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【書籍化&コミカライズ】冒険者アル -あいつの魔法はおかしい  作者: れもん
第6話 辺境開拓

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6-5 従者の仕事

※ タラはタラ子爵夫人と書くようにしました。今作の設定に準拠すると正式にはタラ・レスター子爵夫人 なのですが長いのでタラ子爵夫人と表現させていただきます。

※※ 子爵妃という表現にするかは迷ったのですが、妃は王妃、公爵妃ぐらいまでかなぁ……。

 翌日の朝、今日はかなり暑そうだと予感させるような強い日差しを受けながら、アルは領主館の裏口にラドヤード卿を訪ねた。


「おはようございます」


 アルは門番の男にラドヤード卿を訪ねてきたと説明し、取り次いでくれるようにお願いをした。話は通っていたらしく門番はアルが持っていた紹介状の封蝋を確認すると、使用人が利用する食堂らしいところにアルを案内し、しばらく待つようにと言ったのだった。


 館のおそらく使用人だろうと思われる連中の品定めをするような視線を感じながら待っていると、そこに白髪交じりの髪を短く刈上げた50才ぐらいの年配のがっしりとした体つきをした男が20代後半だろうこちらも大きな体をした男を連れてやってきた。


「待たせたな。儂がラドヤードじゃ。こっちは息子のシグムンド。おまえさんが、レビ会頭が言っていたアルフレッドか?」


 アルは慌てて座っていた椅子から立ち上るとお辞儀をした。シグムンドはアルと視線が合うと、獰猛な感じでにやりと笑った。


「はい、ですが、冒険者ギルドでは通称でアルと呼ばれてます。ラドヤード卿もアルとお呼びください」

「ああ、みたいじゃな。冒険者ギルドで聞いたら、皆、アルフレッドという名前を知らず、首を傾げられたわい」


 最近はアルとしか名乗ってないからなぁとアルは心の中で苦笑した。


「なかなか評判はよかったぞ。レビ会頭が戦力として計算できるから報酬も上げろと言っていたのも納得できた。だが、もう作戦はきまっていたからの。今回は従者として雇うことになったんじゃ」

「えっと、作戦とは? 蛮族討伐が1週間後にあるらしいってのは聞きましたけど……」


 バーバラが言っていたのはこれか。アルとしては特に異存はなかったが、できれば詳細を聞きたいと話を振ってみることにした。


「ああ、そうじゃな。知っておいた方が何かと良いじゃろう。毎年夏に、蛮族討伐を大規模に行っているのは知っておるか」


 ラドヤード卿の話によると、辺境都市レスターではレスター子爵に仕える騎士団を中心として、毎年、この時期に辺境開拓の一環として蛮族討伐を行っているのだという。そして、今年はナレシュも初めてこの討伐に参加するという事になっているらしい。アルの仕事も1週間後に迫ったこの討伐の際のナレシュの身辺警護が主だという。


「わあ、初陣とかいうのですね。さすが」


 アルが驚くと、ラドヤード卿は誇らしげな表情でうむと頷く。バーバラの話では彼がナレシュの守役だという話だったので、いろいろと用意もしてきたのだろう。アルの家では一番上の兄が騎士爵を継ぐという話になっているが田舎の貧乏貴族であるので、初陣といっても、成人の祝いと共に内々で簡単なお祝いをしただけだった。だが、きっと子爵家であれば次男とはいってもきっと立派なことをするのだろう。


「今回の作戦の対象は、湿地帯につくられた集落でな、そこにはリザードマンが100体、ゴブリンが300体程居るらしい。こちらは子爵家の騎士が20人、従士が100人といったところじゃ。あとは荷運びとその護衛として冒険者が50人程じゃな」


 アルからすればかなりの数の蛮族のように思えたが、ラドヤード卿に言わせると蛮族たちはほとんど飛び道具を持っておらず、従士が持つクロスボウの敵ではないらしい。問題はリザードマンやゴブリンにたまに混じっている上位種で、こちらはクロスボウでは歯が立たず、倒すのは騎士の役割だということであった。

 この集落を討伐できれば、また少し人間が住める領域が広がり、うまくいけば新たな開拓村が1つか2つ作れるだろうという。アルにとってはこのような話はまったく物語の中や遠い所で起こっている出来事でしかないような感覚である。レビ会頭が戦力としてアルを推挙したらしいが、従者という積極的に戦闘に関わる立場ではない仕事でよかったと胸をなでおろしたのだった。


「ナレシュ様が上位種であるキロリザードマンかホブゴブリンを倒せたとなると手柄なのじゃがな。まずはうまく遭遇できるかどうか……」


 リザードマンやゴブリンが増えると、キロリザードマン、ホブゴブリンといった上位種が現れると言われていた。上位種とは普通のリザードマンやゴブリンよりも一回り身体が大きくて、その分、力が強く、また皮膚も硬い。特に表皮に鱗があるリザードマンの上位種であるキロリザードマンはよほどの手練れでなければいくら攻撃しても傷すらつけられないといわれていた。


「ナレシュ様が指揮するんですか?」


 アルが尋ねるとラドヤード卿は軽く首を振った。


「今回の指揮はレスター子爵家騎士団の団長であるオリバー男爵閣下じゃ。ナレシュ様と儂、そして息子のシグムンドは騎士として参加することになっておる。そなたは従者としてナレシュ様と一緒に行動しておればよい。陣の設営や食事などは荷運び人やその護衛として雇った冒険者連中が行うからの」


 ラドヤード卿の話では、それまでの1週間はナレシュの傍に居て彼の手助けをすればよいという話であった。おそらく戦いが始まるまでに他の騎士たちや主だった従士たちと面識を得ておけということだろう。他に気になる細かいことをいろいろと教えてもらっていると、急に食堂のドアがばたんと開いた。

