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【書籍化&コミカライズ】冒険者アル -あいつの魔法はおかしい  作者: れもん
第27話 国境都市パーカー防衛戦

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27-15 使者到着


 翌々日の夕方、国境の警備を担っていたシルヴェスター王国側の砦を通過し、国境都市パーカーにまもなく到着するというところで、セオドア王子率いるシルヴェスター王国第二騎士団にレイン辺境伯家家臣代表としてオラフ子爵からの使者がやってきた。

 オラフ子爵というとアルも鉱山の話で一度会ったことがある。流行り病で倒れたという先代辺境伯の信任が厚く、辺境伯家の財務を担当していた貴族だ。彼自身は領地・騎士たちを持たず、辺境伯家次男のストラウドとユージン子爵による反乱(もう反乱と言って良いだろう)の際には何もできずに居たという人である。

 メルヴィン男爵たちの身柄やマジックバッグに入れたままだった死体の引き渡しをすませ、セオドア王子の本陣でスタンレーの質問に少し辟易としながら呪文を使っての周囲の警戒を手伝わされていたアルはセオドア王子と幕僚たちのやりとりに耳をそばだてた。


 その使者は極めて頭が低く、少し怯えているのではないかという態度で本陣にやってきて、オラフ子爵が書いたという手紙をセオドア王子に差し出した。一読した彼はよしっと呟きこぶしを握り締めた。


「殿下、良い知らせのようですね」


 ビンセント子爵が尋ねる。


「ああ、辺境伯家配下の貴族たちが協力してストラウド及びユージンの一派を拘束したそうだ。降伏すると言ってきた。流行り病で倒れたとされていた辺境伯やその家族たちは皆、城の奥に軟禁されているところを発見し、保護しているとも言ってきた」

「なるほど、全部の罪をストラウドとユージン子爵に押し付ける形ですか。レスター子爵が配下のスカリー男爵に罪を押し付けたのと同じ形ですね。どこも考える事は同じです」


 辛口のビンセント子爵の言葉にセオドア王子は苦笑いを浮かべる。使者はさらに深く頭を下げた。


「詳細は追って告げる。別のテントで待て」


 ビンセント子爵の言葉に使者は頭を下げて本陣のテントを出て行った。


--


「降伏は受け入れるぞ。いいよな?」


 使者が出ていくのを見送った後、セオドア王子はビンセント子爵にそう問うた。彼は問題ないと言った様子で頭を下げる。


「良いと思います。反乱平定おめでとうございます。殿下」

「ありがとう。まぁ、レイン領都につくまで油断はできねぇが、ユージンを捕らえているし、まず大丈夫だろう」


 セオドア王子の言葉にビンセント子爵は頷いた。


「領都についたら陛下への報告書を出来るだけ早く出す必要がありますね」

「そうだな。レイン辺境伯に関する処断は俺の独断で決めるには事が大きすぎる。判断は親父に任せるしかない。そうなると辺境伯配下の貴族たちの論功行賞についても、その結果に左右される事になるだろう。レイン辺境伯領(ここ)はテンペストとの国境だしあまり混乱しても困る。親父はどう判断するかな。俺としてはナレシュをうまく使いたいんだが……」


 ビンセント子爵は再び頷いた。


「そうですね。セネット伯爵家の血をひく彼には今回占領した地の統治という点でも協力してもらわねばなりません。そのあたりは陛下にも強く主張されるべきでしょう」


 セオドア王子は何度も頷く。


「このテンペスト・プレンティス侯爵家による陰謀はおおよその決着がついたって事にはなるだろう? この国境都市パーカーの防衛戦も終わりだ。王都を発ってからもう二ヵ月以上経つ。そろそろ騎士たちも帰りたいんじゃねぇかとおもうんだよ。ここらで交代で帰らせるというのはどうかな?」

「良いお考えだとは思いますが、まだテンペスト王国の内戦は決着がついていません。今回の反乱で守備部隊を残して一旦兵は引く形にはなりましたが、領都まで占領した旧セネット伯爵領なども安定したわけではありません。状況の見極めが必要かと思います。それに、この作戦は当初テンペスト王国領のうち、少なくともセネット伯爵領は全て我が王国領に組み込むことを目的として始まったのではなかったのですか? その目的は果たされておりませんよ」


 ビンセント子爵の指摘にセオドア王子は重くため息をついた。


「領地としては1/3程度かもしれねぇが、セネット伯の領都は占領したじゃねぇか。ある程度目的を果たせたと考えてもいいんじゃねぇか? それに、ここまでプレンティスがレイン辺境伯家に手を伸ばしてたってのも予想外だった。下手したらレイン辺境伯領がまるまるテンペスト王国に寝返ってたかもしれねぇんだ。それを阻止できただけでも良かったと思う。とは言っても、現状はビンセントの言う通りだな。まだ、しばらく騎士たちは頑張ってもらうしかないか。とりあえずパーカーの様子を確かめてそこで一泊、手紙の真偽を確認したうえでレイン領都に乗り込もう。当初の目的に関しても親父の判断だ」

「そうですな」


 ナレシュの処遇についてはそういう感じか。アルの父の爵位の話も含めてすぐ決まるのではなく、おそらく国王陛下の裁可を仰ぐことになるようだ。どちらも王子が上手くやってくれることを信じるしかないだろう。レイン辺境伯家の家族は軟禁されていただけということは、サンジェイの婚約者であったセレナも無事だったということだろう。サンジェイはそれを知っていたのかもしれない。見殺しにしたわけではなかったのか。アルはそう考えて、残っていた胸のもやもやが少し晴れた気分だった。


