26-6 王都その他の結果報告
修正のお知らせ
26-4にてアルを王族(王城端末の権限保有王族)に招待したと書きましたが、王族には血族しかなれないのではというご指摘を頂きました。確認したところ、ご指摘のとおり、全くの他人による王家乗っ取りを避ける目的で王城端末の権限保有王族にはテンペストの血をひく者しかなれないという制限を加えておりました。そのため、アルは配偶者など王家に準ずる資格として準王族(王城端末の権限保有準王族、ゴーレム指揮権と王城端末の権限保有王族への加入・脱退の承認権を持たないがそれ以外は王城端末の権限保有王族と同等)の者とするというように変更しました。大筋では変わりませんが、一応告知しておきます。記述が気になる方はお手数をおかけしますが26-4を御再読ください。
テンペスト王城端末が教えてくれた秘密通路は途中鍵や罠があったものの難しい仕組みなどはなく、解錠や念動呪文を使って簡単に通り抜ける事が出来た。途中、アルが使っている呪文の反応に気が付いたらしい魔導士たちが何人もアルを追跡してきたが、それについてはアルの方が効果範囲が広いこともあって追い詰められることなく、アルは無事にテンペスト王城を脱出したのだった。
“脱出成功したよ!”
“よかったっ”
アルがパトリシアにそう念話を送ると、研究塔でじっと待っていたらしい彼女は嬉しそうな声を上げた。
“この魔道具の転移先はどこになってるの?”
“東谷関城です。タバサとドリスが部屋で待ってくれています”
東谷関城か。あれから3日しか経っていないのに、もうあそこは占領しているらしい。さすがにタガード侯爵家も心を入れ替えて協力したのかもしれない。
“わかった。じゃぁそっちに戻って、パトリシアも呼べばいいよね”
“はい。それでお願いします”
アルは近くの荒野に出、呪文で岩を掘って一時的な安全地帯を作り、そこから転移の魔道具を使って東谷関城に転移したのだった。
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東谷関城の一室に戻ったアルだが、先にパトリシアが帰ってくると思い込んでいたタバサ男爵夫人がアルに驚き、パニックに陥った彼女を懸命に落ち着かせなければいけないというアクシデントはあったものの、何とか騒ぎにはならず、そのまま無事にパトリシアを呼び寄せることができたのだった。
部屋には隅に2体の警備ゴーレムが立っている以外はタバサ男爵夫人と召使であるドリスだけだ。室内は一応貴族が過ごしていたと思しき部屋ではあるが、調度品は整っていないし、しばらく放置されていたらしく掃除なども行き届いていない感じである。この様子だと東谷関城を占領してからまだ日にちは経っていないのだろう。
「おかえりなさいませ。パトリシア様」
帰って来たパトリシアにうって変わって落ち着いたタバサ男爵夫人は深々と頭を下げる。
「大変だったよ。先にパトリシアに帰ってもらうんだった」
「申し訳ありませんでした。パトリシア様が帰ってくると思い込んでいたものですから」
アルは少し拗ねた様子で呟き、タバサ男爵夫人は何度も頭を下げる。それをパトリシアは微笑ましそうに眺めた後、ドリスに目をやる。
「ドリス、アル様が王都での作戦が成功して戻られた事をペルトン子爵とドイル子爵にお伝えするように、控えの間にいる従者の方に指示して頂戴。緊急ではないので御2人がもし眠っておられるのなら、お伝えするのは明日朝1番でも構わないわ」
「かしこまりました」
転移の魔道具を使うので人払いをしていたのだろう。ドリスは一礼して部屋を出ていく。
「じゃぁ、僕は研究塔に……」
「アル様、まずは落ち着いてお茶でもいかがですか? お部屋を用意してあります。今晩は何卒こちらにご滞在頂き、研究塔に戻られるのは御二方への報告を済ませてからお願いします」
タバサ男爵夫人がそう言って頭を下げた。終わったからとすぐに帰るわけにはいかないらしい。ペルトン子爵やドイル子爵につかまるとまた何かお願いされそうな気がするし、何よりゴーレム関連の呪文の書を早く見てみたいという気持ちが強いのだが、まずは報告ということなのだろう。仕方ないとアルは心を落ち着かせてテーブルに座ることにした。
お茶を飲みながら、アルは王都の話をしてみたが、パトリシアとタバサ男爵夫人は王都では王城の限られた区画をほとんど出たことがなかったようで、あまり話は盛り上がらなかった。だが、その後にアルを準王族として王城端末に登録した件をパトリシアがタバサ男爵夫人に説明すると、彼女はその話は初耳だったらしく目を見開いて驚き、そうなのですかと大きな声を上げたのだった。
