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ギャルで、オタクな女先輩は意外と純情(納得)5

 人混みを利用してなんとか巻くことは出来ないかと試してみるが、相手も相当しぶとい。

 距離を縮められることはないが、広げることも出来ていない。


「こっちです!」


 ならばと思い建物の間を縫って走った。

 最初は付いてきたが、何度も曲がることでなんとか巻くことは出来た。


「はぁ、はぁ……なんとかなった、みたいですね」

「な……何よ、あいつ、ら。なんであたしを……あっ」


 水原先輩につられて、デニムのジャケットを見ると、どこかに引っ掛けたらしく、ジャケットに穴が開いてしまっていた。


「なんで、こんな」


 さっきまで楽しい時間を過ごしていたのに、それを全てを台無しをする出来事と対面してしまったことで、今にも泣き出しそうな水原先輩。


「とにかく逃げるしかありません。駅までつければなんとか━━」

「おい! いたか!」

「こっちにはいねぇ」


 俺達が来た方角から声が聞こえる。

 まだこちらには気がついていないが、声の大きさからそれほど遠くにもいないようだ。

 一刻も早くここを離れないと。


「水原先輩、付いてきてください」


 小声で指示をすると水原先輩は頷いて俺の後ろについてくる。

 奥へ奥へと進み、人通りの多い道にたどり着いたことでとりあえず胸をなでおろす。

 しかし油断は出来ない。

 いつまた遭遇するか分からないうちは周りに気をつけないと。


「いないみたいです。早くここから離れましょう」

「でも、どこに行くの?」

「とにかく駅に行きましょう。乗ってしまえば追ってこないと思いますし」


 スマホのマップで駅までのルートを確認。

 どうやら駅から離れてしまっていたようだ。


「まだ歩けますか?」

「……平気」

「じゃあ行きましょ━━いてっ!」


 追ったがいないかと思いよそ見をしてしまった俺は、人とぶつかってしまった。


「す、すいません! よそ見をして━━」


 謝ろうとしたが、目の前の人物に目を向けた瞬間体が硬直してしまう。

 金色の短髪を逆立て、百八十は超えているであろう身長から向けられる切れ味のある鋭い三白眼。

 顔には刃物で撫でたように一直線に伸びた傷跡がいくつもあった。

 中に最近できたばかりが、血が滲んでいるものもある。


「……お前が、水原舞か」


 唐突に呼ばれた水原先輩は何も言わない。


「黙ってるってことは、正解か。そんでお前が、その女のボディーガードってわけか」

「な、なんなんですか!」


 ようやく絞り出した声は震えており、情けないものだった。


「お前らに用がある。二人とも大人しく付いてきてもらおうか。出来れば手荒な真似はしたくないんだ」

「そうだそうだ! 大人しくアニキの言うこと聞いた方が身のためだぜ」


 男の後ろからパンクな格好をした子分らしき金髪の男が不敵な笑みを浮かべて現れる。

 よく確認してみると、まだ後ろに四、五人ほど似たような人達がいるようだ。


「水原先輩!」


 すぐさま水原先輩の手を握り、路地裏に駆け込む。

 先ほどと同様に入り組んだ道を右へ左へと何度も方向転換をして逃げる。

 しばらくすると、また人通りの多そうな道が見えてきた。

 一旦人混みに紛れようとしたが、出口の先で誰かが仁王立ちをして待ち構えている。


「よう……また会ったな」


 さっきの男だ。

 なぜこんなにも早く。


「くっそ! なんでだよ!」

「そう自分を責めるな。俺達の方がこの辺をよく知ってた。ただそれだけだ」


 後方からは何人もの足音が聞こえる。

 十中八九こいつの子分達だ。

 なんとかして水原先輩だけでも逃さないと。

 向こうには聞こえない声で考えを水原先輩に伝える。


「水原先輩。俺が突撃するんで、あいつがひるんだ隙に逃げてください」

「でも! それじゃあ守谷が!」


 当然水原先輩は俺を心配するが、そんなこと言っている場合ではない。

 水原先輩が酷い目に遭うか、俺が痛い目に遭うか。

 迷うことなく選ぶのは後者だ。


「つべこべ言わずに俺の後についてきてください!」


 俺は持てる全ての力を使って男に向かって走る。


「うおおぉぉぉぉ!!」

「威勢がいいな。嫌いじゃないぜ。が、」


 男の鳩尾めがけて飛びかかる。

 が、最小限の動きで俺のタックルをかわされてしまった。

 そして、いつのまにか俺の胸ぐらに手がかかられていた。


「力の差を見極めるんだな」


 浅はかな考えへの罰のようにそのまま俺を背中から叩き落す。

 一瞬にして肺の中から空気が口へ抜け出し、呼吸困難に陥る。


「守谷!」


 水原先輩の声が聞こえるが、強い衝撃を食らったせいで頭がクラクラして視界がはっきりとしない。


「大人しく俺達の言うことを従え。そうすればこれ以上のことはしない」

「わかったから! それ以上、守谷を……」


 それ以上は俺の意識は暗闇の世界に落ちてしまい、聞き取ることが出来なかった。





「二人共、どこに……」





 埃とサビとほのかに香る油の匂い。

 お世辞にも良い匂いとは言えない香りが意識を取り戻した俺を出迎える。


「守谷! よかった。目が覚めたのね」


 心配そうに見下ろす水原先輩の顔が。

 たしか俺は、あの男に思いっきり倒されて。


 硬いマットレスから起き上がり、自分がいる場所を確認する。

 どうやらどこかの倉庫と思われる。

 周りには俺達をさらった奴らとあの男がいた。


「ようやく気がついたか」


 扉から射す光が逆光となっていたが、かすかに顔をうかがえたが、表情は何一つなく、ただ興味なさそうに俺と水原先輩を見ている。


「あんたら! 一体何が目的だ!」

「目的か……強いて言うなら好き勝手やりたいだけだ。おい、上を脱がせ」


 脱がせって……まさか!


