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【書籍化&コミカライズ】冒険者アル -あいつの魔法はおかしい  作者: れもん
第26話 テンペスト王城

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26-5 ゴーレムの呪文

「え? い、いいの?」


 嬉しさのあまりアルの声は上ずった。ゴーレム生成(メイクゴーレム)呪文とゴーレム制御(コントロールゴーレム)呪文、そしてテンペストが遺したゴーレムの構造やその製作に関する資料、ゴーレム百科事典(エンサイクロペディア)。これは第四階層の呪文というだけでなく、テンペスト一族の秘術というべき物ではないのか。これほどのものを貰っても良いのだろうか。ゴーレムをけしかけたり、魔導士を倒したり、幻覚を出したりといった事に対しての恩賞というのなら、これは貰い過ぎだろう。


「今までのアル様が私だけでなく我が王国にしてくださった事に対して、どうやって報いたらいいのか、ずっとリアナとも話し合っておりました。領地や地位と言っても、アル様のご両親、御兄弟には隣国シルヴェスターに仕える騎士という立場がありますし、アル様自身も望まないでしょう。この一連の呪文の書が、王城地下宝物庫に残されているかもしれないとリアナが教えてくれたので、これなら喜んでいただけるのではと考えておりました。ただ、残されているかどうかは確信が持てませんでしたので今までお話しすることが出来なかったのです」


 パトリシアが逃亡してきて以来、今日までアルがやって来た事柄すべてに対する礼と言う事か。パトリシアに関して言うと別に礼が欲しくて助けたわけではないのだ。それに対しての礼と言われるとこれもまた距離を感じてしまう。


「とりあえず、お受け取り下さい。テンペストの子孫の弟子というのであれば、ゴーレム関連の呪文を習得していないと言う訳にはいかないでしょう? 私のものはアル様のものでもあるのです。もし余裕があれば、習得した後に呪文の書を複写して原本をこの地下宝物庫にお戻し下さいませ」


 複雑な顔をしているアルにパトリシアはそう言ってにこりと微笑んだ。


「わかったよ。これはありがたく貰っておくことにする。今後も手伝えることがあったら手伝うし、それについての礼はもうこれで貰ったからね」

「はい。たぶんまだお願いしたいことは有ると思います。よろしくお願いします」


 アルはパトリシアが指し示した隠し戸棚と思しき中から羊皮紙の束を順番に移送(トランスポート)呪文を使って研究塔で割り当ててある自分の倉庫区画に移した。魔法発見(ディテクトマジック)呪文を使われた時を考えて数のつじつまを合わせるため、光の魔道具を3つ代りに入れておく。この呪文は是非とも早く習得しなければ。


 その時、アルの魔法発見(ディテクトマジック)呪文に5人の呪文反応が出た。アルが下りてきた階段の方角だ。誰かがアルの侵入に気付いたのだろう。中庭に空けた穴は脱出の時に使うかと思って幻覚(イリュージョン)をかぶせておいたが、それが発見されてしまったのかもしれない。すくなくとも呪文がかかっている人間が5人である。魔法発見(ディテクトマジック)呪文などの警備のための呪文だけなのか、(シールド)呪文のようなものもか、種類や数は不明だ。他に呪文がかけられていない護衛が居る可能性もある。


「パトリシア、すぐに転移(テレポート)の魔道具で逃げて」


 パトリシアははっとした顔でアルを見た。


“およそ10階層ぐらいよ。今の降りてくる速度ならおよそ20秒でこのフロアに着くわ”


 グリィが言ってくれているのは今の反応が出ている位置から逆算した予測だろう。アルが咄嗟に考えたより少し余裕があるのかもしれない。


転移(テレポート)の魔道具を戻すためのゴーレムは研究塔にしか……。これはアル様がつかうのにお持ちください。ひとまず私をマジックバッグに収納してくださればよいのです」


 パトリシアはアルに駆け寄り、転移(テレポート)の魔道具を押し付けようとする。アルのいうやり方だと転移(テレポート)の魔道具を戻せない、一緒に逃げようと言いたいのか。

