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白兎令嬢の取捨選択  作者: 菜っぱ
第二章 王都の尋ね者(騎士学校一年生編)
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79ヘデリーお兄様の存在を忘れていました


 たくさんの生徒が通る、授業棟の廊下。昼前の学校の廊下は授業へ向かう生徒たちで溢れています。


 その間を授業へ一人で向かわねばならないわたくしはチョロチョロと間を縫うように走り抜けます。

 なぜ一人きりかというと、今日この時間だけはメラニアとエナハーンとは別のクラスの授業なのです。


 いつも授業へ向かう時のように、転移陣を使ってしまいたいところなのですが、この棟のこの時間だけは人目が多すぎて自分の足で向かわねばなりません。


 嫌な奴に会いませんように……と心の中でお祈りをしながら小走りで進んでいたにもかかわらず、どうしてわたくしは嫌な奴に会ってしまうのでしょう。


「リジェット・オルブライト。今日こそは言質をとらせてもらう」


 後ろから聞こえてきたその尊大な声にはあ、と小さくため息をついて振り会えると、そこには思った通り第二王子のアルフレッド様が、腕を組んで偉そうに立っていました。


 またですか……。もう。よく飽きませんね。


 わたくしは連日の勧誘に、眉をひそめることしかできません。


「あの……。何度来られても返せる言葉は同じです。わたくしはあくまでも、オルブライトの意思に従い、現時点では中立の立場をとらせていただきます」

「ほう? 王族に逆らうとはいい度胸だな。こちらも今は穏便な態度をとっているが、あまりにも目に余るようだと、今後武力に訴える手段に出ることだってできるんだぞ?」

「あら? アルフレッド様は、随分不思議なことをおっしゃるのですね。わたくしたちのことを本当に心から必要としているのは王族の方々の方だと思っていましたわ。

 懐柔しようと試みた方が、よっぱど有意義かと思いますが……。アルフレッド様は交渉の類はお得意ではないのかしら」

「……よくもまあ。私相手にそこまで、口数を減らさずベラベラと話せるな」

「ええ。王子はわたくしを損なうことはできませんでしょう?」


 わたくしを殺したら、王族はオルブライト家の白纏の子、と言う貴重な属性を持つ手数を減らすことになります。命が保証されているということは交渉にあたって素晴らしいカードを手に入れていることと同意ですから。


「立場を盾にして悪態をつくところが、クゥールとそっくりだ」

「ええ。だってわたくし、先生の弟子ですもの」

「クゥールもお前も、今は私たちが多めにみているから、自由な行動ができていることをしっかりと自覚した方がいい」

「でも、先生を逃したのは皆さんなのでは?」

「はあ、全く口が減らない娘だ。反吐が出る」

「まあ、どうして反吐が出るほどお嫌いなわたくしのことをそんなに追いかけるのでしょうか? ……最近知ったのですが、世の中には嫌い嫌いと言って本当は好き、と言う性根曲がった思いの寄せ方をする方もいるそうですね……。

 はっ! まさか、 第二王子はわたくしに懸想でもしているのかしら⁉︎」


 わざとっぽく、演技するように、頬に手を当てながら言い放ちます。


 それを遠巻きでみていたオーディエンスは、まさか……と呟きながらザワザワと声を立てました。


 アルフレッド様はそれを見て慌てながら、露骨に嫌そうな仕草を見せます。


「は⁉︎ そんなわけないだろう⁉︎ なぜ私はお前のようなちんちくりんに懸想などせねばならぬのだ⁉︎」

「そうですよね。王子の審美眼を疑ってしまうところでした。と、いうことでお引き取りください」


 わざと冷たさの残る声で言うと、王子は怒りからか、ワナワナと小刻みに震えていました。


 さて、どうしようと見守っていると、王子の後ろから助け舟が入ります。


「アルフレッド様、ボロが出る前に帰りますよ」


 後ろに控えていた従者の一人が、王子の背中を押しながら、引き上げるように促してくれます。てっきり第二王子の同級生の方かと思いましたが、その従者は一学年の証である、赤いネクタイをしていました。


「あれ? あなた……」


 第二王子の従者は、入学式の挨拶をしていた黒髪の少年だったのです。


「……こうやってお会いするのは初めてですね。リジェット・オルブライトさん。本当はもっとゆっくりご挨拶をしたかったのですが。アルフレッド様! 怖がらせてどうするんですか?」

