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【書籍化&コミカライズ】冒険者アル -あいつの魔法はおかしい  作者: れもん
第19話 タガード侯爵領へ

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19-11 帰還


 その後、使節団は特に妨害行為に遭うことなくタガード侯爵領に到着、そのまま二週間程滞在して当初の目的であるプレンティス侯爵家に対するタガード侯爵家とシルヴェスター王国の攻守同盟を締結した後、シルヴェスター王国まで無事に帰還を果たした。アルとしてはいつ襲撃を受けるか気を抜けない緊張が続いたが、夜にはゾラ卿や他の騎士団の魔法使いたちの意見を聞くことができたので有意義な日々でもあった。


 そして、帰還を果たした三日後、アルは兄ギュスターブと共にレイン辺境伯の第三女セレナに呼び出されたのだった。


「ギュスターブ、そしてアルフレッド君、今回の任務お疲れ様」

「はっ」


 辺境伯の居城の応接室で、セレナを前にギュスターブは緊張した様子で返答する。アルもそれに合わせて、頭を下げる。


「アルフレッド君の活躍にさすがのプレンティス侯爵家の魔導士たちも何もできずに沈黙せざるを得なかったとセオドア殿下からはお褒めの言葉を頂いたわ。我が辺境伯騎士団の騎士団長であるユージン子爵閣下は魔法部隊の無能さも同時に指摘されて複雑な表情だったけど、レイン辺境伯家としては十分面目を保った形ね」


 アルはどう答えれば良いか迷い頭を掻く。二人の魔法使い、いや魔導士を倒したのがそれほど相手の戦力に影響を及ぼしたのかは全く自信がないし、どちらかというとセオドア王子が使った魔法無効化アンチマジックフィールド呪文に対抗する方法がすぐには用意できなかっただけではないのかという気もしたのだ。その様子を見てセレナは少し微笑みながらも言葉を続ける。


「セオドア殿下は、まだまだシルヴェスター王国の魔法使いはテンペスト王国に劣る部分が多い。今回の使節団に参加し、実際に戦いを経験した者を中心に研鑽を積む必要があるって仰っていたわ。私もそう思う。残念ながらユージン子爵閣下はそれほど切実に感じられていないようだから、我がレイン辺境伯騎士団の中でそれほど意識改革が進むかは微妙なところだけれどね」


 そこまで言ってセレナは苦笑を浮かべる。そうなのか……。魔法部隊の中でも、メルヴィン男爵たちではなく、使節団に残った魔法使いたちは、かなり年下であるアルにも対等に話をしようと申し出てくれたし、改革には積極的であったと思ったのだが、組織としてはうまく行っていないらしい。


「では、すぐに開戦とはならないのですか?」


 ギュスターブが尋ねる。彼は自らが所属する小隊がけがの治療のため、ひと月半ほど任務から離れることになり、戦争に参加できないのではないかとかなり気にしていたのだ。


「そうね。セオドア王子の判断によるけれど、開戦するにしても準備に時間がかかるでしょうね。タガード侯爵はかなり急かしたい様子だったけれど、こちらもすぐに騎士団を動かすのは無理よ。遠征するには多くの物資を用意しなければならないしね。タガード侯爵家には自慢のあの関城があるのだし、もう少し待ってもらってもよいでしょう」


 セレナが言う関城とは、タガード侯爵領の入口を守る長い石壁を備えた砦のことである。タガード侯爵領は、険しい山脈に囲まれた盆地にあり、その出入口となるのはその盆地の東と南にある峠道の二つきりらしい。その峠道には、それぞれ東谷関、南峠関という名がつけられ、そこにはそれぞれ高さ10メートル以上、山の稜線に沿って数キロに渡る城壁を持つ砦、東谷関城と南峠関城が築かれていた。


 その二つの関城が築かれて以来、タガード侯爵領に外敵の侵入を許したことはないらしく、アルも、使節団の一員として二つの関城のうちの一つ、東谷関城を通過したときの事を思いだす。山の尾根に沿って築かれた巨大な石壁を見てその迫力に思わず感嘆の声を上げた。あの守りにはプレンティス侯爵家も手は出せまい。きっとセレナも同じような印象を持ったようだ。


「それで、今回二人に来てもらったのは、セオドア王子が言った褒賞の件よ。アルフレッド君。先に言っておくと、マジックバッグは諦めて欲しいの」


 やはりそうか。使節団が早速使ったところをみると、すぐにその有用性を感じたのだろう。あれだけでかなりの食糧を運ぶことができる。部隊の運用にあれほど便利なものはあるまい。アルが判っているとばかりに頷くのを見て、セレナも安心した様子で微笑む。


「その代わりになるかどうかは判らないけれど、ギュスターブを騎士爵に任じることはほぼ確定しているわ。そして、今回の同盟に当たり、タガード侯爵家から譲られた呪文があるのだけれど、それを特別にアルフレッド君には提供することになったわ」


 新しい呪文の書?! アルは思わず笑みを浮かべる。


石軟化(ソフテンストーン)呪文と金属軟化(ソフテンメタル)呪文、素早い魔法の矢クイックマジックミサイル呪文の三つよ。素早い盾(クイックシールド)呪文も提供されたけれど、あなたは習得済みだと思うので外させてもらったわ」


 続くセレナの言葉にその笑みはすこしぎこちないものになった。前の二つは既にそれを使える魔道具を持っているし、素早い魔法の矢クイックマジックミサイル呪文は実はタガード侯爵領滞在期間中に既に15金貨を払って入手していたのだ。


「その様子からすると、3つとももう習得済みだったの? 侯爵家の嫡男であるジリアン様は石軟化(ソフテンストーン)呪文と金属軟化(ソフテンメタル)呪文について、タガード侯爵家の誇る二つの呪文なのだと自慢げに話されていたから、あまり出回っていない呪文なのだと思ったのだけど……」


