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【書籍化&コミカライズ】冒険者アル -あいつの魔法はおかしい  作者: れもん
第27話 国境都市パーカー防衛戦

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27-12 話し合いの結末

おまたせしました。

 ラッパの音にその場にいた者たちは全員顔を見合わせた。不審そうな表情をしているので、少なくともレイン辺境伯騎士団が何らかの合図として用意していたものではないらしい。


「ラッパだよね? 何の合図?」


 物陰に隠れたままのアルも思わず小さな声で呟く。ラッパを使うとなるとどこかの騎士団だろうか。


“わからないわ。でも距離は1キロメートル程離れていると思う。あ、目が動きだした”


 目? ビンセント子爵からつけられ、アルが肩に乗せていた浮遊眼フローティングアイの目が肩から離れ、徐々に上昇していく。ほぼ同時にこれが動き出したということは、あのラッパの音もセオドア王子率いるシルヴェスター王国騎士団のものかもしれない。1キロほどまで近づいてきているというのか。ならば念話(テレパシー)呪文が届くはずだ。アルはビンセント子爵と念話(テレパシー)が繋がるか試してみた。


“アルフレッドか。よくやった。ずっと報告は聞いている。レスター子爵はナレシュの説得に従うのか?”


 ビンセント子爵とはすぐに念話が繋がった。だが、彼の話している言葉の意味が分からない。説得? 浮遊眼フローティングアイの目は視覚のみで何を話しているのかまでは判らないはずだ。魔法使いとビンセント子爵は浮遊眼フローティングアイの目からの様子を見、ナレシュがレスター子爵に対してシルヴェスター王国騎士団側に付くように説得していると判断したのかもしれない。


“勝手な事をして申し訳ありません”


 とりあえず、よくやったと言ってくれているなら、今のナレシュの行動を好意的に解釈してくれていそうである。どう判断したのか判らないのでとりあえず無難そうな返事を返しておく。


“よい。親子だから心情はわかると殿下も言ってくださった。最初はタイミングが良すぎるというので何か気にしていらっしゃったが、アルフレッドがレイン辺境伯騎士団の居場所を突き止めて案内してくれたと報告すると、とても機嫌がよくなったのだ。苦笑は浮かべられていたが、大丈夫だろう”


 タイミングが良すぎる? レイン辺境伯騎士団のところまで案内してきた? 確かに浮遊眼フローティングアイの目を通して様子を見ることによって、レイン辺境伯騎士団がどこに居るのか判るだろう。それが良かった……のか。アルは色々と首をひねったがビンセント子爵は念話で話を続ける。


“アルフレッド、音で判ると思うのだが、もうすぐそちらに我が配下の騎士たちが到達する。ナレシュには、説得に成功したのなら、武器を置き恭順の意思を見せて脇に避けさせよと伝えるがいい。我が騎士たちにはストラウドとユージンの捕縛を目的とし、降伏の意思を示す者たちには攻撃するなと言ってある”


 その説明とほぼ同時にドドドという地鳴りのような音が響いてきた。1キロほど離れたところから、ラッパを合図にシルヴェスター王国騎士団の騎士たちはレイン辺境伯騎士団が停止している丘に囲まれたこの地に向かって突撃してきているという事か。


“は、はい”

“伝える手段がなかったのでな。許せ。そなたらが説得していそうだというのは判っていたが成功するか否かは判断できなかった。このタイミングで奇襲することが一番勝利に近いと判断したのだ。そなたの事だから予告なしでも空を飛んで避難できるだろう?”

