57ヨーナスお兄様から説明が入ります
入学式が終わって、寮に戻ると、ラマが夕食の準備をしているところでした。
どうやら、メラニアの部屋を片付けてから、買い出しに出かけたようです。短時間でお仕事をこなすさま。さすが敏腕メイドです。
そこからラマも含めた四人で、少し早めの夕食を取り、その後はリビングでまったりと過ごしていました。
すると扉からコンコンとノックの音が聞こえてきます。ここは女子生徒しか入れないはずですが、一体誰でしょう……?
「こんばんは」
扉を開けて、しなりと現れたのは入学の受付の際、ヨーナスお兄様の頭を叩いていた、右目が髪で隠れた中性的な顔立ちの先輩でした。
思っても見ない方が現れたことに、わたくしは目を丸くします。この寮って男性も出入りするのですか⁉︎
「こんばんは、遅い時間に、悪いね。一応挨拶にと思ってきたんだけど……。みんないるかな?」
「は、はい。いますが……」
思っても見ない人物の登場に三人でキョドキョドとしていると、それを察したのか、先輩は優しい微笑みを向けてくれました。
「私はステファニア。騎士学校の二年生だよ。一応去年から二年間この寮の寮長をしているものだよ。と、言っても私の学年にもその上の代にも女子が私しかいなかったから寮長をやっているだけなんだけど」
おっと。この方は女性だったのですね。
あまりにカッコいい顔立ちですし、身長もすらりと高いのでてっきり男性かと思っていました。
さっきはヨーナスお兄様の頭を叩いていましたし、もっとクールな感じの方かと思っていましたが、笑い方がふんわりとしていてとっても優しそうな方です。
……怖そうな先輩じゃなくて本当に良かったです。
「やっぱり女の子の部屋は華やかでいいね。今まで私一人で寂しかったから、女の子が三人も入って嬉しいな。一応みんなよりもここに詳しいと思うから、なんでも気になったことがあったら聞いて欲しい。いつもはこの奥の一室にいるからね」
その言葉を聞いたエナハーンが小さく手をあげたのが見えました。
「ん? 早速質問かい?」
「あっあの……。この寮は部屋がたくさん余っているようですが、ど、どうしてわたくしたちは同じ部屋にまとめられているんでしょうか?」
「おや? お嬢さんはご不満かい?」
「い、いいえ……。そっそういう訳ではないのですが……何かお考えでもあるのかと思って」
わたくしは最初からそう指示されたので、そういうものかと思って受け入れてしまいましたが、そういえばそうですね。それに気がつくエナハーンは思ったよりも鋭い視点をもっているのかもしれません。
この建物は二階建てですが、一階の部屋は外部の人間を招き入れる貴賓室や誰もいない医務室、ライブラリースペースなど寮生全員が使える部屋があり、二階が両室になっています。しかし二階は空き部屋だらけです。
ステファニア先輩はニッコリ目を細めてああ、そうだねと言います
「これは、私個人の考えだけど、この騎士学校生活の中で一人部屋を一人で使って暮らすのは結構大変だ。私は連れてきた侍女はいるけれど、先輩も同級生もこの寮にいないまま生活していたから、頼れる人が近くにいないことで困ったことがたくさんあってね。リジェットの兄のヨーナスがいなかったら、きっと退学せざるをえなかったと本気で思っているよ」
その言葉にわたくしは、眉を下げました。このかたは去年、自分と侍女以外誰もいないこの寮で一年間生活してきたというのですから、きっと大変なことがたくさんあったのでしょう。
同級生が近くにいない、ということはそれだけ情報も入りにくい環境だということですもの。