 ジリアン! そうか、セレナはジリアンと直接話をしていたのか。一体どんな人物なのだろう? アル自身はジリアンと直接話す事はもちろん無かったが、セオドア王子を歓迎して握手する様子を見たところでは髪はノラと同じくすこし赤みを帯びた金色で、背は180センチに届かないぐらいのすこし華奢に見える人物で、にっこりと微笑んだ様子は優しそうに見えた。

 アルの笑みが途中で変わり他の事を考えている様子を見て、セレナは残念そうな表情を浮かべる。


「実は素早い魔法の矢クイックマジックミサイル呪文については、タガード侯爵領滞在中に入手していたのです。ですので石軟化(ソフテンストーン)呪文と金属軟化(ソフテンメタル)呪文の二つのみ頂くことにいたします」


 あわててアルが言い訳すると、セレナはそうなのねと言った様子で頷いた。


「わかったわ。いくらで入手したのかあとで教えて頂戴。その分はデュラン卿が約束した手当に加えておくようにするわね」


 アルが頷く。そういえば、デュラン卿が十分手当も支払うと言っていた。それについては後で貰いにいかねばと考えていると、ギュスターブが何かを咎めるようなまなざしでアルを見たのに気が付いた。冒険者としては当然の話だとアルは思うのだが、後で話し合いが必要そうである。


「そして、もう一つ相談したいことがあるわ。チャニング村の南で発見された鉄鉱山の事よ。マーロー男爵からは騎士団への討伐依頼と開拓村の設置許可の申請が上がってきている。それに添付された調査報告書には、鉄鉱山で採取されたサンプルからするとかなり有望な鉄鉱山のようだとなっているわ。でもこれって、前にアルフレッド君がみせてくれたプレンティス侯爵家の魔導士が食糧を与えて支援していると問題視している拠点のことよね?」


 アルは頷く。オズバートはギュスターブの代理としてマーロー男爵の部下にサンプルを提出し、見てきたことを報告した筈である。それと並行してアルはデュラン卿と相談をしたのだ。


「おそらく一致していると思います。応援依頼ではなく討伐依頼ですか?」


 ギュスターブが少し不思議そうに尋ねた。マーロー男爵程の力のある貴族であれば配下に騎士や衛兵を抱えているはずだ。討伐依頼となると騎士団が主導権を持って相手を倒すという話になる。応援依頼の間違いではないかと思ったようだ。


「報告書には正体不明の魔法使いとラミアと思われる蛮族の存在についても報告されているわ。マーロー男爵は色々と不安に思ったみたいね。で、こういう形になったようよ」

「そういうことですか……」


 ギュスターブは何かを少し考えながらそう返事をした。


「で、相談というのは今回の褒賞としてチャニング家を鉄鉱山の代官に任命しようと思うのだけどどうかしらって事よ。セオドア殿下もマジックバッグは渡せない事に少し引け目を感じていらっしゃるようだし、さっきの話だと、呪文の書も大してアルフレッド君には素晴らしいものでもなかった様子だったわ。もちろん蛮族討伐が必要だけど、アルフレッド君なら問題ないでしょう? 鉄鉱山の代官として順調に功績を上げれば将来的には男爵位も夢じゃないわよ」

「マ、マーロー男爵閣下は、それを納得されるでしょうか?」


 ギュスターブは少し興奮した様子で尋ねる。男爵に昇爵するというのは破格の事だ。


「討伐依頼となると開発の主導権はとれなくても仕方ないでしょう。それでも代官は自分で間違いないと甘く考えていたのでしょうけれど、そこは残念ね。マーロー男爵には父にお願いして話はしてもらうわ。どうせ鉄鉱山からの運搬ルートはマーローの街を経由することになる。通商の利権を考えれば彼も納得するでしょう。大丈夫、父は私に甘いのよ」


 話を聞きながら、アルは別の事を考えていた。ゴブリンなどの蛮族はともかく魔法使いとラミアを相手にしてなんとかなるだろうかという事だ。ラミアという蛮族は一体どれぐらいの力を持っているのかわからない。しかし、これほど高く評価されるとは有り難い話であった。

 チャニング家が男爵になるかもと言われると協力を惜しむわけにはいかない気もするし、自分の物にしてよいか少し躊躇していた2000金貨ほどの金の件もある。これを依頼と考えれば、あの金に少しは手を付けても良いのではないだろうか。


「アルフレッド、どう思う? 倒せると思うか?」


 ギュスターブの問いにアルはゆっくりと顔を上げた。


「頑張りたいと思いますが、ラミアがどのような力を持つのかわからず断言できません。少し時間を頂けないでしょうか?」


 アルの答えに、セレナは少し考えた後、わかったわと頷いた。


ここで、第19話は終了とします。本日は話の終わりということで、登場人物一覧を整理して1時間後、11時に追加で更新します。


*****


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


冒険者アル あいつの魔法はおかしい 第三巻

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共に3月15日です。 発売元のTOブックスさんのページでは既に予約が始まっております。

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諸々よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
ずっと冒険者アルー、だと思ってました。アルフレッドだからアルでアルーとは伸ばさないか~と今考えればわかりますが(笑)。
ギュスターブが独立するから、ジャスパーが男爵候補?田舎で父や兄の補佐をしてのんびり暮らそうとしてるのに(勝手な決めつけ) ジャスパーは中級学校出てないのに大丈夫だろうか?アルが貴族の礼を習ったの中級学…
手に入ったのは戦闘に役立つ魔法では無かったね。 生産製作活動はほとんどしていないから微妙かも?
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