ギャルで、オタクな女先輩は意外と純情(納得)9
「まだ来ないねー。誰が最初に来るんだろうね?」
「じゃあ、誰が最初に来るか賭けでもする?」
待っている間に賭け事を始める諸星先輩と宮本先輩。
取り巻きの男達は二人から回された生徒会メンバーの写真を見て、誰で楽しむかを相談し合っていた。
本当にクソ野郎達だ。
「ごめんね、守谷」
すぐ横で泣いている水原先輩がポツリと謝った。
「水原先輩のせいじゃありません! 全部あいつらのせいです!」
「でも、元はといえば、あたしがあんなことしたから」
「あんなことって……まさか、卓也の一件のことを言ってるんですか!? あれは元々香織って人に無理矢理に頼まれたことじゃないですか!」
何度も水原先輩のせいではないと否定しても、水原先輩は首を横に振った。
「あたしが、憧れたから……あたしみたいな子が、キラキラしようと思ったのが、間違いだったんだよ。変わろうとしたのが、間違いだった……」
間違いなんかであるはずがない。
今の自分から変わろうとした水原先輩が間違いなら、過去から逃げていた俺はどうなるというんだ。
水原先輩は立派な人です、だから自分を否定しないでください。
頭の中では綺麗に言葉が並ぶのに、俺は何も言えない。
言葉を口に出して励ましても、今の水原先輩に届かないのはわかっていた。
きっと『ありがとう』と言って無理な笑みを浮かべておしまい。
それは何もしないより、水原先輩を惨めな思いさせるだけ。
……こんな時、綾先輩ならどうしたのだろう。
過去から逃げようとしていた俺を立ち上がらせてくれた綾先輩なら。
……違うだろ。そうじゃないだろ。
今ここにいるのは俺だ。綾先輩じゃない。
「水原先輩、もしかしたら間違いだったのかもしれません」
「ははっ……守谷もそう思ってたんだ」
声がさらに小さくなる水原先輩に、続けてこう言った。
「でも、俺は今の水原先輩に会えてよかったです。もし水原先輩と接点がなかったらと考えると、すごく嫌です。そう思えるくらい、水原先輩は俺の中では大きな存在なんです。だから水原先輩がどれだけ自分を否定しようとも、俺はそれを否定します」
自分の気持ちを正直に伝えた。
結果自分で言って恥ずかしくなってしまい、今水原先輩の顔を直視出来ない。
今も泣いているのか、それともこんな小っ恥ずかしいことを言う俺を笑っているのか。
……出来れば後者であってほしい。
泣いた顔よりも笑った顔の方が水原先輩には似合うから。
「おっ! 誰か来たよ!」
全員の視線が入り口に向けられる。
扉から差す太陽の光に照らされ、シルエットが浮かび上がった。
細い腰でありながら、出るとこは出ている抜群プロポーション。
長い髪は風になびかせ、その奥の猫のような目をこちらに向け、凛とした態度で立っている。
「お待たせ廉君、舞」
「綾!」
「綾先輩! 何でここに来たんですか!?」
「いやな、GPSを辿っていたらここに──たまたまここに寄ったら廉君達がいたんだ」
「ふざけてないで逃げてください!」
俺には分かる。あの言葉はお茶らけて誤魔化そうとしているだけで、本当はメールを見て俺達を助けに来たんだ。
「へー君が生徒会長の綾ちゃんか。かなり美人だね」
「褒めていただいてありがとうございます。と言いたいところだが、あなた達みたいな輩に褒められても貶されてるように感じてしまうな」
「なんだと!?」
取り巻きの男が苛立ちを覚えていると、すぐさまあの二人が制止に入った。
「はい、ストーップ。ムカついたのは分かるけど、それはパーティーが始まってからぶつけようね」
「お前は、諸星。それに宮本か」
「へー私達みたいな生徒でもちゃんと覚えてるんだ」