「だから、同級生が三人もいるのなら、同じ部屋の方がいいかと思っていたんだ。幸い、この部屋、リビングは共有だけど、奥にそれぞれの個室がある作りになっているから、最低限のプライバシーは保てるだろう? 男子寮は特別な立場の人間でない限り、すし詰め状態だそうだから、これでも破格の対応だと思うけど」
ステファニア先輩がそういうと、エナハーンは納得した表情を見せます。
「そっそうですね。出過ぎた質問をしてしまいました」
「いいや、構わないよ。ここで二年間も暮らすんだ。きっと些細なことだって気になるだろう……。そうだ、私はリジェットさんに言付けをしに来たんだった。ヨーナスが呼んでいるよ。女子寮を出たところのベンチのところで待っているから行ってあげてくれないか?」
「あ、そうなのですね。お伝えいただきありがとうございます!」
「いいえ。私も一年生に挨拶しなくちゃと思ってそのついでだったから、大丈夫だよ」
わたくしはステファニア先輩に向かってぺこり、と一礼をして、急いで指定の場所へ向かいます。
*
魔術具のでできた街灯に照らされたアイアンベンチにちょこんとヨーナスお兄様が座っているのが見えます。
「ヨーナスお兄様!」
手を振ると、ヨーナスお兄様がこちらをむきます。
ヨーナスお兄様はもう湯あみを終えたようで、軽い運動着のような格好をしていました。
「ヨーナスお兄様、わざわざ女子寮の方まできてくださってありがとうございます!」
「妹の面倒を見るのは兄として当然のことだろう? ここは変わった習慣も多いから、最初は慣れるのも大変かもしれない。何かあったら声をかけてくれ」
変わったこと……。入学式の妙な儀式とかでしょうか?
少し過保護な気もしますが、わからないだらけの空間で生活することを思えば、協力者がいることは大変ありがたいことです。
ヨーナスお兄様の変わったこと、という一言を聞いて、わたくしは入学式での一件のことを尋ねてみます。
「変わったことといえば、今日の入学式、主席の方のパフォーマンスはなんだったのですか?」
わたくしの純粋な質問を受け取ったヨーナスお兄様は、苦いような茫然としたような、微妙な表情を見せました。
「ああ……。あれは我が校の伝統だよ……。なんで続いているのかわからない儀式だがな」
「なんだかわからないのに、律儀にやっているのですか?」
「ああ、昔は普通の挨拶だったらしいんだが、誰かがふざけてあれをやったら、湖の女神が大層気に入ったらしくそいつに祝福を授けたらしい。それで、祝福欲しさに毎年首席があれをやるようになったんだ。祝福をもらえるのはごく稀だ」
「そ、そうだったのですね……」
湖の女神がもたらす祝福の威力の強さは、マルトの植物たちの成長スピードの異常さで身をもって知っています。
自分にとって有利になりそうな祝福を欲しがる気持ちはわかります。
でも、あんな演劇がかったパフォーマンスを好むなんて、湖の女神は大層乙女思考でいらっしゃいますね。
わたくしはあれを素敵だとは思わなかったので、きっと湖の女神とは趣味が合わないのだと思います。
「ちなみに、リジェット。お前は入学試験、次席だったろう?」
「あ、はい。そうですが」
それがどうしたのでしょうか。
「本当はあの儀式、リジェットがやるはずだったんだからな……」
「え?」
「入学試験の点数的にはリジェットが主席だったらしいが、あれは女を口説く儀式だから、お前がやったら妙な図になるだろう。だから、教官が気を聞かせて、主席と次席を入れ替えたらしい」
「え……。じゃあわたくし、主席の——カーデリア・クルゲンフォーシュに感謝しなくちゃいけませんね」
「ああ、直接お礼を言うのは変だが、心の中で感謝しておいた方がいい」
わたくしの代わりに、恥ずかしいことを請け負ってくれてありがとうございます!