 扉を開けて入ってきたのはタラ子爵夫人であった。その後ろには侍女らしい女性が2人ついてきている。彼女の顔を見て、ラドヤード卿は先程までの威厳のある顔ではなく、急になにか困惑しているような顔になった。その後ろのシグムンドも同様である。


「ラドヤード様、アル君が到着したら連絡をしてくださいとお伝えしていたではありませんか」

「ですが、今回の依頼についてまず説明を……」

「それはあくまで建前の話で、彼にはそれよりも……」

「奥様……?!」


 自分の仕事には建前と裏があるのか? アルはそれとなく周囲を見回した。食べ終わった食器を運んでいた女性が1人居たが、彼女は急にあわてて部屋を出て行き、食堂に残されたのはアルの他はラドヤード卿とシグムンドだけになった。


 ラドヤード卿とタラ子爵夫人は何か小声で話し合いを始めた。横でアルが聞いていると、今回のアルへの依頼はパトリシアが心細いと訴えるので定期的に会わせたいという話とナレシュの初陣の話とが混ざっているようで、どちらが主でどちらが従なのかというところで2人の認識は合っていないようだった。

 もちろんナレシュの初陣の話を主と考えているのはラドヤード卿でパトリシアの話が主と考えているのはタラ子爵夫人である。建前とかいうのでなにか怪しい事があるのかと不安を感じていたアルは胸をなでおろした。


「ナレシュ様に手柄を上げていただき、まず騎士爵に叙爵を目指すのが第1ではないですか」

「もちろん、それは大事だけど……パトリシアは家族をすべて失ってとても心細い状態なの。叔母としてはとても放っておけないわ」


 どういう経緯でこうなっているのかよくわからないが、2人の話は平行線の様子であった。時間を分ければ良いだけの話だと思うのだが、お互いそれは提案しないようだ。アルはラドヤードの横にいるシグムンドの方をみたが、彼は2人の話し合いは気にならない様子で片足を上げたりして筋肉トレーニングをしていた。


「あ、あの……。とりあえず、一度、僕がパトリシア様と会えばいいのですか?」


 アルはおそるおそる聞いてみた。


「そうね! それがいいわ。アル君も会いたいと言ってくれるのね」


 タラ子爵夫人が満面の笑みで答える。何かちがうと言いたいが、訂正するのは難しかった。だが、ずっと会っているというわけにもいかないだろう。アルは言葉を続けた。


「パトリシア様は、僕からすれば非常に高位の方ですので、ずっと傍にという訳にもいかないと思います。少しお会いしたら、その後はナレシュ様のお手伝いを……」


「非常に高位……それはそうなのだけど……」

「ふむ、そうだな。それに、討伐の際には一緒に従軍してもらわねばならぬ」


 タラ子爵夫人が何か考え事をしている様子を見て、ラドヤード卿が言葉をはさんできた。アルはタラ子爵夫人の顔を見ようとして慌てて視線を下げた。高位の夫人の顔をあまり見るのは礼儀に反する行為である気がしたのだ。言うだけは言ったがどういう判断になるのだろう。失礼な事を言っただろうか。


「討伐ね、そこは妥協しましょう。しかたない。従軍していいわよ。その代わり、アル君、ナレシュにしっかり協力してね」


 なにがその代わりなのか……とアルはこっそりと思ったが口にはできない。何か損した気分である。なんとなくお互い妥協案を言い出さなかった理由が分かった気がした。


「細かいことは後で考えるとして、パトリシア様がお待ちなの。アル君、ついてきて頂戴」


-----


 アルがタラ子爵夫人に案内されて訪れた部屋はかなり奥まったところにある部屋であった。おそらく領主館のなかでも子爵本人や家族が暮らしている一画であろう。


「待ち焦がれた人を連れて来たわよ」


 上機嫌そうな声でそう告げながらタラ子爵夫人が扉をノックすると、すぐに重厚な濃い茶色の扉が開いた。中から姿を現したのはジョアンナであった。ざんばらだった髪は短く綺麗に切りそろえられており、騎士らしい華やかな紺をベースにした服を着ていて、以前の少し艶めかしい様子とはまた変わって非常に凛々しい感じであった。彼女はちらりとアルの姿を見ると、こちらも嬉しそうな顔をしてどうぞ中にと迎え入れてくれたのだった。


「おはようございます」


 きっとパトリシアも叔母の所にたどりついて安心しているにちがいない。アルは元気な声をあげて部屋に入っていった。そして、部屋の中には華やかなプラチナブロンドを綺麗に結い上げ、頬を赤く染めたパトリシアが、煌びやかなピンクのドレスの裾を軽くつまんで、アルに丁寧にお辞儀をしたのだった。


「おはようございます。アル様」



読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


2023.7.7 騎士であるラドヤードについて、地の文をラドヤード卿に変更しました。

    オリバー男爵については 男爵閣下と呼ぶように変更しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ま、アル君は中産階級出身ですからね。 でも中産階級って圧倒的多数を占める労働者階級から憧れられるしそこそこの人数がいる中産階級同士とも結ばれやすいので一握りの令嬢以外を相手にしない上流階級…
[一言] タラ子爵夫人としては姪っ子が気に入ったペット的扱いなのか、それとも・・・? いずれにしても従者として就職するわけでないなら、早めにさよならした方が良さげな感じ
[一言] 姫様、アルくんのこと好きになっちゃってそう 死を覚悟するくらい人生で一番困ってる時にご飯くれて、 着る物用意して安全に住める場所まで連れてってくれただけなのに。 惚れてまうやろなぁ… でも…
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