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【書籍化&コミカライズ】冒険者アル -あいつの魔法はおかしい  作者: れもん
第6話 辺境開拓

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6-10 蛮族の知性

 ラドヤード卿とアルの2人がゴブリンの攻めてくる予想ルートを確認し、必要な所に(ライト)呪文をつかって明かりを設置していると、そこに彼の息子のシグムンドが帰ってきた。


「親父、オリバー男爵閣下はまだ今の陣の周辺調査で手が回らない。蛮族の集団はしばらく継続調査をしてくれと言ってるぞ」

「敵に上位種が居そうだという話はしたのか?」


 ラドヤード卿は少し苛立たしそうな口調で尋ねた。


「ああ、もちろんだ。だが、今は野営地の安全が優先だと言ってる。蛮族どもの集落を調べるのは明日朝でよいだろうだとさ。こっちも魔法で探ってるんだとまでは言わねぇ方がよかったんだろ? それに、まぁ、そのゴブリンスローターがどれぐらい強いのか次第だけどよ。俺と親父、そしてナレシュ様、3人で2体を相手するって考えりゃぁ、まぁ無理ってこともねぇだろうぜ。ゴブリンメイジはアルに任せる、それじゃだめなのかい?」


 シグムンドの元気な言葉にラドヤード卿は渋い顔をした。


「ゴブリンスローターは儂も戦ったことがない。どれほどの敵なのか、弱点があるのか、全くわからんのだぞ。ホブゴブリンのさらに上位種なのだ。ゴブリン種だとは言え、キロリザードマンよりてごわいかもしれぬ」


 アルはゴブリンスローターどころか、ホブゴブリンやキロリザードマンとも戦ったことはない。オーソンに聞いた話によると、ホブゴブリンはまだ普通の剣でも倒せるらしいが、キロリザードマンは鱗が非常に硬くて、闘技と呼ばれる特別な技をつかわなければろくに傷すらつけられないという話だった。以前戦ったことのある巨大な大口トカゲのようなものだろうか。それより強いかもしれないゴブリンスローターというのはどんなに恐ろしい相手なのだろう。


「戦力が足りない、防御に専念したほうが安全か。とりあえずアル、再び魔法でゴブリンの集団がどうしているのか確認してみてくれ。それに合わせて迎撃をする。敵はこちらが疲労困憊して油断していると思い込んでいる可能性もある。せめて、それを利用したい」


 ラドヤード卿の話に、シグムンドは大きく頷いた。アルも小さく頷くと、狙撃を受けにくそうな木の下まで移動して呪文を唱える。


浮遊眼(フローティングアイ)呪文は相手を探すのに時間がかかるので、待ってね」

「わかった。とりあえずこちらは従士連中と態勢を整えよう」


-----


 アルは浮遊眼(フローティングアイ)呪文をつかい、まず自分たちの居る丘の周囲を見回した。起伏はゆるやかで、木々はそれほど多くないため見通しは悪くない。丘の東側、300mほど離れたところにホールデン川が流れているのが見えた。先ほど見ていた蛮族の集落はその川沿いに南に1.5キロほど上流付近にあるはずであった。アルの見える範囲で蛮族の姿は無かった。


 高台となっている現在の野営地からでも広く周囲を見通すことが出来るだろう。おそらく、周囲に柵を築き、見張り台を設ければ安全な場所になりそうだった。現在は、高台の周囲におそらく冒険者と思われる集団がところどころ配置されていた。ナレシュの居るテントの他にも10ほどのテントが張られており、その中のどれか1つでウォルドたち魔法使いが周囲を警戒しているのだろう。


知覚強化(センソリーブースト)』 -触覚強化


 彼は物陰に身を寄せると膝をつき左手の革手袋を外して掌を地面につけた。かなり範囲が広く味方も多いので識別は難しいが、アルが探ろうとしている相手もかなりの数である。目を閉じ、懸命に地面の振動を感じ取る。


……?


 集団が移動しているような振動はあった。だが、どこかで反響しているのか、場所がうまくわからない。アルは首を傾げながら地面を這うようにして頬を地面に着けた。


「どうかしたのか?」


 近くに居たシグムンドが不思議そうな顔をしてアルを見ている。


「蛮族の集団が複数かもしれない。ちょっと待って」


 アルはもう一つの掌も革の手袋を外して地面に付けた。じっと感覚を研ぎ澄ませる。


 蛮族の集団は2つ居た。アルたちの居る丘の南と東である。アルが最初に見つけて探していたゴブリンのほうはおそらく南だろう。距離はおよそ2キロ。おそらく蛮族の集落があったあたりである。そして、新しく見つけた東の集団はホールデン川の川岸、こちらは500メートルほどの距離しかない。今、居る丘からはおそらく見えない位置である。


 ウォルドたちは浮遊眼(フローティングアイ)呪文で付近を調べているはずだが、どうしてこの集団に気付いていないのだろう? 気付いていれば、こんなにノンビリしているはずはない。アルは騎士団に任せて自分で積極的に索敵をしていなかったことを後悔した。


 ラドヤード卿の懸念が当たっていたということか、今だから言えるのかもしれないが、川を泳いで移動するのはリザードマンが得意とするところだ。この3日間、ずっとその機動力を利用して、アルたちの騎士団とはつかず離れず川沿いに移動し、いやがらせのように少数ずつの襲撃を繰り返して騎士団を疲労させていたのではないだろうか。


 アルは2つの集団の存在と位置を簡単に伝えると、改めて浮遊眼(フローティングアイ)呪文をつかい、新しく見つけた東の集団の詳細を確認することにした。とは言っても、それほど離れているわけではない。その集団は、やはりリザードマンばかりだった。リザードマンがおよそ300体、半分程は川の中に居る。河原に身体の一回り大きい上位種が2体いた。これはキロリザードマンだろう。そして赤い肌をしたゴブリンも1体、川の上でふわふわと空を飛んでいる。飛行(フライ)呪文が使えるゴブリンメイジということか。


 上位種を含む100体ほどのゴブリンの集団と300体ほどのリザードマンの集団。こちらは荷物運びの人数も入れて170人ぐらいだったはずだ。丘の上には居るが、防護柵などはまだない。同時に攻撃されたら、守り切れるものなのだろうか?


