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【書籍化&コミカライズ】冒険者アル -あいつの魔法はおかしい  作者: れもん
第29話 王都奪還

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29-3 シルヴェスター王国訪問


 ゴーレムの頭部の試作がある程度の成果を得られた日の翌々日の夕方、アルは国境都市パーカーの上空をパトリシアたちの乗る空飛ぶ馬車に飛行(フライ)呪文を使って並行飛行をしていた。

 あの後、パトリシアから連絡が来て、シルヴェスター王国まで彼女の護衛を頼まれたのである。以前からパトリシアはシルヴェスター王国のセオドア王子に国家間の和平条約の締結のため、自身の訪問を提案していたのだが、その予定が早まったということだった。

 たしか、以前セオドア王子から聞いたのは年明けあたりと言っていたはずだが、それより1ヶ月以上早い。唯一の王族であるパトリシアがこのタイミングでこの人数だけで国を離れても良いのかと不安に思ったが、彼女は大丈夫と答えた。彼女なりの考えや事情があっての事なのだろう。


 アルとしても、セオドア王子にはプレンティス侯爵家の旧レイン辺境伯領(現在のところ、レイン辺境伯領はすべて一時的な処置としてセオドア王子預かりとなっている)に対する蛮族工作の調査をすると言ってあり、その中間報告をするのにも丁度都合がよかった。パトリシアと話をしていると、状況が刻一刻と変化している様子だったので研究塔から遠出ができず、後回しになっていたのだ。


 空飛ぶ馬車にはパトリシアの他に、タバサ男爵夫人、ドリス、警備用のゴーレム1体、第1騎士団から騎士団長のペルトン子爵、第1大隊長エドシック男爵、そしてその護衛騎士と従士が2人ずつ乗っていた。馬車の運転はタバサ男爵夫人が行っている。騎士や従士たちは自分たちにさせて欲しいと申し出たのだが、空飛ぶ馬車の運転方法を知るものは多くしたくない(もとより、これはパトリシアの持ち物ではなく、アルから借りているものである)というパトリシアの意図があっての事であった。

 運転手席に2人、前後に向かい合う長いすに3人ずつ、その後ろの補助席に2人の計8人が馬車の基本的な定員なので、これが使節団としては精一杯の人数であった。いつもパトリシアが連れている2人目の警備用ゴーレムはアルの運搬(キャリアー)椅子に乗せる。ディーン・テンペストは万が一セオドア王子に魔法無効化アンチマジックフィールド呪文を使われてしまうと正体がばれてしまい面倒な事になりかねないので理由をつけて同行させないことになった。


 国境都市パーカーの上空までくると、アルは南門あたりで騎士たちが並んでいるのを見つけ一足先に下りて、すぐに運搬(キャリアー)呪文を解除する。シルヴェスター王国とテンペスト王国の旗を掲げた騎士が居るので、間違いなくパトリシアの出迎えの列だろう。綺麗に列をつくり整然と並んでいる。到着日時はおおよそ伝えてはいたが、それでもしばらくはこれを維持していたのだろう。大変そうだ。

 整列した騎士たちの前に、アルはすっと降りた。騎士の何人かの顔はアルも知っており、それは向こうも同じだった様子で慌てたりすることなく静かにアルと、まだ上空に浮かんでいる空飛ぶ馬車を交互に見ていた。

 アルが見回すと、並んでいる列の前にはパーカー子爵とパーカーの衛兵隊長官であるニコラス男爵の姿があった。他にもテンペスト王国第2騎士団のパウエル子爵とナレシュのところで従士として働いているはずのジョアンナの姿がある。彼らはアルにすぐに駆け寄って来た。


「お迎えご苦労様です」

「アル、ご苦労さん。今日はパトリシア王女殿下の護衛か?」

「はい」


 にこやかにパーカー子爵が声をかけてくれたので、元気に返事をしておく。


「パトリシア王女殿下はあの中か?」


 パーカー子爵が空飛ぶ馬車を指さすのでアルは頷く。


「すぐに下りて来られますよ」


 空飛ぶ馬車はアルの言う通り、ゆっくりと降下して行列の前にふわりと着陸した。扉が開き、最初にパトリシアが下りてきた。すぐ背後にはタバサ男爵夫人とドリス、そして警備ゴーレムである。