「当たり前だ。全校生徒の名前は全員覚えているからな。そんなことより、二人を返してもらおうか」
「ダーメ。もう少し人が集まってからにしないと」
「綾ちゃん!!」
次にやってきたのは雫。そして少し遅れて小毬先輩も到着してしまった。
「なんで二人も来てしまったんですか!」
「助けたいからに決まってるじゃん!」
「この後どんな目に遭うか分かってるのか!」
「分かってる!」
「ならなんで来たんだよ!」
「それ以上に二人を助けたいからに決まってるじゃん!」
涙で顔がぐしゃぐしゃになりながら答える雫に思わず口を噤んだ。
「廉、私も、雫と、同意見。仲間が、危険な目に遭うのが、分かってて、無視、なんて、出来ない」
「私も同感だ。安心しろ廉君、舞。必ず助けてやる」
三人の固い意思に目頭が熱くなった。
「わー感動的。私も涙がでそー」
わざとらしく言って水を差す諸星先輩に怒りを覚えていると、宮本先輩がニヤリと笑った。
「よーっし、そんじゃあ始めよっか!」
「あいつはいいの?」
「むしろ好都合。あいつには借りがあるし、みんなで盛り上がってるところを見せた方が面白くない?」
「たしかに!」
「それじゃあスタート!」
そのかけ声で取り巻きの男共はじわじわと綾先輩達に近寄っていく。
「綾! 逃げて!」
「そんなわけにはいかない!」
綾先輩は構えるが、この人数ではいくら護身術だけでどうこう出来るはずがない。
「一番乗りは俺だ!」
先頭にいた男が綾先輩に向かって飛び掛かろうとしたその時、綾先輩達の背後から何かが飛んでくる。
一瞬ではあったが、それは花瓶のように見えた。
漢の頭に直撃すると粉々に割れ、男と共に地面にぶつかる。
「おいおい、ちゃんと受け取ってくれよ。粉々じゃないか」
綾先輩を押しのけて前に出てきたのは、一人の女教師。
「松本先生!?」
「お姉ちゃん!?」
雫も知らないようで驚いている。
「なんでここに!?」
「いやーほら、私ってスマホ二台持ちだろ? どうやら一台どこかに落としてしまったらしくてな。アプリで追ってみたらなぜかここにたどり着いたんだよ」
雫には思い当たる節があるようで、自前の鞄の中を調べ始める。
すると、雫のものではないスマホが一台取り出された。
「さて、せっかく花瓶も持ってきたのになー。これじゃあ貴様らを弔う花が飾れないな」
「松本先生、いいんですか?」
「教師なのに暴力沙汰って、教師続けられなくなるんじゃないですか?」
それを聞いた途端に男共はニタニタと笑い始め。
「ちょうどいいや先生。まずはあんたに保健体育の授業でも教えてもらおうかな!」
今度は松本先生に飛び掛かる。
だが松本先生は冷ややかな視線を相手に送った。
「いいぞ。教えてやる」
そういって体のひねりを加えた強烈な蹴りを相手の金的に決める。
「睾丸は内臓だから、蹴ると滅茶苦茶痛いから蹴らないように」
泡を吹いて倒れる仲間を目の当たりにした男共は、自分も同じ目に遭うのではと思ったのか、一歩退いた。
「い、いいの!? これで教師やめることになるよ!」
「それがどうした!!」
耳鳴りをしそうなほどの怒号が倉庫内に響き渡った。
「私が教師を辞めるだけでこいつらが助かるなら、喜んで辞めてやるよ」
「そ、そう……でもいいの先生? 今こっちには舞も庶務君もいるんだよ」
その言葉に目に見えて険しい表情をする松本先生。
「お前ら……そこまで腐ってたとはな」
教師を辞める覚悟で俺達を助けようとしてるのに、俺達のせいで身動きが取れなくなってしまった松本先生。
「おとなしくしてもらおうかな。そうすれば悪いようにはしないからさ」
リーダーの達哉とその取り巻きはニヤニヤ笑っている。
どうにかしてここから逃げることは出来ないのか。
しかしどうすれば……ん?
