27-7 遠征軍との連絡
※前エピソードの最後の部分で、物品探索呪文は方角はわかるが距離まではわからないと書いてしまっていました。後から感想欄にて以前使用した時には距離がわかりましたよとご指摘を頂きまして、確認してみたところその通りでした。非常に申し訳ありません。あわてて修正は入れましたが、投稿当初の内容を読んでいただいた方につきましては、その訂正内容をご確認いただければと思います。一応訂正内容についてはここにも再掲しておきます。
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『アシスタント・デバイスのテスとアルが譲った剣だ。なんと剣に反応が出た。ただしそれはアルが見つけた移動している集団の方向ではない。どちらかというとシルヴェスター王国第2騎士団が野営している場所の方向だ。』 の後部分です。
訂正前:-----------------------------------------
念のために念話も送ってみる。こちらには反応はなかった。
物品探索呪文の有効範囲はおよそ10キロ、念話呪文はおよそ1キロである。物品探索呪文は方角はわかるが距離まではわからない。とりあえずその間にナレシュは居るらしい。セオドア王子に合流した可能性もある。
訂正後:-----------------------------------------
距離はおよそ3キロである。近い。念のために念話も送ってみるが、反応はなかった。3キロとなればさすがに届く距離ではない。
とりあえず近くにナレシュは居るのはわかった。もしかしたら彼もセオドア王子率いる騎士団の存在に気が付いて移動中ということではないだろうか。
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移動中のレイン辺境伯騎士団らしい集団を1キロほど離れたところから横目に見ながら、アルはセオドア王子率いる遠征軍が野営陣を置いているはずの場所に向かって飛行を始めた。そこまで距離は5キロ程である。途中、丘や林などもあって決して見晴らしがよい地形ではないが、100メートルほど上空にいるアルが注意して見ると、丘や木々の間からすでにちろちろと松明の明かりらしいものが見えている。その手前3キロあたりにはナレシュが居るはずだが、さすがにそれを見つける事は出来なかった。
“もし、レイン辺境伯騎士団が遠征軍に対して夜襲を狙っているなら、30分もしたら戦いがはじまってしまうかもしれない。急ぎましょ”
「そうだね。飛行しながら念話を……」
アルは真っすぐにセオドア王子の陣に向かって飛び始めた。念話をしたからといって、きっと直ぐに夜襲に対して準備ができるわけではないだろう。間に合うだろうか。
“ナレシュ君! アルだよ 返事して!”
有効範囲に入ったと思われるところでアルはすぐに念話を送った。
“アル君! すごい、来てくれたのか”
ナレシュからすぐに返事が来た。騎乗しているのか走っているのかはわからないが、息を切らしている様子が伝わってくる。
“どっちに向かってるの? セオドア殿下? それともレスター子爵の騎士団?”
“なんとかレイン騎士団の存在をセオドア殿下に知らせようと急いでいた所だよ。良かった。アル君のほうから連絡してくれないか?”
どうやってここに来たのか、それぞれの騎士団の存在をどうやって知ったのかは気になるが詳しく尋ねている時間はなさそうだ。
“わかった。とりあえず知らせて来る。直ぐに戻って来るから、ナレシュ君は無理せずに”
“ありがとう”
ちゃんとわかったのだろうか。不安だが、物品探索呪文と念話呪文を使えば、ナレシュとはまた連絡がとれるだろう。まずはセオドア王子にしらせないと。
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“アルフレッドです。ビンセント閣下、緊急事態です”
セオドア王子率いる騎士団の野営陣にある程度近づいたところで、アルが連絡をとったのはセオドア王子ではなくビンセント子爵であった。いくら緊急事態だとはいえ、さすがに王子に直接念話をするのは問題があると考えたのである。
“アルフレッド・チャニング?! どうした? 旧セネット伯爵領都に向かったのではなかったのか?”
