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【書籍化&コミカライズ】冒険者アル -あいつの魔法はおかしい  作者: れもん
第18話 領都

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18-1 引きこもり

「アル、ずっと部屋に居ると身体がおかしくなっちまうぞ。気分転換にちょっと付き合ってくれよ」


 昼過ぎ、オーソンはアルの部屋をノックした。すでに領都に到着してから一週間経ったが、アルはオーソンと共に到着した後、結局レビ商会の会頭の屋敷の一室を借り、ずっと中に籠っていたのだ。


「う、うん……」


 アルは気の進まない様子で部屋から顔を出した。実はアル自身も、ほぼ一年ぶりの領都であるのでいろんなところを巡ったりするつもりであった。あったのだが、到着してすぐに呪文の書を売っている店に立ち寄ったのがいけなかった。そこで魅力的な呪文の呪文の書を五巻も提案されてしまったのだ。そして、アルの懐にはたっぷりの金貨があった。その結果、それらの呪文の書はすべて購入し、そのままレビ商会の会頭の屋敷で部屋を借りてそれらの呪文の習得をすることになってしまったのである。

 もちろん、元はギリギリに領都に到着するつもりであったアルが早く領都に到着したのはレビ会頭が護衛を依頼した結果であると言えるし、アルの滞在に実際、レビ会頭は気にした様子はなかった。とはいうものの、アル自身も後ろめたい気持ちもあり、魔法発見(ディテクトマジック)呪文の検知結果などは警備をしているレジナルドなどと連携をとったりはしていた。そして、習得が一通り終わったタイミングにでもどこかで鹿や猪を狩ってその肉を礼代わりに持ち込もうと思ってはいたのだった。


 アルが予定を変更する原因となった呪文は打撃強化(ストライクハード)呪文、落下抑制フォーリングコントロール呪文、素早い盾(クイックシールド)呪文、水生成(クリエイトウォーター)呪文、手紙送信(センドメイルボックス)呪文の五つであった。そのうち、手紙送信(センドメイルボックス)呪文だけが第三階層、他ははすべて第二階層の呪文である。


 熟練度による回数分、攻撃のダメージを増やす打撃強化(ストライクハード)呪文。これは15金貨だった。アル自身は呪文以外では攻撃をしないので意味はないだろうが、今後も誰かと一緒に蛮族や魔獣と戦ったりする可能性は十分にある。その際にこういった援護呪文はあったほうが良いだろう。

 落とし穴に落ちた時に、ゆっくりと落下が出来る落下抑制フォーリングコントロール呪文も15金貨であった。オーソンが魔道具として持っているものだ。アルは飛行(フライ)呪文があるので要らないと断ったのだが、逆に飛行(フライ)呪文が解除ディスペルされた時に有効ですよと言われたのである。なるほど、それなら必要だろう。

 素早い盾(クイックシールド)呪文は(シールド)呪文より防げる回数は少ないが、痙攣(スパズム)と似てすぐに呪文が使えるという珍しい呪文で30金貨であった。これがあれば、魔法の矢(マジックミサイル)呪文を撃たれて飛んできていても、呪文による防御が間に合うと説明を受けたのだ。もちろん熟練度には依るらしいが、持っておけば安心だろう。

 水生成(クリエイトウォーター)呪文は魔道具で既に同じ効果のものは持っているが、10金貨とそれほど高くなく、また、参考にする魔道具があるのなら、逆に容易に魔道具を作ることが出来そうである。水が湧く魔道具は貴重で旅の間は非常に重宝する。うまく行けば魔道具をつくることによってかなり稼げるかもしれない。

 そして手紙送信(センドメイルボックス)呪文は店員から特に勧められた第三階層の呪文であった。この呪文は使うと術者の前に一辺が10センチの箱が現れる。そして、その中に送りたいものを入れた後、箱を閉じて今度は送りたい場所を念じてその箱の表面を叩く。するとその箱は一度100メートルほど飛び上がったのち、送り先として指定した場所に時速5キロほどの速さで飛んでいくらしい。箱は目的の場所に着くと、中身をそこに残し消えてしまうということだった。

 ただし、送り先が部屋の中でその部屋の扉と窓が全部閉められていた場合、その外で待つことになり、呪文の効果時間が切れるとその場で箱が消えて中身はそこに放り出される羽目になるのだという。とは言え、呪文は習得したばかりでも3時間ほどは有効なので都市内や近隣の村や町ぐらいまで届くと言う話だった。

 この呪文の値段は五十金貨と格段に値段が高いのだが、熟練度が3ぐらいにまで上昇すれば都市間で同時に3つの箱を行き来できるようになる、危険な事をしなくても十分に元は取れるという話であった。そう聞くと、こちらは水生成(クリエイトウォーター)呪文以上に金になりそうな呪文である。


