24-2 どうする?
夕方、チャニング村から国境都市パーカーに戻ったアルはまずレビ商会の屋敷に居たオーソンを見つけ、いまの状況について相談してみた。
「金貨100枚ねぇ……」
話を聞いたオーソンはそう呟いて、アルを見て首を振った。
「アルの事を知ってる奴なら誰も信じねえだろうけどな。まぁ、わかった。チャニング村にはしばらく滞在していたから顔なじみも居る。レビ会頭から報酬も貰って懐もあったかいし、骨休めがてら一ヶ月ぐらい泊まって来てやるよ。アルは来ても、姿は見せられねぇから俺に任せてここでのんびりしてるといい。また新しい呪文の書を手に入れたんだろ? しかし大変だな。アルはしばらく賞金首として追われるかもだ」
「えっ? だって、明らかに冤罪なんだし、セオドア殿下が帰ってきたらすぐに晴れるはず」
アルの言葉にオーソンは首を振る。
「一度、賞金首ってなるとなかなかそれを忘れない奴もいるのさ。賞金が取り下げられても、それをわざわざ宣伝してはくれねぇんじゃないかな。少なくとも、俺は取り消しを掲示されたりするのを見たことない。今の内からいろんなところにお願いしておいたほうがいいんじゃねぇか?」
「えぇーー?」
アルはうんざりしたような顔をした。しかし、オーソンの言う事は考えられる話であった。非常に面倒な話でもある。
「そうだね。まずレビ会頭とどうしたらいいか相談しようかな」
「ああ、そうだな」
オーソンに勧められ、アルはレビ会頭にも話をすることにしたのだった。レビ会頭は幸い、屋敷の中で書き仕事をしていた。アルとオーソンが彼の書斎を訪ねると、簡単に彼と会うことが出来た。
「なるほど……。アル君の事情はわかりました。うちの商会は私が今まで捕まえられていましたのでそのような事はありませんでしたが、今後は私にも同じようなことがあるかもしれませんね」
そう言ってレビ会頭は腕を組み、考え込んだ様子であったが、しばらくして首を振った。
「すぐにはいい方法は思いつきませんね。パーカー子爵閣下と相談させていただくことにしましょう。閣下なら重要手配の手続きなども詳しくご存じでしょうから、それを解消するいい方法をご存じかもしれません」
レビ会頭の言葉にアルも頷く。たしかにその通りだ。レビ会頭は言葉を続けた。
「オーソン君。チャニング村に行かれるときに、うちから若いのを2人程連れて行ってくれませんか? おそらく向こうでも狩りなどをされるのでしょう? 狩りのついでに初歩の訓練なども仕込んでやってもらえると助かります。このそれ程広くないパーカー支店に本店と領都店の者たちが集まってしまって人が余っている上に、あまり目立つこともできないので訓練などが滞りがちなのです」
それはありがたい。アルは内心思った。オーソンには負担をかけるが、人数が増えるのは助かる。そこでふとギュスターブ兄が以前、彼の所属していた騎士団で傷を負って騎士や従士としては復帰するのが難しい者たちにチャニング村の鉱山で働かせたいので声をかけてよいかというのをオラフ子爵から了承を得ていたのを思いだした。あの話はどうなっているのだろう? 彼が遠征から帰ってきたら、オーソンたちと入れ替わってもらえないか相談してみよう。
「助かります。滞在にかかる費用は僕の方で支払います」
「ん? いや、獲物を獲って売れば……?」
「余っている人材なのだよ……?」
オーソンとレビ会頭は意外そうな顔をする。だが、アルは首を振った。
「依頼料と言いたいところですが、そこまではお許しください。ですが、お願いしてる立場なので食費や旅費ぐらいは負担したいと思います」
アルから依頼料と言うとそんな事をと言われそうだ。あとは全てが終わった後、お礼という形のほうがいいだろう。そんな事を考えながらアルは言った。
オーソンの口ぶりからして狩りをしたりしてチャニング村で稼ぎ、滞在費用はそれで賄おうと考えているような雰囲気であったし、レビ会頭の傭兵の方も、たしかに人は余っているという現状はあるにしろ、このあいだの件の礼の一つとしても考えているのだろう。
だが、この仕事は冒険者や傭兵を1カ月雇うという話なのだ。本来なら報酬を支払っても当然である。オーソンの好意に甘えすぎるのは良くない。もちろん、その支払いは以前にプレンティス侯爵家から手に入れた金から出せばいい。また機会があれば遠慮なくいただくことにしよう。
「わかった」「わかったよ」
2人は頷く。レビ会頭とアルはパーカー子爵との謁見の希望を出し、相談できる機会を待つことにしたのだった。
