ギャルで、オタクな女先輩は意外と純情(納得)10
女先輩編・完結
廃工場の前で守谷は綾の手を握る。
その光景をあたしは遠くから眺めていた。
そしたら、胸の奥がざわついて、苦しくて、どうすればいいのか分からなくなって。
そしてあたしは気が付いた。
あたしはどうしようもなく、守谷が好きなんだ。
「どうした水原。早く乗れ」
松本先生に催促され、あたしは助手席に乗り込む。
二人の姿が、遠くなっていく。
あたしは二人の姿が見えなくなるまで視線を外すことが出来なかった。
「二人のことが気になるのか?」
「いえ、そんなわけじゃ」
あたしは外に顔を向けたまま答える。
「好きなんだろ? 守谷が」
核心を突いた突発的な質問。
なのに自分でも不思議なくらいにあたしは首を縦に振っていた。
「素直で結構」
「でも……綾も守谷のことが好き。綾だけじゃない。沙耶未も」
自分の気持ちに気づいたけど、それは同時に守谷に好意を抱く二人がライバルになるということ。
でもあたしは二人と敵対なんてしたくない。
どちらもあたしの大切な友人だから。
「なるほどなー、ようやく合点がいった」
勝手に納得した松本先生は話を続ける。
「水原、お前あの事件からずっと守谷のこと好きだったんだろ。だが、綾と仲良くなったお前は無意識に仲たがいを恐れた。でも守谷とも一緒にいたいから、『先輩』として、『友人』として、別ベクトルの『好き』で我慢しようとしたんだ」
『違う!』と否定したかったけど、今までの不可解な行動や心のズレの正体がそれならば、全て納得がいく。
黙ってしまったあたしに松本先生は深い溜息を吐いた。
「ある意味お前と守谷はお似合いだな。その恋愛に対して、他人のことを最優先に置いてるあたり。だから言わせてもらう。お前バカか?」
「バッ!?」
唐突な罵倒につい声を出してしまった。
「バカってなんですか!?」
「バカはバカだ、馬鹿者め」
「そんなバカバカ言わないでもらえますか!?」
「バカにバカと言って何が悪い? このバカ」
小学生レベルのやり取りを繰り返すあたしと松本先生。
しばらくしてお互いが落ち着くと、松本先生は言った。
「お前の大切な友人は恋のライバルになったぐらいでお前から離れる心の狭い奴なのか? お前が好きなった奴はそんな心の狭い奴に心惹かれるような目の腐った奴なのか?」
松本先生の言葉にあたしは口を噤む。
「違うだろ。綾と沙耶未のやり取りを見たお前なら分かってるだろ。あいつらはお互いが守谷のことが好きなのに、どちらも敵視していない。むしろ喜んでいただろ? 自分が好きなった奴はそれだけ素敵な奴だって言えるからだ。そして守谷、あいつは恋愛面に関してはとんでもなくバカだし、臆病者だ」
守谷だけ酷い言われよう。
「……だけどな、あいつはすごい奴だよ。弱みを一切見せず全てをこなし、他の生徒からは神様扱いの綾をただの女として助け、自分を苦しめているはずのお前をどん底から救った。本当、私なんかにはもったいない、良い生徒だよ」
そう言う松本先生は静かに微笑んだ。
その横顔は教師でありながら、姉のような、母親のような。
上手く言い表せないが、とても優しい微笑だった。
「ま、お前が手を引くってんなら勝手にしろ。元々私は綾の味方だ。ライバルを減ってくれるのはこちらとしてはありがたい」
挑発されたあたしは自分の本心をぶつける。
「諦めません。あたしは守谷が好きです。たとえ相手が誰であろうと、譲る気はありません」
あたしの返答に松本先生はニヤリと笑った。
「そうか。だが私は綾の味方だ。従姉妹として綾のサポートをする。一方のお前はどうする?」
もう心は決まってる。
そしてどうするべきかも。
「松本先生。お願いがあります」
怒涛の誘拐騒ぎの翌日。
俺達は昨日の事件などなかったかのように、時間通りに生徒会室に集まり、業務に励む。
綾先輩は書類の整理、姫華先輩はその補助。小毬先輩はポテチをかじり、雫は書類の数字とにらめっこをしている。
そして俺は……
「悲しいな。愛しい生徒が約束を破るなんて。悲しいな。今日でお別れなんて」
「いやいやいやいや。昨日のことで大変だったの知ってぎゃああぁぁぁぁ! はぁ、はぁ、その大変だったので、課題も終わらなかったのも仕方なぎゃああぁぁぁぁ! はぁ、はぁ、あの! まずは話を聞いてください! 話の合間に力を込めちゃぎゃああぁぁぁぁ!」
松本先生に捕まり、アイアンクローの餌食になっています。
内容の濃い一日を過ごしたせいで、課題のことなど頭の中から綺麗さっぱり抜けていた俺は、早朝の星座占いで『高校生で生徒会所属で唯一の男子生徒会役員のあなた! 今日はプレゼントがあります!』という風に言われ、所詮占いだから外れるだろうと思いながらも仄かに期待を込めて登校したら、松本先生からアイアンクローをプレゼントされた。
「さて、冗談はこれぐらいにしておこう。流石に昨日の後じゃ、課題も何もないだろう」
冗談なら実行する必要はないですよね。
「さて、お前ら。一旦作業を止めてくれ」
松本先生の言葉に、全員が作業を中断して耳を傾ける。
「今日はある報告があるんだ。入ってこい」
松本先生が扉に向かって声をかけると、扉が開けられた。
そこに立っているのはクリーム色の髪にウェーブがかかったギャル風の生徒。
「ど、どうも」
「水原先輩?」
なぜか生徒会室にやってきた水原先輩。
先生が呼んだようだけど……まさか、昨日のことでまた学校側から何かしらのペナルティが課せられたのか!?