 いろいろと教えられると欲しくなる。アルはもちろん誘惑に負けてしまった。その結果が今の状況であった。


「今回治療をしてくれる神殿ってのにちょっと行ってみたいと思ってな。治療をしてもらう際に行く事にはなるんだろうが、その時に初めて来ましたじゃ、神様にも呆れられちまいそうじゃないか。その前によろしくお願いしますって祈りに行こうとおもってな。だけどよ、領都は数えるくらいしか来たことが無くて、その神殿っていってもどこにあるかよくわからねぇ。アルは中級学校で5年、領都で暮らしたんだからわかるだろ? 頼むよ」


 今回ワイバーンの頭部の剥製については、王都に建造中の太陽神ピロス大神殿の装飾にしたいと、領都の神殿長が要望しているらしい。ということはオーソンの治療は太陽神ピロスの高位司祭が行ってくれるのだろう。オーソンが言うことは至極当然だし、きっとアルの身を案じて誘ってくれたのだろうというのも察しがついた。


「わかったよ。ありがとう。でも、そういえば太陽神ピロスの神殿はどこにあるのか知らないな。ということは貴族街かな? とりあえず外出の用意をするよ。ちょっとだけ待ってて」


 アルは一度扉を閉めると、習得中だった呪文の書をそのままの状態で研究塔の倉庫代わりのスペースに移送(トランスポート)した。いままでなら一旦印をつけた幻覚(イリュージョン)を消したり、隠し場所に戻すのに巻き戻したりといった手間が必要であった。それがその状態のまま一旦保留できるというのは便利である。念のために自分の装備を見直して確認した後、再び扉を開ける。


「おまたせでした。じゃあ屋敷の誰かに場所を聞いてから行こうか」

「うん、って おい、アル?」


 オーソンは一度頷いてアルの後ろを歩きはじめたもののすぐにアルを呼び止めた。


「どうかした?」

「鎧はつけねぇのか?」

「あー、ちょっとね。最近きつくて」

「きつい?」


 オーソンはアルを頭のてっぺんから足の先までじっとみた。


「そういえば、身長伸びたな。まだ俺よりは小さいが……」


 アルがオーソンと会った頃、身長はまだ150センチほどだったのだが、この一年で10センチ以上伸びた。今では165センチに少し足りない程度だろう。


「もちろん狩りや仕事の時は着けてるんだけど、普段の時はね。あれほど硬くないけど普通の革鎧ぐらいなら呪文で作れるようになったし……」

「おいおい、そういうのを油断って言うんだぞ。でも、おかしいな。それ、デニスがつくったやつだろ? ちょっと見せてみろよ」


 アルの鎧は去年の六月頃、鎧は大事だとオーソンに何度も説得され、辺境都市レスターの鎧職人デニスに作ってもらったものだ。アルはオーソンを部屋に入れ、上着と並んで壁に吊るしてあった鎧を手渡した。オーソンはしばらくそれを細かく見ていたが、途中で何かに気がついたようで鎧のパーツをつないでいる革紐を指さした。


「ああ、やっぱりな。ほら、ここ、ここの金具と紐で調整できるようになってるんだ。サイズ調整は慣れないと難しいから、簡単な手ほどきは今度してやるよ。そうすれば少しは楽になるはずだ。アル、一応鎧の手入れはやってるようだが、稼げているんだから、職人に定期的に見てもらったほうが良いぞ。きちんとしたサイズ調整もその時にやって貰えばいい」


 そんなものか。アルは頭をポリポリと掻いた。幸い大きな怪我をしたことはないが、生死に関わる事柄だ。用心深くしているのに越したことはない。


「わかったよ。またお願いするね」


 アルがそういうと、オーソンは頷いた。やっぱり頼りになる。太陽神ピロスの神殿については屋敷の者に聞くと、貴族街の一番西側の通りにあるらしい。場所を聞いてアルはすぐに場所の見当がついた。それならば歩いて十分もかからないはずだ。


「すまん、俺は貴族街の一番西側の通りと言われてもよくわからねぇ、アルは知ってそうだな。道案内頼むぜ。ついでに帰りにちょっと土産物でも買えそうな店とか寄りたいな。うまい店もあるんだろう? 紹介してくれよ」


 アルがずっと引きこもっていたので、オーソンは一緒に遊ぶ相手がおらずに暇をしていたのだろうか? いや、オーソンならそんなことはないはずだとは思う。だが、領都をアルと一緒に歩きたかったのかもしれない。


「ごめんね、オーソン。ほっといて悪かったよ。一緒に行こう!」


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


冒険者アル あいつの魔法はおかしい 第一巻 発売中、第二巻は11月20日発売予定です。

 山﨑と子先生のコミカライズは コロナEX 他 にて現在第8話公開中です。


どちらもよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
確かに目覚ましいとか華々しさとかはないかもしれないけれども、こういう基礎中の基礎を身の丈に合わせて堅実に教えてくれる大先輩っていうのは何にも代え難い存在ですね そろそろ少年ではなく青年になりつつある…
書籍1巻が無料で読めたので読み始め、3日でここまで来てしまいました 楽しませてもらっています 応援しています
う~ん、伝書鳩の飛行速度が44km/hって考えると、正直騙されてるとしか思えんのだけどなぁ
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