23-11 救出準備 続き
武器作成呪文で20本の武器。アルは少し考えて首を振った。さっきから首筋がちりちりとしていて、そろそろ疲労も限界が近い感じがあるのだ。
結局昨夜も眠れなかったし、全員に暗視を付与したり、魔導士らしい相手とも全力を出して戦ったりもした。気を付けないと、また呪文の使い過ぎで頭が痛くなってしまう。
「気が進まない話かもしれませんが、倒した敵の死体をかなりの数回収しているので、そこから武器を取り上げて使ってもらえませんか? 呪文を使い過ぎると頭が痛くなるかもしれないので……」
「ああ、そういえば、さっきも死体を回収していたな。すまん、無理を言った。もちろんそれでいい」
最初の魔導士が率いていた10人と、コールを護衛していた2人と御者2人、合計すると14人分の死体をアルはマジックバッグに入れている。中には弓と剣の両方を持っていた者も居たし、他に武器を持っていたものも居たと思う。もちろん予備武器として短剣の1本や2本も持っているだろう。別荘に近づくと作業がし辛くなる。
アルは空いている地面をさがして一旦着陸し、釦型のマジックバッグの使い方を説明してレジナルドに手渡す。レジナルドは恐る恐ると言った様子で収納している死体を取り出して地面に並べていく。
「使えそうな武器を取り上げて、改めてそこに収納していってください。それが終わったら死体も続けておねがいします」
「わかった」
レジナルドは目の前の死体が持っていた短めの槍を手に取ると、アルに聞かされた通り、釦の縁をトントンと叩いてマジックバッグに収納する。次は腰の長剣、短剣という順番に手早く進めていく。
「他の鞄とかは後でいいよな」
「はい、怪しげなものはぜんぶ回収していますが、基本的に持ち物を調べるのは、レビ会頭たちを救出し、安全そうなところまで脱出してからと思っていました」
そんな事を言いながら、アルは10人のリーダーであった魔導士らしい男の服の袖を裏返す。魔法発見呪文には反応がないのに、魔法感知のかすかな光が折り返した袖のあたりから漏れていたのだ。見ると例の釦型のマジックバッグだった。レジナルドと配下の女性の方をちらりと見る。まだ武器の回収作業を続けていて、中身の確認をするぐらいの時間はありそうだった。持ち物の調査は後でと言ったばかりだが、この男の持ち物は見る価値があるかもしれない。
男のマジックバッグの中には、チェストが2つと馬車が2台、そして死んだ馬4頭が収納されていた。途中馬車が消えたのは、ここに収納していたようだ。馬は収納した後死んでしまったかもしれない。可哀想なことをしたものだ。馬車を出すほどの広さはないので、そちらは後回し。チェストの一つを出してみる。そこには几帳面に分類されているらしい羊皮紙の巻物、ずっしりと硬貨の詰まった麻袋が入っていた。
羊皮紙の巻物を一つ広げて読んでみる。それは手紙らしかった。宛名は大魔導士ウィートンとなっている。差出人はと見ると魔導士ヴェールだ。
ヴェールといえば、パトリシアを追跡して来ていた印象が強い。あのときは大魔導士と名乗っていたように思ったが、ちがったのだろうか。ウィートンというのは目の前の死体となった男の名前なのだろう。中身をざっと読んだが、“アレ”とか“コレ”、“その計画”といった言葉が多く、アルの知っている範囲では何を意味するかがよくわからない。最後に補足で金髪の小僧に十分に注意を払うこと。倒せれば作戦は成功したも同然だといったことが付け足されていた。
……金髪の小僧というと、アル自身の事のような気がするが、そこまで危険視されるような存在になっているということだろうか。
とりあえずは、この魔導士がウィートンと言う名前の重要人物かもしれないということはわかった。重要人物だというのなら、今後、彼になりすまして相手を騙すような作戦があるかもしれない。そう考えて髪の毛をもらっておく。服までは奪う時間はないが、一応どんな服だったのかも確認しておいた。
「どうしたんだ?」
「ごめんなさい。この人もマジックバッグを持ってるのに気付いて、気になって調べてました。確実じゃないけど、この人はウィートンっていう大魔導士かもしれない」
そう言って、さっきまで見ていた手紙をレジナルドにみせる。彼もざっと読み、ふむ、そうかと呟きながら何度か頷いてアルに返す。