その返事はのんびりしたものであった。夜襲など全く考えていないのだろう。
“おそらくレイン辺境伯騎士団と思われる3千ほどの部隊がそちらに向かってきています。パーカー子爵の予想では夜襲をかけるのではないかと。距離は5分程前でおよそ5キロ”
“なっ?! 詳しく話せ”
ビンセント子爵の声のトーンが一気に変わった。
“事情があって、国境都市パーカーを包囲しているレスター子爵家の本陣を調べたのです。すると陣に人の姿がほとんどなく、それをパーカー閣下に報告すると、レイン辺境伯騎士団は包囲しているようにみせかけて陣を抜け出し、そちらに夜襲をかけるつもりなのかもしれないと判断され、僕に急いでセオドア殿下にこの事を伝えてくれという話になったのです。さらにこちらに向かう途中、今遠征軍の野営地から北北東方向に5キロ程の地点でそちらに移動中の騎士団を見つけました。パーカー閣下の予想は正しそうな気がします”
そうやって話をしている間にも、セオドア王子が率いる騎士団の野営地では、慌ただしい動きが見えた。とりあえず、なんとか間に合ったのではないだろうか。ビンセント子爵からの返事はないが、何か色々と指示をしているのではないかと考え、アルはさらに念話を続ける。
“パーカー閣下からの手紙なども持っておりますが、レイン辺境伯騎士団の動きの方が気になります。もう少し空からの調査を継続してもいいですか?”
“アルフレッド、少し待って欲しい。今どこにいる?”
月明かりも全く無いわけではないのでテントから出てよく見れば、アルの姿をきっと見つけられるはずだとは思う。判りやすいように明かりをつける事も出来なくないが、それをするとレイン辺境伯騎士団からも見えてしまうだろう。
“そちらから北東方向におよそ1キロ、上空100メートルです”
“アルフレッドの位置から、レイン辺境伯騎士団らしき集団は見えるのか?”
アルはおそらくレイン辺境伯騎士団がいるはずの方角に目をやった。最初に見つけた位置から少し南側にずれているが、先導役らしき者が灯している小さなランプのあかりが木々の隙間からちらちらと見える。月明かりでしかないが、目を凝らせば集団がいるのもわかった。方角は北北東と北東の間ぐらいで、距離はおそらく4キロといったところだろう。
“辛うじて……ですね。方角は北北東と北東の間ぐらいで、距離はおそらく4キロだと思います”
“今、魔法使いに指示して、アルフレッドが居るであろう位置に浮遊眼の眼を上げさせている”
浮遊眼呪文を使って真似をしようとしているのか。しかし、月明りしかない夜に知覚強化呪文なしで集団の姿を見るのは難しいだろう。とは言え、浮遊眼の眼の高度を下げれば簡単に相手の魔法使いに捕捉され、魔法解除されてしまうに違いない。
“この暗さでは難しいかもしれません。とは言っても、どうすればよいという助言は難しいですね”
“そうか……では、アルフレッド、今そちらに向かわせている浮遊眼の眼と一緒に行動することはできぬか? 実際の戦争でアルフレッドがどのように立ち振る舞っているのか、今後のために経験させたい。そなたが以前使節団に護衛で同行した際にそなたに教えを乞うていた魔法使いだ”
教えを乞うていた? アルは首をひねった。確かにタガード侯爵家に外交使節として行った際、夜はよくゾラ卿やレイン辺境伯家以外の魔法使いたちと意見交換をした記憶はある。だが、特に誰かに教えたりはしていなかったと思うのだが……。
“僕が誰かに教えたり? 確かに一緒に呪文の話は色々としましたけど……”
“そうか? タガード家の外交使節の護衛を終わらせた後、本人はアルフレッドにいろいろと教えてもらった。すごかったと周りには言っていたそうだ。まだ、若いが王国第2騎士団に所属する期待の魔法使いだ”
この後はナレシュの方にサポートに行こうと思っていたのだが、そこまで推されては断るのは難しい。逆にこれはチャンスなのではないだろうか。このままではいろんなことを今後も頼まれたりしてしまうだろう。やり方を教えておけば、少しは依頼されることが減るかもしれない。何かあるたびに呼ばれるのはうんざりである。会話、念話のどちらも浮遊眼の眼を通じて聞かれる事はないので、隠してある事を知られるリスクもあまりないだろう。肩に乗せて行動するか……。
