4-2 採用試験 前編
アルが玄関で待っていると、奥から男が1人やってきた。年は30才前後であろうか、高級そうな服を身にまとっている。歩き方も堂々としておりアルはこの人がエリックかと思いお辞儀をした。
「君が冒険者ギルドで紹介のあったアル君か。魔法使い見習いと聞いているが、呪文はいくつ使えるのかね」
その男は早足で近づいてきてそう尋ねた。
「アルと言います。光呪文、魔法感知呪文、魔法の矢呪文、あといくつかの呪文が使えます」
「あといくつかか。便利な言葉だな。まぁ良い、一応魔法使いとしての呪文は十分使えるというのだな」
自分が使える呪文について全てを言わないのは冒険者としては当然だとアルは思っていたが、その男には不満がありそうだった。アルが黙っていると男は言葉を続けた。
「とりあえずその3つについてみせてもらおう。そうだな、ついてきたまえ」
男はアルをつれて中庭に出た。そこでは3人ほどの男女がおり、アルたちが入ってくると一斉に2人の方を見た。男はその視線を気に留めず、ほぼ真ん中で足を止めた。そして、一方の壁を指さす。そこには傷だらけの小さな盾が1つぶら下げられていた。
「あれに魔法の矢呪文を撃ってみたまえ」
「あ、はい」
盾までの距離はおよそ5m程であった。アルは片手を伸ばす。
『魔法の矢』 - 収束
魔法を見せるというので、彼は何時もとは違って大きく声を張り呪文を唱えた。彼の掌から光り輝く矢のようなものが飛び出す。それは盾にぶつかるとキィンと甲高い金属音を立てて消えた。
「ん? 今の詠唱は何だ? それに音もちょっと違った気もする……」
男は何か違和感を覚えたのか少し考えた。だが、軽く首を振った。
「まぁ、良い、魔法の矢であることには変わりあるまい。一本か、まだまだだが、ちゃんと飛ぶというのは認めてやろう。では次は光呪文だ。同じようにあの盾を光らせるのだ」
アルはその呟きを聞いて心の中でああっと叫んだ。目標が1つだからと単純に収束オプションを使って1本しか撃たなかったのだが、エリックとおぼしき男は本数によって熟練度を測ろうとしていたというのが判ったからだ。もしこれで不合格になるのなら、再テストを相談するほうがよいかもしれない。ちらとそういう考えが頭をよぎったが、もう課題は次のものになってしまった。とりあえずは光呪文を使ってからにしようと切り替える。
光呪文は熟練度が上がると単純に効果時間が延びる。いつもはオプションをつけて明るさを上げるように調整していたのでデフォルト使用は久しぶりだった。
『光』
盾の表面に光が灯った。男は明かりをじっと見る。
「明るさは問題ないな。3時間ぐらいはもつのか?」
アルはその問いに首を傾げた。この呪文を習得したばかりの頃は夜中にかけ直した記憶もあるが、最近は朝になって効果時間の終わりを待たずに自分で消していたので何時間もつのかはわからなかった。
「たぶん朝まで大丈夫でしょう」
自信なさげなアルの答えに男は怪訝そうな顔をした。たしかに夜営などで光呪文を使うのであれば効果時間が気になるということなのだろう。ちゃんと測ってくればよかったとアルは少し後悔した。
「よい。このまま計測しておけばわかる事だ。先ほど夕刻の鐘がなったばかり。レダ!」
男は周りでおそらく呪文を練習していた3人のうち、一人の女性に声をかけた。水色の瞳がすこし冷たい印象がある。綺麗な銀色の髪をうしろで束ねており年はアルより少し上だろうか。
「はい、フィッツ様」
「いつ頃この光が消えたのか記録しておくのだ。それと他の連中に手伝ってもらって例の箱をもってこい」
彼女は男にお辞儀をすると他に中庭に居た2人に声をかけて駆け足で奥の扉に消えていった。男はフィッツと呼ばれているようでエリックとは別人らしい。しばらく待っていると3人は一抱え程ある蓋つきの木箱を運んできた。アルたちの前にその木箱を置くと再びお辞儀をして元のところに戻っていったのだった。
「では、今度は魔法感知呪文の試験だ。この中から魔道具を見つけ出してくれ」
そういって、フィッツは木箱のふたを開けた。その中には何に使うのかよくわからない木や金属でできた小さなものが雑多に大量に入っていた。物が多いので普通に『魔法感知』をしても陰ができて弱い光しか発しない物は見落としそうだった。
『魔法感知』
『知覚強化』 - 視覚強化
アルが箱の中を物色しようとすると、フィッツには乱暴に扱うなと注意をされた。アルは判りましたと答えつつ、魔法感知に反応する青白い光を発するものをつぎつぎと取り出し始める。10分ほどかけてアルは13個の形がそれぞれ違う品物を取り出した。
「感知できたのはこれだけですね」
フィッツはその様子を不思議そうにみていた。そして彼自身も魔法感知呪文を唱えるとアルが取り出した品物を確かめ始めた。
「そなた、途中から面倒になって勘に頼っただろう? いや……事前に誰かにどれが魔道具か聞いていた……?」
そう言ってフィッツは周囲を見回した。そして3人の男女を見て何かハッと思いついたようだった。
「見習いの連中に賄賂でも贈ったのか?」
アルは訳が分からずフィッツをじっと見た。そして3人の男女もそれは同様だった。だが、フィッツはかなり怒った様子でその場で大きな声を上げた。
「そうでなければ、100個を超える品物からこんなに早く識別できる訳がない。それに得意げに見せたもののうち、3つは魔道具ではない。なにか符丁を使ったものの手違いかなにかがあったのだろう。そうでなければこの状況の説明はつくまい。誰だ? このアルとかいう者に金をもらって魔道具かどうか教えたのは」
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