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【書籍化&コミカライズ】冒険者アル -あいつの魔法はおかしい  作者: れもん
第28話 プレンティス侯爵家の闇

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28-6 プレンティス領都探索


 チャニング村での話を終えたアルはその後も忙しく移動を繰り返した。

 翌日の早朝には村を出発し、パトリシアの居る東谷関城に向かうと、そこで再びディーン・テンペストに変身してパトリシア(リアナ?)の言われるままにいくつか小芝居をこなした。

 さらにその翌日には名残を惜しむパトリシアにプレンティス侯爵家の魔導士が今後蛮族に関わるのを阻止できるかもしれないからと説明してプレンティス侯爵家の領都に移動したのである。


 今の所、シルヴェスター王国で反乱を起こすというたくらみはセオドア王子の活躍で最小限の被害で収まった形だし、テンペスト王国の内乱もようやく王家復活の目途は立ちつつあるように見える。だが、プレンティス侯爵家の魔導士がアルたちが生まれた辺境地域にもたらした蛮族を利用した一連の工作については何も明らかになっていない。


 コールから聞いた《鋭い牙》という名の魔道具店について、アルはプレンティス家の魔導士たちが蛮族と関わりを持っていたことを示す証拠だと考え、この関係を明らかにすることによって今後、プレンティス家の魔導士が蛮族を利用したり助けたりすることを阻止できるようになるかもしれないと期待していたのだ。


 だが、到着から数日をかけて聞き込みをおこなった結果わかったのはこの店が20年ほど前からこの通りで商売を始め屋台のような形式から徐々に客を増やして店舗を構えるようになった事、5年ほど前、解雇された店員が、この店が家畜用にしかならないような古い食糧を大量に買いこんでは郊外に運び出し、蛮族相手に魔道具と引換えに渡していたことを衛兵隊に密告して、大騒ぎになって一時営業停止処分を受けた事、だがしばらくして問題なしとされて営業再開した事などであった。


 この問題なしという結果については誰も理由は知らず、蛮族との関わりについてはずっと噂が残っているようだった。人によっては何も証拠が出なかったから仕方なくそうなっただとか、衛兵隊のお偉いさんが店から賄賂を贈られてうやむやにしたのだというのも居たがどれも推測にしかすぎないようだ。アルとしては、詳細を知りたくてその密告したという店員を探してみたが5年も経っているという事もあって名前すらわからなかった。衛兵隊になら何らかの資料が残っているのかもしれないが、アルにプレンティス侯爵家の衛兵隊から情報を得る手段がある訳もなくそちらの線はすぐに途切れてしまった。


 仕方なくアルはプレンティス家の魔導士による警戒をすり抜けるために、以前と同様、ケルの姿を借りてその《鋭い牙》という名の魔道具店を見張る事にしたのだった。


 そして、見張りを始めて2日後の夜のことだった。


 誰か来たよというグリィの囁きを聞き、放置された廃屋じみた建物の陰に潜み寝たふりをしていたアルは薄目で店の出入口の方を見た。2人が店の中に入っていく。魔法使いらしいローブを身に纏いフードを目深にかぶっているので性別も年令もよくわからない。魔法発見(ディテクトマジック)呪文の反応からすると2人とも何かの呪文を使っており、魔道具もいくつか所持しているようだ。

 店の中には当然魔道具店であるので30個程度の魔道具の反応があった。店員に呪文を使っている者は1人もいない。2人が店内に入っていった後、その店内にアルの魔法発見(ディテクトマジック)呪文でいきなり魔道具らしい反応が大量に現れた。100個は超えている。魔道具を隠す何らかの仕組みをもった箱を開けたのか、マジックバッグから取り出したのかもしれない。この100個を超える反応は何だとアルは店内を覗こうとしたが、店の扉は閉められており、中の様子は全くわからなかった。そのまま10分ほどが経過した後、その魔法使いらしきローブを着た2人組は特に何もなかったかの様子で店から出て行った。そして魔道具らしき反応は店の中に残ったままだ。

 2人組を追跡調査するのか迷ったが、アルは店の監視を続ける事にした。着ていたローブが以前見たことのあるプレンティスの魔導士が着ていたもののような気がしたし、すぐに誰かが取りに来るのではないかと考えたのだ。魔導士の場合、その詰め所に入られてしまったらそれ以上調査はどうせできない。浮遊眼フローティングアイの眼でしばらくの間追跡するという手もあるが、その場合はアル自身周囲への警戒が薄くなってしまう。プレンティス侯爵家の本拠地であるこの領都でそんな危険は冒したくなかった。