 これらの情報を伝えると、ラドヤード卿の顔色が変わった。横に立っていたシグムンドの顔は一瞬強張り、白くなったような気がしたが、急に眼を見開いて笑い始めた。


「親父、こりゃぁ、手柄が立て放題だぜ。手近なリザードマンの集団に不意を突いて突っ込む。これしかねぇだろ」

「いや、しかし、とりあえず、情報をオリバー男爵閣下に伝えねば」

「どうやって、何を伝えるんだ? アルに頼んで魔法を使ってこんな情報を入手していましたが隠していましたって伝えるのかよ。どうしてだと聞かれて、エマーソンのクソが鬱陶しいから言いませんでしたとか、そんな話を始めるつもりはねぇだろうな。そんなことをしたら機を逸するだろう。親父は錆びついちまったのか」


 ラドヤード卿はじっと息子のシグムンドの顔を見た。


「ふふん、儂は老いたか。そなたの言う通りだ。報告はクレイグに任せよう。2人で突っ込めば、リザードマン半分ぐらいは道連れにできるじゃろう」


 2人は顔を合わせ、にんまりと笑う。


「ちょ、ちょっと待って。もしかして、敵が多すぎるからナレシュ様に黙って2人だけで死ぬつもりで突っ込んで倒せるだけ倒そうみたいな話をしてます?」


 アルは慌てて尋ねた。当たり前のようにラドヤード卿とシグムンドは頷く。それを見て、アルはそれを否定するかのように手を振った。


「いやいやいやいや、簡単に決めすぎでしょう?」


 そういうアルにラドヤード卿はにっこりと笑って見せた。


「さっきのシグムンドの話を聞いてなかったのか? この敵の配置と数からすると、この場に儂らがおびき寄せられたとみるべきじゃ。我々は何年もかけてこの遠征の準備をしてきたが、あまり動きを隠したりはしなかった。蛮族は我々がここに陣を敷くというのは予想できたに違いない。これは、我々が蛮族の知性を甘く見すぎたという結果じゃな」


 だからといって、簡単に死ぬつもりで突っ込むとか、この親子は、どういう考え方をしているのだろう。自分の父ならどうするのだろうと考えながらアルは懸命に頭をひねる。


「降伏するとか……素直に撤退するとか、いろいろやり方はあるんじゃないですか?」


 アルの質問にラドヤード卿はにこやかな笑みを浮かべたまま首を振る。


「蛮族相手に降伏なぞあり得んよ。切り刻まれて餌にされるだけじゃ。それはお前さんもわかってるじゃろう。それに、部隊の疲労状況からして撤退するのも無理じゃろうな。確実に追いつかれる。幸いこの情報を我々にくれた。うまくこのタイミングで隙を突くことができれば、この死地を食い破り、蛮族の攻撃を凌げるかもしれん。それが唯一のこの遠征部隊の生き残る道じゃと儂は思う」


 ラドヤード卿の言葉にシグムンドは頷いた。戦うしかないのか……アルだけなら隠蔽呪文を使って逃げることもできなくはないが、さすがにちょっとそれはしたくない。


 アルは戦う場合にどうすればよいのか。


「もし、戦うというのなら僕、魔法の竜巻(マジックトルネード)呪文使えます。走り回るのも得意ですし、少しはやり方ありませんか??」


 魔法の竜巻(マジックトルネード)という呪文はある一点から、触れれば大けがをする魔力の白い塊が回転しながら噴き出し、範囲内に居る生物に命中するという呪文である。人気のある呪文でルエラ救出の礼としてレビ商会の会頭からもらったものだった。魔法の矢より威力は強く、ゴブリンなら即死、リザードマンでもかなりの効果が期待できる。アルの熟練度からすると、その効果範囲は直径10メートルほど。固まっているところを狙えばかなりの数が倒せそうである。不意を打てば、2、3回使えるかもしれない。それに乗じてキロリザードマンを倒せれば撤退していくだろう。


 アルの話を聞いて、ラドヤード卿が驚いた様子で目を見開いた。


「どうして使える事を言わなかったのだ?」

「いや、それはエマーソン様が……」


 クソだからと言いそうになって、アルは急いで口をつぐんだ。だが、ラドヤード卿とシグムンドの2人にはなんとなく通じたらしい。大声で笑い始めた。


「わかった。それなら話が全然違ってくる。すぐナレシュ様と相談するぞ」


 ラドヤード卿はナレシュが準備をしているはずのテントに戻り始めた。アルとシグムンドもその後ろについていく。


「ナレシュ様、状況が変わりましたぞ」


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
傲慢で妬みが強い味方なんて敵より厄介じゃね?これを機に風通しを良くしたいところ。
[気になる点] 何を見ていたのか、というよりは見えないのか?
[一言] 今一番気になっている物語。更新が待ち遠しいです。
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