ギャルで、オタクな女先輩は意外と純情(納得)6
「いってぇ!」
想定外の頭突きをされ、痛みで額を押さえつけている姿が何とも滑稽だ。
「あんたのことが好きだと思ってたけど、違うみたい。あんたはただあたしが憧れてた世界の住人だっただけ。好きって感情は今も昔もどこにもなかったみたい」
水原先輩がはっきりと否定してくれたおかげで胸がスッとした。
おまけに奴の床を転げ回る姿も見れた。
耐えられず俺は大笑いする。周りの連中も笑いをこらえるので必死だ。
「て、てめぇ! 何笑ってんだ!」
鬼の形相で立ち上がると、俺の胸ぐらを掴む。
しかし先ほどの醜態をさらしたこいつに恐怖なんて微塵も感じることはなかった。
逆に笑みを浮かべる。
「あらら、フラれちゃいましたね」
さらに奴は怒気を強め、右手の拳で俺の顔面を殴った。
口の中が切れ、血の味がする。
「守谷!」
「大丈夫ですから」
口に溜まった血を吐き、またニタリと笑ってみせる。
怒りで俺しか見えていないのか、視線を俺に向けたまま離さない。
単純な奴でよかった。
このまま俺に矛先を向けてくれれば、当分水原先輩に危害を加えることはないだろう。
水原先輩へ手を伸ばされる前に打開策を。
「達哉君。そんな奴ほっときなよ」
「そうそう。これからとってもいいことがあるんだからさ」
「……それもそうだな」
奴が後ろに下がると、諸星先輩と宮本先輩がすぐ目の前でニヤニヤとしながら俺と水原先輩を見下ろす。
諸星先輩の手にはバッグ、宮本先輩の手にはスマホが握られていたが、どちらも見覚えがある。
「それ、あたしのじゃない!」
水原先輩の言う通り、その二つはどちらも水原先輩の所有物だ。
「はーい笑ってー」
パシャリと水原先輩のスマホで写真を撮ると何か操作をしている。
「おい! 何したんだよ!」
「ちょっとー、先輩に対してその態度はどうなの?」
「そうそう。もっと敬意を持ってよ」
誰がお前達なんかに敬意なんか持つものか。
「はい、これでよし」
「これなら絶対あいつら来るよね」
「ちょっと待て! あんたら何するつもりだ!」
「何って、誘ってるだけだよ?」
「そうそう。せっかく二人がここにいるのに仲間はずれはかわいそう」
「誰を……誰を呼んだんだ!!」
嫌な予感がよぎり、焦る俺。
そんな俺の姿に気分を良くした二人は包み隠さず、はっきりと答えた。
「決まってるでしょ?」
「せ・い・と・か・い」
さっきまで心にあった余裕が嘘のように消え、一瞬にして俺の体から熱が引く。
「色々世話になったし。特にあの南条には。あいつのせいで私達学校を追い出されたしね」
「それなのに舞はなんで学校辞めてないの? フコーヘーなんですけど。あ、もしかしてそこの庶務君に体売って助けてもらったの?」
「水原先輩がそんなことするわけねぇだろ! そもそも自分がしでかしたことの責任を取らずに辞めたのはあんた達だろ! 水原先輩はな! 怖くても、何を言われても、腫れ物見るような視線を向けられても、自分がしたことに目を背けなかった。自分で自分の尻拭い出来ない奴が水原先輩を貶すことをほざくんじゃねぇ!」
あの一件で当然水原先輩が無事で済むはずなんてなかった。
全員が全員ではなかったが、水原先輩を見るみんなの視線は冷たく、特に同学年からは腫れ物のように扱われているのを綾先輩達から話は聞いていた。
なのに、生徒会室に顔を出せば何にもないように明るく振る舞っていた。
見かねた綾先輩が助け舟を出そうとしたのを以前に聞いていたが、水原先輩はそれを断ったという。
生徒会長である綾先輩が一言言えば水原先輩の生活は穏やかになるというのに、水原先輩は『こればあたしの責任。もし綾が首を突っ込んだら一生許さないから』と言ったそうだ。
目の前の平穏よりも償いを選んだ水原先輩が俺の先輩であることに心から誇りに思っている。
そんな水原先輩とは違い、この二人はただ自分の安息を優先し、自主退学という全ての責任を放棄する道を選んだ。
そんな奴らが水原先輩のことを悪くいうのであれば、俺は誰よりも声を荒げて激昂する。
