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【書籍化&コミカライズ】冒険者アル -あいつの魔法はおかしい  作者: れもん
第6話 辺境開拓

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6-9 布陣

 ローランド村を出て3日、日も暮れ始めた頃に、レスター子爵家騎士団はようやく目標とする丘の上に到着し、陣を敷いた。

 その場所は、新たな開拓村を築く予定の場所であり、蛮族の集落からもそれほど遠くない位置関係にあった。当初の計画では1日目の夜に到着し、開拓の基礎としてもってきた資材で簡単な防護柵なども作ることになっていた。だが、度重なるリザードマンの襲撃で行程は全く捗らず、騎士団は予定していない場所で野営することとなってさらに魔獣の襲撃を受けたりなどして、疲労困憊の状態であった。


「今夜はこのまま疲労回復に努め、明日の夜明けとともに集落を襲撃することになった」


 丘の上で招集された軍議を終え、ナレシュは、ラドヤード卿と共にテントに帰ってくると、不安そうにしているアルやクレイグにそう告げた。


「そうなんだ……蛮族がこんなに襲ってくるのは不思議なんだけど、それの理由は何か?」

「それについては、オリバー閣下も不安には感じておられた。だが、不安だというだけで作戦を中止するわけには行かない。いろいろ意見はでたが、最終的には明日は慎重に攻めることにしようという話になった。とりあえずここは高台にあって地の利もある。警備は護衛の冒険者連中に任せて今夜は休み明日に備えよということだ」


 騎士や従士、荷運びの人間も含めれば遠征だけでも200人以上が関わる作戦である。さらに、無事に討伐が終われば入植をするための村人たちや衛兵隊が移動してくる準備も進んでいるらしい。それを根拠もなしに中止するというのも難しいようだった。さらにあきらかに規模の大きい軍勢を10人ほどの蛮族の集団が襲う意図もわからなかった。


「可能性としてあるとすれば、なにか恐ろしい魔獣に追われていたというところだろうな」


 ラドヤード卿も疲れた様子でクレイグから渡された布で汗まみれの顔を拭いながら呟いた。アルもそれならわかると頷く。


「じゃぁ、付近の調査を念入りにしておかないとですね」

「うむ。じゃが、あまり無理はするな。おまえさんにも明日は頑張ってもらわねばならん。集落そのものや付近の調査はウォルド殿とエマーソン殿がやっておるだろう」


 アルは軽く頷いた。もちろん夜通しするつもりはないが、襲撃対象の集落の地図は作っておきたい。それにはラドヤード卿も賛成した。こういった調査について、魔法使い同士協力できれば良いのにとは思ったが、以前話した様子ではそれは無理そうであった。

 ナレシュの食事の世話などはクレイグに任せ、アルは彼の天幕の端で机を借りて羊皮紙を広げた。 浮遊眼(フローティングアイ)呪文を使い、魔法の目を作ると、集落の方向にとばした。もちろん夜目が利くように知覚強化(センソリーブースト)呪文も併せて使う。

 蛮族の集落はホールデン川沿いに200m広がっており、木と布や土のレンガで作られたぼろぼろの小屋のようなものが100近く存在していた。小屋の周りにはちらちらとゴブリンやリザードマンの姿も見えるが、それほど多いわけではないようだった。ただし、川がくねって流れが緩くなっている所は流れが淀んでいて、そこにはリザードマンの卵らしいものや小さなまるでトカゲのような幼生が大量に居た。


「このあたりの地面はどうなっている? 馬は行けそうか?」

「うーん、幼生や卵が多い水たまりのあたりはかなりぬかるんでいそうだよ。余程じゃないと足がとられてしまうかも」


 アルは見た光景や質疑応答を繰り返しながら羊皮紙にどんどん地図に描いていく。アルの言葉は砕けた調子になってしまっているが、横に居るクレイグも緊急事態と判断したのか何も言わずに黙っていた。


「上位種らしきものは居るか?」

「今のところは見つからないね……」


 アルは暗視、遠視も可能であるとは言え、場所が広い。対象はなかなか見つからなかったが、しばらく探してようやく、集落内でこちらに一番近い辺りに設けられた広場にゴブリンが集まっているのを発見した。


「居た。ゴブリン100体ぐらいが集まってる。中に2体、大きいゴブリン、こんな大きいのは見たことないよ。ホブゴブリンってこんなサイズだっけ?その横に肌の色が赤いのも1体居るね。身体は大きくないけど……。もしかしてあれってゴブリンメイジ?」


 ホブゴブリンというのは、人間の子供サイズほどの普通のゴブリンよりも一回り大きく、身長は1.7m程ある。普通の人間とそれほど変わらないサイズであった。だが、そこに居たのはそれよりはるかに大きい。身長2mはあるゴブリンだった。そして、ゴブリンメイジというのは、魔法を使うことのできるゴブリンのことだ。ホブゴブリンと同じく上位種である。