「わ、私は……」


 すごい……。この方、第二王子を黙らせました……。

 従者——しかも年下なのに意見ができる立場なのですね。


「逃げる相手を追いかけ回すような真似をしてはなりません。失礼いたしました。私は、カーデリア・クルゲンフォーシュです。同級生ですから、お気軽にカーデリアとお呼びください」

「は、はい……」


 カーデリア! あなたのこと……。わたくし誤解していたかもしれません。


 クルゲンフォーシュ家の子息、という情報だけで、いけすかない優等生のボンボンを想像していたのですが、第二王子派の中で唯一まともな人間です! あなたは本当によくできた従者だわ! 

 ……王家に努めるにはもったいないくらいに。


 もしかしたら、そう見せることも彼の戦略の一部なのかもしれませんが、今はそれで助かったのだからよしとしましょう。


 こちらをちらりとみたカーデリアは「さあ、お戻り」と目配せするようにウインクをしてくれました。


 ありがとうございます!  


 よし。このくらいのことを言っておけば、アルフレッド様はわたくしに近づかなくなるでしょう。



「王子……。逃げるうさぎは追いかけてはなりません。捉えたかったら、罠をしっかり仕掛けたら良いのですよ」

「お前……。その顔を人前で出さないのは詐欺だぞ?」


 ニタリと黒い笑みを浮かべるカーデリア。

 それに呆れるアルフレッド様。


 そんな二人がわたくしのことを獲物を見る目で見つめていたことなど、その時は気がつきませんでした。



 季節は少しずつ進み、冬も深まってきました。外は木枯らしが吹き、コートが必要な季節になります。ここ最近はカーデリアが釘を刺してくれてからか、第二王子の襲撃もなく、のほほん、と生きているわたくし達ですが、一週間後に別の意味で戦いが待っています。わたくしたちには試験が待っているのです。


 騎士学校では実は実技試験はそこまで重視されていません。

 騎士団には後方支援部があり、実技技能が足らないものや、戦いで負傷した一部の若い騎士はそちらに配属され、書類仕事などを担当することもできます。


 しかし、筆記試験は別なのです。騎士団に馬鹿はいらない。その考えが根強く、成績によっては除籍されてしまうこともありますから、わたくしたちは必死です。


 授業終わりの休憩時間もわたくし達にとっては貴重な勉強時間です。

 移動教室が終わるとわたくしと、メラニアとエナハーンは席を囲むようにしてす座って、範囲と言う範囲を頭に詰め込めるだけ詰め込みます。


「ステファニア先輩が去年の出題範囲の用紙をくれたから、なんとか対策できると思うけど……。どうしよう……。覚えられる気がしないよ」


 そう言ったメラニアは顔を青白くして涙目になりながら、うなだれていました。


 確かに騎士団のテストは魔法陣の基礎を勉強していないと難しいかもしれませんね。


「しっかり対策をすれば大丈夫ですよ!」

「そうは言っても、ステファニア先輩とリジェットは魔法陣描ける組じゃないか。こっちは読めもしないところからの挑戦なのに……。ああ短期間で魔法陣を解読できる方法とかないのかな……」


 メラニアはそう言っていますが、その方法をお教えすることはもちろんできません。


 魔法陣を描くことができる条件は死にかけることですもの。そんなことを友人に押しつけられませんよ。


「でっでも……。け、結構勉強していくと描けはしないけど、仕組みがこうなんだろうなあっていう理解はできそうですけど」


 そう言ったエナハーンはスラスラと文字を解読していきます。

 もはや、これは古代文字を理解しているのでは? と思うくらいですが、やはり魔法陣を描くことができる条件を満たしていないので、何かひとピース足らないような感覚に陥るそうです。


