22-3 合流
おまたせしました! おかげ様で無事乗り越えました。
「どうしてレビ商会や僕の事を逮捕しようとしてるんでしょう?」
レビ商会はともかく、僕は重要人物なんかじゃないのにと思いながら、アルはデズモンドとレジナルドに尋ねる。
「そうだな、うちの商会には敵も多いのではっきりしなかったが、アルが重要手配となっているとなると……」
重要手配というのは複数の人間を殺した盗賊団の首領といった凶悪犯に対して行われる措置で、賞金がかけられたりすることも多いイメージだ。アルとしてはそんな事をした自覚などもちろんないが、そういう事態になっているとすればチャニング家はどうなるのか。
“アリュ、誰か近づいてくる。10人ぐらい”
アルの問いにデズモンドがこたえようとしていると、グリィがそう囁く。アルは急いで立ち上がる。
「誰か近づいてきます」
野営をしている皆に緊張が走った。追っ手だろうか? 尾行が無い事は確認してからここに来たはずなのだが……。アルの警告に傭兵団の者はお互い目配せをしながら焚火を消し、武器を構える。森は少し暗くなり始めていた。まだ人影は遠い。
『知覚強化』 - 視覚強化 望遠
アルはグリィが警告してくれた方向に目を凝らす。先頭を歩いている姿には見覚えがあった。
“オーソンだ。ルエラとバーバラもいる! あれ、レダも? 他も見知った顔ばっかりだよ”
グリィの言葉にアルは大きく安堵の息を吐いた。その事を告げると、他の皆も微笑み合う。近づいてくる人影は10人、魔道具の反応はいくつかあったが、呪文はレダの頭の上だけだ。ということは呪文を使って誰かがルエラに化けたり、透明になって同行しているといった事も無さそうである。
先頭を歩いていたオーソンが走り出した。こんなにもオーソンは走るのが速かったのか。足を引きずっている時の印象のほうが強いアルにとっては少し違和感があった。
「アル! 無事だったか」
そういって強い力でアルを抱きしめたオーソンは本人で間違いなかった。治療してもらった足は万全ということなのだろう。
「アル君、無事だったのね」「よかった。無事合流できた」
ルエラも嬉しそうにアルとかるく握手をする。バーバラとデズモンドたちもがっちりと握手をしていた。
「ルエラ様もよくご無事で」
デズモンドが言うと、ルエラは頷いた。
「こちらのレダ様が連絡してくださったのよ。オーソンは最近よく我々の仕事を受けて下さっていて丁度一緒に居たから話をするとアルの危機なら俺は行くってついてきてくださったの」
オーソン! 重要手配されている僕にはちゃんと味方が居る。不安な気持ちだったところに少し安心感が生まれた。でもレダが連絡? どうして?
「エリック様の一門とレビ商会の者たち、そしてアルが重要手配されることになったとジョナス様から隠密裏に連絡を頂いたのです。実際に手配される前に連絡をし、私自身も逃げ出すことが出来ました」
ジョナス? アルはしばらく考えてようやく思いだした。たしか辺境を廻る隊商の護衛についてきていた騎士だ。騎士爵であるのに卿と呼ばれるのを嫌がる変わった騎士、レダは苦手にしていたのではなかっただろうか。
「実は彼は従騎士であった私の父と親友と呼び合う程親しくしていたのです。私がエリック様に師事し、護衛任務に参加するようになると、父以上に口うるさく私に声をかけてくれていました。ただ、それが少し行き過ぎる事が多くて……」
そうなのか。そう言う事なら信頼しても良いのだろう。しかしレビ商会とアルだけでなくエリックまでも? そしてエリック本人はどこに?
