21-7 探索結果
その後、念話を通じて色々とやり取りをしたのだが話は進まず、結局、マラキにこの古代遺跡に来てもらい一緒に調べることとなった。パトリシアたちも来たいと言ったのだが、まだ安全が保障できないということで残念ながらお留守番である。
「これは……」
転移してきたマラキ・ゴーレムが最初に反応したのはそれを警備していたゴーレムにだった。
「テンペスト様が弟子の方に指示して作らせたものですね! テンペスト様晩年のもので警備用のゴーレムとして人気が高かったのです。手の剣は取り外し可能で他の形のものと交換すれば作業ゴーレムとしても使えますよ」
いつもは落ち着いているマラキにしては、声も興奮気味であった。テンペストに関連する作品が見つかったというので余程嬉しいのだろう。弟子が作ったものだから、顔は人形ゴーレムに似た雰囲気があるということか。マラキは簡単にゴーレムの状態を確認して特に問題がなく動くことが判ると、続けてアルが調べて欲しいとお願いした魔道装置について調べ始めた。
「この小さい方は警備用の魔道装置やゴーレム、ゲートなどの管理装置ですね。研究塔にあるものと非常によく似ております。そして、大きい方はご推測された通り、魔力生成装置ですね。ですが、こちらは研究塔にあるものとすこし性能は違っているようです」
マラキの説明によると、この魔力生成装置は研究塔にあるものより小型のもので、魔力を供給できる対象が装置のある位置から五十メートル以内のものに限られているらしい。それを補完する機能として、生成して余分となった魔力を魔石として作成する機能があるとのことだった。もちろんその魔石で魔力を補給するには人間なりが介在する必要があり、今回、この施設が無人だったために、五十メートルより遠い位置にあった魔道具は魔力切れに陥ってしまっていたということらしい。
「魔石が作れるってすごくない?」
「そうなのでしょうか。テンペスト様が生きておられた頃は普通でした。それほど価値が高いものでもなかったのです。そして、魔石を作るには材料が必要です。ここにある黒い粉ですね」
マラキは魔道装置の上の方にあった窪みに指をかけて引き出しのようなものを開いて見せた。大きな引き出しの底に黒い粉がほんの少しだけ溜まっている。これが材料か。材料がなくなって生成は止まっているのだろう。
「これは?」
「石炭や木炭を細かく砕いたもののはずです。アル様も魔石の魔力を使い切ったあと、黒くて細かい砂のようなものになるでしょう? あれです」
アルはあまり使う事がないが、たしかに魔石を使って魔道具に魔力を補充すると、魔力がなくなった魔石は黒い粉にかわってしまう。あれは炭の粉だったのか。炭の粉など安いものだろう。魔石を売ったことが無いが、販売している値段は一個あたり大銀貨二枚ぐらいだろう。腐るものでもないし、一個銀貨五枚ぐらいで買い取ってもらえるのではないだろうか。かなり儲かる商売になる気がする。
「この上の天井部分、屋上の床には太陽の力を吸収するための加工がされた板のようなものが貼られているようです。一部破損していますが、まだ動いている部分もありそうですね。分解して運べると思います」
「ということは研究塔で魔石が作れる?」
アルの問いにマラキは頷いた。
「慎重に行う必要がありますが移設は可能でしょう。そうですね。上級作業ゴーレムをこちらに何体か連れてきて分解作業をします。マジックバッグをお借りできましたら、こちらでの作業は十時間ぐらいでしょうか。その後の研究塔での組み立て作業は建物の建築も伴いますので十五時間ほどかかると思われます。どちらも私が作業を監督・指示する必要がありますので、二つの作業を並行して行うのは無理ですね」
今日は天井や床に穴を開ける作業に時間を取られてしまい、もうすぐ夕方である。ケナシオオヒグマは倒さずにいたほうが、魔獣が近寄らずによかったかもしれないが、今更どうしようもない。それでも一日か二日の間の事だ。アルが開けた穴については石軟化呪文を使って塞いでおき、ゴーレムを残しておけば転移の魔道具を使っても大丈夫ではないだろうか。一緒に研究塔に戻っても良いかもしれない。
アルはしばらく考えた後、首を振った。今回手に入れた魔道具などが入った釦型のマジックバッグから識別の呪文の書だけを取り出して手元に置き、マジックバッグそのものはマラキに渡す。
「僕は一晩、二階の部屋で過ごすことにするよ。ずっと誰も来ていない場所だから大丈夫だとは思うけど、やっぱりよく知らない場所で転移の魔道具を使うのに不安が残る。未習得の呪文の書もあるから退屈しないさ。マラキにはマジックバッグを預けておくから、一旦研究塔に戻って中に入っている物を調べておいてくれないか? 明日、明るくなったら連絡するので、作業ができるように準備しておいてほしい。あとは一晩ここで過ごして大丈夫そうなら、明日はパトリシアも来てもらっていいかなって思う。転移の魔道具はマラキが戻るのに使ってそのまま持っていてね」
「かしこまりました」
―――
翌日の明け方、ベッド替わりのソファから眠い目をこすりながら起き上がったアルは簡単に身支度を整えると契りの指輪を使ってパトリシアに連絡をした。昨晩は結局魔獣どころか獣などもやって来ることはなく、現れたのは鳥ぐらいで静かなものであった。彼女に来てもいいと告げると、すぐに行きますと元気な返事が返って来た。この感じだとかなり早く目覚めて用意をしていたらしい。そして、念話が切れるのとほぼ同時に部屋にはパトリシアの姿が現れ始めたのだった。
