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【書籍化&コミカライズ】冒険者アル -あいつの魔法はおかしい  作者: れもん
第8話 テンペスト墓所再び

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8-5 騎士団での祖父 そしてグリィ

「そうじゃな、ディーン殿は一言でいうと不思議な人物じゃったな。儂が騎士団に配属された20才ぐらいのときには、おそらく40才ぐらいだったじゃろう。騎士団の魔法使い部隊に居られたのじゃが、気さくな方でなぁ。他の魔法使いの連中は儂ら若造を見下した様子であまり話もしなかったが、あの方だけは儂らと一緒に食事もするし、酒も飲む。全然違っておった」


 デュランが懐かしそうに言う。


「おう、儂は娼館に連れて行ってもらったこともあるぞ。ひひひ」


 ヒースは、そう言ってにやにやとした。アルは祖父の騎士団時代の話を初めて聞き、目を丸くした。祖父からは騎士団に入る前の冒険をしていた頃の話しか聞いたことがなかった。当時の騎士団の話を2人は上機嫌で酒を飲みながら話をしてくれた。アルは肉を処理しながらそれを聞いた。2人の話からすると、アルの祖父はかなり砕けた人物であったらしい。


「魔法使いが活躍した戦いもあったのですよね」


 アルが尋ねると、デュランはすこし戸惑いながらも頷いた。何か悪い事でも聞いたのだろうか。


「そなたが言っておるのはグラディス平原の戦いじゃな。長いテンペスト王国との争いのなかでの最後の大決戦。あれに勝利したことで、国境都市パーカーが築かれ、最終的に長いテンペスト王国との停戦がなされたと言われておる。その時の戦いでは魔法使いの部隊が幻覚を出して敵部隊を混乱させ、それが勝利の要因となったと言われていた時期があった」


 そこまで言って、デュランは酒の杯を持ち、ごくりと飲んだ。赤ら顔がますます赤くなっている。ヒースもすこしフラフラしていた。2人ともかなり酔っぱらっている感じだ。


「魔法使いであるそなたには納得がいかない話かもしれぬが、その後、騎士団の中では、魔法はきっかけに過ぎず、最後に突撃をした騎士団長が勝利の要因だったという事になっておる。儂はまだ一介の平騎士だったころの話だったのでな。実際の事はよくわからぬ」

「戦勝パレードのときのドラゴンの幻覚は迫力ありましたなぁ……。戦っている途中にあれが空からいきなりきたら、大混乱になるだろうと皆で頷き合っておりました」


 ヒースが呟くように言う。エリックはたしか20年ほど前の新年の祝いの時のパレードと言っていたが、そのことだろうか。グラディス平原の戦いというのはたしかにアルも学校で習った記憶がある。王国暦147年、今から25年前の出来事だ。


「すっかり忘れておりましたが、そういえば、当時、騎士団の中でも噂が流れましたなぁ。まだ継承前で騎士団長を務めておられたチャールズ・レイン、今の辺境伯と、当時騎士団の魔法使いを率いていて、今は引退されたヒュー・ユージン子爵が話し合って功績を騎士団長に譲ったのではないかと……」「おい、そこまででやめておくのじゃ」


 ヒースがそこまで言ったところで、デュランが遮った。


「すまぬな。酒の上での戯言じゃ。忘れてくれ」


 真剣な顔をしているデュランにアルは頷いた。すこし醒めた雰囲気が漂う。


「もう少し、肉焼きますか?」

「いや、すこし2人とも酔いすぎたようじゃ」


 アルが慌てて言ったが、2人は立ちあがった。


「じゃぁ、儂らはそろそろ寝る。美味しかった」

「はい、おやすみなさい」


 近くのテントに潜り込んでいく2人の姿を見送りながら、アルはまだ残っている肉の加工作業に戻ることにしたのだった。


-----


 翌日、夜遅くまで作業をしていたアルが目覚めた頃には、すでに2人は川のほうに出かけていたようだった。朝から川を掘って温泉を楽しんでいるのだろう。アルはひとりで昨日の残りの肉シチューとパンで朝食を終えると、干し肉にかけた網を確認し、以前に宿泊施設となっていた洞窟に向かった。