“はい”


 ビンセント子爵の言うようにアル自身は簡単に逃げる事が出来るだろう。そして、騎士同士の戦いについて、アルには判断がつかない。極力知り合い同士での戦いは起こって欲しくないとは思っていたが、戦場に出た以上仕方のない事だという気もする。

 アルの肩に浮遊眼フローティングアイの目を乗せただけで、こんな事が出来るのか。ナレシュの装備から呪文で位置を探り当て、レイン辺境伯騎士団が進軍を停止して身を潜めた場所に到着したところから、大した時間は経っていないはずなのに……。アルがレイン辺境伯騎士団の接近を知らせた直後からセオドア王子とビンセント子爵はこの作戦を候補として準備を進めていたのかもしれない。こんなにすばやく軍勢を動かせるものなのか。


“ビンセント子爵閣下、レイン辺境伯騎士団の騎士たちのほとんどは、対峙しようとしている相手がシルヴェスター王国騎士団だとは知らされておらず、テンペスト王国のパウエル子爵率いる騎士団だと説明されているようです”

“なんと、そういうからくりか。ギリギリまで隠しているつもりだったのだな。情報感謝する。ならば、それを逆手にとってやろう”


 アルの報告にビンセント子爵は愉快そうに答えた。


“では、また後ほど。ナレシュにこれから説明します”

“わかった。頼むぞ。我々も出来る限り死傷者は出したくない。同じ王国の者同士なのだからな”


 そういって、アルはビンセント子爵との念話を切る。そして改めてナレシュに念話をつないだ。


“近づいてきているのはシルヴェスター王国騎士団だよ。ストラウド様とユージン子爵の捕縛を目的として、降伏の意思を示す者たちには攻撃するなと騎士たちには言ってあるんだって”

“そう言う事か。わかった。そのように説得しよう”


 ナレシュはそう言って、地面に両ひざをついて、左右を呆然と見まわしていた自らの父、レスター子爵に近づく。


「おそらく、セオドア王子殿下の騎士団です。降伏すれば許してもらえましょう。私も一緒に殿下に話をします。まずは騎士団に戻り、抵抗せぬように皆に伝えましょう」

「何を言っておるのだ。惑わされてはなりません。何をしている。ナレシュを捕まえよ」

「おじ上!」


 スカリー男爵が他の騎士たちにナレシュを捕らえるように指示をしたが、すぐにサンジェイがそれを制止するように叫んだ。ついてきていた騎士たちはスカリー男爵とサンジェイ、ナレシュの顔を見比べるばかりで動こうとしない。


 レスター子爵はゆっくりと立ち上がった。


「スカリー、そなたは剣を振り、馬を操る事しか出来ぬ愚かな儂をずっと助けてくれた。とても感謝している。だが、今はナレシュの言う事のほうが正しいように思う。プレンティス侯爵家の策謀に乗せられ、このように戦っているのは、儂の私怨でしかないようだ。スカリー、儂と一緒に降伏してくれぬか」

「子爵閣下……。なりませぬ。ここで降伏しても処刑されるだけです。ここでセオドア王子を……」


 スカリー男爵はそう言って周囲を見回す。だが、彼を見つめるレスター子爵家の騎士たちの視線は決して温かいものではなかった。ウォルドとエマーソンはどうしたら良いのか判らないと言った様子で居心地が悪そうにしている。


「説得は無理か……。カーミラ、皆を眠らせよ」


 あまり興味がなさそうにしていたカーミラだったが、スカリー男爵にそう言われてため息をつき、片手を振って呪文を唱える。対象はナレシュ、レスター子爵、そしてレスター子爵家の騎士5人のようだ。7人を同時に対象とできるということはかなりの熟練度である。とは言え、魔法抵抗(マジックレジスト)呪文をナレシュには使っているので、ナレシュは抵抗できるのではないだろうか。そんな事を考えて手を出そうかどうしようか迷ったアルは、キャンセルのタイミングを逃した。


眠り(スリープ)

肉体強化(フィジカルブースト)


 カーミラの呪文に少し遅れて、ナレシュは自分に呪文を唱えた。レスター子爵と騎士たちはカーミラの呪文でその場に崩れ落ちる。だが、ナレシュには呪文が効かなかった。そのままナレシュは呪文の詠唱を終えた。


