


ご主人様が不快になるかもしれないけれど、わたしは望み行います。だって、わたしは、どんな命令でも、それがご主人様の意思であるならば従いたいのですから。


逆らえ、と命じられるなら・・・・・・・・・・がんばります。


だから。

わたしは、ご主人様を見上げずに、もう一度我慢して、前を見ました。

うぅ・・・・・景色が滲んで・・・・!!!



――――――――――みなさんが、凍りついて、ご主人様を伺っています。



それはご主人様の意志に反すること。

そのせいで皆さんが殺されることは、わたしに堪えがたいこと。



わたしは大慌てで皆さんにお願いします。


言葉に出来ません!!!!!!!!!!

解ってください!!!!!!!!!!

死んじゃいます!!!!!!!!!!


殺されないようにしてください!!!!!!!!!!

どうか!!!!!!!!!!




【太守領南端/森林境界線/青龍騎士隊/本陣/青龍の貴族の左】


わたしは、あの娘の背中を支えます。ご領主様から一歩前に出た、出ることが出来た、あの娘。おねえさんとして、心に染み入ります。


ねえ様も・・・・・ご領主様を見ていらっしゃいますね。すごくうれしそうに。まるで・・・・・・わたくしたちを見るときのような、優しい視線。


わたくしたちを信じてお任せいただけるのはうれしいですけれど。今夜、ご領主様とおやすみになる前に訊かせてもらいましょう。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それに引き換え、この人たちは、何をしてるのかしら!!!!!!!!!!




【太守領南端/森林境界線/青龍騎士隊/本陣/青龍の貴族の後】


皆の姿勢が変わった。

あたしは横目に二人を見る。


胸の前で手を組み、涙目で哀願するあの娘。

人形のような風貌で、鋭く睨みつける妹分。


村娘たちはおろか、逃亡農民たちまでが妹たちに従っている。


あの娘の頷きで動き、妹分の視線で止まる。

かくして皆がたどり着いたのは


――――――――――食べてるフリ、飲んでるフリ、介抱しあってるマネ。

一人残らず、全身全霊で、耳だけは青龍の貴族に注目。

妹たちの、無言の指示を常にうかがいながら、完全に従って。




【太守領南端/森林境界線/軍政司令部戦闘部隊本陣】


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これ以上、気を使わせるわけにもいかない。


俺は逃亡農民達への布告を進めさせた。伝えるのは神父、頷くのが俺。これも軍政官規定による演出だ。



「ひとつ!帝国時代に犯された叛逆罪は、今この瞬間以前のものに限り否認する」


農民が村を棄てる跳散は、代表的な叛逆罪だ。江戸時代だってそうだった。異世界でもそうみたいだ。居住の自由なんぞ中世には成立しない。

領主の都合じゃなくて、労働集約型の農業が主産業である以上、労働力確保は全員の生命にかかわるのだ。


ただし、司法に属する違法判断は変えずとも、行政に属する罪状認定は否定できる。

それで、新体制を規定する。


いや、帝国に代わる体制出来てないけどね?


現地代表一人の

One of The Girl Government


・・・・・・・・・いえ、俺のせいですけどね?



逃亡農民さん達は、

帝国どうなったの??????????

って様子だけどね?



「ひとつ!貴様等には新しい名を与える」


これにより、古い名に基づく負債や罪科と、彼ら自身は分離された。


政治犯罪以外の罪や借財他、帝国施政下にてその領域に居られなくなった理由を消したりはしない。慣習法とはいえ、刑法や商法の原則を曲げると厄介だ。


今後、誰もがそれを期待する。期待の分だけ、信用信頼の関係が弱くなる。信、それは社会そのもの。それが揺らげば社会不安を生む。


だから、書類上の分離で始末する。


別の人間となった彼らは出身地にも戻れないし、地縁血縁も失う。村八分以上、ミニマムな共同体に守られ依存している中世社会。名を失うのは、人間を止めたに等しい。


普通の生活を営める人間は、ソレを期待したりはしない。

ニートが一人、ぬくぬくと、世界と全人類に、心からの感謝を込めて祈りながら、ラクラク生きられる近代社会とは違うのだよ。


そんな選ばれし民に、俺はなりたい!!!



