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【書籍化&コミカライズ】冒険者アル -あいつの魔法はおかしい  作者: れもん
第4話(自称)駆け出し冒険者アルの冒険者生活② 護衛依頼

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4-7 1日目 昼


 襲撃で馬が暴れていた商人たちの馬車は幸いなことに30分程で落ち着きを取り戻した。それほど深刻な馬車の損傷などはなく隊商はすぐに再出発をすることになった。そして、アルとレダはその間にエリックの馬車に乗り込むことができたのだった。

 彼の馬車は大きな屋根付きのもので席は2人ずつ前向きに3列設置されていた。盗賊の弓矢や蛮族による投石などの攻撃にある程度耐えられるように木の板で囲われている。一番後ろはフィッツとエリック、一番前にはマーカスとルーカスが既に座っていたので、レダとアルは2列目に座ることになった。


 出発してからは、たびたびエリックとフィッツの2人は呪文を唱えては目を瞑っていた。彼らは2種類の呪文をつかっているようだったが、両方ともアルの知らない呪文のようで何かは判らなかった。1つはおそらくレダが言っていた浮遊眼(フローティングアイ)呪文だろう。上空から周囲に敵が居ないか確認しているに違いない。


念話(テレパシー)呪文です。発見した脅威をジョナス様に伝えています」


 もう一つは何だろうと耳を澄ませているアルの様子を見て、レダが小さな声で教えてくれた。


「そうか、すごいね。これが護衛の魔法使いの仕事かぁ」


 アルがそう呟くと、レダは自分がすごいと言われたかのように嬉しそうに何度も頷いた。


「ねぇ、それで、移動中に僕たちは何かすることはある?」


 アルの問いにレダは軽く首を振った。


「たまに師匠方にお水をお出ししたりすることでしょうか。でも、されていることを見て憶えることも弟子の大事な仕事です」

 

 アルは頭を掻いた。レダは緊張した様子でエリックやフィッツのすることを見つめている。だがマーカスとルーカスの2人は小さな声で何か雑談をしていた。アルもしばらくはその様子を見ていたが、やがていつもの呪文の練習を再開したのだった。


-----


 馬車の移動はそのまま続いた。やがて、もうすぐ日が傾くという頃になって、フィッツがようやくアルたちに話しかけた。2人で交代しながらではあるが、ずっと浮遊眼(フローティングアイ)呪文や念話(テレパシー)呪文をつかっていた彼はかなり疲労困憊と言った様子である。


「今日はいつも通り日没までには野営地に着きそうで、朝は日が出る少し前に野営地を出発する予定だそうだ。野営地に居る時間はおよそ11時間だが。そこから到着後と出発前の1時間は除いて残った9時間は周囲の警戒を衛兵隊と協力して行う。今回はアルが居て我々は6人となるので2人ずつの組を作ることにする。レダとアル組、儂とマーカス組、エリック様とルーカス組だ。3時間ずつの交代としよう」


 見習いの皆は頷く。さらにフィッツは説明を続けた。


「警戒作業の他に、アルには野営地の設営にあたり、周囲に(ライト)呪文を使って極力死角のないように光を灯してもらいたいと思う。以前のテストでの(ライト)呪文は素晴らしいものだった。あの後なんと翌日の昼過ぎまで灯ったままであった。おそらく(ライト)呪文の熟練度だけで言うと私すら凌いでいるだろう。いくつぐらい同時に灯すことができる?」


 呪文を唱えるのには精神力が必要だ。何度も唱えていると疲労して集中力が下がり、だんだんと失敗をするようになる。アルは以前のテストの後、その反省を踏まえて(ライト)呪文の継続時間や行使回数について確認を済ませていた。時間は20時間、問題なく連続して行使できる回数も20回ほどで、それを超えると成功率は極端に下がるというのがわかっていた。


「20か所程です。それを超えるとかなり成功率が下がります」


 フィッツは大きく頷いた。


「すばらしい。正規の馬車は我々のものもふくめて11台、1台に1つと考えても十分な数だろう。レダは彼が灯す場所を指示せよ。もちろん、マーカスとルーカスも彼に同行し、アルの詠唱をしっかりと見させてもらうように」


 アルとレダは頷いた。一番前の列に座ったマーカスがアルの顔を見て感心したように何度も首を振った。


「20時間はすごいなぁ。俺よりまだ若いよな。俺は1時間ぐらいだよ」


 彼の横に座っているルーカスもそうだとばかりに大きく頷く。


「明るくしすぎじゃない? そうすると効果時間は短くなるからね」


 アルがそう言うと、他の5人はそろって怪訝な顔をした。あぁとアルは思わず呟いて苦笑いを浮かべた。魔法使いにこの説明をすると大抵同じような反応なのだ。ここでこの話をするつもりはなかったのにと思いつつ、アルは魔法使いに対するいつもと同じ説明をすることにした。


「これを見てください」


 アルは(ライト)呪文を2度唱えた。右手の掌の上はロウソク1本と同じぐらい、左手の掌にはたいまつと同じぐらいの明るさの光である。明るさの違う2つの明かりを見て、5人はそろって驚き大きく目を見開いた。ルーカスは思わずアルの腕をとった。交互に顔を近づけてじっと見比べる。


