28-10ラミアとの契約
急いで上位種ラミアの死体がころがっているところに戻ったアルは、まず、その首についているアシスタント・デバイスらしきものに手を触れた。
“ギャギャギャギャ!”
耳元でいきなり蛮族の言葉が聞こえる。以前、ゴブリンメイジが持っていたアシスタント・デバイスの時と同じだ。あの時は酷く驚かされたが、今回はまだ心の準備ができているだけマシである。
「ちゃんと人族の言葉喋って。さもないとこのまま魔力が尽きるまで誰にも手が触れられないようなところに隠してしまうよ?」
相手はラミアが身に付けていたアシスタント・デバイスだ。人間の中に入り込んで商売をしようと考えることのできる蛮族なのであれば、話ができるかもしれない。
“! マテ”
お、話に乗って来た? これは話が色々と聞けるかもしれない。アルはラミア上位種の首からアシスタント・デバイスを取り外して手に持った。
“存在が消えてしまう。わ、わかった。話す”
何を聞こう? とりあえず今回の魔道具についてか……。
「今回の魔道具の複写を作る取引はどういうものなの?」
“頼まれた杖1個にたる1個材料全部くれる”
材料を提供してもらい、作る礼として杖1本につき樽1個分の穀物ということだろうか? やはりプレンティス侯爵家は蛮族と取引をしていたのだ。アシスタント・デバイスの話なので証拠として提示するのは難しいが、すくなくとも事実の確信はできた。
「どれぐらいの数を作ったの?」
“最初6個作って見本3個渡した。取引契約。今200作り始め100渡す”
最初に6個作って、見本として3個渡した。取引の契約として200個作り始めて100個渡す?? いまいちよく意味が分からない。何回か聞き直してようやく3個分ということで貰った材料で実は6個作れたが、3個だけ引き渡した。今度は100個分の材料を貰って作り始めたところで、たぶん200本できるだろうが、100本渡す契約をしたという意味らしいとわかった。ということは、見本としてプレンティス侯爵家に3本は渡したが、それ以外には3体のラミアが持っていたものを含めてあの場にあったもので全てということか。必要な分の倍を材料として要求するなんてあくどい商売である気もしたが、まず蛮族との取引というのはその程度のものなのだろう。
「お前たちは他の場所でも人間と取引をしているの?」
“店は大きい街だけほかは歩いてしてる”
?? 返事の意味がよくわからない。この話も何回か問い直す。おそらくだが、店を構えているのはプレンティス侯爵家の領都だけだが、他に行商のようなものをしているということだろう。もしかしたら酒盛りしていた3体は皆人間に化けて商売をしていたのかもしれない。
「魔道具は何でも複製できるの?」
“何でもちがう簡単だけ”
「どのラミアやゴブリンメイジでも?」
“出来たの青鼻、舌細、息臭だった”
簡単なものなら複製できるのか。ただし、出来るラミアやゴブリンメイジは限られていて、この集落でいうとあの複製作業をしていた青鼻、舌細、息臭と呼ばれたあの3体だけらしい。過去の話も聞いてみたいが、あまり時間はかけていられない。カキンカキンという音も徐々に大きくなってきている。とりあえず今回の取引については確認できたのでこれ以上の話は後でも良いだろう。
「グリィ、これ以上話をするのは後回しにしよう。アシスタント・デバイスはポケットに入れるから、時間がある時に話をしてくれる? 上位種ラミアの死体は回収するね」
“うん”
“別の居た!”
上位種ラミアのアシスタント・デバイスはグリィにとても驚いている様子だった。アシスタント・デバイスはそれ同士で念話に似た方法で会話ができるようなので、話を聞くのは任せておいていいだろう。
アルは上位種ラミアの死体をマジックバッグに回収した。3体のラミア、6体のゴブリンも続けて回収、奥の扉の鍵を解錠呪文で開けた。罠などを調べる時間がないので警備ゴーレムに指示して扉を開けてもらう。
中には鉄で補強された木箱が大小1つずつ置いてあった。大きい木箱には金、銀、銅貨が大量に入っていた。いったいどれぐらいの枚数があるのかは数えてみないと判らない。小さな木箱の中には呪文の書が3巻と革袋が1つだ。魔道具ではなく呪文の書! アルは急いでそれらを手に取って確認する。収納呪文、オーク変身呪文、長距離魔法の矢呪文の三つである。収納呪文! そして、オーク変身呪文? この2つはアルが知らない呪文である。
収納ということは、なにか物を収納する呪文ということだろうか。移送とは違うのか。人に化けたラミアが装備品に使ったのは移送呪文ではなく、この呪文だったのかもしれない。これは第4階層なのか第3階層なのか……。呪文の書の記述の量からすると第3階層かもしれない。
そして気になるのがオーク変身呪文だ。動物変身呪文で魔獣には変身できず、魔獣はそれに変身するための呪文があるらしいと誰かに聞いた記憶がある。だが、オーク変身とは……。あまり使う気にはなれないが、どういう呪文なのだろう。このラミアはオークとも交流していたのか?
残る革袋の中にはきらびやかな宝石らしきものがざらざらと入っていた。かなりの数で、これだけでもひと財産だろう。
“わぁ、すごい。パトリシアにお土産ね”
それもいいかもしれない。ピンク色の宝石などはパトリシアに似合いそうだ。アルは大小の木箱をそのまま釦型のマジックバッグに回収した。
階段通路の下方では、さらに音が激しさを増していた。もうすぐ石塊は破壊されてしまうかもしれない。
「もう引き上げていいよね?」
今回は相手に準備する時間を与えずに奇襲したのでなんとかなったが、地上にのこっている蛮族たちはそう簡単には倒せないだろう。回収すべきと思った魔道具はとりあえず回収できたし、知らない呪文の書も2つ入手できた。この上苦労して、地上で暮らしていたラミアやゴブリンを倒したとしても、ここは未開地域の奥深くなので、またすぐに増えてしまうだけだろう。食糧はあったが、あれも一時的な分量でしかないだろう。
“そうね。きりがないし……”
蛮族が作った複写見本3本はプレンティス侯爵家の手にのこっているらしいが、そちらの方はこれ以上追うのは難しそうだ。蛮族に依頼したぐらいだから他に複製できる者は居ないと思いたい。
すくなくともこれで、プレンティス侯爵家が実際に蛮族とやり取りをし、魔道具の複製をつくろうとしていたことは確認できたし、他にもプレンティス侯爵家がラミアを利用してやっていた工作についてもアシスタント・デバイスを通じて聞き出すことができそうだ。ゴブリンメイジが持っていたアシスタント・デバイスについても何か情報を聞くことができるかもしれない。これらのプレンティス侯爵家が闇で行っていた行為について、わかった事を一旦パトリシアと共有しておいたほうがいいだろう。
アルは急いで階段通路を登り、神殿らしきところを通り抜けて亀裂から巨大な岩山の頂上に出た。ここで待ち構えている蛮族の姿はなかった。
アルは警備ゴーレムを回収し、空を飛んでラミアの集落を後にしたのだった。
ここで、28話は一旦区切りとします。1時間後の11時には登場人物を整理して投稿します。
読んで頂いてありがとうございます。
月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。
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