「時間が惜しいわ。情報交換しましょう。デズモンド、判っていることを教えて」
ルエラは表情を厳しくして、火を点け直した焚火の周りに座る。アル、レダ、デズモンド、レジナルド、バーバラも頷き、輪になるようにして座り、話し始めた。
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先に、デズモンドがルエラにアルから聞いたことも含めて領都での状況を伝えると、ルエラは眉をしかめ力なく首を振った。
「何てこと。辺境伯一家はストラウド様を残して皆流行病だなんて。領都で病気が流行ってるなんて話はなかったわよね。姫……かわいそうに。そしてお父様やお兄様は捕まってしまい、今はどこに居るか判らないというのね。辺境伯様と同じように殺された可能性もある……と」
「そのとおりです。力不足で申し訳ありません」
デズモンドが深く頭を下げるが、ルエラはそれを制した。
「あなたもずっと国境都市パーカーに居たのでしょう? これは私たちの判断の誤りよ。もっと辺境都市レスターや領都での情報収集にも力を割くべきだったのでしょう。ナレシュ様の参陣に伴ってテンペスト王国領の調査に力を割き過ぎてしまった……」
デズモンドとレジナルドの二人は俯いてこぶしを握る。
「辺境都市レスターでの重要手配の指示は、レスター子爵閣下と嫡子であるサンジェイ様がレスターに戻られた直後に出されたみたいなの。子爵閣下はずっと療養のために領都に滞在されたままだったし、サンジェイ様も何かと理由を付けて戻られなかったので、今回の急な帰領には皆驚いていた矢先の事だったわ。主だった貴族や内政官、騎士隊長、衛兵隊長たちは翌日には政務館に集まる様に通達がきていたらしいけれど、そこでどのような話がされたのかはまでは、私たちも逃げるのに忙しくて把握できていない。でも、サンジェイ様が子爵様と一緒に帰って来られ、ナレシュ様を支援していた私たちに重要手配が来たって事は、アグネス夫人やその兄であるスカリー男爵はさぞかし大きな顔をしているでしょうね」
ルエラは悔しそうな顔をする。スカリー男爵という人をアルは直接見たことはないが、アグネス夫人というのはサンジェイの母親のはずだ。そういえば髪飾りの形をした魔道具を用意したのではないかとバーバラが言っていたような気がする。レビ商会に対するこの仕打ちは、完全にレスター子爵が息子であるナレシュを見捨てたという事になる。中級学校の頃からずっと兄のサンジェイを助けるのだと言っていたナレシュを……。
「サンジェイ様はセレナ様の婚約者でもあったはずなのに、全く気にかけずに帰領なんて、とても冷たい人だったのね。義理のお兄様として何度かお会いしたことはあったけれど、その時は優しい人に見えた。見損なったわ。タラ子爵夫人まではお誘いできなかった。どうされているか心配だわ」
「さすがにタラ子爵夫人にまで手出ししないと思うよ。冷たいようだけど、まずは自分の身と商会を守らないとね」
バーバラがルエラを慰めるように言う。レビ商会の辺境都市レスターで働いていた者たちのうち、商いを担当していた者たちはルエラに同行せず、違う所で身を潜めているらしい。レダに見習いとして仕えていたミーナや下働きで怖い顔のアドルフたちもそっちだという。こちらにはある程度戦える者だけをルエラは連れてきたらしい。
「そうね。生き延びる道を探るのと、父様たちの行方を捜す、並行して進めないといけないことが判ったわ。ところで、エリック様たちの様子は誰も知らない?」
ルエラはレダをちらりと見てから、アルやデズモンドたちに尋ねた。だが、皆首を振る。エリックが領都に居た事すら知らなかったのだ。
「申し訳ありません。会頭の行方を捜すのが精一杯でそちらは全く把握できておりませんでした」
デズモンドが頭を下げる。
「レダ様によると、辺境都市レスターのエリック様のお屋敷に居たのは、彼女の他、見習いのミーナ、下働きのアドルフたちだけで、エリック、フィッツ、マーカス、ルーカスといった一門の魔法使いの方たちは、セレナ様からの魔法部隊の指導をして欲しいという要望を受け、揃って領都で辺境伯騎士団の宿舎に滞在されていたらしいの」
「僕が明日調べてくるよ」
アルが手を上げると、ルエラは心底意外そうな顔をしてアルをじっと見つめる。
「アル君、あなたは重要手配なのよ? 見つけられたら捕まっちゃうの。当然知ってるわよね?」
読んで頂いてありがとうございます。
月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
2025.5.6 レダの父を”4-8 1日目 野営地 設置”では従騎士として記述していたのに、今回誤って死んだ従士と記述しておりました。非常に申し訳ありません。訂正しておきます。
訂正前)実は彼は私の父と親しくしていたのです。従士であった父が亡くなってからは父以上に口うるさく私に声をかけてくれていたのです。
訂正後)実は彼は従騎士であった私の父と親友と呼び合う程親しくしていたのです。私がエリック様に師事し、護衛任務に参加するようになると、父以上に口うるさく私に声をかけてくれていました。
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