27-6 続・ナレシュはどこに
今話では、様々な勢力が出てくるため、それを整理したものを作ってみました。
同じものを27-1の前書きとに載せています。基本的には男爵以上ですが、セネット男爵家やレイン辺境伯家については例外的に騎士の名前もあります。(※2025.9.19に一部改訂)
「レスター子爵の陣が空だっただと?」
アルの話を聞いたパーカー子爵は右手で前のテーブルを拳で殴りつけ、大きな声でそう叫んだ。
ここはパーカー子爵の領主館の3階にある応接室。アルに相談されたレビ会頭は何か感じる事があったらしく、アルを伴って国境都市パーカーの衛兵隊長であるニコラス男爵の許に相談に行った。そして、ニコラス男爵もその話を聞いて深刻そうな顔をし、そのままパーカー子爵に会いに行こうという話になったのだ。
「はい。私もアル殿からこの話を聞いて頭が殴られるようなショックを感じました」
「と言う事は、レイン辺境伯騎士団も?」
パーカー子爵とニコラス男爵の先程の反応、話ぶりからすると、何か大変な事らしい。2人はそろってアルの顔を見た。
「レイン辺境伯騎士団の本陣らしいところまでは見ていません。途中でおそらくプレンティス侯爵家の魔導士らしい者が巡回してきたので慌てて逃げ出してきたんです」
もうちょっと調べたほうがよかったのかもしれない。アルは頭を掻く。
「そうか、しかし、レスター子爵家の騎士団が居ないという事だけでも十分怪しいな」
そう言って、パーカー子爵とニコラス男爵は何か話し合い始めた。横で話を聞いていると、2人が気にしているのはレイン辺境伯騎士団が国境都市パーカーを包囲していると見せかけて、どこかに移動したのではないかということらしい。特に疑っているのは国境都市パーカーに向かって移動中のセオドア王子率いるシルヴェスター王国騎士団をどこかで奇襲をたくらんでいるのではないかということのようだ。そんな上手くできるのかとアルは不思議に思ったが、包囲されているという状況などもあってパーカー子爵家の戦力は国境都市パーカーに集中してしまっており、浮遊眼呪文を使った偵察なども相手の魔法使いに邪魔された事もあって、包囲の外側の情報はあまりつかめていなかったらしい。
「ここに来る途中、空からセオドア殿下配下の遠征軍は移動しているのを見かけましたよ? 普通に移動されていたように見えましたけど……」
「なんと、それはどのあたりだ?」
パーカー子爵が配下の従士に指示すると、彼は大きな羊皮紙を持って来た。このあたりの地図である。
「たぶん、このあたりですね。太陽が中天にかかって3時間ぐらい経った頃でしょうか」
アルはグリィから教えてもらいながら、地図の1点を指す。
「ふむ、ということは夜の野営はこのあたりか、或いは順調に進んでこのあたりか……」
「そうですな。我々が包囲されているというので急がれているでしょうし、こちらの可能性が高いかと思われます」
パーカー子爵が指した2か所の地点のうち、国境都市パーカーに近い所をニコラス男爵は指さした。
「ふむ、とりあえず可能性がある所に全部手紙を送ろう。レイン辺境伯騎士団側にもこちら側の動きが判ってしまうかもしれぬが、殿下が知らずに奇襲を受けてしまうほうが怖い。まず、このような情報があると伝えるのだ。後は残っている魔法使いに敵陣状況の確認をさせよ。その結果で、あらためて詳細な情報を送るものとする。皆、それを手配せよ」
パーカー子爵の指示に部屋に居たパーカー子爵とニコラス男爵の部下たちが一斉に部屋を飛び出していく。その様子を見て、パーカー子爵は一息つき、改めてアルを見る。
「ところで、アル。そなたは今回、セネット男爵を探しに来たとレビ会頭から聞いたが?」
アルは周りを見回した。今、多くの人たちが部屋を出て行ったので、今残っているのはパーカー子爵とニコラス男爵、そしてレビ会頭と自分の4人だけだ。ちらりとレビ会頭を見る。レビ会頭は軽く頷いた。大丈夫ということだろう。
「はい。ナレシュ様はきっと……」
アルが色々と説明しようとするのをパーカー子爵は遮る。
「今は良い。咎めだてをしようというつもりはないのだ。私はユージン子爵が率いるレイン辺境伯家騎士団及びレスター子爵家騎士団はセオドア王子率いるシルヴェスター王国第2騎士団を奇襲するつもりだと思う。そして、おそらく優秀なセネット男爵のことだから、なんらかの方法でそれに気付き、それを阻止しようとしているはずだ」
阻止しようとしている、実際は父親であるレスター子爵或いは兄のサンジェイに接触を試みようとしているのかもしれないのだが、パーカー子爵はそう表現してくれているのかもしれない。後々のための配慮か。何にせよレスター子爵家騎士団の近くにナレシュは居ると考えているに違いない。アルもそれに異論はなかった。
「とりあえず、セオドア殿下に私からの手紙を届けてくれぬか。いや、手紙でなくても良い。そなたの事だから他に早い方法があるのならそれでもいいのだ。とりあえず現状と奇襲の可能性がある事をつたえてくれればいい。先程、配下に指示したように、ここからも手紙送信呪文を使って連絡を飛ばすが、それだけでは心もとないし、そなたが飛ぶ方が早いだろう」
「えっと、ここの騎士団は?」
アルの疑問にパーカー子爵は首を横に振った。