「これはパーカー子爵あたりに見てもらったほうがよさそうだ。その金髪の小僧っていうのは誰の事だ? すげぇ重要人物扱いだが……」
「僕かもしれません。そんな目の敵にされるような事は……」
無いとは言えないかもしれない。
「あはは、わかった。まぁ、たしかにこの活躍ぶりだからな。武器は確保させてもらった。短剣とかも入れれば十分に足りそうだ。鍵開け用の道具をもってるやつもいたからついでに貰っておいたぜ。この死体も回収していいか?」
「はい。じゃぁ、行きましょう」
アルは取り出したチェストをウィートンが所持していたマジックバッグに再びしまい込む。これ以上の調査は後回しだ。レジナルドはアルが頷くのを見てウィートンらしき死体をアルから預かったマジックバッグのほうにしまい込んだ。
「そっちの死体と武器の入ったマジックバッグは預けておきますね。捕まってる人たちに武器を渡すんでしょ?」
レジナルドは頷く。捕まっている領都のレビ商会の傭兵団のメンバーに武器や鍵開け用の道具を渡せればある程度戦えると考えているのだろう。あと、問題は侵入ルートだが、オーソンの話ではそれも石壁を越えるところまでは問題なさそうだ。
「見つからずに武器類を手渡せたら、もう人質に取られる心配はしなくて済みそうだからな」
レジナルドの声はかなり明るい。
「あのあたりにオーソンが居るはずです。先に周囲を一周して遠くから石塀の造りとかの確認を済ませてから合流します」
アルは木の梢より低空での飛行で別荘の周囲を回り、時々浮遊眼の眼で確認作業をした。オーソンの言う通り、いくつかの場所は建物の中央の塔や石塀の上からみられることなく石塀のすぐ近くまで行ける所がありそうだ。石塀のすぐ下まで行けば死角となってみつかることはないだろう。アルの睨んだ通り魔道具の反応は門の所だけで、そこ以外の石塀には魔道具の反応は無い。この状況であれば、石塀のところまで行って呪文を使っても見つかることはないだろう。アルたちはそのまま、オーソンが潜む木の近くまで行って着陸した。
「ご苦労さん。見張り助かったぜ」
「ああ、大丈夫さ。お前さんたちも無事でよかった」
レジナルドとオーソンは拳をつき合わせてお互いを称え合う。
「レビ会頭が捕まっているのは三階建ての大きなお屋敷ではなく、その外の三つ並んだ真ん中の建物です。一応、そこの情報は念話呪文でレビ会頭から直接聞きました。石塀自体はおそらく50センチ程の厚みだと思いますので、呪文で穴を開けます。開けても向こう側からは気付かれにくそうな茂みがあるところは見当をつけました。そこからだと丁度レビ会頭の捕まっている建物の北側の壁まで100メートル位です。問題はそこにたどり着く間で、中央のお屋敷にある見張り塔と思われる所と石塀の上を巡回している見張りからは丸見えになってしまいます」
アルの説明にレジナルドとオーソン、そしてレジナルドの配下の女性は腕を組んで考え込んだ。
「石塀の上に行く手段は何かありますか? それなら私がそこの見張りを攻撃して騒ぎを起こしましょう」
配下の女性がそう言いだした。穴を開けるときに石軟化呪文を使うのが前提なので、3メートルの石塀をよじ登るための足場をついでに作ることは問題なく出来る。だが、上を巡回しているのは二人一組。大丈夫だろうか。アルはレジナルドをちらりと見る。
「大丈夫だ、ブレンダはかなり腕が立つ。一対一だったら俺もたぶん敵わねえし、輝ける盾だろうが黒いナイフ団だろうが、2、3人ぐらいなら目じゃねぇだろう。もちろん体重は意識したが、こいつを連れてきたのはその理由だけじゃねぇよ」
レジナルドがそう言うと、ブレンダと呼ばれた配下の女性はにっこり笑って見せた。それならばよいか。戦い方などはアルが言う事もないだろう。
「わかりました。じゃぁ穴を開けるときに一緒によじ登れるような足場をつくります。囮よろしくお願いします」
「はい」
“レビ会頭、これから救出作業に移ります”
レビ会頭とも念話をつなぎ、これからの段取りを説明する。マジックバッグの使い方もだ。
“わかった。こちらのメンバーにも説明しておく。今の所、こちらが見えるところに見張りは居ない”
「行きましょう!」
「おう!」
小さな声で4人は拳をつき合わせて気合を入れると走り出した。
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