「やっぱりエナハーンは勉強が得意なのですね……。素晴らしいです」


 そんな話をしながら、勉強に勤しんでいると、窓にコツンと何かが当たる音がしました。


「あれ? お手紙の魔法陣じゃない?」

「本当ですね!」


 一番窓側に座っていたエナハーンが窓を開け、お手紙の魔法陣を中に入れるとそれはわたくしの腕に止まります。


「あら? どうやらわたくし宛の魔法陣だったようですね?」


 誰宛だろう、騎士学校ですし先生ではないでしょうと思いながら魔法陣を開くとそこにはエドモンド様の名が記載されていました。


『申し訳ないのだが……。私の授業準備室に至急来てもらえないだろうか……。忙しい時期なのにすまない。』


 よく見るとその時は相当焦っていたのか、走り書きのように書かれていました。

 一体、どうしたのでしょう。


「ちょっとエドモンド様から呼び出しがあったのでそちらに行ってきますね」

「エドモンド教官? なんだろうね?」

「心当たりはないのですが……。急ぎのようなので、行ってきます」

「一人で大丈夫?」

「転移陣を使いますから大丈夫ですよ!」


 ニッコリ笑ってそう言うと、メラニアとエナハーンは「そっか……」と呟いた後、引きつった顔でこちらを見ていました。



 わたくしは寮の部屋から転移陣を作動させ、エドモンド様がいらっしゃる、教科準備室近くのポイントに降り立ちます。


 扉を開けようとすると中で待ち構えていたらしいエドモンド様が、親切に手ずから開けてくださいました。


「リジェット・オルブライト! 早かったな! 本当に助かったよ……。ささ、中に入ってくれ」


 中に入ると見慣れた顔が現れます。


「あら! 先生!」

「やあ、リジェット。エドモンドが突然呼び出したみたいで悪かったね」


 先生は騎士学校の一室だと言うのに、まるで自室のようにくつろいだ態度を見せています。

 逆に、エドモンド様は自室のはずなのに、恐縮したご様子です。


「今日はどうしてこちらに?」

「リジェットと話した時に、エドモンドの義足のことをなんとなく思い出してね。当時の技術で作ったから、そろそろガタが来るんじゃないかと思って。メンテナンスに来てみたんだ。後、君がどうやって騎士団で暮らしているかも知りたかったし……」

「あ、先生が以前言っていた騎士団の知り合いと言うのはエドモンド様のことだったんですね」

「それ以外にもいるけど……。まあ、一番揺すりやすいのはエドモンドかな?」


 揺すりやすいって、本人の前で言うのはあまりにも不敬なのでは、と言うかエドモンド様はお父様と同世代の方ですから、ある程度敬意を持つことも必要だと思うのですが……。


 ちょっと先生の態度にひきつった笑いを浮かべていると、背中をトントントントン、とエドモンド様に連打されます。


「なあ、リジェット・オルブライト。クゥール様はこういってはいるが、本当にメンテナンスか⁉︎ 私の足に何か、仕掛けを施しにきたわけではないのか?」

「さあ……。それはどうか知りませんけど……」


 そう言うとエドモンド様は、固まってしまいました。


 こうやって先生が騎士団にくる理由を考えた時、エドモンド様に何かをすると言うよりも、騎士学校の中に何かを仕掛けにきたような気がするのですが……。


「なんだか最近は先生とたくさん会っている気がしますね」

「君たちは……。聞いた通り本当に師弟関係なんだね。どのくらいの頻度であっているんだい?」


 ちょっと引き気味なエドモンド様の問いにわたくしはうーんと考えます。


「王都にきたら、先生に会える頻度は少なくなると思いきや、最近は週三くらいで会えていますね」


 入学前はもう二度と先生のお家に行けなくなってしまうんじゃないか、と涙まで流しましたが今考えるととんだ杞憂です。


「ああ。そうだねリジェットは屋敷にいた頃は人の目が多くてなかなか会えなかったから……。王都にいた方が監視の目が少なくて自由に動けているんじゃないか?」

「そんなに貴方たちは……。会っているのですか」


 なぜかその返答を聞いたエドモンド様ははあ、と深いため息をつきます。最初に会った時よりも、老け込んだように見えるのはなぜでしょう?


「エドモンド、わかっているとは思うけど、騎士団や王族関連の人間に、僕が王都にいること、漏らさないでよね。あいつらが僕を捕らえに湧いてきてそれを一々殺して回るのも面倒なんだよ」

「あの……。不穏なこと、いわないでくださいませんか? これ以上老け込みたくはないのですが……」


 エドモンド様の顔はなんだか青白くなっています。


「じゃあ、ちゃっちゃとエドモンドの足の整備を済ませてしまうかな」

「ああ、そのことなら。悪いんだが、この後知人が来るんだ。今は足の調子も悪くないし、大丈夫だ。しかし、その客人は君とは些か相性が悪いだろうから、早めに退室をしてくれると助かるのだが……」