「残念ながら我がパーカー子爵家騎士団は防御に特化した騎士団でな。城や拠点を守るなら力を発揮するが、馬より弓を重視していて機動力は乏しく、今からユージン子爵たちの騎士団を追いかけてもとても追いつけぬだろうし、追いついたとしても、我が騎士団の特性上、野外の遭遇戦は苦手としていて、勝算が立たない。という訳で動くに動けんのだよ。そして、頼みの魔法使いは、すでにかなりの損害を受けているし、空を飛んでセオドア王子に急を告げられるかどうかはかなり怪しいのが正直な所だ」
アルが忍び込んだ時にも、国境都市パーカーを包囲する野営陣の警備にはプレンティスの魔導士らしい姿があった。彼らを相手にして、パーカー子爵配下の魔法使いたちからはかなり死傷者を出したのかもしれない。
「わかりました。たぶん最初は念話でお伝えする形になるとは思います。が、念のためお手紙と身分を保証する証明書を頂けますか?」
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アルはパーカー子爵の領主館を出ると、その足でパーカー子爵とニコラス男爵が予想していた場所に向かった。2人と話していた間に日は暮れていた。ただし、夜空は晴れており月も見えている。この明るさならパーカー子爵たちが懸念していたように騎士団も全く移動できないわけでもなさそうだ。
「あれは?」
上空から見ると、暗い荒野でいくつか小さな明かりが見えた。実際の国境であるワシントン河を越えてから10キロほど進んだところである。目標であるシルヴェスター王国第2騎士団が野営しているであろう場所まではまだ5キロほど手前であった。そこをよく見るとかなりの数の集団が移動している。
『知覚強化』 -視力強化 望遠暗視
騎士団、それもかなりの数のようだった。騎士と徒歩の従士を合わせるとおそらく3千程は居るだろう。アルが気付いた小さな明かりはランプかなにかのようだった。遠くからは見えにくいようにフードのようなものが被せられてはいたようだが、それでも隠しきれてはいなかったのだろう。ただし、旗などは上げておらず所属はよくわからなかった。その騎士団が夜に南西に向かって移動している。これほどの数の集団となると、セオドア王子率いるシルヴェスター王国第2騎士団か、ユージン子爵率いるレイン辺境伯騎士団のいずれかなのだろう。
“旗がないから確証はないけれど、きっと、レイン辺境伯騎士団ね”
近くにナレシュは居るだろうか。アルは見つからない程度の距離に近づくと、そこで物品探索呪文を使う。アシスタント・デバイスのテスとアルが譲った剣だ。なんと剣に反応が出た。ただしそれはアルが見つけた移動している集団の方向ではない。どちらかというとシルヴェスター王国第2騎士団が野営している場所の方向だ。距離はおよそ3キロである。近い。念のために念話も送ってみるが、反応はなかった。3キロとなればさすがに届く距離ではない。
とりあえず近くにナレシュが居るのはわかった。もしかしたら彼もセオドア王子率いる騎士団の存在に気が付いて移動中ということではないだろうか。
「どちらにしても、この集団に対してできる事は何もないかな。とりあえずパーカー子爵の依頼通り、セオドア殿下に状況を伝えよっか」
“そうね。その手前でナレシュに対して念話してみるといいんじゃない?”
読んで頂いてありがとうございます。
月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。
※感想で登場人物が多く追いかけるのが大変だというお話を頂きましたので、従来なら話の最後に載せる登場人物紹介を活動報告にしてみました。あくまで27話掲載中の暫定措置です。とりあえずエピソード更新後、それに追随する形で更新して行こうと思います。その前の話を読んでいる人にはネタバレになるので27話終了時点で消したほうが良いかもと悩んでいます。
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2025.9.19 夕方
感想にて、物品探索は距離がわかったのではなかったかというご指摘を頂きました。ご指摘のとおりです。おぼろげな記憶で誤って書いてしまいました。申し訳ありません。以下のように訂正しました。
訂正前:
念のために念話も送ってみる。こちらには反応はなかった。
物品探索呪文の有効範囲はおよそ10キロ、念話呪文はおよそ1キロである。物品探索呪文は方角はわかるが距離まではわからない。とりあえずその間にナレシュは居るらしい。セオドア王子に合流した可能性もある。
訂正後:
距離はおよそ3キロである。近い。念のために念話も送ってみるが、反応はなかった。3キロとなればさすがに届く距離ではない。
とりあえず近くにナレシュは居るのはわかった。もしかしたら彼もセオドア王子率いる騎士団の存在に気が付いて移動中ということではないだろうか。
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誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
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