「……というかなんでヨーナスお兄様はそんなこと知っているのですか?」
「仲のいい教官がいるんだ。オルブライト家とは旧知の仲で、現役時代の父上の後輩にあたるらしい。リジェットのことも気にしていたから、今度あったら挨拶をしておいた方がいい。エドモンド先生だ」
「エドモンド様……。覚えておきます」
わたくしがエドモンド様のお名前を忘れないように、繰り返し唱えているとヨーナスお兄様が何か思い出したような表情を見せます。
「そうだ……。リジェットにあったら、いくつか注意をしておかねばならないと思っていたことがあるんだ」
注意……。ですか……。寮ではラマに、手紙では先生に、オルブライトの屋敷ではお父様とお母様それぞれに、ガミガミガミガミ……とーーーっても長い注意を頂いたので、せめてヨーナスお兄様には手短に注意とやらをいただきたいですね。
「まあ、どうぞお手柔らかにお願いします」
そう言って、構えているとヨーナスお兄様が重そうな口を開きます。
「騎士学校での派閥争いによる摩擦に気をつけるように」
「派閥争いによる摩擦……」
入学式の後見てしまった先輩方の小競り合いのようなことが、日常的に起こっているのでしょうか? わたくしは眉をさげ不安な表情を見せてしまいます。
「ああ、この国では今王位継承争いが起こりそうなのは知っているだろう?」
「ええ。存じ上げております」
金髪で魔力量は少ないですが、正室のお子様である第一王子と豊富な魔力量を表す見事な黒髪を持ち、側室のお子様である、第二王子。
この二人のどちらが王の座を射止めるのか、水面下で争われています。
第一子が王位を継ぐ、という今までの慣例通り第一王子を推す保守派。
生まれ順に関わらず、より魔力の多い第二王子を推す革新派。
どちらについても身の振りが危うい中、オルブライト領はあくまで王の剣であるという建前のもと、中立の立場を貫いています。
これはオルブライト家が武の領地として過分な武力を有しているからこそ許される主張です。
「ああ、知っているならよかった。第一王子派は大体、公爵、侯爵なんかの今までの爵位を重要視することが多い。騎士学校にいる貴族の子息連中はあらかた第一王子派だと思っていい。あいつらは大体身分で人を区別しようとしてくるから、平民には当たりが強い」
ヨーナスお兄様の平民、言葉を聞いて違和感を覚えます。
「とはいっても、騎士学校の学生の大半が第一王子派ではないのですよね。騎士学校での平民の割合は思ったより多いですもの」
これは実際に騎士学校の内部を見て、わかったことですが、昨今の騎士学校は平民の生徒の在籍数が以前より多くなっているのです。
以前——それこそ、お父様が騎士学校の学生だった時代は、騎士学校といえば、貴族が通うもの、という認識でした。
騎士学校の入学試験は学科のレベルが高く、家庭教師や教員から指導を受ける必要があるからです。
しかし、今では平民が学生の四割を占めています。
「最近は平民向けの学校なんかも各地で開かれているらしい。その努力の甲斐あって、ギリギリでも騎士学校の入学試験を突破するものも多くなってきた。
だが、やはり平民出身だと、授業ももちろんだが寮での暮らしの面で難しいものがあるようで、残念ながら、卒業して騎士になるものは少ないな。今年も何人残るやら……」
寮での暮らし? その言葉に引っ掛かりを覚えます。
「あら? 何故ですか?」
「平民だと使用人がいないからな。学校のカリキュラム自体、使用人がいること前提で、組まれているからな……。実技の授業で、甲冑を着るにも人の手が必要だろう? それに日頃の暮らしの手伝いがなければ些末なことも自分の手でおこなわなければならない。貴族の子弟は使用人に任せて、開いた時間に試験勉強や鍛錬に励むことができるが、平民出身者はそうはいかない。それだけで済めばいいが、保守派貴族の出身の者の中には平民出身者を迫害するものもいるからな……」