「さて、まずは全員服を脱いで下着姿になってもらおうかな。その後は俺達の相手を──」
「横失礼します」
「なんだよいいところで。さっさと行けよ。んで、どこまで言ったっけ? あ、そうそう! 全員の相手をしてもらってそれから──って、なんでお前達がそっちにいるんだ!?」
いや、なんでと言われましても……
俺もなぜこちら側に立てているのか分からず、隣の男を見上げる。
「おい飛鷹! そいつらをこっちによこせ!」
「俺がやりたいようにやっていいって約束だっただろ? だからやりたいことをやってる」
縄をほどき俺と舞先輩の背中を押して松本先輩に引き渡した。
「だからこいつらを安全に確実に送り届けてんだ。手荒なことをして悪かった。あいつらよりも先に俺達が保護する必要があったんだ。それとこの上着は返す。破れたところは直しておいた」
「ど、どうも。あっ、クマちゃんのワッペン」
余りの急展開に色々と聞きたいことがある。
「あの……あなた達ってどこかの不良グループじゃ」
「そ、そうだ! 周りはお前らのことを”掃除屋”って呼んでるって聞いたぞ! だからお前達に頼んだのに」
向こう側も思わず聞くと、それに答えるのはパンクな格好をした側近の男だった。
「んばっきゃろ! 俺達はな、週に一度町内のゴミ拾いをしてんだよ!」
つまりただのボランティア集団じゃないんですか。
「じゃあ、なんでみなさんそんな不良っぽいと言えばいいのか、パンクな格好してるんですか?」
「んばっきゃろ! これはな! 老人ホームの爺さん達がパンク・ロックが好きで、この格好をすると滅茶苦茶喜ぶんだよ! 今日もこの後その老人ホームに行く予定だ!」
ただの良い人達じゃないですか。
「じゃあ、アニキさん……飛鷹さんの通り名はどいうことなんですか? 泣く子も黙るって、みんなから恐れられてるんじゃ」
「んばっきゃろ! アニキの手に掛かればどんな泣く子も笑顔の花を咲かせるんだよ! そして極めつけは節分の鬼役の姿でも大泣きした子供を笑顔にしちまった逸話だ! ついいた通り名が、泣く子も黙る”鬼の飛鷹”だ!」
ただの愛称じゃないですか。
「じゃあ、基本手は出さないんですよね?」
「おう! 自己防衛以外は基本手は出さねぇ!」
「なんで飛鷹さん顔が傷だらけなんですか?」
「それはな! 猫が好きで野良猫と遊んでる内にひっかかれ──ぶっへ!」
あ、自己防衛以外で手が出た。
「余計なことを喋り過ぎだ」
「す、すいません」
とりあえずまとめるとこの人達は人畜無害のボランティア集団で愛称を付けられるほど人気と。
……どうしよう、この人達と仲良くなりたい。
「く、くっそ! こうなったら力づくにでもあいつらを」
「させると思ってるのか?」
睨みをきかせる姿はまるで鬼が宿ったよう。
こちら側の味方をしてくれているとはいえ、俺も体が震えてしまう。
「こいつらを助けるためとはいえ、お前らの仲間のふりをするのには我慢の限界だったんだよ、このクズどもが」
「ふ、ふん! た、たしかに力じゃどうにかならないが、俺にたてつくとどうなるか教えてやるよ! 俺の親は橘商社っつうでかい会社の社長をやってるんだ。親父に頼めばお前らなんて──」
「どうなるのかしらー」
音もなく突如現れた姫華先輩はニコニコと笑顔を浮かべながら俺の横へ。
「南条!」
生徒会で最も恨んでいる姫華先輩を前に歯ぎしりをする宮本先輩と諸星先輩。
「お久しぶりね二人共。そして隣にいるのが、橘商社社長の一人息子、橘達哉さんですね。あの香織《子豚》ちゃんの情報通り。あとで一応ご褒美をあげないとね。さて」
一度俺達を、確認してからあの冷たい目を諸星先輩達に向けた。
「どうやらあなた達、懲りてないようね。そんな道楽息子にまで頼って」
「そ、そんな口聞いていいわけ! 達哉君にかかればあんたなんかね!」
あの、その達哉君顔を真っ青にしてるようですが。
「い、今、この人のこと、南条って言った?」
「そうだけど?」
「ふふっ、さすがに道楽息子でも『南条』は聞いたことがあるんですね」