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話をした次の日の朝、オーソンとレビ商会の若い傭兵は旅立っていった。アルたちはパーカー子爵と謁見の機会を待っていたが、彼は忙しいようでなかなか時間が得られない。もちろん大至急という事柄でもないので、アルとしてはおとなしく手に入れたばかりの呪文の習得にいそしんでいた。
一週間ほど経ったある日、レビ商会の屋敷に慌ただしく騎士がやって来た。パーカー子爵配下の騎士である。アルに出来るだけ早くパーカー子爵の領主館に来てくれという話であった。レビ会頭に尋ねてみたが彼も何の情報も持っていない。アルは急いで着替え、念のためにローブとフードを目深にかぶって顔が見えないような服装でその騎士と共に領主館に向かったのだった。
「アル、ご苦労。セオドア殿下より急な連絡があった。すぐに連絡がついてよかった」
アルが騎士たちと一緒に領主館を訪れると、すぐに応接室らしきところに通された。
「いえ、何も問題はありません。遠征軍に何か?」
ギュスターブやナレシュに何か異変でもあったのだろうか? アルは不安を感じつつそう尋ねてみる。
「安心せよ。今のところ、遠征軍は優勢だ。セネットに籠ったテンペスト王国騎士団は頑強に抵抗しているというのもあるが、ユージン子爵から息のかかった者が情報をプレンティス側に漏らしている可能性もあるのでな。私たちからの情報は上層部だけに留め、慎重に進軍しながら、敵に通じている裏切り者を炙りだしているのが実情らしい」
セネット伯爵家の領都は去年、テンペスト王国騎士団に攻められて一度は陥落したはずだが、どれほど修復が進んでいたのだろう。テンペスト王国には石軟化呪文の使い手がかなりいるのかもしれない。
ユージン子爵の息がかかった者……というと辺境伯家の騎士団か。その中にはデュラン卿や兄のギュスターブも居て、誰がどちら側なのかというのは判断しにくいのだろう。切り離して辺境伯領に戻せばとも思うが、目を離すほうが危険ということなのだろうか。そのあたりはアルにとってはよくわからない話になる。
「今回、そなたに来てもらったのは、我々の遠征軍とタガード侯爵家との連絡が途切れており、調査を頼みたいということらしい。詳細は遠征軍の野営地で話すので、とりあえずそこに来てくれという、セオドア殿下直々の御指名だ」
「ぇ?」
アルは思わず変な声を出してしまった。王国騎士団には魔法使い部隊も居るだろうし、辺境伯騎士団もそうだ。ナレシュのところには旧セネット伯爵家に仕えていたゾラ卿も居る。そこでなぜわざわざ……。
「それほど意外そうな顔をするのだな。本当に自覚がないのか。それとも演技なのか」
パーカー子爵は軽く首を振る。
「どうしたんですか?」
「どうしてこれほどまでにプレンティス侯爵家がそなたを目の敵にするのだと思う? それは、そなたに何人もの魔導士を倒され、計画をいくつも阻止されているからだそうだ。特にヴェールが2回も手玉にとられ、彼と、その後のエマヌエルの計画を台無しにされたあげく、配下が居ない状態だったとは言え、一騎討ちでエマヌエルを倒されたわけだからな」
アルは思わず顔を強張らせた。思い当たる事はあった。ヴェールといえば、あの大魔導士を名乗っていたヴェール卿の事だろう。一度はパトリシアの救出で、もう一度は使節団襲撃か。そしてエマヌエル卿といえば、ラミアに食糧を与えていた魔導士である。どれも、アルとしては偶々遭遇し、なんとか切り抜けたとしか言いようがない。
「手玉にとった、とかそんな余裕はどこにもありませんでした。どれも必死でしたよ? でも、その情報をどこで?」
「やはり、本当か。全部コールとかいう研究者から、エリック殿の弟子が聞き出してくれた内容だ。どうしてアルの話を聞きたいのかと彼に問うと、そなたがプレンティス侯爵家の作戦をどれほど邪魔してきたのか、喜々としてぺらぺらと喋ったよ。まだ若いそなたがそれ程の事を成し遂げた。その理由を知りたかったらしい」
パーカー子爵はそういって、じっとアルの顔を見る。コールからはいろいろな敵の情報がひきだせるのではないかと思って尋問を勧めたのはアル自身だ。だが、コールからそういった話が出て来るとは少し予想外だった。そんなの知らないでは許してもらえないだろうか。アルがいろいろと考えていると、パーカー子爵は言葉を続けた。
「パトリシア姫を亡き者にしようとしたヴェールの裏をかいた話も本当なのかね? そして、ヴェール自身もまだパトリシア姫は生きているかもしれないと考えているらしい。実情を知っているのは君だけなのだろう。実のところはどうなのだ?」
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