「ひとつ!現地代表が名を与え、軍政司令官が保証する」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かくして彼らは、魔女っ子の民となった。


名を与えるのは、身元を保証することだからだ。

俺がやれ!って話だが、不穏分子を軍属には出来ない。やったとしたら、軍事参謀委員会の介入を招き、破綻する可能性が高い。


だから、魔女っ子の名前を混ぜる必要があった。



俺は立ち上がる。

皆の注目を集めてから、言い切った。


「意味はわかるな」


お前たちの身元引受人は、子供じゃない。

俺だ。


俺のベレー帽の青を見ろ。

国際連合の紋章を見ろ。

魔女っ子に感謝して、俺たちに震え上がれ。


せいぜい、ドスが効いて聞こえているといいが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お腹痛くなってきた。

早退していいですか。

早退すべきだと思います。

病気休職なんていかがですか。




【太守領南端/森林境界線/青龍騎士隊/本陣/青龍の貴族の後】


あの娘の両肩を支える、包む青龍の貴族。あたしは皆を見た。


「以上。受け入れ期限は次の新月までとする」


逃亡農民たちは一度、森に帰る。ここにいない連中と話し合って決めるように命じられた。大半は狩り出されたけれど、まだ十数人は森にいるらしい。


震えて動けなかった者、怪我や病気で隠れる以外に出来なかった者。恐慌状態で、危険な獣が多い森の奥に逃げてしまった者

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・生きてるかどうか。


生きてれば、戻ってきた連中と話し合って決めるでしょうね。



連中には選択肢などないけれど。



大半が痩せこけた体、ボロボロでもあれば上等な衣類、慢性的な飢え。

人目を忍んだ原始生活、その果てには何もない。


野盗として出てきたヤツらは、比較的、体が丈夫だったけど。逃亡農民の中でも仲間から獲物を奪って、体を維持できた連中だったみたいね。


みな文明世界に戻れるなら、もの乞いにだってなるでしょう。そして戻るなら、青龍の命令に従う。これも従うかどうか、じゃなくて、選択肢なんかない。


青龍がしつらえた場所にしか、太守領に彼らの居場所はない。



仮に生地が残っていても、村を捨てた彼らは、もう村には戻れない。いや、村が繋がる地縁血縁の範囲には、命が惜しければ近づけない。


村の、村々の一体感はそれだけ強い。

裏切り者は赦されない。


新しい名前を得てもなお、近づけまい。



彼らは事情に、青龍の施策まで理解し尽くした、この辺りの村々に預けられる。ここで健康を取り戻してから、分散して各村々に加わる。


幸いに、彼らの中に、ここ太守領南部辺境の出身者はいなかった。


まあ、逃げるなら出身地から遠くを目指すわよね。

森から周辺で強盗や盗みをしていたような、村々に迷惑をかけていた連中は野盗として殺されている。



ただでさえ人手不足なおり、野盗騒ぎで農作業が遅れた村々。

ここなら必要とされるし、ここなら青龍の威令が骨の髄まで叩き込まれているから、粗略には扱われない。後は、村の長たちに任せておけば何もかもひとりでに進む。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・帝国が十年で積み重ねた問題。

それが、三日とかからずに、片付いた、わけね。




【太守領南端/森林境界線/軍政司令部戦闘部隊本陣】


俺は空を見上げた。涙が零れないように。

下を向くとシスターズの小さい二人から感じる、何故か溢れる感心と賛美の眼差し。


それも居心地悪いけどね?

だからといって誉められたくない罵倒されたい蔑んで!!!!!!!!!!

な、訳がない。


欲のかけらもない無垢な瞳が痛いだけです。

無邪気にじゃれついてくる子供たちの前で、大人のお芝居って辛いよね?

恥じてはいないが、なんかね?