「先生! 一体どういうことですか! 昨日のことでしたら水原先輩は何も悪くありませんよ!?」
「待て待て。守谷早とちりするな。別に昨日の一件で水原に何かあったわけじゃない」
それを聞いてひとまず安心。
しかしだとしたら、わざわざ水原先輩を呼んだ理由は?
「本人の強い希望もあり、本日より水原を生徒会役員として迎えいれたいと思っている」
……え?
「「えぇ!?」」
俺と雫が同じタイミングで驚くが、他の三人は冷静に話を聞いていた。
「なんで!?」
「どういうことお姉ちゃん!?」
「言っただろ、本人の強い希望だって」
質問する俺達を鬱陶しそうにする松本先生。
「そんなわけで、とりあえず水原、何か言いたいことがあれば話せ」
「はい」
水原先輩が前に出ると、俺の目の前にやってきた。
すると、ポケットから何かを取り出し俺に差し出す。
水原先輩の手には見覚えのあるアクリルキーホルダーが握られていた。
「これって」
「昨日守谷があたしにくれたキーホルダー」
粉々にされたキーホルダーをわざわざ接着剤で修復させたようで、少しでも雑に扱えば再び粉々になりそうなほど痛々しい姿だった。
「粉々だった奴を直したんですか? 捨ててもよかったのに」
「出来ないよ、そんなこと。だって、これは守谷からもらった大切なものだから」
プレゼントしたものを大切にしてくれるのは心の底から嬉しいけど、捨てても俺は気にしなかったのに。
「守谷、あんたに何度も助けられた。だから言わせてほしいの!」
水原先輩は突然俺に抱きつく。
女性特有の柔らかい触感で我に返り、あわてふためていると、水原先輩が囁いた。
「助けてくれて、ありがとう! 一人の男の子として、大好きだよ!」
「だっ!?」
まさかの告白に思考が追いつかない。
おもむろに松本先生に目を向けると、なんだか言いにくそうな表情をしていた。
「あのー水原。別にここで告白しろって言ったわけじゃ」
「え? あっ! その、色々と覚悟決めてたので、つい」
ここのあたりでようやく俺から離れ、顔を真っ赤にする水原先輩。
「それと言いにくいんだが、お前まだ生徒会役員じゃないぞ?」
「……え?」
松本先生の一言で真っ赤だった顔を顔を青くしていく。
「でも、さっき、迎え入れるって」
「それはあくまで私の推薦であって、決定ではない。だから、ここでやる気をアピールしろって意味で話を振ったのに急に告白タイム始めるんだからな」
深いため息を吐かれた水原先輩は、恥ずかしさやら失態やらで顔を赤くしたり青くしたりで忙しそうだ。
「話を戻すが、さっきも言った通り、私は水原を迎え入れたいと思っている。だが、綾、どうする?」
生徒会長の椅子に座る綾先輩に問うと、少し考えごとをしてから綾先輩は立ち上がり、水原先輩の元へ。
「舞。一つ聞かせてくれないか?」
「な、何?」
「お前は廉君のことが異性として好きだと言った。それはつまり、私の恋のライバルになるというわけだな?」
さっきまでおどおどしていた水原先輩はその質問には真剣な眼差しではっきりと答えた。
「うん。そうだよ」
「……そうか」
今度は松本先生に目を向けると、綾先輩は答えを出す。
「松本先生。舞を是非、生徒会役員として迎え入れたいです」
本当に!?
「そうか。他の奴も異論はないか?」
生徒会の誰も異論を唱える者はいない。
「決まりだな」
「綾、みんな、ありがとう!」
「これからよろしくな。しかし舞までもがライバルになってしまうとはな。友人だからといって廉君は渡さないぞ!」
「こっちこそ! 守谷を渡すつもりなんてないから!」
恋のライバルでありながら、固い絆で結ばれた二人。
とても感動する場面であるんでけど、出来ればそういうのは俺がいないところでやってほしかったなー。
「というわけだ廉君。君を抱かせろ」
「せめて話の前後に関連性を持たせてから要望してください。全部却下しますけど」
「何故だ! 舞はよくて私がダメだなんて不公平だ!」
「水原先輩に関しては突然のことで対応できなかったからで」
「いいから性的に抱かせろ!」
「内容が変わってるじゃないですか!」
「ダメ! 守谷は渡さないから!」
水原先輩も交わり、収集がつかない状態に。
「雫! なんとかして━━」
うわぉ! 虚ろな目で胃薬液体タイプを一気飲みしてるや!
「舞離せ! さっき抱きついたんだから私の番だろ!」
「そういうの関係ないし!」
「ちょっとお二方!? 俺の腕はどっかの海賊みたいには伸びなぎゃああぁぁぁぁ!」
水原先輩が生徒会のメンバーになったのは喜ばしいことなんだけど、代償として俺の理想の学校生活がまた一歩遠ざかっていった気がするのだった。
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