 洞窟の入口、岩の崩れたところには、木の棒と藁紐で塞がれていた。地震で崩れた洞窟である。危険ということだろう。アルはそれをくぐり、崩れた岩の隙間から中に入る。中にあった宿泊設備のうち、シーツなどの持ち出せるものは既に持ち出されていて、大きな家具だけが残っているような状態であった。しばらく行った奥にある下の墳墓へ続く裂け目は、アルが他の人に見つからないように岩を積み上げたそのままの状態で残っていた。


 闇の中を知覚強化(センソリーブースト)したアルはカモフラージュ用の岩を肉体強化(フィジカルブースト)をした筋力をつかって動かし、再び墓所を守るゴーレムがいる部屋にロープを使って降りた。ゴーレムは最後に出てきたときと同様、部屋の真ん中でじっとテンペストの墓室に通じる出入口とは反対の壁にある閉じたままの石の扉をじっと見つめたままだ。


 アルは胸元のグリィが宿るアシスタントデバイスを軽く握った。


“どうしたの?アリュ?”

「ううん、なんとなく。以前は色々と忙しくて考える暇もなかったけど、ここもおじいちゃんが言ってた古代遺跡だなって思ってね」


 双子の妹、イングリッドが帰ってこないと悟った後、祖父は今彼の胸にあるアシスタントデバイスをくれた。当時は用途不明な魔道具としてであったが、それからずっと思いを込めていた結果、まるで双子の妹、グリィ、イングリッドの魂がここに宿ったかのように話をすることが出来る。


“そうね。おじいちゃんの言ってた……古代遺跡”


 グリィは本当にたんなる魔道具に宿るだけの存在なのだろうか。会話をするたびにわからなくなる。


“ね、すこしだけ話していい? いつもだと、話をしているのを見られると困るっていうから、あまり話しかけたりしないけど”

「うん」


 アシスタントデバイスの声はアルの耳に直接届くので他の人に聞こえることはない。なので、それに応えるアルの言葉は何もいないところで1人喋っているように見えてしまう。なのでアルはグリィにあまり話しかけないでほしいとお願いしていたのだ。だが、ここは他の人がいるはずのない墓所の中である。話していても大丈夫だろう。しかし、いつもなら何も話をしないグリィが今日はどうしたことなのだろう。


“パトリシアにあの指輪をあげるのはやめておいたほうが良いんじゃないかな”

「えっ?」


 まったく予想外のグリィの言葉にアルは思わず大きな声をあげた。


“パトリシアはテンペスト王国のお姫様。アリュとは違う世界の人でしょう”

「うん、それはそうだね」

“指輪をあげたら、私なら求婚されたって思ってしまうと思う……。ね、今、アリュの胸がすごくばくばくしてる……。どうして?”


 アルは自分の胸に手をやった。たしかに彼女の言うとおりだ。グリィのアシスタントデバイスは、アルの目を通して周囲を見ているというのは以前に聞いていたが、このような事までわかるのだろうか。


「な、なんでもないよ」

“だから、指輪はよくないと思うの”


「うーん……わかった。考えておくよ。とりあえず、マラキのところに行こう。このゴブリンメイジが持っていたアシスタントデバイス。これがどういうものなのか、テンペストのアシスタントデバイスであるマラキならきっと判ると思うんだ」


 アルはポケットからゴブリンメイジがしていた首輪を取り出した。その首輪にはテンペストのアシスタントデバイス、マラキとよくにた水色の水晶がほのかに光を放っていた。


“アリュ、ごまかした……。でも本当に考えておいてね”


 グリィのアシスタントデバイスは最後にそう言って、しゃべるのを止めた。アルは頭を何度も掻き、自分の頬を叩いて気合を入れ直すと、石造りの廊下を再び歩き始めた。


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
漫画から来ました。 むちゃ面白い。 うっかり指輪を見せてしまい、姫様の周囲をざわつかせて欲しいw
[良い点] たしかに考え無しに指輪はまずい!
[一言] あぁ、まぁ、うん、 貴族って、何気無いやり取りにとんでもない含みを持たせる事がまま有るからね? つーか、それを差っ引いても考えてなかったろ?(ー_ー;)
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