言葉の正しい使い方。
【登場人物/三人称】
地球側呼称《カタリベ/歴史家》
現地側呼称《青龍の史家》
?歳/女性
:地球側の政治指導者が定めた役割。すべての情報へのアクセスを許可されており、発表を禁止されている代わりにどんな情報も入手可能。軍政部隊に同行しているのはジャーナリスト志望の大学生。
初登場は第11話「幕間:自由と民主主義のために」
転進。
単語を聴いたことはある。
言葉を理解しているかな。
では、考えたことは。
・・・・・・・・・・まあ、そんなものか。
知らないと知らなければ騙される。
もちろん。
君のせいだ。
考えれば騙されなかった。
我が身かね。
教えられた身では誇れん。
伯父は佐官でな。
参謀本部陸地測量部に所属していた。
もちろん現役の。
死ぬまで同じ任務を果たしていた。
元職にされるような愚鈍ではなく、役目を転じる理由もなかった。
まあ平均的な職業人の常。
敗戦後も、だよ。
帝国軍。
郷土防衛義勇軍。
白団。
ラオスから帰って死ぬまで。
日本に記録は無い。
自称じゃないか?
ありそうだな。
だが、誰にでも調べられる。
国立公文書記録管理局に記録文書がある。
ああ。
連邦の特徴だな。
情報開示を求められたとき、誠実に応えるだろう?
何処の何時の情報か特定されない限り見つからない日本とは違う。
関係あるかもしれない資料を倉庫一杯渡して潰す!
膨大な資料の選別だけで人手と時間と金を費やさせる。
必要な資料が無いと確認して諦め無ければ繰り返し。
特定が出来ないから幾らでも資料を積み増せる。
隠蔽とは斯くあれ。
隠すべきは公にすべし。
危険も苦労もない。
誰も調べない。
誰もがそうあるように。
インターネットの様な物。
隠さなければ知らしめない。
異世界侵略戦争の様にな。
知識?
情報?
いや、そんなレベルでは無い。
無数の羅列。
全てを把握出来る者はいない。
取捨選択は全て好み。
新しい知見ではなく元々の偏見を積み重ねるだけ。
執着と妄想すら生まず、在るモノを補強し、鏡の部屋を見出だし、固定固着させる為にだけ有意。
欠陥品にはエデンの園。
一般的にはカルトの巣。
考える者には全科辞典。
公文書館も同じ。
価値を識る者にだけ開かれた金庫。
資料の森こそ書類の隠し場所。
伯父の記録は其処に在る。
もちろん。
記録など当てにはならん。
あくまでも整合性の問題。
そう考えると辻褄が合う。
そんなところだ。
さて。
辞書の話だったな。
伯父は最前線の一歩前後に居た。
先駆けではない。
殿でもない。
だから転進の実行者。
そも常識だな。
知らずとも考えれば。
退却戦の常道。
殿を置く。
本隊は逃げる。
殿は全滅。
玉砕と言おうか。
放置されても、かまわない。
避ける分、進路が長くなり時間を稼げる。
玉砕なら最高だ。
敵を殺せる。
より大切なのは、敵の戦い方が判る。
水際防御より縦深防御。
水平縦深より垂直縦深。
陣地戦なら火力より肉弾。
隠蔽し当たらなければどうということはない。
各地の玉砕は大戦果だった。
科学者が言うだろう。
判らないと解った。
次に移行。
真理の探求は虱潰し。
なんの役にも立ちませんでした!
――――――――――科学者や軍人なら大喜び。
素晴らしい戦果。
地雷源を処理したようなもの。
そちらは安全だ。
他の方法を試せるじゃないか。
――――――――――軍事は科学なのだからな。
そしてそれすら余儀に過ぎない。
味方の本命は転進すること。
敵と味方。
強者と弱者。
敵の本命は、退かせること。
互いに犠牲を最小限に抑える為。
退く。
進む。
向きは同じ。
距離も同じ。
タイミングも。
スケジュールも。
時折は、勝者と敗者の共同作業。
7月までを目指して。
よくあるよな。
欧州大戦後半。
末期じゃない。
短く見積もって中期以降。
連合と枢軸。
両軍は共犯関係にあった。
勝利は無い。
誰にでも解った、頃合い。
開戦一年目の結論。
戦場では勝てない。
敵味方上下も確認。
そのまま何年〃〃。
全てを失って、後に残された問題。
政軍高官どもが、責任を逃れられるかられないか。
だから、講和構想が失敗し続けた。
それが戦場に押し付けられた。
誰が引き受けるものか。
だから、両軍はストライキとサボタージュ。
数十万単位の軍が命令を無視。
進まず。
下がらず。
一度下がれば前線に戻らない。
空気を読まない米軍が来やがるまで。
自給も出来ない枢軸が自壊するまで。
互いに協定など結んでない。
話し合いも無い。
互いの状況も知りやしない。
呼吸だよ。
向き合えば解る。
だから、だ。
同じ様に。
同じ時期に。
同じ者たちが。
同じこと。
太平洋戦争でも、いつものこと。
開戦前から解った。
日米共に、何一つ手に入らない。
米軍は欧州で思い知った。
日本軍は大陸で知り尽くした。
消化試合で問われるのは、指導者どもの首だけだ。
そんなくだらない物しか懸っていない。
誰が戦う?