 転移(テレポート)にしても移送(トランスポート)にしても10秒程の硬直時間がある。なのでパトリシアを優先に思ったのだが、相談している時間はないだろう。しかし、グリィの教えてくれたように20秒なら……。アルは転移(テレポート)の魔道具を受け取ると早口で伝える。


「警備ゴーレムは宝物庫の壊れたゴーレムに混じって。テンペスト王城よ、隠し戸棚と宝物庫の扉を閉じて。パトリシアは呪文を受け入れてね。ちゃんと僕も逃げるから」


移送(トランスポート)』 研究塔


 パトリシアの護衛に出した警備ゴーレムは回収する時間が惜しいので、宝物庫の中のゴーレムに混じっておいてもらうことにした。こちらの数はかなりのものなので見分けは付きにくいだろう。パトリシアはすこし目を見開きつつも黙って呪文を受け入れ徐々に姿が消えていく。これで、アルがうまく逃げれなくてもパトリシアは安全だ。その場合でも空飛ぶ馬車はタバサ男爵夫人が持っているので時間をかければ行き来ができるだろう。


 階段を下りて来る甲冑の音や足音が大きくなってきた。もうかなり近いだろう。音からすると10人以上は居そうだ。アルは飛行(フライ)呪文にかけていた探知回避(ステルス)呪文を解除しておく。この呪文の存在はまだ知られたくないので、この状態のまま飛行(フライ)するのは避けたいのだ。魔法発見(ディテクトマジック)呪文の距離からして相手はもう2フロア分ぐらいの距離になっている。


魔法の竜巻(マジックトルネード)


 アルは2秒ほど間を空けて階段の踊り場を見上げ、その天井あたりを狙って呪文を放つ。対象を選ばずに攻撃呪文を放てるのは今の所アルにしかできないやり方だ。この呪文攻撃は誰かにダメージを与えるというより、相手を足止めするのが目的だった。青白い玉が飛び、踊り場あたりでまるで光の花が開くように白い光が渦を巻いて広がった


「うおおっ」「ひぃいいい」


 何人かは巻き込めたらしい。これで階段を下りて来る勢いは止まるだろう。


「何者だ! また、金髪の小僧かっ!」


 イラついた様子の女性の魔導士の声が聞こえる。


「ケリー閣下、お引きください。危険です」

「何を言う。ここは確実に倒さねばならん。私が引くわけには行かぬ。いや、そうか。相手に逃げる道はない。焦らずに行くぞ。お前は増援を呼んでくるのだ。宝物庫に忍び込んだ魔法使いが居る。金髪の小僧かもしれぬとな」


 ケリー? どこかで聞いたことがあるが思い出せない。女性だとするとあの“(カーム)”と呼ばれる公園でアルの出した幻覚に対処していた魔導士たちのリーダーかもしれない。


“ケリーって、プレンティス第2魔導士団の大魔導士じゃない? ナレシュが男爵になる前、第2魔導士団と第3魔導士団が協力してパーカー男爵領内に拠点を作っていたことがあったじゃない? そのときにメルヴィルとかいう魔導士が、第2魔導士団の大魔導士はケリー男爵だって言ってたわ。女性だとは思わなかったけど閣下をつけて呼ぶって事はそうじゃない?”


 なるほど。大魔導士か。とりあえず魔法の竜巻(マジックトルネード)呪文による牽制攻撃は効いていそうだ。すぐに階段を下りてくることはないだろう。


力場の壁(フォースウォール)


 アルは念のために階段から広い部屋に出るところに壁を作っておくことにする。この呪文はまだ熟練度がそれほど高くないので容易に魔法解除(ディスペルマジック)されてしまう。できれば石軟化(ソフテンストーン)呪文で壁を作るほうが良かったのだが地下宝物庫の内側の素材は中に板や砂が仕込まれているので使いにくいし、マジックバッグから素材の岩を出すのも時間がかかるのでこれで妥協しておく。要は転移(テレポート)の魔道具を安全に使う時間さえ稼げればいいのだ。

