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白兎令嬢の取捨選択  作者: 菜っぱ
第二章 王都の尋ね者(騎士学校二年生編)
142/157

127少しだけ謎が残ります


 机一面を覆うほどの量の蜂型魔術具を、一つずつ検品しながら、箱に詰める作業をしていきます。

 普通の蜂と違って、魔術具は魔力や神力を流さなければ、襲ってきたりしないので、取り扱いが難しいものではないようです。


 わたくしは貴重な魔鉱からできていると言うこともあって、一つずつ大切に箱に詰めていますが、先生は砂利を移動させるかのごとく、ざらーっと雑に扱っていました。


「たくさん出来上がりましたね! この魔法陣はどのタイミングで使うのですか?」

「大聖堂奥に潜入するときかな。今回の目的はグランドマザーから奪われたスミの初石を取り返すだけで、何もクーデターを起こそうってわけじゃないんだろう?」

「そうですね。スミともできるだけ、騒ぎ立てることなく初石を取り返したいと話していましたし」


 寿命そのものが含まれる石を奪おうというのですから、騒動になることは、予想していますが、大聖堂で働く人たちを廃そうと思っているわけではありません。


「組織の中で、病巣だけを攻撃するのって、全てを壊してしまうより、よほど難しいよね。本当はもう面倒だから、全部野焼きにしたいよ……」

「の、野焼き⁉︎」

「うん。ピンポイントに一人を狙って攻撃するなんて、まどろっこしいでしょ?」


 ギシュタールの焼け野原を思い出したわたくしは、それが冗談でないことを知っています。ああ、この人はやろうとしたら、それができてしまうのだ、ということにわたくしは身震いを覚えます。


「で……でもですよ? そもそも、野焼き? にしたら、初石は取り戻せないでしょう?」

「え? そんなことないでしょう? だってさ……」


 言葉の続きを言おうとしたとき、先生はしまった、という表情を浮かべます。違和感を覚えたわたくしはその言葉の続きを待ちますが、先生は答えようとしません。


「……先生?」

「いや、なんでもないよ。この魔術具は、集団で集まると、蜂のように攻撃をする機能もついているから、今回のような案件には向いていると思うよ?」


 あ、誤魔化された。

 今先生、わざとらしく話を本筋に戻しましたよね?


 そんなに言いたくないことだったのかしら……。だったら無理に言わなくてもいいの気がしますが、ちょっとだけ気になります。


 先生の言いたいことを推理して考えると、色盗みの女を焼いたら、初石が残るということでしょうか?

 そもそも、初石という宝石には色盗みの女の寿命が宿る、という事実もよくよく考えるとどういう原理なのかさっぱりわかりませんよね。


 この世界では無くなった方の遺体は、弔いの一族という葬儀に特化した魔術師の方々が、凍土に運んでしまいますので、死体を焼いたらどうなるのかなんて一般的には知られていません。

 骨は……残るのでしょうか? それとも、魔術を使った後のように、肉体がなくなってしまうのか……。


 この世界は前歴とは違う、魔法陣や魔法が使える世界ですから、そういうものなのか……と納得してしまった部分も多少ありますが、疑問を不思議だな〜という言葉一つで片付けてしまったら、真実に辿り着けませんよね。


 先生が教えてくれないなら、少し自分で考えてみた方がいいのかもしれません。


 その後も作業や片付けを続けていると、夜遅くになってしまいました。窓の外を覗くと、黒い布に色とりどりの魔鉱をばら撒いたかのように、星々が煌めいています。


 もう寮にいるエナハーンとメラニアは、ラマの作る夕ご飯を食べ終わっている時間かもしれません。

 もしかしたら、すごく寝るのが早い、メラニアはもう寝てしまっているかもしれませんね。

 エナハーンは割と夜行性なところがあって、夜遅くても起きていて、何か書き事をしていることが多いのですが、メラニアは夕食を食べて、お風呂に入り終わると、小学生かな? という時間に寝てしまうのです。それで朝まで目を覚さないのですから、超ロングスリーパーですよね。