 ナレシュとラドヤード卿がしかめ面をして顔を見合わせた。巨大なホブゴブリンが2体に、ゴブリンメイジが1体、これはかなり厄介な相手である。


「その集団はなにをしておるのだ? それに先ほど、蛮族の集落の中には蛮族は少ないといったな……」

「うん、集団はまるでこれから大規模な狩りか戦争に行くっていう感じだ。集落の中の川べりにはリザードマンの幼生や卵は大量にあったけど、成体のリザードマン、ゴブリンはあんまり居ない。話だと集落にはリザードマン100体とゴブリン300体って事だったよね」


 リザードマンは卵生で、卵から孵った30㎝ほどのトカゲに似た幼生は水辺で育ち、半月ほどで身長1mになると成体のリザードマンと同じように生活し始めるという。食料さえあればいくらでも増えてしまう危険な蛮族だ。以前、辺境都市レスターが築かれた頃、討伐した蛮族の死骸が大量に川に放棄された事件があり、その結果、この蛮族が異常発生して都市が崩壊しそうになったこともある程なのである。


「ゴブリン共がこちらを襲撃しようとしているのでは? いや、それは……」


 ナレシュがそう言いながら、やっぱり信じられないというように首を振った。オークジェネラルやオーガキングというような蛮族の中でも伝説の最上位種なら可能性もあるだろうが、ゴブリンに軍勢となってこちらを襲撃するような知能はないはずである。


「ゴブリンはホブゴブリンからさらにゴブリンスローター(虐殺者)という上位種に進化するという話を聞いたことがある。ゴブリンスローターなら、軍勢を率いる可能性もあるかもしれん」


 ラドヤード卿の言葉にアルは思わずゴブリンスローターと繰り返した。聞いたことのない名前だった。だが、ラドヤード卿は経験豊富な騎士である。全くの嘘ではあるまい。それに身長2mを超えるゴブリン種は確かに存在するのだ。


「とりあえず、ここでこうやって話をしていても始まらぬ。シグムンド、そなたはオリバー男爵閣下のテントに行って、うちの従士の不確かな斥候結果だが、蛮族の集落の一番こちらに近い広場で蛮族どもが集まっているかもしれぬと言ってこい。儂がウォルド様に確認してもらうべき情報だと判断したと付け加えるのだ」


 ラドヤード卿の指示にシグムンドはちらりとナレシュを見た。ナレシュも頷くのをみて、彼は小走りに駆けていく。


「アルの描いてくれた地図からすると、こちらにまっすぐに襲撃に来るとしてもあと1時間といったところか。皆、この3日間はろくに寝ておらん。この状況で襲撃を受けるとなるとかなり辛いのう……。アルにはもう少し積極的に魔法を使ってもらわねばなるまい。さすがにこの状況ではエマーソン殿も何も言ってこぬじゃろう。しかし、このような状況になるとはのう。まるで、騎士団をわざと疲労させたような……」


 ラドヤード卿はじっと黙って前を見つめ考え込む。


「まさか……この道中の襲撃まで連中の軍略……?」


 その呟きに、ナレシュが信じられないといった様子で軽く首を振る。


「そんな軍略などあり得るのでしょうか。襲撃に来たリザードマンは累計でいうと200体を越えます。そして、そのほとんどが我々騎士団に倒されている。仲間をそれほど犠牲にするようなやり方……」


 だがラドヤード卿は下唇をかみしめて一度下を向いた。だが、深呼吸をしてぐっとナレシュを見つめる。


「ナレシュ様もまだまだ甘いですぞ。人間ならとてもあり得ぬ話ですが、蛮族は人の心がないから蛮族なのです。可能性がないとは言い切れませぬ。とはいえ、このようなことを本当に考えつくのかは疑問ですがな。それにすでにアルのおかげで存在は発見できた。これが奇襲をうけたとなればかなり危険でありましたが、こちらには騎士が20人いるのです。まだ挽回は可能ですぞ」


 ラドヤード卿の言葉にナレシュは力強く頷いた。


「とりあえず、儂は知り合いの騎士や従士連中に声をかけてくるとします。ナレシュ様はこの間に食事を摂って次の戦いに備えてください。クレイグ、ナレシュ様を補佐せよ。アルは一緒に来い。(ライト)呪文で照らしてほしいところがある」


 ラドヤード卿はそう言い置き、時間がないとばかりに急いだ様子でテントを出て行った。アルは急いでその後を追いかけたのだった。


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ナレシュ様とアル君の活躍が楽しみです。
[気になる点] >>それについては、オリバー閣下も首を不安には感じておられた 恐らく誤字だと思います…首を不安に感じるだと首の怪我みたいなのでw
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