「いやああぁぁぁぁ!!」


 子分達が水原先輩に手を伸ばし、ジャケットを脱がす。


「何してんだぁ!!」


 体当たりして子分を一人ふっとばす。


「それ以上指一本触れるな! ただじゃおかないぞ!」

「自分をかえりみず、女を助けるの良いことだが、お前じゃ俺は倒せんぞ。でもまぁ、お前の男気に免じてこれ以上は何もしないでやるよ。あとは任せたぞ」


 男は子分からジャケットを受け取り、そのままどこかに消えた。


「さて、念のため逃げないように縄で縛らせてもらうぜ」


 金髪の男が他の仲間に縄を渡して俺達の両手両足を縛る。


「あんた達は一体なんなんだ。なんで俺達を」

「さっきアニキも言っただろ好き勝手にやりたいだけだ。まぁ元々頼まれたんだがな」

「頼まれた? 一体誰に」


 と、聞いてはいるが、八割がた依頼主は頭に浮かんでいた。


「それは時期にわかる。それまで大人しくしてろよ」


 そう言ってそいつは俺達を見張る。

 他の奴らを盗み見ると、外の監視や雑談をしている様子。

 どうにかして逃げられないかと考えるが、両手両足を封じられていたら何も出来ない。

 幸運にも鋭い何かがあればなんとかなりそうだが、自由になったとしても、この人数を相手にして水原先輩を守るなんて無理だ。

 俺が捨て身の攻撃をしたとしても、水原先輩が逃げ切ることなんて不可能。

 結局逃げるチャンスを見つけるためにも時を待つしかない。

 しばらく待っていると、扉の向こうから何人もの人影がこちらに入ってくる。


「やぁ、また会ったね。舞ちゃん」


 そこに現れたのは、予想通りあの時ファミレスであった達哉ってやつだった。


「達哉……君」

「うっわ、二人とも縛られてる」

「ダッサ!」


 ついでに不快な笑い声をあげる宮本先輩と諸星先輩の姿もあった。


「さすが、泣く子も黙る"鬼の飛鷹とびたか"。通り名が古い気がするけど、実力は本物ってことか」


 飛鷹というのはあいつのことか。


「ったりめーだ! アニキはすげぇんだぞ!」


 興奮気味に答える金髪の男。

 その興奮ぶりからあの男を相当信頼しているようだ。

 しかしそれに特に反応せず、達哉って奴は水原先輩に近づく。


「ごめんね舞ちゃん。手荒に連れてきちゃって」

「なんで……なんで達哉君が、あたしを」

「それなんだけど……俺、舞ちゃんを振ったこと後悔してるんだ」

「え……」


 水原先輩が呆気にとられている間にも話は続けられる。


「舞ちゃんってかわいいし、スタイルも良い。おまけに俺のために見た目まで変えるほど一途だなんて。理想的な女の子じゃないか。今でもその姿なのは、俺のことを今でも好きだからなんだよね?」

「そ、の……」


 恐怖で言葉が出ていない水原先輩に彼は次々と言葉を並べていく。


「だったら付き合お! 俺舞ちゃんのこと幸せにするからさ! そのかわり、あの趣味はやめてね」

「え?」

「アニメとか漫画。さすがにオタクは彼氏として恥ずかしいから」

「おい、ちょっと待てよ」

「……なんだよお前? 邪魔すんなよ」


 不機嫌そうに俺を見るが、俺は血管が切れそうなぐらいあんたにブチギレてんだよ。


「恥ずかしいってなんだよ。あんた何様のつもりだ。ボロクソに振っておいて、今さら付き合ってくれってあり得ないだろ。そもそも水原先輩の何を見てんだ?」

「全部だよ」

「全部? あっはは!」


 トンチンカンな答えに俺は思わず吹き出した。

 すると、腹部あたりに鈍い痛みが走る。


「お前、何笑ってんの?」


 俺の腹部から足を引き見下しているが、それでも俺は奴を馬鹿にする。


「あんたの視線の先がさっきから水原先輩の体にいってることバレバレだからな! あんたの欲を満たすために水原先輩に近づいたんだろ? はっきり言わせてもらう」


 思いっきり空気を吸い、そして人生で最大の声量で言葉を放つ。


「ふっざ、けんなああぁぁぁぁ!!」


 俺の声が倉庫中に何度も反響した。


「水原先輩はな! 恥ずかしがり屋で変な空回りもするし、周りが見えなくなるほど好きなものに熱中するけど、優しくて、純粋で、誰よりも笑顔がキラキラしてんだよ! ダイヤモンドみたいな水原先輩と犬みたいなあんたが釣り合うわけねぇだろうが!」


 俺が言い終えると、俺の荒い息だけが音を立てている。


「……っで、それがどうしたの? お前が熱弁したって、決めるのは舞ちゃんだ」


 踵を返し、水原先輩に近寄っていく。


「さぁ、舞ちゃん。あいつの言うことなんて気にしないで。俺と付き合おうよ」


 顔を下にしている水原先輩の顔は一切見えない。

 ただ、先ほどまで震えていた体が嘘のようにぴったりと止まっている。


「達哉君。目をつぶって」

「いいとも!」


 目を瞑り、唇を突き出す姿にヘドが出る。

 一方の水原先輩は頭を上げると、後方に振って、勢いよく頭突きした。


 

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