「ま、まさか、君は」
「ええ、南条グループ代表取締役社長、南条権之助の娘、南条姫華と申します」
それを聞いた途端、腰を抜かしてしまい、ヘタレこんでしまった。
お嬢様だと思っていたけど、どうやら相当大きな会社のようだ。
「私はあまりお父様の力を借りることはありません。それは自分の力で問題は解決するものだと思っているからです。ですが、今回は私の大事な友人達にした悪逆非道な行為を見逃せません。お父様と相談し、橘商社との取引は今後一切行わないこととします」
「そ、それは困ります! どうかそれだけは!」
土下座をするが、姫華先輩の態度は変わらない。
「責任能力のないあなたの頭に、会社を動かせるほどの効力があると思ってるのですか?」
姫華先輩は足で頭を踏みつけながら蔑んだ目で見下ろす。
「……ですが、まぁ。私もそこまで鬼じゃありません。条件を出しましょう」
「そ、それは……」
「今後一切私達やあの飛鷹さんの関係者に危害を加える行為をしないこと。少しでもあなたの影が見えたら容赦なく制裁を加えます」
「は、はいぃぃ! もうこれ以上関わりません!!」
「じゃあとっととうせなさい。目障りです」
「かしこまりました!」
取り巻きたちと共に諸星先輩と宮本先輩を置いて逃げていった。
「これでわかったかしら、お二人共。私はあなた達のことも調べ上げています。親御さんがどの会社に勤め、どうすればあなた達を一生苦しめられるか、全てわかります。ですので、これは最終警告と捉えなさい。あなた達は今後一切、私達生徒会、そして、私の大切な友人、舞さんに接触しないこと。もし、また私の気分を逆なでるようなことがあれば、わかってますね」
「「は、はい!」」
号泣してその場を走り去っていく二人。
それにより俺達をどうこうしようとする人達は全員いなくなった。
「ふーっ、これにて一件落着ね」
「なんか、結局、全部姫華に、持ってかれた」
「あらー、そうかしらー」
「でもおかげで二人が助かったんですから」
雫達は心の底から安堵しているようだ。
「守谷、だったか」
飛鷹さんは俺の前に立つと深々とお辞儀をした。
「お前には痛い思いをさせた。償いにはならねえと思うが、好きなだけ殴ってくれ!」
「ちょっと! 顔をあげてください! そもそも俺達を助けるためにやったことなんですよね? だったら謝ることはないと思います」
「しかし」
向こうは責任を感じているようで、俺が何もしないというのは納得出来ないよう。
困ったな。
「あ、なら連絡先交換してください。そんで、色々と相談のってください」
「それだけでいいのか?」
「ええ、それで十分です」
「……わかった」
というわけで、連絡先の交換を済ませ、飛鷹さんは予定通り老人ホームに向かった。
「さて、帰るか。あ、水原は私が送っていく。一応保護者には今回のことを説明する必要がある」
「は、はい」
「私達も帰ろっか」
「そうねー」
「帰りに、アイス、買う」
各々が帰る中、その場から動こうとしない綾先輩の隣に立つ。
そして、そっと綾先輩の手を握った。
「どうしたんだ急に? 廉君からこんなことするなんて」
「手が寒そうだったので」
「寒そうって、今は真夏だぞ? まさか! ようやく私との結婚を!」
「そんなこと言う前に、ちゃんとあったまってくださいよ」
「……ありがとう」
小刻みに震える綾先輩の体。
あんなにも堂々として、平気そうな顔をしていたが、そんなはずない。
どれだけ怖かったか。
それでも俺達を助けたくて必死に押し殺して。
それに身体が砂で汚れ、腕や足には擦り傷や切り傷が残っていた。
俺の予想の範疇でしかないけど、きっと綾先輩はメールが届く前から俺達を探してくれたんだろう。
でなければ、いくら急いでいたとはいえ、ここまで傷が付くはずもない。
隣ですすり泣く声が聞こえた気がするが、きっと草が擦れた音だろう。
そう思いながら俺は明後日の方角を向いていた。
読んでくださり、ありがとうございます