でも、続けるけどね。

神経性胃炎かな?



労災申請していいですか。




【太守領南端/森林境界線/農民達の間】


青龍の貴族が妹たちをみている間に、あたしは周りを見て回る。彼が見えないところを、あたしが見ておけば

――――――――――そう!!!!!!!!!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よく思われたいのよ!



立ち上がる気力も挫かれて、腹を満たし、そして森の外がどうなったのか聞く逃亡農民たち。

彼らに応え答えるのは、例によって最初に野盗達から助け出された村人たち。


逃亡農民達を追い立てるまでは、離れた林の中に隠れていた。こちらの人数が多いと、逃亡農民達が森から出てこないかもしれないし。


普通に考えれば、案山子でも何でも立たせておいて、数で威圧して服属させる

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな迂遠なやり方は、青龍の発想じゃなかった。



刃向かう相手を圧倒的な力で殴りつけて、二度と顔を上げられないように躾る。

青龍の貴族がやって来て、たった半月程度。


太守府で、港街で、農村で、神殿で

――――――――――いつもの。


百やそこらの暴徒をたたき伏せるだけなら、青龍の貴族一人だけで十分。

だから村人たちは、最初は数に入れられていなかったのだけれど。



神殿から、あたしたちが移動するとき。

何も言われないうちから、手伝いを申し出てきた。青龍の貴族は黙殺、つまり、承認。それを見た、聴いた、他の村々の長たち。次々と加勢を申し出て、平伏。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当に、何をするか、あたしたちすら教えられていないのに。

何を手伝うつもりだったのやら。


まあ、加勢組は、爆音閃光で逃げ出したけど

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そろそろ、戻ってきた?



みんな変わった。たったの数日、ううん、一晩で。

村人たちの目。


半月前、帝国時代は恐怖と諦観。

今、青龍の貴族に出会った後

――――――――――二つに分かれ、ううん、別れた。



村の長たち、大人。

若者、男たちは労役から帰っていないから、娘たち。



大人は

――――――――――恐怖と怯え。


若者たちは

――――――――――恐怖と憧憬。



まるで炎に飛び込む羽虫のように。





「騎士殿」


喉に軽く蹴りを入れると、仰向けに倒れてせき込んでいる。慌てて駆け寄る村娘は、最初の村で、青龍の貴族に、最初に救われた娘。

仰向けのバカの、喉を支え空気の通り道を確保してる。ふーん、マメシバ卿の教えた通り。すごい適性、かも。


あたしが待っていると、ひっくり返っていた、つまりはあの村で青龍への仕官を求めてきた彼は起きあがり、頭を下げた。


「申し訳ありませんでした」


その名で呼ぶな、って言ったのは、覚えていたみたいね。その通りにできないあたり、適性はなし、と。何しに来たのやら。


「わかりました」



「もう貴族は滅びたのですね」


ずっと、少ない男手として、あたしたちについて回る村人たちを助けていたけれど。どういう風の吹き回し?

お家再興をあきらめたのかしら。


「あの方を見れば、わかります」


それが誰とは言わない。ご領主様、と言うことすら、はばかる。


「税もいらず、騎士もいらない、貴族なんて思い出されもしない」


――――――――――――――――――――この国ができたときは、そうだったのよ。


「自分は、自分の代で家を終わりにします」


ただ殺された親の代わりに、終焉を飾る。あたしだけにそれを伝えるってわけ?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・らしいじゃない。


「この国には一人が、ただ一人がいればいい」

「一家族!・・・・・・・・だと思います」



村娘が、突然割り込んできた。家族なんて言葉は、王家でないとつかわないものなのに。驚いて娘を見た少年が振り返る前に、あたしは立ち去った。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――あたしの表情を、誰かに見せるわけにはいかないから。





※家族という概念が普及する以前は王家でさえ、その言葉を使ったか疑問が残る。貴族でも「一族」という言い回しが一般的。一般庶民では「家」という概念すら富裕層のみ。村々であれば「村」が集団の最小単位。



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