「あら……。それは……」
わたくしが今日見たのは貴族同士の小競り合いでしたが、身分差があるもの同士でも諍いがおこっているのですね。
「全員が全員じゃないが、そう言うどうしようもない輩もいると言うことだけは覚えておいた方がいい」
「騎士の夢破れた平民の方は……。そのままご実家に戻られるのですか?」
「いや、そうでもない。そのまま王都の商家に住み込みで働くものも少なくないからな。彼らは彼らで割としたたかなところがあるから、ただでは帰らない者も多い。王都にでて、騎士学校に入っただけで王都の者とつながりをもつことができるからな」
退学者にも救いがあることにほっとしつつ、人を差別する輩とは関わらないように肝に銘じます。
「側仕えの存在が、在学中にそんなに重要だとは持っていませんでした。と言うことは、ラマ一人しか侍女がいないわたくしたちの部屋は大変ですね……」
そう呟くとヨーナスお兄様は目を見開きます。
「部屋に侍女がラマしかいないのか? 確かリジェットのルームメイトの学生も貴族ではなかったか? しかも一人はスタンフォーツ家の令嬢だろう」
「わたくしの部屋には同室の学生が二人いるのですが、一人がメラニア様の侍女扱いなのだそうです」
「侍女も学生として入学しているのか……。そうなると、かなり厳しいな」
ヨーナスお兄様が難しい顔をしています。腕を組み、眉を潜めながら考えるような仕草を見せました。
「今からでもスタンフォーツから、侍女をよこせないのか?」
「難しいでしょうね……。どうやらお二人は訳ありのようで、勘当同然の扱いで騎士学校に入学したとおっしゃっていましたから」
「スタンフォーツ家はそのような家だっただろうか……」
「ヨーナスお兄様?」
「いや、悪い。私の一つ上の先輩……、今年騎士になった上級生の中にスタンフォーツ家の御子息がいたんだ。授業や実習で関わる機会は何度かあったが。こう……、言っては悪いが、少しうちに似て……妹をものすごく可愛がっている感じだったからな……。勘当なんて先輩が許すだろうか……。と思ってな」
確かに……。それを聞くとスタンフォーツ家によるメラニアとエナハーンの待遇はおかしいような気がします。
「スタンフォーツ家に何があったのでしょうか?」
「まあ、私たちに知る余地はないからな」
夜の静寂がわたくしの思考を研ぎ澄ませます。
「話が逸れてしまったが、身分差による摩擦の話に戻していいか?」
「あっ! すみません」
気になることを聞いていたらすっかり話が逸れてしまいましたね。
「保守派の動きは……。いい意味でわかりやすいから対処がしやすい。爵位の高いものには近づかなければいいだけだ。だが問題は……。革新派、第二王子の一派だ」
「第二王子って、今日入学式でヨーナスお兄様のお隣にいた方ですよね?」
「ああ。第二王子が同級生というのはなかなかやりにくいものがあるな……。同期で親交があるというだけで、革新派だと一括りにまとめられそうになる」
「そ、それは……」
聞くところによると、ヨーナスお兄様は男子寮、クゥール寮の寮長で、第二王子はサイン寮の寮長なのだそうです。
寮長同士で、したくなくても交流せざるをえない状況で、どう身のふりを交わしていいか悩みながら胃痛を起こしながら生きているそうです。
なんというか……。ヨーナスお兄様ってくじ運が悪いというか不憫なところありますものね。
「同期の生徒の中でも爵位が低かったり、富豪の商家のでだったりすると、革新派に賛同しているものが多いな。
あとはリージェが高くても、爵位の低さで虐げられている家だったりすると、特にその傾向が強いな……」
出ました! 謎の階位、リージェです!