マゾでも殺るか!
だから始まった無気力試合。
太平洋戦争後半。
繰り返し。
進む米軍。
退く日本軍。
呼吸だよ。
殿の玉砕はアピール。
最小限の犠牲。
互いの国家へ。
講和を受け入れる為。
自分の首を死守する高官たち相手では、なく。
兵士が死ぬぞ。
勝ってるのに。
負けてるから。
後は日本列島まで。
下がればいい。
日本列島手前まで。
進めば終わり。
なかなか終わらせないから、フィリピンで戦って観せる。
おかしなことに、まだ諦めないから沖縄で最後の見世物。
本国本土が諦めない。
しつこいから米軍総出で反対。
誰が日本列島までいけるか!
日本軍は本土決戦を大アピール。
転進中に引き揚げた兵力全て。
沖縄で死闘を観せた。
・・・・・・・・・・大反対を圧しきって原爆投下。
それはそれ。
三発目を廃棄したさせた上で共同アピール。
本土決戦反対!
――――――――――死なずに済みたい米軍の方が必死。
空気を読めない霞ヶ関が帝国を売り飛ばして保身を買うまでは。
ある意味、本土決戦。
一億人の異民族の中に入る羽目になった米軍が頭を抱えた。
破綻寸前自転車操業の予算の中、速く行って速く帰らねば生きては帰れない。
誰も誉めない。
誰も儲からない。
誰もやらない。
・・・・・・・・・・マッカーサーに押し付け。
せっかくの花いくさが、ぱー。
こんなモノは、戦史上、珍しくもない。
いや、ぱーのほうじゃなく。
実践戦争ごっこ。
欧州。
双方合わせ兵四万。
天下分け目の大決戦。
死者一名。
落馬による。
いやはや。
落馬だった、のやら。
兵数倍増し上等の大陸。
馬上貴族、将が討ち死に大激戦。
一騎討ち、名勝負により講和。
なぜ、そういうことにしなかった?
見映えがいいのに。
いつもの手口。
出来なかった。
空気を読めない跳ね返りが殺ってしまったんだろうさ。
だから落馬。
全員が口を揃える。
報復だけは勘弁な!
室町時代。
花いくさ。
形式を守る為、出兵。
兵站で赤字。
勝って得られる物が無ければ。
――――――――――戦っているフリ。
挙げて行けばキリがない。
パールハーバーの様に。
インディアナポリスの様に。
硫黄島の様に。
沖縄の様に。
「二つ目の首の様に」
※第10話〈冬の日。春の日。〉より。
そして夏の日、秋の日の様に。
もちろん、呼吸。
証拠や証言など残さない。
あやしまれた記録がちらほら。
資料が無ければ存在しない。
「学者を称するギークには」
スターリニズムにとっては。
「わざわざ証人を造らなければ」
敵味方の共同作業。
どちらも同じ敵味方。
上に奉公をアピール。
下に努力をアピール。
時間を潰して帰る。
時々、領地や利権を譲り合う。
後ろから撃つ。
前から撃たせる。
味方を守る為に味方を殺す。
味方を殺す為に敵を生かす。
軍人の日常、いやさ、役割。
それこそが、お互い様、さ。
「帝国軍にも当てはまると」
軍は軍同士というわけだ。
《誰にでも読めるが誰も知ろうとしないよくあるカタリベの記録/2050年HP公開》
「合意に達しました」
「財務省はゴネそうですが」
「いつものことだ」
「約束など守るまいよ」
「異世界渡航だけは断固拒否」
「人手は出さずに口は出す」
「本土を抑えるつもりか」
「金融庁を全てとか」
「国外追放かよ」
「危険を犯したアリバイ造りです」
「殺されたら儲けもの」
「粛清」
「金融機関なぞ無いぞ」
「だから邪魔にならない」
「手足が無ければ伴食だ」
「手垢だけ着ける気か」
「仕方ない」
「法務省は」
「国内だけで十分かと」
「検察は大丈夫か」
「おそらく」
「機動隊やマスコミへの命令もあるんだぞ」
「国連は」