「シルヴェスター王国までよくいらっしゃいました。パトリシア王女殿下」

「パーカー子爵閣下、ニコラス男爵閣下歓迎ありがとうございます」


 パーカー子爵たちは深々と一礼する。パトリシアはそれに優雅に頷いて返す。


「パウエル子爵、長い間ご苦労様でした。ようやく直接お会いし言葉を交わす事ができました」


 パウエル子爵はパトリシアの声を聞いて、感激しすぎたのか言葉を失い、涙を流している。


「ジョアンナ、セネット男爵閣下の下での活躍は聞いています」


 ジョアンナはパトリシアの前にひざを折った。


「挙兵の時に参加できず申し訳ありませんでした。セネット男爵閣下の了解も頂いております。再び身辺警護にお戻し頂けませんでしょうか?」


 パトリシアは少し考えたが、ゆっくりと首を振った。


「あの時は、まだ未来が判らずにジョアンナには苦しい判断をさせました。セネット男爵閣下の下で騎士としての経験を色々とした事でしょう。確かにセネット男爵閣下には、私の挙兵が決まった際にはとお願いしてあります。ですが、セネット男爵閣下には私から改めて了承を得るのが良いかと思います。ありがとうジョアンナ。もう少しだけ待ってもらえますか?」


 パトリシアの言葉にジョアンナは頷いた。


「パトリシア王女殿下、領主館にご案内させていただきます」


 ニコラス男爵がそう声をかけた。パトリシアは頷いた。彼の指揮で整列していた騎士たちは一斉に敬礼をする。


「パウエル子爵も空飛ぶ馬車に乗りましょう」

「そ、そんな、勿体ない」


 そういって、パウエル子爵は首を振るが、パトリシアは楽しげに微笑みを浮かべて手を出す。


「大丈夫ですよ。ペルトン子爵とエドシック男爵も乗っているのです。ここまで苦労してきたあなたが遠慮する必要はありません」

「あ、ありがとうございます」


 一段低い運転席にはタバサ男爵夫人とドリス、後ろ向きの長椅子にはエドシック男爵と騎士二人、前向きの長椅子にはパウエル子爵とペルトン子爵に挟まれる形でパトリシア、その後ろにある補助椅子に従士二人が座った。長椅子は大きめの大人3人がゆったり座れるサイズであるので、窮屈な感じはなかった。

 タバサ男爵夫人が運転席の横にある小さな棒(スイッチ)を動かすと、空飛ぶ馬車の天井が開いた。


「おおお、形がかわった」


 その場にいた多くの者が目を大きく見開いて、珍しそうに馬車を見つめている。外からは側面が透明な板だけになった馬車の中がよく見えた。空飛ぶ馬車には様々な仕掛けがあり、まだよくわからないものもあるのだが、これは研究塔に持ち込んですぐにわかった機能のひとつであった。他にも扉や窓を開閉、馬車内の気温を調節、心地よい音楽を流す(スイッチ)など機能が満載である。


 騎士たちは曳いていた馬に颯爽と騎乗する。パーカー子爵たちやジョアンナも同じだ。アルは急いで運搬(キャリアー)呪文を唱え、パウエル子爵に席を譲った警備ゴーレムと元から連れてきていた警備ゴーレム、2体のゴーレムをその椅子に乗せると、ふわりと舞い上がる。


 二つの王国の旗を持ち、先導するパーカー子爵家の騎士たち、その後ろには馬なしで走行するパトリシアの大型馬車、その後ろにアルや騎乗したパーカー子爵たちが続いた。事前に知らされていたのか沿道をうめつくす住人達。


 そして、行列の行く先、領主館の前庭では、セオドア王子とその配下の騎士たちがパトリシアを出迎える列を作っていた。


-----


 パーカー子爵領主館で歓迎パーティは盛大に行われた。アルはテンペスト側の唯一の魔法使いという立場であるので、警備ゴーレム2体と共にずっとパトリシアの警護である。


 この歓迎パーティには、ナレシュや新生第2騎士団第1大隊長でジョアンナの父でもあるクウェンネル男爵も参加しており、その場を利用してパトリシアはジョアンナの件についてナレシュと話をした。ナレシュは今までも非常に活躍してもらったと礼を述べ、快く了解したのだった。

 ここで正式にジョアンナは所属をセネット男爵家からテンペスト王国新生第1騎士団第1大隊(エドシック男爵配下)に変更し、パトリシアを護衛する騎士という立場に戻ったのだった。