この国での爵位に囚われない実質的な階位、のことをさすことはこの前知りましたけど、一体誰が決めているんでしょう。
「そろそろ寒くなる。リージェは冬の初めに発表されるから、今年のリージェも時期に発表されるだろう」
「ちなみにリージェは毎年、順番が変わるんですよね? 誰が決めているんですか?」
「王都の酒造組合が決めて、出版社が発表する」
「え⁉︎ 酒造組合⁉︎」
もっと国の特殊機関だったりと、公の組織が決めているものかと思っていたので、驚きで顎が外れてしまいそうです。
「ああ。私も初めて知ったときは素直に驚いてしまったが、考えてみれば道理なんだよ。
湖の女神を崇める神事には必ず酒を使うだろう? その酒をどの領地に配分するか……。それを爵位基準にしてしまうと、買い手がつかなくなってしまうんだよ。爵位は高いが実際は資金難である領地も山ほどあるからな。
だから自分たちで毎年どの領地が力を持っているのか独自に調べ上げて、分配を発表してるんだ。それに従っておけば、力関係を間違えることがないから、他の業種の人間や貴族たちも信頼しているってわけだ」
なるほど……。仕組みはわかりましたが……。
「どうやって調べているんでしょうか……」
「神託を得意としている人間が酒造協会にいるらしい。あそこは半分教会のようなものだからな」
「ははあ……。世の中にはいろんな組合があるんですね……」
わたくしはなんだか、気の遠い気分になってしまいます。
「まだ予想だが、今年の発表でオルブライト家のリージェは大きく動く。……リジェット、主にお前のせいで」
ヨーナスお兄様が睨みを聞かせてわたくしの顔をジロリと見ました。
「え? わたくし何かしましたっけ?」
「何か、しましたっけ? じゃない。お父様に聞いたぞ! お前、魔法陣を売りに出したり、なんだかよくわからない付与効果のついたお茶を売り出したりしたらしいな!」
「あっ! それならやりました!」
はあ、と深いため息をついたヨーナスお兄様は、そのまま続けていいます。
「その噂が王都にも広がっている……。両方とも王都のシュナイザー百貨店で販売され始めた際には、とんでもない大行列ができていたぞ!」
あら……。そんなに大人気だったのですね?
「わたくしそんなすごいものを作ったつもりは全くなかったのですが……」
「こっちでは転売騒ぎがあるくらい大人気だったぞ? 目新しい商品に王都の人間は食指を動かされるからな」
わたくしは思いもよらぬ展開に目を瞬かせてしまいます。
「これ以上リージェが上がると、オルブライト家は革新派だと判断されかねない」
「リージェが上がっているのに、その地位が爵位に反映されない、不遇の立場の伯爵家、という見方をされてしまうのですね」
「そうだ。だから何が何でもできるだけ、中立を装え。どちらにもつかないという態度を貫くんだ。もし万が一どちらかの派閥を選ばなければならないときはよく状況を吟味しろ。それがそのまま戦場に結びつく」
「戦場……」
「あまり公にはなっていないが、西の隣国シハンクージャで政変が起こっているらしい」
「え?」
「シハンクージャは武力による統治を得意とする国家だからな。今代の王が倒れ、新しい王が立とうとしている。今代の王はハルツエクデンとは友好関係を築いていたが、王が変われば、国が変わる。今代の王に反旗を翻すのだから、次代の王は反ハルツエクデンの思想を持っていると考えるべきだろう。そうなってくると戦いはそう遠くない時期に起こる」
「そんな……」
「今の王族たちは力が拮抗しているからな……。だが、戦争は功績がわかりやすい。間違いなく次のシハンクージャとの争いを収めたものがこの国の王になる。私たち騎士はその駒になるしかないのだ。どちらの駒になるかで命運が別れる。後悔しない選択肢を選べよ、リジェット」
その重い助言に、わたくしはただ息をのむことしかできませんでした。
*
ヨーナスお兄様と別れ、わたくしも寮に帰ろうと、ベンチから立ち上がると、人の気配があることに気づきます。
「ラマ……」
闇夜の切れ間から現れたのは、わたくしのただ一人の侍女であるラマでした。心配で、わたくしの後をついてきてしまったのでしょう。
「ラマ。わたくしは騎士になるのですから、自分の身くらい自分で守りますよ」
「いいえ。例えあなたが、騎士であったとしても、それ以前にわたくしの大切な主人なのですよ。わたくしの気が済むまで、動くことをお許しください」
まるで危なっかしい妹を心配する姉のような切ない顔をしたラマを怒ることはできませんでした。
「ラマ……。先ほどのお兄様の話、聞いていたかしら?」
「ええ、こちらとしても言質を取られぬよう細心の注意が必要になりますね」
どうやら騎士学校での生活は剣を振っているだけでは済まないようですね……。
身にまとわりつくような暗雲を払うようにわたくしとラマは寮へ戻っていきました。
はっ! これはシリアスかもしれない!? でもリジェット視点だと穏やかになる不思議。
次は いよいよ授業開始です です。