「公用語対応だけじゃなくディベートも出来る通訳が要る」
「内政干渉と理解させれば十分」
「その程度、法務省や外務省には無理でしょう」
「文部科学省に回してやれば暇人を見つけるだろ」
「縄張り争いも任せておけ」
「なんでもいいから日程を早く出させろ」
「8月の初旬、の何日かですね」
「告示は決まっているから投票日前の一週間以内から3日前までにな」
「タイムスケジュールはTV新聞の校了に合わせろ」
「原稿は出来ていますが」
「修正したくないだろ」
「アドリブなぞ出来ん輩だ」
「後でな、次」
「文部科学省」
「通訳はオマケだぞ」
「学校から納税不可能予定者リストは出してます」
「税務署が使えれば良いものを」
「使えば予算を減らしにかかりますよ」
「処分が軌道にのれば出してくるさ」
「最初は万単位でかまわない」
「毎年更新出来ます」
「追跡調査を始めさせて深掘りも成功しました」
「農林水産省は余剰農業関係から供出させるそうです」
「機器だけじゃあるまいな」
「互選で出させるそうで」
「形はまとまるか」
「厚生労働省は人材派遣会社が何人でも出します」
「ただ防衛省と揉めています」
「リストが役にたたなかったか」
「そもそも使える奴なら前線ですから」
「最低限でいい」
「訓練と纏めだけてかまわん」
「そもそも戦後の話だ」
「失業自衛官を買い叩けば済む」
「失業させてからでないと」
「今は形だけ」
「その防衛省と国土交通省は」
「協定書にサインしました」
「物資輸送は一段落しましたから、空きスペースに詰め込めそうです」
「やってみてから、だな」
「いずれにせよ異世界沿岸部は水死体で一杯ですから」
「場所による」
「場所を選べ」
「環境省が事業社を紹介出来るそうです」
「日本に在るのか」
「本社が消えた海外企業がいくらでも」
「経済産業省」
「経団連任せです」
「日経連は」
「最後は付いてくるでしょう」
「曖昧だな」
「書面は幾らでもありますが」
「まとめるとそれか」
「約束はさせました」
「具体的に書いたな」
「書きすぎて嫌がられました」
「自信があるのかないのか」
「書かせましたから」
「外務省は異世界大陸局を譲りません」
「明言するだけマシだな」
「異世界交流審議会を造りますが国際協力局は研修所に出すだけだそうで」
「よもや公館を造る気ではあるまいな」
「日本異世界交流協会」
「素人どもが冗談じゃない」
「国家と匂わせるようなことは許さん」
「今のところは日本異世界交流準備協会だとか」
「外務省の名前か絡むだけで不味いのだ」
「まるで国家だとイメージされてしまう」
「しかし外国が無くなりましたから仕事がなく」
「東京ドームに引っ越させろ」
「立ち入り禁止です」
「日本国外務省が国際社会から出禁か」
「いつものことでは」
「本国が消えた後進国は、むしろ喜んでますよ」
「国際連合なら仕事がいくらでもあるからな」
「オブザーバー参加で納得してますよ」
「条約の文章が雑では国会で吊し上げられる」
「条約は禁句」
「申し訳ありません」
「各省庁に徹底させろ」
「はい」
「これは講和じゃないぞ!休戦だ!条約じゃないぞ!協定だ!現地武装勢力との合意だと毎日言い聞かせろ!だから国会の批准も必要ないからな!」
「異世界人の前では言葉にするなよ」
「魔法翻訳、か」
「合意したから話さずに済む、訳じゃない」
「意訳されたらバレてしまいます」
「全く外交にならないじゃないか」
《東京都千代田区霞が関2-1-2中央合同庁舎第2号館 8階〈植民地省改め異世界開発事業団設立準備委員会〉会合音声記録/Webアーカイブ登録後更新無し25年経過》