「タバサには黙っていてごめんなさいね。リアナとは以前から相談していて、アル様にはそうなっていただこうとずっと考えていたの」
「それは……。いえ、パトリシア様のご判断には異論はございません」
そう言って、タバサ男爵夫人はアルの顔をじっと見る。だが、アルはそのタバサ男爵夫人をみてにっこりと微笑んだ。
「どうしたの? 僕は王族としては何もできないってパトリシアには言ったよ。少なくとも蛮族への対処方法がわかるまでは古代遺跡を探索して回りたいし、まだまだ知らない呪文も多いからね。もちろん、パトリシアに困ったことがあれば手伝うけど、その程度かな」
タバサ男爵夫人はアルの答えに大きくため息をついた。
「しばらくはそれでも大丈夫かもしれませんが……」
アルからすると、今の所、リアナが提案してくれたディーン・テンペストとアル、2人を使い分ける作戦で表面上はうまく行っているように見える。このまま順調に行けばプレンティス侯爵家の野望を阻止し、蛮族を利用するようなやり方は止めさせることができるに違いない。そうすればパトリシアが心配していた人々の生活も安定するだろう。それで良いのではないだろうかという気がしていたのだ。
タバサ男爵夫人はちらりとパトリシアを見た。パトリシアはアルをじっと見つめている。そのすこし陶然とした横顔を見て彼女は再び大きなため息をついた。
「わかりました。そういえば、アル様、レイン辺境伯領の方の状況はいかがですか?」
アルはタバサ男爵夫人に尋ねられてどきっとした。そういえば、どうなっているのだろう? セオドア王子に故郷の事が気になりますと言って、少し強引な形で遠征軍の所を出てから20日近く経つ。その時はすぐ様子を見に行くつもりだったのだ。チャニング村はオーソンが行ってくれたので大丈夫な気はするが、国境都市パーカーやセネット男爵領の状況はわからない。
呪文の書は気になるが、ちょっと覗いた方が良いかもしれないな。アルがそんな事を考えていると部屋をノックする音がした。
「失礼します。ペルトン子爵閣下とドイル子爵閣下、エドシック男爵閣下がお見えです」
ドリスの声だ。夜中だというのに2人ともまだ寝ておらず、連絡を聞いてやってきたらしい。タバサ男爵夫人がパトリシアを見る。彼女が頷き、立ち上がるのを確認してからタバサ男爵夫人は入っていただいてくださいと答えた。アルもその様子を見て座っていた椅子から立ち上がる。
「アルフレッド・チャニングが無事に帰って来たと連絡を頂いたので、夜中だとは思いましたが、お話が聞けるかと思いお邪魔いたしました」
ペルトン子爵たちは皆少し酒が入っている様子だった。パトリシアが3人をテーブルに誘い、アルにも気にせずに自分の隣に座るように言う。
「祝勝会はまだ続いていたのですね」
「はい」
パトリシアの問いにそう言ってペルトン子爵は頭を掻きつつ、パトリシアの向かいに座った。その左右にはドイル子爵とエドシック男爵だ。アルは戸惑いつつパトリシアの横に座る。その様子を見てペルトン子爵とエドシック男爵は少し驚いた表情をし、ドイル子爵はにやりと笑ったが、三人とも特に何も言わない。
「アルフレッド様、私たちは東谷関城を手に入れた祝勝会を先程までしていたのです」
タバサ男爵夫人が改めてそう説明してくれた。
“リアナに聞いたら、テンペスト王国新生騎士団が東谷関城に到着した時には、すでにプレンティス侯爵家騎士団は関城を放棄して撤退していたらしいわ。物資も放置されたままだったらしいから余程相手は急いでいたみたいね。罠ではないかという懸念もあったのだけど、プレンティス侯爵家騎士団の姿はここからもう10キロ以上離れたところで確認されたので大丈夫だと判断されたみたい。そして初めて得られた拠点としてその祝賀会が夕方から行われていたの。テンペスト王国騎士団としては設立以来ずっと戦闘ばかりで碌にゆっくりと休息もとっていなかったから、かなり盛り上がったようよ。この関城と呼ばれる巨大な要塞はタガード侯爵家が築いたものだけど、タガード侯爵家騎士団はこの奪回に全く動いていないので、テンペスト王国騎士団がしばらく占拠して使うことにしたみたい”
詳しいことをグリィが教えてくれた。タガード侯爵家はあのままなのか。一体どうするつもりなのだろう。だが、これでパトリシアたちは騎士団に続いて拠点を手に入れたということか。アルの連絡を受けて、パトリシアは祝賀会を退席して部屋に戻り、一人、釦型マジックバッグの倉庫区画の中で呼び出しを待っていてくれたのだろう。
「拠点の確保、おめでとうございます」
アルがペルトン子爵にそう言うと、彼は鷹揚に頷いた。
「これもパトリシア王女殿下の御威光の賜物ですな。プレンティス侯爵家を見限ってこちらに助力をという騎士たちも増えてきております。このまま一気に形勢は逆転するやもしれません。ところで王都のほうはどうでした?」