“わかりました。僕の肩の上に乗せるように言って下さい。自力で浮遊眼の眼を動かして僕を追いかけようとすると、すぐに疲労して倒れちゃうと思うので……”
“よろしく頼む”
しばらく上空からくレイン辺境伯騎士団の動きを伝えながら待つ。その間にいつもなら研究塔に割り当てた倉庫区画に置いて移送呪文で出し入れしているグリィの人形ゴーレムと警備ゴーレムを釦型のマジックバッグに入れ直しておいた。どちらのゴーレムも使う可能性があるし、釦型のマジックバッグとゴーレムたちは師匠であるディーン・テンペストに借りていて、後で返すという話ができるが、移送呪文の存在は隠しておきたいからだ。無事それらを終えた頃、直径2センチほどの浮遊眼の眼が近づいてきた。確認したところ、ビンセント子爵が言っていた魔法使いの浮遊眼の眼で間違いはないらしい。肩に乗るように促す。その浮遊眼の眼はすこしぎこちないながらもなんとかアルの左肩に乗った。
“すこしあたりを周回してきますね。ビンセント閣下との念話は一旦途切れると思います”
“うむ、わかった。できれば、レイン辺境伯騎士団の構成がわかるぐらいの距離まで飛んでくれ。それがわかればこちらは助かる”
なるほど、以前、ラミアを発見したときやタガード侯爵家の会議のときと似た話か。
“この肩に乗っている浮遊眼の眼の使い手の魔法使いは、記録再生呪文は使えたりしませんか?”
アルの問いに対してしばらく間が空く。尋ねているのだろう。
“残念ながら使えないらしいが、それはどう使うのだ?”
アルは記録再生呪文を使って、浮遊眼の眼で見た内容を記録、再生することによって、すこし時間差はあるものの、他の人がそれを見ることができると早口で説明した。特にこのような状況であれば、魔法使いより戦いの経験をたくさん積んだビンセント子爵のような人が直接見ることによって発見できることは多いだろう。
“なるほど! 今迄は浮遊眼の眼で見た内容を魔法使いが言葉で報告するという形だったが、それが直接見られるようになるという訳か、それは大きいな”
そう言って話をしている間にもレイン辺境伯騎士団は徐々に近づいてきていた。先程から1キロほどは近づいただろうか。だが、そこで動きが変わった。一旦移動を停止したかもしれない。
“ちょっと動きがあったかもしれません。近づいて様子を見てきます。一旦念話は途切れます”
“うむ。気を付けてな”
アルはナレシュの位置を確認しようと物品探索呪文を使う。方角はレイン辺境伯騎士団と同じ方向、距離は3キロ、ナレシュはレイン辺境伯騎士団とほぼ同じところに居るようだ。
アルは慎重にレイン辺境伯騎士団の居る方向に向かったのだった。
読んで頂いてありがとうございます。
月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。
※感想で登場人物が多く追いかけるのが大変だというお話を頂きましたので、従来なら話の最後に載せる登場人物紹介を活動報告にしてみました。あくまで27話掲載中の暫定措置です。とりあえずエピソード更新後、それに追随する形で更新して行こうと思います。その前の話を読んでいる人にはネタバレになるので27話終了時点で消したほうが良いかもと悩んでいます。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
2025.10.3 浮遊眼の合流前に研究塔の倉庫区画にいつもおいてある警備ゴーレムをマジックバッグに入れ替える旨の記述を追加しました。
いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。
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