 その翌日に行われた会談、そしてパトリシアとセオドア王子の2人が並んでの同盟調印まで、日程は極めて順調に進んだ。和平同盟の内容はもちろん、今回の訪問の段取りは全て十分に話し合われ計画されていたようだ。


 無事に調印が行われ、パトリシア一行が帰る直前になって、アルはセオドア王子に呼び出された。


「アルフレッド、報告は聞いた。プレンティス侯爵家がこんなことをしていたとは驚いた」

「はい」


 アルはセオドア王子の前に跪く。昨晩の歓迎パーティの合間に、アルはビンセント子爵を通じてプレンティス侯爵家がヴィヴィッドラミア(調べるとラミアの上位種はこの名で呼ばれていることが分かった。上位種になると首筋から肩、背中部分の鱗には赤や緑の鮮やかな色が混じることからこの名で呼ばれているらしい)とつながって、シルヴェスター王国内でも様々な工作をしていたと報告を上げていたのだ。


「パトリシア殿下ともこの件について話をした。我が国としては、二度とこのような事が行われないようにしてもらわねばならん。パトリシア殿下にも二度と行われないように対策を施すと言って頂いた」


 パトリシアがさせた訳ではないのだが、国同士の話し合いとなるとこういうやり取りになってしまうようだ。難しいところである。ありがとうございますと真剣な顔をして礼を述べておく。


「パトリシア殿下とはお前さんの扱いについても話をしたよ。殿下からは、あまり束縛しないでやってほしいとくぎを刺された。テンペスト王国建国に関わる伝説の魔法使い、テンペスト直系の子孫、ディーン・テンペストの弟子であり、テンペスト王国の苦難に際して、いろいろと手伝ってもらっている。その行動に関しても許してほしいと言っていた」


 アルは頭を下げる。


「お前さんは、騎士爵の三男。上に兄が2人居て、騎士爵家を継ぐ立場にはない。冒険者として自由な活動が許される立場ではある。だが、魔法使いとしてかなり有能で俺としては出来れば配下として使いたい。そう思って爵位を提案したりしたが、お前さんはそれを受けようとしなかった。どうしてなのか、ずっと思ってたんだ。お前さんは他にしたいことがあるとか言ってたが……。パトリシア殿下と話してわかったよ。お前さん……」


 そう言って、セオドア王子はアルの顔を覗き込む。パトリシアの件があるからシルヴェスター王国に仕えたくないというわけでもないのだが、どう答えればいいだろう。返事に苦慮していると、セオドア王子はふふんと笑った。


「これ以上は野暮な話になっちまうな。もう詮索は止めておく。とりあえず約束しな。俺やこの国を裏切るような事だけはしねぇってな」


 アルは驚いて顔を上げた。そんな事をするつもりは全くない。シルヴェスター王国には家族だけでなく世話になった人たちもいっぱいいるのだ。この質問はどういうつもりなのだろう。


「当然です。そんな事はしません」


 とりあえずアルはそう断言した。その反応にセオドア王子は頷いた。


「わかった。それでいいぜ。パトリシア王女殿下はこれからプレンティス退治だ。年内に終わればいいが、下手したら長引くだろう。お前さんが帰って来なくても親父さんの叙爵については勝手に進めておくからな」


 なるほど、セオドア王子の言う通り、年明けに帰れないかもしれない。アルは再び頭を下げた。


「魔法使いギルドの特別顧問官の職はそのままだから年1回はバネッサのところに顔を出すんだぞ。蛮族が使う動物(アニマル)変身トランスフォーメーション呪文の件があるから忘れるな。それで、話は終わりだ」

「わかりました」


 いろいろとセオドア王子は配慮してくれている。きちんとそれに応えられるようにはしておきたいな。アルはそう思いながらセオドア王子の許を辞したのだった。



読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


冒険者アル あいつの魔法はおかしい 書籍版 第4巻 まで発売中です。

山﨑と子先生のコミカライズは コミックス3巻まで発売中

        Webで第18話(new!)が公開中です。

https://to-corona-ex.com/comics/163399092207730


諸々よろしくお願いいたします。

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セオドア王子察しが良くてすき…… これで政治的なあれこれでパトリシアを娶ろうという輩も減るかな?
王子的にはアルとパトリシアの関係は良いのか アルの実家をどんどん陞爵させれば家柄の問題は無くなるか
朴念仁だなあ ガサツっぽいセオドア王子にすらバレバレなのにほんと魔法以外はニブチンだ
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