「フィッツ様は、先日のテストのとき、僕の(ライト)呪文の光を見て、『明るさは問題ないな』って言ってましたよね」


 唐突に話を振られて、フィッツは少し言葉に詰まり、一度つばを飲み込むと大きく頷いた。


「そういえば、確かに言ったかもしれぬ……。長年指導をしているとたまに暗い者が居るのだ。しかし、それとこれとに何の関わりが……?」


 アルはにっこりとほほ笑んだ。


「フィッツ様は無意識にせよ気付いておられるはずです。(ライト)呪文の光の明るさが人によって違うってことに」


 そう言われて、フィッツはエリックの顔を見た。そして目を合わせるとお互い軽く頷いた。


「違う……? そう、そうだな。いや、だが、それと今君がして見せた2つの明るさの違う(ライト)呪文とに何の関わりがあるというのだ? それより明るさの違いの説明をしてくれ」


 フィッツはアルの意図が読めずに少し苛ついている様子だった。エリックはじっとアルの話に耳を傾けている。レダとマーカス、ルーカスと言った見習い連中も少し首をかしげながらお互い顔を見合わせていた。


「順番に説明します。(ライト)呪文の呪文の書を憶えていらっしゃいますか? 一番最初に描かれているシンボルは全くの闇、そして、そこに徐々に表れる白くて丸い光り輝くシンボル。そしてそれに照らされ色づくものたち。僕は太陽が昇ってくるところだと思いました。他の魔法使いの方にきいてみたときも同じようなことをおっしゃっていました。みなさんはどうですか?」


 そこで一旦アルは言葉を切った。エリックを含めて皆軽く頷いたり、首を傾げたりしている。それを見てアルは言葉を続けた。


「その明るさのイメージ、インスピレーションというべきでしょうか。それがきっと、(ライト)呪文を使う際の光のイメージなのだと思います。そして、明るさの違いはイメージの違いだと考えました。それで僕は(ライト)呪文を習得する際にそこを強く意識しました。その結果、そのイメージを意図することで明るさを変えることができるようになったんです。他の呪文にも変えることのできる部分があります。僕はそれをオプションと呼んでいます。(ライト)呪文のオプションは明るさで、それを変えることによって時間も変えることができるんです」


「そんなバカな……」


 フィッツは不思議なものを見るような顔をしてアルを見た。彼は肩をすくめて苦笑を浮かべた。


「実は同じような説明を僕は何度もしています。でも、誰も明るさを変えられた(ため)しがありません。魔法を習った初級学校の先生はそれこそ何回も試してくれたんですが、うまく実現できないんです。なので、それ以上の話は信じてもらうしかないんですけど、僕が使う(ライト)呪文の場合、その明るさによって効果時間が変わります。それでマーカス様が使う(ライト)呪文は明るすぎるんじゃないかとおもったんですよ」


「いや、しかし……」


 フィッツは何か言おうとしたが、エリックがそれを止めた。


「信じられないことだが、アル君が(ライト)呪文の明るさを変えることができるというのは事実だ。まず、それを儂たちは認めねばならん。そして、魔法を教える立場である儂らはどうやって明るさを変えることができるのか(ライト)呪文に向き合う必要がある。明るさによって効果時間が変わるという話の検証はその後で良いだろう。あの魔法感知(センスマジック)呪文に関する疑問点も結局まだ解決していないが、それもこのあたりに原因があるのかもしれぬ」


 エリックの話にフィッツはしぶしぶといった様子であったが頷いた。


「アル君、残念ながら(ライト)呪文については私も完全にイメージとして習得してしまっていて、それの元となった呪文の書の記述については正確には思い出せない。今回の君の指摘したことについてはおそらく呪文の書を見直して、そこからどのようにイメージを構築したのかを思い出す過程が必要だろう。この護衛の仕事が終わってから、しばらくの間、それに協力してくれないか。もちろん報酬は用意しよう」


 エリックの言葉にアルは少し考えこんだ。今まで何度か説明もし、実際に試してみた魔法使いも居た。だが、成功したためしがないのだ。だが、ストレートにそう言うと、エリックの能力を疑っていると受け取られかねない。


「他の人が再現してくれるというのは僕もそうして欲しいと思いますし、協力もします。でも……」


 そこまで言ってアルは口ごもった。その様子をみてエリックは頷く。


「わかった。成功する可能性は低いと言いたいのだな。そして報酬となるとその金額も計算しにくいと。では違うやり方を考えよう。どちらにしてもこの護衛の仕事が終わってからの話だ。まずは無事に終わらせることにしようではないか。その後、どうするか提案させてもらう。それでよいか?」


 アルの他、フィッツやレダたちも頷いた。話している間に太陽は既にシプリー山地から続く西の山々の稜線にかかりつつあった。小高くなった丘はもうすぐ頂上がみえるところまで来ており、おそらく頂上に着けばそこが野営地となるのであろう。見晴らしも良く蛮族や魔獣が近づいてきたらすぐに判りそうな場所である。


「野営地はもうすぐだな。着いたらすぐに(ライト)呪文の出番だ。アル、レダの指示に従ってよろしく頼むぞ」


 フィッツがそう言い、アルとレダはそれに大きく頷いたのだった。


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


なんと、ハイファンタジー部門の日間、週間ランキングで一位を頂きました。皆さまのご評価のおかげです。本当にありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。


いいね、感想など引き続きいただけるとうれしいです。感想では度々私が忘れていることや気付いていない事について良いご指摘を頂いています。うまく活かし良い作品にしてゆきたいと思いますので是非よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字報告について 後書きに衍字が有るようです。 皆さまのの ご確認下さい。
[一言] 見習いとは言え魔法使いとして雇われてて 雇い主に荷馬車に隠してあるものを報告しないのはなぜだろう? 護衛の装備?はともかくとして 師匠にだけは伝えるとかそういうの無しは これまでの行動からは…
[一言] オプション変えられる人は出るのでしょうか 若い方が発想が柔軟で受け入れやすい気もしますが、一般人でも変えられたら強いですね これからも楽しみに読ませていただきます。
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