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【書籍化&コミカライズ】冒険者アル -あいつの魔法はおかしい  作者: れもん
第28話 プレンティス侯爵家の闇

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28-3 出発許可

 アルが勇気をもってパトリシアと会話を交わしてから数日後、セオドア王子からアルに呼び出しがあった。アルはようやく出かける許可が下りるのかと期待し、セオドア王子が騎士団司令部を臨時で置いている国境都市パーカーの衛兵隊本部を訪れたのだった。


 通されたのは、何度も来たことのある会議室であった。そこにいたのはセオドア王子本人はもちろん、他にパーカー子爵やビンセント子爵など数人の幕僚、さらに予想外な事にバネッサ・ソープ伯爵もその場に居たのだった。


「アルフレッド、ごくろうさん。また色々と忙しそうだな」


 入室した後、緊張して立っていると、セオドア王子が気さくな雰囲気で声をかけてきた。王子のアルに対する態度がだんだんと砕けてきているのは気のせいだろうか? タガード侯爵家への外交使節団を指揮していた時はもっと硬い雰囲気だった気がする。このメンバーならあまり神経質にならなくてもいいという事だろうか。

 しかし、色々と忙しそう? ここしばらくは、特に指示がないので、ずっと宿屋の自室で主に呪文の習得作業や練習をするか、バネッサ・ソープ伯爵やコール、スタンレーに乞われてエリックが借りている屋敷に行って3人の運搬キャリアー呪文習得のサポートをしていたぐらいだ。どういう意味なのかよく分からないまま、曖昧に頭を下げておく。


「パーカーに到着してすぐにバネッサ殿の話をきいて驚いたよ。おかげでコールがこちらに協力的になり、今までよくわかっていなかったプレンティス侯爵家の魔導士団の詳細が知れたので助かった。ただ、その件の為に、アルフレッドは到着して早々、いろいろな事をバネッサ殿に頼まれたのだろう?」


 王子は自分よりかなり年上であるこの伯爵には殿をつけて呼ぶらしい。年令からすればある程度自然な気もするが、王子という立場からすると少し不思議な気もする。きっと以前からなにか関わりがあったのだろう。セオドア王子の言葉にバネッサ・ソープ伯爵は軽く頭を下げた。そうか、セオドア王子が忙しそうだと言ったのはアルがバネッサ・ソープ伯爵にいろいろと質問をされたのではという意味だったようだ。


「ええ、まぁ……大丈夫です。御心配ありがとうございます」


 アルはとりあえず頭を掻きながらそう返事をしておく。アルもバネッサ・ソープ伯爵とコール、2人に会った時のあの嬉しそうな顔を見た時にはそんな不安も感じたのだが、実際の所はそうでもなかったなと思ったのだ。

 だが、アルのそんな思いとは反対にバネッサ・ソープ伯爵が軽く首を振る。


「アル君、それに関しては私の配慮が足りなかったわ。でも、セオドア王子からそんな事を指摘されたと言ったら、エリックもアル君は自己評価が低く、報酬を十分に求めない傾向がありますねと頷いてたわよ。彼はアル君がレダ君に教えてくれた時の礼として、いつでも屋敷にある呪文の書を利用してくれていいですよって申し出ていたのに、そっちも結局、一度も彼の屋敷にはいかなかったらしいじゃない。アル君はもっと色々と貪欲になるべきよ。今回の呪文のオプションに関する特別講習の対価として、ちゃんと面白そうな呪文の書を用意するから楽しみにしておきなさい。それと……」


 呪文の書が貰えるのか。それは嬉しい。アルは思わず顔をほころばせる。しかし十分な報酬か……。バネッサ・ソープ伯爵の言う通りで、きちんと報酬などは要求していくべきなのかもしれない。だが、金、金、金とかいうのは苦手だ。金をもらうということは支配される事に繋がる。そんな関係は幾ら増やしても仕方ないだろう。呪文の書が十分に入手できない頃はもっとお金が必要だと思ったが今はそれよりも時間が惜しい。

 そんな事を考えている間にもバネッサ・ソープ伯爵は言葉を続けた。


「あと、あなたにはシルヴェスター王国魔法使いギルドの特別顧問官の肩書を用意するわね」


 特別顧問官? それは何だろう。初めて聞く肩書にアルは不思議そうな顔を浮かべた。面倒な事は苦手なのだが……。


「アル君が呪文のオプションを発見したにもかかわらず、ギルド員でなかった為に今までアル君の名は魔法使いギルドの中でもほとんど知られていなかったわ。でも、今回の遠征での活躍によって大きく注目されることになった。魔法使いギルドでも高い地位に居る者の中には、そのうちにエリックが発表した論文と結びつけてアル君に興味を持ち、その立場を利用してアル君を呼びつけて呪文オプションの説明をさせようといった事を考える人たちも出てくるかもしれないと懸念しているわ。この肩書は名誉職にすぎないけれど、これがあれば煩わしい事はある程度回避できると思うの。それ以上に困ったことがあれば相談してきなさい」