 エドモンド様は、申し訳なさそうな顔で、ちらりと先生を見ました。あ、それで。先生を引き取ってもらうためにわたくしが呼ばれたのですね。


 先生もこの感じを見ると連絡も入れず、急に来たようですものね。先生は国内での地位も高いですし、あまり人と関わってきていないようなので、こう言う気遣いはできないですものね。


「エドモンド様もこう言っていますし、わたくしたちは退出しましょう。先生だって他の人に姿を見られたらまずいでしょう?」

「一応、見られたらまずい人間には見えないように範囲指定の擬態の魔術を掛けいてるけどね」


 先生がそう言った瞬間、外からドタドタと走る音が聞こえてきます。

 どんどん音はこの部屋に近づいてきます。

 ガラッと勢いよく開いた扉からは見知った人影が見えました。


「あら……? ヘデリーお兄様?」


 そこには騎士服に身を包んだヘデリーお兄様が現れました。

 久しぶりにみたヘデリーお兄様の騎士服の二の腕の部分には、騎士団での階級を表すラインが一本増えています。また、階級を挙げたのか、とちょっと感心しつつ、ヘデリーお兄様の顔を見上げます。


「リジェット⁉︎ と……。ク、クゥールまでいるではないか……。貴様……。まだリジェットにつきまとっているのか⁉︎」

「ヘデリー⁉︎ クゥール様に貴様と言うのはやめてくれ! この部屋ごと消し飛ばされたらどう責任とってくれるんだ⁉︎」

「え……。僕そんなことするって思われているのかな?」


 わざと悲しそうな表情を作った先生をみたエドモンド様の顔は今まで以上に青くなってました。


「あっ! これは言葉のあやです!」

「ヘデリーお兄様? 先生はわたくしにつきまとっているわけではないのですよ。むしろわたくしが先生につきまとっているのです」

「それも誤解を招きそうな言い方だけど」

「クゥールには……連絡をとっているのに、私には何ヶ月経っても連絡をよこさないとはどういうことだ⁉︎」


 あ! そうでした!

 わたくし、お父様から王都に着いたら、へデリーお兄様に連絡するように、言いつけられていたのでした。


「すみません! 連絡をするのを忘れていました……。騎士学校ではヨーナスお兄様もいますし、何かあればヨーナスお兄様に連絡をとってしまいますから」


 それを聞いたへデリーお兄様は一瞬悔しそうな表情を見せた後、わたくしの肩を揺すります。


「ヨーナスに頼りすぎるのは今後、危険だ。あいつは第二王子派になることが確定しているようなものだろう?」


 第二王子派……。その言葉を聞いてわたくしは目を見開きます。


「やはり……。ヨーナスお兄様は、そちらに流れてしまうのですね」

「騎士団の同期間の関係性は思っているよりもずっと強いからな。父上から、何かあったら私に連絡するように、と言付けがあっただろう?」

「ありましたけど……。まだ何も起こってませんから」

「最近シュナイザー百貨店に度々出入りしていると聞いているが?」

「いっ! なんで知っているんですか?」

「アンドレイ伝手で情報が入ってな」


 お兄様の直属の上司である、アンドレイ様はこの国の現王の正室である、カトリーナ様の甥にあたります。高貴な方はどうやらシュナイザー百貨店とも関わりがあるようですね。


「お前……何か良からぬことを考えているんじゃなかろうな。唆したのはクゥール様か?」

「違います。先生はどちらかというとまきこまれただけです」


 ヘデリーお兄様はわたくしの耳元で、他の人に聞こえぬよう小さく呟きます。


「お前は武器を手にしているんだ。うまく使えよ」

「武器って先生のことですか?」

「ああそうだ。あいつはお前の盾になるだろう。それだけの資質がある」

「いやですわヘデリーお兄様。わたくしは先生に守られていればいいと思っているのですか? ……わたくしは守られているだけなんて嫌です。先生もお兄様も、守れる人間になりたいですもの」

