大食堂のホットケーキ
私がまだ小さかった頃。
お中元やお歳暮の時期には、梅田のデパートに行って、帰りに大食堂でごはんを食べさせてもらえる、というイベントがありました。
皆さんは『デパートの大食堂』って覚えていらっしゃいますか?
昔、大きなデパートの最上階付近には、ワンフロアぶち抜きの大きな『大食堂』があり、そこでは和洋中なんでも食べることが出来ました。
子供にとっては、とっても貴重な外食の機会。
思い出のメニューがたくさんありますが、今思い起こして印象深いのが、母がよく食べていたホットケーキです。
大食堂のホットケーキはふんわりまんまる、表面はこんがりとしたきつね色。
いかにもあったかそうで、あま~い香りがします。
それになんといっても、憧れの二段重ね。
バターナイフで塗るタイプのマーガリンではなく、ちゃんと四角いバターがのっています。
そして一緒に運ばれてくるのは、完全に未知の飲み物であるアイスティー。
明らかに、おうちでたまに作ってもらうホットケーキとは別の食べ物です。
と、こんな風に書きましたが、実は私、大食堂のホットケーキを食べたことはありません。
子供の頃の私が頼むのはたいていお子様ランチ、たまにグラタン、まれにスパゲッティ。
食い意地の張っていた私は、メニューと10分以上はにらめっこをして、両親を呆れさせるのが常だったりしました。
そんな中、一見地味なホットケーキにサッと注文を決める母の姿は、遠い遠い『大人の姿』です。
そういうわけで、私はその存在が気になりつつも、結局大食堂でホットケーキを注文することなく、大人になったのでした。
ところで、実は私が住んでいる場所からそう遠くないところに、今も昔ながらの『大食堂』が残っているデパートがあるそうです。
ここは1つ、憧れ? のホットケーキを食べに行ってみましょうか。
おそらくですが、その決意はメニューを開いて数秒で消えるでしょう。
いや、待てよ?
いっそ、何かの食事メニューを頼んで、デザートにホットケーキというのは……
当時と違い、お会計をするのは自分です。
きちんと食べ切れさえすれば、誰も文句を言う人はいません。
そんなことを考えているあたり、子供のころに思い描いていた『余裕のある大人』は、まだまだ遠いところにいるようです。