彼の口調は貴族が一般市民に対するものではなく、すこし丁寧な、どちらかというと同じ貴族に話すようなものに変わった。パトリシアがアルを自分の隣に座らせたことやタバサ男爵夫人がアルの事を様をつけて呼んでいるのに何かを感じたのだろう。
「はい。手紙は無事全員にお渡ししました」
そう言って、アルは手紙を渡した相手の近況などを詳しく話した。特に先々代騎士団長であったラムジー元伯爵の話ではドイル子爵は大きく頷き、彼の暮らしている部屋の鉢植えに盗聴の魔道具が仕掛けられていた話を聞いてかなり憤慨していた。彼には騎士の指揮の話などいろいろと教えてもらったらしく、彼女は彼を師として非常に尊敬しているらしい。
続いて、夕方に行った宣戦布告の話もする。”凪”と呼ばれる公園、高位貴族の屋敷があつまる貴族街の中心、そして墓場。
「そのケリー閣下っていうのは、アルフレッド殿の想像した通り、第2魔導士団の大隊長、ケリー男爵で間違いないだろうね」
ドイル子爵は”凪”と呼ばれる公園で指揮をとっていた女性の魔導士の特徴をアルから聞き、そう断言した。彼女の話によると、プレンティス侯爵家には3つの魔導士団があり、第1魔導士団の団長はウィートン子爵、第2魔導士団はケリー男爵、そして第3魔導士団はヴェール卿だという話だった。第3魔導士団は一時期エマヌエル卿が団長だったこともあったが、今はヴェール卿らしい。そして、ウィートン子爵とケリー男爵はプレンティス侯爵家の血を引いているらしい。
ウィートン子爵とエマヌエル卿、そしてヴェール卿、皆聞いたことのある名前だ。自慢するようであまり言いたくはないが、ウィートン子爵がレイン辺境伯領でおこなっていた工作やその死などは今の戦いに関連するだろう。黙っておくわけにもいかないかと、アルは口を開いた。
「そのウィートン子爵というのは、シルヴェスター王国レイン辺境伯領での反乱工作を行っていて、僕が倒しました。エマヌエル卿もその前に蛮族に食糧を与えていて、その関係で戦い倒しています。ヴェール卿とは2度遭遇しました。パトリシア殿下を連れて逃げるための戦い、そしてシルヴェスター王家セオドア殿下を守るための戦いで……」
3人の大魔導士との関わりとそのうち二人の死についての淡々とした説明にペルトン子爵たちは非常に驚き、アルとパトリシアの顔を交互に見た。パトリシアはアルの横で自慢げに微笑んでいる。
「シルヴェスター王国ではそのような動きが……」
「パトリシア王女殿下は、プレンティス侯爵家の魔導士たちに追われながらもこれほどの戦果を……」
「3人の大魔導士を倒していたとは、アルフレッド殿の功績は……」
3人は少し興奮しながらいろいろと話し合っている。
「パトリシア殿下、我々としては拠点を手にいれましたし、丁度、パウエル子爵との連携を取りたいと考えておりました。これは是非、シルヴェスター王国のセオドア殿下とも」
3人を代表したのかペルトン子爵がそう口を開く。
「そうですね。セオドア王子の元には、タガード侯爵家のノラ姫もおられるようです。彼女はプレンティス侯爵家騎士団に領都が包囲される前に向かわれた様子ですからタガード侯爵の安否を心配しておられることでしょう。彼女にも手紙を書きましょう」
ノラの消息を聞いて、3人はまた色々と話を始める。
「アルフレッド様の御父上と兄上はレイン辺境伯家に仕える騎士で、アルフレッド様は先程のお話の中にもあったようにセオドア殿下を守るという功績もあげられており、殿下とは個人的な面識もおありだそうです。アルフレッド様、お忙しいとは思いますが、お手紙をいくつか届けて頂けますか?」
呪文の書が……。アルはそう思ったが、たしかに国境都市パーカーの様子は気になっていた。死の川上流にある拠点には移送空間もあるので、そこを経由すればシルヴェスター王国の遠征軍の陣まではそれほど遠くはない。
「わかりました。お届けします。お手紙はいつ頃ご用意していただけますか?」
ここで、26話は一旦区切りとします。1時間後の11時には登場人物を整理して投稿します。
読んで頂いてありがとうございます。
月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。
冒険者アル あいつの魔法はおかしい 書籍版 第4巻 9/15 発売予定です。
山﨑と子先生のコミカライズは コミックス3巻が 同じく9/15 発売予定
Webで第15話が公開中です。
https://to-corona-ex.com/comics/163399092207730
諸々よろしくお願いいたします。