 帰るときに、迷惑にならないように、静かに寮室に入らないと……。


「先生、今日は遅くまでありがとうございました」

「うん。またスミと連絡をとってみて、大聖堂に向かう日が決まったら連絡して欲しいな。……多分、僕の予想だと、そう遠くない時期にいかなければならない気がするし……」


 先生の後ろめたそうな表情を見るに、スミは……。

 気付きたくないことに気づいてしまった、わたくしはぎこちない笑顔を作りながら、先生の家を去りました。






 そおっと、寮室の扉を開け、忍足でリビングをすり抜けようとすると、まだメラニアもエナハーンも起きているではないですか。

 二人は寮室共有スペースのリビング内に置かれた、いつもご飯を食べるときに使っているダイニングテーブルに、教科書を広げ勉強をしていたようですが……。


「あれ? 遅くなったと思ったのですか……。みなさん起きているんですね?」

「うん……。そりゃ、起きてるよ」

「だ、だって。ねえ……?」


 二人が顔を見合わせている様子をみて、わたくしは首を傾げます。


「ねえ……リジェット。最近、出かけているみたいだけど、テスト勉強してる? 来週……テストだけど」


 メラニアの一言にわたくしは固まります。エナハーンも心配しているのが、態度に現れており、八の字に下がった眉にいつもより傾斜がついています。


「え……。もうそんな時期でしたっけ?」

「えっええ⁉︎ そ、そうですよ? こっ今回出題範囲が広いって教官たちが言ってましたけど……」


 おろおろするエナハーン。


「お嬢様……?」


 二人のお茶の準備をしていたラマも、わたくしを般若のような形相で見つめています。

 あああ! ラマ。お父様に連絡しないでください!


「今からやって間に合うでしょうか……」

「それはもうどうにかして頑張るしかないでしょ! ほら、荷物置いてきて、今からやろう!」

「そうですね! ちょっと急いで部屋から勉強道具持ってきます!」


 わたくしは急いで部屋に戻り、勉強道具を持って、ダイニングテーブルに駆け寄ります。


「でも、リジェットは選択授業はエドモンド先生でしょ? そのテストは実技なの?」


 メラニアに質問されたわたくしは、うーんと授業内容を思い浮かべます。実はエドモンド先生の授業って、ほとんど質疑応答と、興味がある術式を調べたり、研究する時間になっているので、テストらしいテストがないのですよね。


「どうなんでしょう……。もしかしたら、何か新しい魔法陣の提出を求められるかもしれませんが、特にテストらしいことはしないのではないですかね」

「え〜! いいなあ! じゃあ、リジェットは私たちの半分くらいの勉強で済むじゃん! 私とエナハーンは基礎科目を満遍なくとっているから、ペーパーテストが多いんだよね……。学科の詰め込みをするって言ったって限界があるよ……。まあ、エナハーンは余裕だろうけど」


 メラニアはチラリと横目でエナハーンの顔を見ます。


「わ、わたくしだって今回は勉強が進んでいなくて、楽々とはいえない進み具合ですよ?」

「あれ? 最近、寮長室に一人でこもっていたことも多かったけど、あれってテスト勉強じゃなかったの?」

「いっいやあ、あれは……」


 そう言われてみれば、エナハーンは最近、お風呂に入った後なかなか戻ってこない時がありましたね。そうか、寮長室に行っていたのですか。

 以前、エナハーンは小説を書く趣味があると言っていましたから、もしかしたら趣味の時間を楽しんでいたのかもしれませんね。


 エナハーンは一応メラニアの従者なので、寮室にいると、メラニアの世話を焼いてしまいます。もちろんメラニアが世話を強要しているわけではないですし、今の二人は主従以前に同級生という間柄なので、面倒を見る必要は最低限でいいのでしょうが、長年の癖なのか、エナハーンはメラニアがいると、神経がそちらに向いてしまうのです。

 少し離れて自分時間を持つことも大切でしょう。


「じゃあ、何か新しいお話でも書いているのか。かけたら読ませてね〜!」

「そっそうですね……」


 なぜかそういったエナハーンは苦笑いを浮かべています。よほどやましい話でも書いているのでしょうか。


 __それも気になりますが、今はテスト勉強が優先ですね!


 わたくしは二人にお借りしたありがた〜いテスト対策ノートをお借りして、差が開いた分を一生懸命埋めるため、ガリガリとガラスペンを走らせました。




謎1 この世界の人を燃やすと何が残るのか

謎2 エナハーンは一人で何をやっているのか


答えは第二章の中盤と終わりで。


最近、物語を完結させる練習をしようと思いまして、別の十万字弱の短い小説を新しく投稿しております。

完結済みで毎日二話更新で載せていくつもりです。よかったら作者ページから覗いて見てみてください。

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