 そんな事を考えたアルは魔道具店の監視を続けた。だが、予想に反して、その後何人か店には人の出入りはあったもののなかなか変化は起こらない。3時間ほど経過して魔導士の方を見に行けばよかったかとアルが少し焦り始めた頃ようやく状況が変わった。身長は2メートル近くある大男が一人やってきて、店の中に入っていくと、その100個を超える魔道具らしきものの反応がふっと消えたのである。その大男はすぐに店から出てきた。乱雑に切った黒い髪、腰には剣をさげているが鎧は身に付けていない。身体つきはがっちりしていて冒険者か傭兵といった様子であった。荷物としては背負い袋を背負っているものの、それほど膨らんではいなかった。男からは呪文の反応はあったが、魔道具を持っている反応はなかった。店内でも大きな混乱はない。ということは、100個を超える魔道具が消えたのは店側も了解していたということだろう。


 アルは少し考えてその男を尾行することにした。幸い、身長が高いので少し離れても見失う事はあまりなさそうだった。アル自身、自分にかけてある呪文はケルに変身するための動物(アニマル)変身トランスフォーメーション呪文、魔法発見(ディテクトマジック)呪文、魔法感知(センスマジック)呪文、浮遊眼(フローティングアイ)呪文の4つだけだ。探知回避(ステルス)呪文で魔法発見(ディテクトマジック)呪文には反応しないようできるのはその数までだからである。


 男はそのまま領都の城壁を出た。アルもそれを追って外に出る。


「このまま、どこに行くんだろう? それも、さっきの大量の魔道具はどうしたんだ? 魔道具の反応はないけど、もしかしたら釦型のマジックバッグなのかもしれない? まてよ? もしそうなら、それに割り当てられた倉庫区画を調べればすぐわかるかな?」


 アルはそんな事を呟いた。最近、グリィの意見を聞けるかもと考えて小さな声で呟くのが癖になってきているようだ。確認をしてみたいところだが、尾行中とあってはそういう訳にもいかない。グリィを人形ゴーレムにし、警備ゴーレムに護衛させて石軟化(ソフテンストーン)金属軟化(ソフテンメタル)が使える杖を持って見に行って貰おうか……。いや、それはやはり不安な気がする。


 男は街道を外れ、森の中に入っていく。もしやトイレか? アルは浮遊眼の目を移動させて男の様子を確認する。周囲に人が居ないのを確認した後、男は藪の陰に隠れると、服を脱ぎ背負い袋の中に入れ始めた。


「何をしてるんだろう」


 想像がつかず、アルは首を傾げる。


 男は服をすべて脱ぎ、それを背負い袋の中に詰め込んだ。そして、地面に背負い袋と剣を並べるとなにか呪文を唱えた。するとその2つがいきなり消えた。


移送(トランスポート)呪文??」


 アルは思わず声を上げそうになり、両手で口を押さえる。この場面で荷物2つを消すというのは移送(トランスポート)呪文を使うぐらいしか考えつかない。ということは、100個を超える魔道具はすでにどこかに運ばれてしまったのだろうか。そして、この男は何者なのだろう? プレンティス侯爵家の魔導士には見えない。

 誰にせよ、この呪文を習得している者がアルの他にもいるというのはびっくりだ。見られている事には気づいていない様子の男は続いて片手を振った。すると男の下半身は太く巨大な蛇に変わった。蛮族のラミアだ。ラミアはさらに呪文を唱える。すると次にその身体は大きなワシの姿となった。


「何? これ……」


 アルが驚いているとグリィが耳元で囁いた。


“都市に入るために動物(アニマル)変身トランスフォーメーション呪文を使って人間に化けてたラミアが呪文を解除したんじゃないかしら。幻覚とかで騙している可能性も無い訳じゃないけど見られているかどうかもわからないのにそんな事をするかしら? そして、改めて呪文をかけ直してワシになり、飛んで移動するつもりじゃない?”


 その予想にアルは驚いて目を見開いた。そうか、動物(アニマル)変身トランスフォーメーション呪文を使えば人間に変身できる。ということは、ラミアやゴブリンメイジなど蛮族が使えば人間社会に入り込むことができてしまう。そんな事をされたら……。


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


冒険者アル あいつの魔法はおかしい 書籍版 第4巻 まで発売中です。

山﨑と子先生のコミカライズは コミックス3巻まで発売中

        Webで第17話が公開中です。

https://to-corona-ex.com/comics/163399092207730


諸々よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
蛮族が店を運営している可能性も無くはないのかな? と思いつつ、蛮族が魔道具を大量に使う状況とは一体? 怪しい雰囲気になってきた。
oh…これはちょっとシャレにならん話になってきたぞ 魔法感知があっても探知回避されたら変身は見抜けないし、下手したら魔女狩りみたいな事になり兼ねない
対プレンティス侯爵家と思ってたら、実は黒幕は蛮族だった? もちろんアルの最終的な目標は蛮族を蹴散らすことですから問題はありませんが…… 思ったよりこのお家騒動、すんなり収まらない気がしてきましたね。
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