「あっつくるしーな」
「そういえば男らしいと思ってんの? ダサダサだよあんた」
「別にカッコいいとかカッコ悪いとかの問題じゃねぇよ。俺は男として……生徒会の仲間として! 水原先輩を守るんだよ!」
俺の力強い主張の後、しばし静けさが訪れる。
数秒後には失笑したような笑い声が聞こえた。
「そんな無様な姿でよくそんな恥ずかしいこと言えるわね」
「そうだ、どうせ生徒会全員がここに来るだろうからもう一回同じセリフ言いなよ。きっと感動してくれるわよ。他の奴らが来るまで練習しときなよ」
バカにしたような態度の二人は水原先輩の鞄をあさると袋を取り出す。
それは逃げる前に俺が買ったキーホルダーが入った袋。
「何これ?」
無造作に袋を破り、入っているキーホルダーを取り出した。
「うわぁ……やっぱあんなキモイ部にいるだけあって、アニメのキーホルダーとか」
「オタクはオタクってことでしょ。こんな奴と一緒にいたと思うとゾッとする」
「それに触らないで! 返して!!」
怒鳴り声を上げる水原先輩を鬱陶しそうに見つめると、何かを思いついたのか不気味に笑う。
そしてそのキーホルダを水原先輩の目の前に。
「そんなに大切なものだって知らなかったの。ごめんね舞。はい、返してあげ──」
宮本先輩の手からするりとキーホルダーが落ち、乾いた音を立てる。
「あ、しまった!」
「ちょっと何してるの? 今拾う、ね!」
拾うそぶりを見せた諸星先輩の脚が落ちたキーホルダーに追い打ちをかけ、アクリルの割れる音が耳に残る。
「え……」
「ごっめーん。足が滑っちゃった!」
足を退かすが、その下には無残に砕かれたキーホルダーが。
それを目の当たりし、言葉を失った水原先輩の目元から大粒の涙がポロポロと流れ落ちた。
「あははっ! いい顔! その顔最高! そんな顔見せてくれたお礼に十分の一ぐらいは許してあげる」
「そんなにも許すなんて、やっさしー! それにしても、こんなオモチャみたいなキーホルダーが壊れた位でよく泣けるよね。オタクって意味わかんない」
砕けたキーホルダーを足蹴りにし、水原先輩へ飛ばす。
放心状態の水原先輩は砕かれたキーホルダーから目を離さずに涙を流し続ける。
「あんたら……救えないほどのクズだな」
「生徒会の人が『クズ』なんて汚い言葉使ってるー」
「ちゃんと生徒の代表として綺麗な言葉使わないと。これは後で生徒会に苦情入れておかないとね。というわけで、みんなが来るまでおとなしくしてなよ」
俺達から離れると、代わりにあの達哉って奴が連れて来た取り巻きが邪な目で水原先輩を嘗め回すように観察し始める。
「なぁ、達哉。待ってる間にあの子で少し遊ばねえか?」
「そうだな……それもいいかもな。もう俺のものにするとかどうでもいいし」
まずい、このままだと水原先輩が。
「ふふ……」
思考を巡らせている最中、誰かの笑い声が聞こえる。
「あ? 何笑ってるんだ」
取り巻きの一人が不敵に笑う金髪の男につっかかる。
「いやね、この二人の生徒手帳を見たんですがね。白蘭学園の生徒らしいじゃないですか」
「それがどうした」
「噂ではそこの現生徒会は絶世の美少女しかいないそうなんですわ。こんな一人に欲を小出ししちゃもったいないですよ。どうせなら一番好みの女にぶちまけた方がいいと俺は思うんですがねー」
「確かに……」
「それに我慢した分だけスパイスになって、最高ですよ」
その言葉に生唾を飲み込む取り巻き達。
「なに安心してください。万が一にも逃げ出さないように俺達が囲んでおくんで」
「そ、そうだな」
金髪の介入で一時的には危機は去ったが、こいつへの憎悪が高まる。
「なんだ? 何か言いたそうだな」
ニヤリと笑って見下ろす金髪をキッと睨む。
「おー怖い怖い。おい! おめぇら!」
子分達を呼び寄せ、一斉に俺達を囲む。
「おとなしくしてろよ。そうすれば悪いようにはしねえ」
そんな言葉に嫌悪感を抱きながらも、俺は無様に待つことしか出来なかった。
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