 フィッツがかつて言っていた呪文の研究に関しては狂気じみた執着を持っていて常識を持たない人たちの話か。バネッサ・ソープ伯爵自身もその一人だとは思ったが、ギルドマスターだけにこういったことに頭が回るのだろう。

 しかし、重要手配の悪名を打ち消すための行動が、こういう懸念を招くとは……。アルはがっくりと肩を落とした。


「特別顧問官っていうのは何か仕事が?」

「決まった仕事はないわ。そうね、年に一回ぐらい私のところに来て、その年に発見した事を報告っていう事でどうかしら? ちゃんとその時にも報酬を支払うわ。といっても金貨30枚位かな。呪文の書を一つでもいいわ」


 それぐらいなら負担もあまりないか。呪文の書が年に一巻もらえるとすれば、魅力的かもしれない。嫌になれば返上すればよいのだ。


「わかりました。よろしくお願いします」


 アルはそう言って頭を下げる。


「オッケー、特別顧問官を拝命するってんなら、同じような事になるから勲章の話はもう無くても良いよな? あとはお前さんを願い出ていた件に関する話だ。別行動と言う話だが、テンペスト王国プレンティス侯爵家の領都に行くのか?」


 バネット・ソープ伯爵の話が終わると、セオドア王子がストレートにそう尋ねてきた。勲章は案にかすぎず、凱旋パレードに参加して十分話題にはなっただろうし、魔法使いギルドの特別顧問官を拝命するとなれば、王子の言う通りこれ以上は無くても良いだろう。

 プレンティス侯爵家の話は正直に話していいのだろうか。だが、この場にバネッサ・ソープ伯爵がいるということは、この間、コールから聞いた話はセオドア王子にも報告済みなのかもしれない。アルは少しの間躊躇したが、軽く頷いた。


「はい。チャニング村やレスターの近くにいる蛮族に対してプレンティス侯爵家が支援をしていると考えています。でも、まだその実態が掴めていないので確認して来ようと思っています」


 セオドア王子はパーカー子爵の顔をちらりと見た。パーカー子爵は軽く頷く。


「わかった。正直に言ってくれて助かる。とは言っても残念ながら今の所、こっちも手一杯でそれを支援する余裕がねぇんだけどな」


 もちろん、それは理解しているし、今の段階で手伝ってもらおうとは思っていない。テンペスト王国内の話でもあるので、シルヴェスター王国として正式に動くのは難しい状況かもしれない。もし王子に何かお願いをするとしてもプレンティス侯爵家の魔導士たちが何をしていたかわかってからになるだろう。


「一応、少しだが調査費用を渡しておく。あと、これはお前さんだから話すが、パトリシア姫から講和に関する使者が来た。もちろん親父には伺いを立てなきゃならねぇが、条件に無理なところはねぇし、年が明けたどこかで和平条約成立を祝い、論功行賞をするという段取りって思ってる。なので、年明けごろには戻って来て一度領都レインに顔を出すこと。ああ、それまでにお前の親父さんと兄に叙爵の件、了解をとっておけよ」


 ビンセント子爵が、アルに金貨を20枚手渡してくれた。すごい金額ではないが、調査につかう費用としてはとりあえず十分だろう。今は10月末なので1カ月ちょっと……。父の居るチャニング村とギュスターブ兄が居る旧セネット伯領都に寄る事を考えると1カ月に少し足らないぐらいとなる。プレンティス侯爵家の領都に行った事はないが、それぐらいの期間があれば帰って来られるだろう。


「はい。ありがとうございます。まずは急いでチャニング村に行ってきます」

「ああ、くれぐれも気を付けてな」


 王子の言葉にアルは深々と頭を下げるのだった。


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


冒険者アル あいつの魔法はおかしい 書籍版 第4巻 まで発売中です。

山﨑と子先生のコミカライズは コミックス3巻まで発売中

        Webで第17話が公開中です。

https://to-corona-ex.com/comics/163399092207730


諸々よろしくお願いいたします。

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アル君はよくある(有名作品ですら)謙虚とただの拒否を履き違えてたり、自分が何を成し遂げてるのか、他人と違う事を理解できない認知障害を患った無自覚イキり主人公にならないといいなあ… 自分から要求してるわ…
>>バネッサ・ソープ伯爵とソープの2人 これ後者はコールですかね? 伯爵が正式な後ろ盾になるって事かな? エリックとは師弟関係を結んでないから公式的な意味での後ろ盾にはならないし 王子や何人かの貴族…
修正しろとは言いません!でも〖痙攣〗のことは忘れないでください……ずっとずっと活躍している呪文じゃないですか……作者さんが忘れてたのではなく、ただで貸したエレックが忘れてたと信じたい……
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