「アル様ーっ」
動けるようになったパトリシアはすぐにアルに抱きつく。アルは少し照れながらぎゅっと抱きしめ返した。
「いらっしゃい。パトリシア」
「はい、アル様。研究塔から出るのは久しぶりです」
パトリシアはそう言って周囲を見回した。アルは転移の魔道具を彼女が背負ってきた小さなゴーレムに持たせて研究塔に送り返す。タバサ男爵夫人やドリスも続いてやってくるだろう。
「少し寒いですね」
パトリシアはそういいながら腕を擦る。ここは高い山の上でもあるし、暑い島から転移してきた彼女にとってみればかなり寒いかもしれない。アルは移送呪文を使ってマントを取り出すと、パトリシアに羽織らせた。
「わっ、ありがとうございます」
「部屋の中もすぐに暖かくするね」
アルは室温の調整に温度調節呪文を使ったところでタバサ男爵夫人が転移してきた。
「寒いかもですが、ちょっと待ってくださいね。すぐに暖かくなると思います。マントか毛布、要ります?」
「ありがとうございます。大丈夫です」
タバサ男爵夫人はアルのマントを着ているパトリシアを見て微笑む。少し経つとドリスもやって来た。
「魔道具はマラキとリアナに識別してもらって全部確認できました」
パトリシアはマラキ・ゴーレムや上級作業ゴーレムをマジックバッグから出した後、続いてアルが預けていた魔道具を順番に取り出して部屋の中央にあるテーブルに並べ始めた。まずは三十センチ四方、厚みが5センチほどの平たい魔道具である。
「これは、識別の魔道具だそうです。ただし、登録されているのは植物百科事典の内容だけなので、識別できるのは植物だけのようです。この横の出っ張りを押すと、一番広い面に25センチ四方の白い四角形が浮かび上がり、すぐにその白い四角形は魔道具を挟んだ向こう側の様子に切り替わるのです。そこに植物を映し出すと、二十秒程して四角形は縦横10センチほどのサイズに変わり、その横に植物百科事典に書かれた名前や内容が表示されるのです」
識別呪文とほぼ同じ能力をもつ魔道具か。それはすごく助かりそうだ。パトリシアが島の探索で葉にかぶれたり、果実のようなものを試してお腹が痛くなったりしたことがあった。無理をしないでとお願いしていたが、これがあれば、そのような事はもうなくなるだろう。
「あとは……」
皆でソファに座りパトリシアの説明を聞く。今回見つかったものは、光の魔道具が一番多くて241個、あとは水の魔道具が39個、室温調整の魔道装置が大小合わせて17台、どのように利用するかわからないが湿度調整ができる魔道装置が7台、時間をかけて糞尿などを肥料に変える堆肥処理の魔道装置が5台、箱のようなものに入れておくと服が綺麗になる洗濯の魔道装置が4台、コンロの魔道具が8個、箱のようなものに入れておくと食器や鎧などが綺麗になる(もちろん補修はされない)洗浄の魔道装置が4台、箒の形をした清掃の魔道具が4個、大きな箱型の冷蔵の魔道装置が5台、同じく大きな箱型の冷凍の魔道装置が3台、あとは筆記用の魔道具が10本と警備装置14台と警備ゴーレム6体であった。
「すっごくいっぱいあったけど、結局、警備ゴーレムや警備装置、識別の魔道具以外は全部生活用の魔道具ばっかりだね。湿度調整の魔道装置や堆肥処理の魔道装置を僕が見た事がなかっただけか。これらのほとんどは研究塔に似たようなものがありそう。いくつかはチャニング村に持っていくとして、あとはお金に困った時のために研究塔の倉庫に置いておこうか」
パトリシアがもし王族として戻ることがあるのなら、持って行っても良いと思ったが、口にすると本当の事になってしまいそうで出来なかった。パトリシアの母国が早く平和になって欲しいと思う反面、そうなると今の研究塔での暮らしは終わってしまうかもしれないと恐れる気持ちもある。とは言っても、アルに何が出来るわけでもないと思ってしまう。
「そうですね。あと、大きい熊さんみたいな魔獣の死骸がはいっていたので、作業ゴーレムさんたちに手伝ってもらって堆肥処理設備横の解体場に吊るしておきました。解体作業もしようかと思ったのですが、保存のための呪文がかかっているみたいだったので……。明日にでも一緒に作業をさせてください」
そういえば、あれも入れたままだった。かなり巨大なのでどうしようかと思っていたが、解体をしようと考えたのか。パトリシアもすっかりたくましくなっている。これならチャニング村で暮らす事も出来そうだ。そういえばカクレホラアナグマの解体を半年ほど前にチャニング村のみんなでやったので経験はある。なんとかなるだろう。
「そうだね。せっかく来てくれたから、この古代遺跡を案内しようか。昨晩は何も出なかったから、自由に歩いてくれても良いと思うけど一応一緒に行くね。マラキは魔道装置の解体作業をしてもらっていい? パトリシア、マジックバッグをマラキに渡してあげて」
「はい」
パトリシアは嬉しそうにソファから立ち上がった。タバサ男爵夫人やドリスも微笑ましげに彼女に付き従う。
「じゃぁ、まずはこの建物からね」
ここで、第21話は終了とします。本日は話の終わりということで、登場人物一覧を整理して1時間後、11時に追加で更新します。
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