 こういう展開になるのなら警備ゴーレムを回収できたなという考えが頭をかすめた。だが、今更宝物庫の扉を再び開閉するとなると色々と相手に情報を与えてしまいそうなので断念する。あとの課題は、こちらが転移(テレポート)の魔道具を持っているという懸念を持たせずにうまくここから逃げれるかどうかだ。アルは声を潜めて尋ねる。


「グリィ、テンペスト王城の端末と声を出さずに話せる?」


 アルやパトリシアが王城と呼んでいた宝物庫の入り口前にある端末と直接会話をすると、その会話はケリー男爵たちに聞かれてしまいそうだ。それも避けたい。


“可能よ”

「エレベーターが上がったところの扉は王城の大広間だよね。扉の開く隙間のサイズって細かく指定できるのか聞いて欲しい。できれば10センチぐらい。あとは念のため階段以外にこの区画に出入りできる秘密通路みたいなのがないかどうかも」


 アルは今居る場所から天井を見上げた。天井までは約70メートル。その手前も縦横10メートルぐらいの扉があるのが見えた。おそらく床の一部が持ち上がり、あの位置にまで移動したらあの扉が開くのだろう。おそらく地下宝物庫からゴーレムを大広間に移動させるための仕組みにちがいない。その扉を10センチ開くのなら大広間の天井ちかくを鳥になって逃げだせるかもしれない。

 呪文の反応については今更だし、動物(アニマル)変身トランスフォーメーション呪文が使えることについてプレンティスにばれても転移(テレポート)の魔道具の存在が認識されるよりは断然マシだ。

 それにこの王城ができて200年だ。落成以降、歴代の王の誰か個別に秘密通路を作ったりしている可能性も十分にあるのではないだろうか。


“10センチだけ開けるのは可能みたい。あと、築城後に作られた秘密通路はいくつもあるって。一番わかりやすいのは大広間への扉と同じ高さあたりに石の階段がつくられているものではないかって言っているわ。ただし、そういうのは王城端末の制御外で罠や鍵がかかっているかもしれないらしいの”


 予想的中! 鳥に変身して逃げるよりは、秘密の通路のほうが安心だ。罠のリスクはあるが、鍵なら呪文で開けることができるだろし、できれば外に出た痕跡を作りたいが、無理なら途中で石軟化(ソフテンストーン)呪文で通路を塞ぎ、転移(テレポート)の魔道具をつかってもその使用を強く疑われることはないだろう。


「グリィ、その秘密通路の話、できるだけ詳しく聞いておいて」

“わかったわ”


(ライト)


 アルはこの場に光を灯す。力場の壁(フォースウォール)は不透明で、隙間は天井近くにしかないので向こうからこちらを直接は見えないはずである。そうなると魔法発見(ディテクトマジック)呪文でしか存在を意識できないはずなので、これの反応とアルとの区別はつかないはずだ。そこまでしかけておいて、アルはふわりと浮きあがった。


一直線にグリィが聞いてくれた石の階段に向かって飛ぶ。


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


冒険者アル あいつの魔法はおかしい 書籍版 第4巻 9/15 発売予定です。

山﨑と子先生のコミカライズは コミックス3巻が 同じく9/15 発売予定

        Webで第15話が公開中です。

https://to-corona-ex.com/comics/163399092207730


諸々よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
王族にしか用意できない特大の餌 てゆうかこれもうプロポーズみたいなもんでしょ 秘術と言うだけあって一度使うと、浮気すると発動する呪いとかかかってない?
マジで使える魔法は多彩だわ、トリッキーな応用をポンポンやってくるは 「強い」というよりも「上手い」魔法使いですね ・・・・・敵対する側からすれば「厄介」とか「面倒」かな?
アルってこういう時って結構冷静だよね。これは子供の頃から爺さんや、モリスから鍛えられてたからかな?魔法の多さや、オプションなんかより重要な事だよね。この作品も〖魔法使いアル〗ではなくて、〖冒険者アル〗…
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