 この情報をパトリシアに連絡をしておくべきだろうか。アルが師匠の手伝いでパトリシアに協力していることはセオドア王子もビンセント子爵たちも知っているはずだ。その上でアルがいる傍でこういった会話をしたということは、パトリシア側に知られても構わないということなのだろう。逆に伝えて欲しいという意図まであるかもしれない。アルはそう考えて契りの指輪の念話(テレパシー)を起動した。彼女は何かの会議中だったようだが、それを中断してアルの念話(テレパシー)を聞く。


“わかりました。ナレシュ様も無事だったようで安心しました。ここ数日、こちらには、プレンティス侯爵家ではなく我々に協力したいという貴族たちの連絡が続々と到着しています。おそらくですが、その方たちに協力をしていただいて新生第二騎士団のパウエル子爵とも近く連絡をとれるようになるはずです。パウエル子爵と連絡が取れるようになれば、彼を経由してセオドア王子殿下にも手紙送信(センドメイルボックス)網をつかって文書が送れると思います。こちらからも友好関係を求めておきますね。このまま順調にゆけば王都奪還もそれほど遠くない事でしょう”


 むこうは順調のようだ。王都奪還……。そうなるとパトリシアとの関係についても結論を出さないといけないのではないだろうか。一瞬そんな事が頭をよぎる。

 いや、今はそれより周囲の警戒だ。国境都市パーカーには大魔導士ヴェールが居たという話もある。最後まで油断はできない。アルは自分にそう言い聞かせ、周囲警戒の手伝いに戻るのだった。


-----


 警戒をしていたアルの心配とは裏腹に、国境都市パーカーを包囲していた軍勢は姿を消し、プレンティス侯爵家の魔導士たちの気配もなくなっていた。都市の人々はセオドア王子の凱旋と都市の解放に歓喜の声で応えておりお祭り騒ぎである。


 アルは戸惑いながら騎乗したセオドア王子のすぐ後ろで空を飛んでいた。こんなことは性に合わないと最初は嫌がったアルだったが、これは重要手配の話を打ち消すため必要だとビンセント子爵に説得されたのである。凱旋パレードで王子のすぐ後ろで空を飛べば当然目立つ。話題にもなるだろう。セオドア王子配下の優秀な魔法使いであることを人々にアピールし、重要手配はその活躍を邪魔するためのユージン子爵の悪だくみだったという噂を改めて流布し、アルの重要手配の話を上書きしようというのが子爵の説明であった。アルはそれは一理あるし、国境都市パーカーは生活の拠点ではないので顔が知られてもあまり問題はないだろうと納得したのだ。


 セオドア王子の凱旋パレードは都市の中心であるパーカー子爵の領主館前の広場まで続いた。セオドア王子はそこで市民たちに都市の危機は去ったと演説をしてお祭り騒ぎは頂点を迎えたのだった。


 これで、仕事は終わったと考えてもいいだろう。一旦チャニング村に戻って父にセオドア王子から持ち掛けられたことを説明しようかなと考えているアルだったが、国境都市パーカーの衛兵隊長を務めるニコラス男爵の横に立っている人物に気がついて驚愕に眼を見開いた。

 そこにプレンティス侯爵家魔法研究室の研究員を名乗っていたコールが口枷や手枷もなく立っていたのだ。彼の近くにはフィッツやレダ、そして隣にいる背のあまり高くない50才前後と思われる女性や背の高い男性なども一塊になって、何かにこやかに話をしている。


 どういう事だと思ったアルはセオドア王子の近くで護衛をしていたベロニカ卿に軽くお辞儀をしてパレードの列を離れ、コールに向かっていった。そのアルの少し前をスタンレーが歩いているのに気がつく。彼も同じ方向に向かっているようだ。


「コール! どうして?」

「母上! どうしてここに?」


 アルとスタンレーが声をかけたのはほぼ同時だった。母上? コールは男性だし、スタンレーが母と言いそうなのは背のあまり高くない50才前後と思われる女性しかない。彼女がスタンレーの母親、ビンセント子爵の言っていた魔法使いギルドのギルドマスター、バネッサ・ソープ伯爵ということか。


「アル、待っておりましたよ」

「アル君、待っていましたよ」


 コールとバネッサはとても嬉しそうにアルをじっと見つめ、口をそろえて言ったのだった。


ここで、ややこしかった27話は一旦区切りとします。1時間後の11時には登場人物を整理して投稿します。


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


※活動報告に載せておりました登場人物につきましては、11時に登場人物紹介が公開された後、内容を削除します。(活動報告そのものは経緯説明だけ残します)


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


冒険者アル あいつの魔法はおかしい 書籍版 第4巻 まで発売中です。

山﨑と子先生のコミカライズは コミックス3巻まで発売中

        Webで第16話が公開中です。

https://to-corona-ex.com/comics/163399092207730


諸々よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
せっかく王子がアルが逃げないようにゆっくりゆっくり近づいているのに、叫びながら飛びかかった来るようなもんだろこれ……アルも逃げの一手だね。
ちょっとコールあんた何やってんねん 母ちゃんの職権乱用か?
うわぁ厄介なのがいるぞ フィッツやレダは監視役かな さすがに無罪放免というわけではなさそう?
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