23-2 合流
夜明け前、もう少しで空が白み始めるだろうという頃、アルはデズモンドと約束していた場所に到着した。レビ商会の傭兵団は既に到着しており、地面に座り込んで小休憩をとっていた。その中心あたりにはデズモンドとレダの2人が数人の傭兵と小さな声で何かを話し合っている。アルはあまり驚かせないようにすこし離れたところに着陸すると、わざと足音を立てて近づいていく。
「ただいま。無事合流できてよかった」
「おお、アルか。びっくりした」
デズモンドを始め傭兵団の者たちは最初、近づいてきた者が誰かと警戒した様子であったが、すぐにアルであることに気付いてくれたようだ。アルは小走りでデズモンドたちのところに近づく。
「予定通り? オーソンとレジナルドさんは?」
「そうだな。今、2人は1キロほど先にあるはずのユージン子爵の別荘ってのを確認しに行ってる。問題なければそろそろ戻ってくるはずだ。あと、気になる事があってな。俺は気付かなかったんだが、さっき到着してから斥候連中とはなしをしてると途中で誰かに見られていたような気がしたって言い出したやつが二人居るんだ。アルも斥候の経験があるから良く知ってると思うが、なんとなくそんな気がしたが、その方向をよく見ても何もなかったというやつだ。だが、1人だけなら気のせいかだったかもしれねぇが、2人となるとな。どうするか今、話をしていた所だ」
デズモンドがそう言って苦笑を浮かべる。基本的に夜に街道を移動する者というのは極端に少ない。幸い今は晴れているおかげで辛うじて月明りがあり、周囲がぼんやりと見えるが、雲がかかればすぐに真っ暗な世界になってしまう。ランプや明かりの呪文、魔道具だけが頼りの心細い行動を選択するのは余程の事情がある者か、道をよく知る者ぐらいだろう。
そして、それを見ている相手となると、偶然、近くで野営をしていた者か、或いは街道沿いの集落に所属する地元の自警団ぐらいではないだろうか。確かに二十人ほどの武器を持った者たちが夜中に移動していれば、警戒して遠くから監視したくもなるだろう。
「一応、周囲に誰も居ないか確認してみるね」
アルは浮遊眼の眼を高く浮かべて周囲を見回す。周囲は森であまり見通しはよくないが、人影などはなさそうである。
「うーん、誰も居なさそうかな?」
アルの呟きに、レダはほっとした様子でため息をつく。レダはそれほど体力がなかったはずだが、この夜中の強行軍は大丈夫だったのだろうか。少し心配になる。
「オーソンさんとレジナルドが戻ってきたら、一旦移動しようと思う」
デズモンドの意見にアルも頷いた。大丈夫なのかもしれないが、こういう不安は払拭しておくに越したことはない。
「わかったよ。とりあえず、パーカーの様子だけど……」
そう言って、アルは二時間ほど前に聞いたばかりのパーカー子爵からの話を皆に伝えた。
「さすがレビ商会ですね。それほどまで子爵閣下が恩に感じてくださるほどの事をされているのですね」
レダが感心した様子でそう呟いた。デズモンドは安心したように何度も頷いている。
「パーカーではセネット男爵閣下――ナレシュ様は多くの人たちから“兄弟”ナレシュって呼ばれてるぐらいなんだよ。そしてレビ商会も彼を支えてきたのをみんなが知ってるんだ」
アルがレダにそう説明すると、その横でデズモンドたち傭兵団の皆は嬉しそうに微笑む。
「パーカーがそういう様子なんだったら一安心だ。そっちはルエラ様とバーバラに任せておこう。あとは俺たちだな」
デズモンドはそう言って軽く頷く。
「うん、あ、誰か近づいてきたよ。レジナルドさんだけどちょっと様子が変かな」
アルの浮遊眼の視界にはレジナルドが周囲を警戒しながら歩いているのが見えた。緊張してかなり急いでいる様子だ。尾行などは居なさそうだが……。
「どうしました?」
小走りに帰って来たレジナルドにアルが問う。レジナルドが首を振る。
「やばい。見つかってるかもしれねぇ。別荘の様子を二人で見てたら、急に部屋の明かりがいろんなところで点き始めてよ。オーソンさんは残って様子を見てくれてる」
レジナルドの話にデズモンドとアルは顔を見合わせた。
「出発準備!」
デズモンドが皆に短くそう指示する。
「別荘を見てきたがあれはヤバいぞ。まるで砦みたいだ。広い敷地はほぼ正方形で一辺が2百メートルぐらいあってよ。それを囲う石塀の高さは三メートルぐらい。石塀の上は通路になっていて胸壁まで作られてた。門は二重で、両方とも鉄格子だ。石塀の上を警備らしい連中が二組、ずっと巡回してた。少し離れた木に登って中を覗いてみたんだが、敷地の真ん中に三階建てのでかい屋敷。窓の数からすると部屋数は階毎に30はある感じだ。屋敷の建物は真ん中に塔が作られていて、そのてっぺんの部屋に灯りがついて人影もあった。他にも石造りの建物が三つあって、一つは馬車や馬を入れておく馬車小屋だと思うが、あとの二つは何に使っているかわからねぇ。何にせよ警備が厳重でとても子爵の別荘とは思えねぇな」
レジナルドは早口でそう説明した。領地のある貴族で、その本宅というのならまだしも、普段は領都でくらす法服貴族の別荘というには大きすぎる気がする。
傭兵団の連中はそれぞれの荷物を背負い直す。女性の一人がレダを自分の馬の上に抱えた。他にも何頭かの馬がいて、デズモンドやレジナルドはそれに騎乗する。それ以外の者は徒歩だ。
“オーソン? 通じるかな? 今話せる?”
アルはオーソンに念話呪文を送った。森で見えないが、別荘まで1キロ程しか離れていないはずだ。それなら通じるだろう。直ぐに返事が返って来た。
“ああ、アル、着いたのか? 間に合ったんだな。レジナルドが言ってた不安は的中してるかもしれねぇ。今、馬に乗った20人ぐらいがこっちを出てそっち方面に走っていった。別荘の中には他に50人ぐらいの武装した連中がうろうろしてる。アルが気にしてた真っ黒で飾りのない馬車も2台、馬車小屋らしい建物から出てきたぞ”
アルは思わず肩をすくめ、天を仰いだ。
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