「お前は……。本当に変わらないな」

「ええ。変わるつもりは毛頭ございません」

「とにかく。お前は今後、どう動いても派閥争いに巻き込まれるのは必須なんだ。せめて後悔がないように、自分の仕える人間は自分で選べよ?」


 主人を決める、それが難しいんじゃないですか。


「へデリーお兄様は主を自分の目で決めろと言いますが、ヘデリーお兄様自身には主人がいないじゃないですか」


 ちょっとけしかけるようにいうと、ヘデリーお兄様はおや? という表情をしました。


「私の主人はアンドレイだが?」

「え⁉︎ アンドレイ様?」

「アンドレイは元々、先先代の王弟筋の人間だからな。旧王家派と呼ばれることもあるがな。私の目には第一王子も第二王子も……魅力があるようには映らない。王の資質というものが、あの二人には全くないだろう?」

「全くかは……分かりませんが。というかヘデリーお兄様はご自分の主人に転移陣を描かせたのですか⁉︎」

「何事にも対価は必要だろう?」


 そういったヘデリーお兄様は、左の口端だけをあげ、みる人がみるとちょっとイラっとするような悪い顔を見せます。


「先を見通し、国を導くだけの資質はないだろう。だから、叡智の王冠はあの二人の前には姿を現さない」


 その言葉の紡ぎ方に違和感を持ちます。まるでその言い方では、アンドレイ様が王の証である、叡智の王冠を持っているような口ぶりではないですか。


「アンドレイ様は……。叡智の王冠を持っていらっしゃる……? そんなことは……ありませんよね?」


 ヘデリーお兄様が、何も言いません。ヘデリーお兄様の性格を考えると、違うのであればそんなことはないだろうといってくださるはずです。


 と、いうことは……。持っているんですね⁉︎


 どうしましょう……。先生にこのことを相談すべき? と考えていると、その大きな体に似合わぬ震える声が棚越しから聞こえてきます。


「もうここでこう言うことを話すのはやめてくれないか。私はこの騎士学校の一教官であって、秘密を抱えるには荷が重いんだ……」


 血の気のひいてクラクラしている様子のエドモンド様の一言で、ここが授業準備室であることを思い出します。


「申し訳ありません、エドモンド様。ヘデリーお兄様もエドモンド様とお話があったのでしょう? お邪魔してすみませんでした。わたくしたちは失礼しますね」


 そう言ってわたくしは先生を引き摺り出して準備室を後にします。


「あ……。エドモンドの足、直し忘れた」

「でもそれが本当の理由ではないでしょう? また約束を取り付けて、会いに行けばいいじゃないですか」


 そう言うと先生はきょとんといた顔をします。


「なんでわかったの? ……今日はここに転移陣張ろうと思って。これからここに入ることも多そうだからさ」

「あ、やっぱり。先生は騎士学校にルートを取りに来たのですね。もしよろしければ、わたくしが最近仕掛けてきた道筋がありますから、その使用権お譲りしますよ」

「え? 君は騎士学校内に魔法陣を配置しているの?」

「はい。やっぱり、皆さんの懸念通り、今学校内では派閥争いが激しくて、一人で行動しているだけで、狙われやすいのです。ですので、寮の女の子たちと一緒に転移陣をあちらこちらに設置済みなんですよ」


 そういうと、先生は目を見開きます。


「え⁉︎ あの子たちに魔法陣が使えることを明かしたのか?」

「ええ。仕方ありませんもの」

「あの子たちが、敵側に回ることも考慮しての考えだろうね?」


 わたくしの浅さかさに呆れた先生は静かに叱り付けてきます。


「一応、二人に勝手に転移陣を使用されるのはまずいと思ったので、わたくしと一緒にいるか、わたくしが許可した範囲での使用という制限はかけています。

 でも、わたくしだって。短い期間ですが、二人と関係性を築いてきたと思うのです。二人はなんの前触れもなくわたくしを陥れる感じではないのですよね」

「そうして君は……。そうやって安易に人を信用するんだ」


 先生は顔をしかめています。本当にひどい目にあってでもいたのでしょうか?


「そう言う先生は人を信頼しなさすぎですよ。それにちゃんと転移陣の主導権はわたくしにありますから、もし二人に魔法陣を使わせたくなければ、排除もできるようにしています」


 そう言うと先生は少し安心した様子を見せました。





王位継承争いに、第3の勢力が現れました。ということで、リジェットの兄たちはそれぞれ違う主人に仕えることになります。リジェットはこれからどうするのでしょう。


今年最後の更新です。読んでくださってありがとうございました! 来年もよろしくお願いします。


次は 情勢が変化してきました です。


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