「え? 効かない?」


 呪文が効かなかった事に驚くカーミラ。魔法使いなどには効かない事もある呪文なので、それほど驚くことではないはずだが、余程自信があったのだろう。驚きに目を見開いている彼女との距離をナレシュは一気に詰めた。その勢いのまま剣の柄でカーミラの腹あたりを突く。げほっと苦悶の声を上げてカーミラは後ろに飛ばされた。ナレシュはさらに鞘が付いたまま腰から抜いてスカリー男爵の肩を打った。一連の動きは非常に素早く、横から見ていたアルも目で追うのが精一杯だ。


「うぐっ」


 スカリー男爵も苦悶の声を上げてその場に倒れ込んだ。


「兄上、騎士たちを起こしてください」


 ナレシュは父親であるレスター子爵を起こそうとする。その時、西から軍勢がぶつかり合う音、叫ぶ声が響いてきた。レイン辺境伯騎士団側はほとんど対応をとれていない状態で攻撃を受けたようだ。


「しっかりせよ。スカリー男爵とカーミラを拘束するのだ。ウォルドとエマーソンも騎士たちを手伝え」


 サンジェイが寝ている騎士たちを起こして回る。彼らとウォルドとエマーソンは手分けして苦痛のうめき声を上げる2人を拘束した。サンジェイはそれを待って急いで歩き始める。


「陣に戻るぞ。オリバー男爵に抵抗するなと伝えねば」

「兄上、私も一緒に」


 そう言って、レスター子爵の足はショックからかまだ震えているのに気付いたナレシュは父親に肩を貸しつつ、その後ろについて歩きだした。


「ナレシュ、ありがとう」


 サンジェイは頷いた。ナレシュとサンジェイ、そして2人の父レスター子爵を先頭に一団はレスター子爵家騎士団の他のメンバーが待つところに早足で向かっていった。


 アルは彼らが去っていくのを眺めつつ、ゆっくりと茂みから浮き上がった。この様子ならレスター子爵家騎士団はシルヴェスター王国騎士団に抵抗して戦ったりしないだろうし、これ以上出来る事は思いつかない。


“アリュ、どうする?”

「2人が仲良くできてよかった。僕はセオドア王子殿下の所に戻るしかないかな」


 ナレシュは自分が茂みに居るのを知りつつも、兄と一緒に行く事を選択したのである。危険だとは思ったが、それが彼の選択であり尊重するべきだろう。あとは、戦いが終わるのを待つしかない。もしかしたら、セオドア王子側が勝利で終わったら、少しは処遇に対してアルが何か願い出ることができるかもしれない。


 アルは、警備ゴーレムをマジックバッグに収納すると徐々にその場から離れ、高度を上げるのだった。


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


※感想で登場人物が多く追いかけるのが大変だというお話を頂きましたので、従来なら話の最後に載せる登場人物紹介を活動報告にしてみました。うまくいくかわかりませんが、とりあえずエピソード更新後、それに追随する形で更新して行こうと思います。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


なろうチアーズプログラムというのがスタートする模様で、一旦登録をさせて頂いています。どのようになるのか筆者もよく判っていません。実際に始まってみてから、状況次第では取り下げも検討しますが、当面ご了解の程よろしくお願いします。


冒険者アル あいつの魔法はおかしい 書籍版 第4巻 まで発売中です。

山﨑と子先生のコミカライズは コミックス3巻まで発売中

        Webで第16話が公開中です。

https://to-corona-ex.com/comics/163399092207730


諸々よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
そういやこの作品の呪文はどの程度の長さか分からんね 数十メートルの距離で使うことを考えたらかなりの短文詠唱だとは思うけども
肉体強化を使いこなしてるなぁ、すごいぜナレシュ君
この距離なら銃を抜くよりナイフの方が速いっていうのがよくありますが 騎士は魔法使いとどれくらいの間合いなら詠唱完了前に止められるんでしょう? テンペストなら騎士側も何か魔法使い対策が有るんですかねクイ…
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