表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/109

暑くて、熱い夏休みがやってきた(歓喜)3

 教室を出たのはいいが、これからどうするべきか。

 祐太に追いかけられないためになるべく遠くに来た結果、武道場辺りまで来てしまった。

 武道場というと、山本先輩率いる柔道部が間近の大会に向けてラストスパートをかけている途中のはずだ。

 見つからない内にさっさと離れ──


「君、どうかしたのかな?」


 野太い声に声をかけられてしまい、ビクビクとしながら振り向く。

 そこには柔道着を着た男の集団が俺を見下ろいていた。

 最初はただ単に声をかけただけだと思うが、俺の顔を見た途端に部員達の表情が変わったのを俺は見逃さない。


「どうしたのですか? 何かお探しなら私達がお手伝いしますが」


 屈強な男達による肉の壁は恐怖以外何も感じられないな。

 ここは逃げるが勝ちだ。


「い、いえ……お構いなく」


 回れ右をして退散しようとしたが、すでに後方にも肉の壁が形成されていて身動きが取れない状態だった。


「遠慮しなくてもいいですよ」


 遠慮なんてしてないですから解放して!


「キサマらぁ!! 何をしておる!!」


 外にいるのにもかかわらず、耳鳴りがするほどの怒号が柔道部員に向けられた。

 壁が割れ、道が出来ると屈強な部員達が霞むほど逞しい、まさに漢の一文字にふさわしい山本先輩が鬼の形相で部員達を睨む。


「儂がおらん間に、よってたかって女を囲むとは……恥を知れ!」

「だ、だけど部長」

「黙らんかぁ!!」


 さらなる怒号に部員達は恐怖で背筋を伸ばす。

 まだ伸ばせるだけいい。俺なんか腰が引けてしまってる。


「……すまない。悪気があったわけじゃないんだ」


 さっきまで憑りついていた鬼はどこかへやら。今は紳士的な態度で申し訳なさそうにして目線を合わせてくる。


「柔道部は女気がなくてな。君のような可愛い女子おなごを目の前にして浮かれてしまったんだ」


 ははー、やっぱり気づいてないですよね。わかってましたけど涙が出てくるな。


「や、やはり怖かったのか! まっておれ、今ハンカチを──いや! 使用してしまったのを使わせるわけにはいかん。ティッシュを持ってくるから待ってくれ。貴様ら! それ以上この子に近づくなよ!」


 武道場に姿を消した山本先輩の優しさのせいで目頭が熱い。

 すぐに戻ってきた山本先輩にポケットティッシュを丸ごと渡され、部員達に見送られながら武道場を去る。

 しかし現状をどうにかしないと、()()()また女子と勘違いされては困る。()()()ではあるけど、やっぱり対処した方がいいよな!

 そう言い聞かせてどうするか考える。

 ……待てよ。たしかアニメ研究会は一応夏休みも活動してるはずだ。

 つまり卓也か水原先輩がいる可能性がある!

 早速スマホで連絡を……って、制服の中だった。

 しょうがない。賭けになるけど直接向かうしかない。

 グラウンドの前を通った方が近道になるけど、部活をやっている生徒が多い。

 わざわざ見つかる危険を冒して早く行く必要はないし、校舎を使って安全に行けばいいんよな!


「って、考えてたけど……完全にフラグを立たせてたな、俺」

「君! 何年生?」「か、かわいい」「やだあの子……お人形さんみたいで可愛い!」


 行く先々で他の生徒達と鉢合わせては逃げるを繰り返すことに。

 どうやら部活だけでなく、図書館を利用して課題を進めている生徒が多くいるようだ。

 みんなわざわざ学校で夏休みの課題を進めなくてもいいだろ! 家でやろうが学校でやろうが変わらないのに。

 学校でやるメリットなんて──


「あったわー……綾先輩達目当てだな」


 絶対そうだ。全員ではないけど、崇拝に近い憧憬を持つ生徒達なら綾先輩がいるというだけで学校に来る理由にしてもおかしくはない。

 これはかなり不味い。時間的に昼飯時。

 つまりこの時間は課題に一区切りつけた生徒が昼食のため図書館から出てくる時間。

 そして昼食で座る席を探しているのだろう。

 このまま校舎内で移動するのは無理だ。

 どうせ見られるのなら短い時間で済ませたほうが良い。

 意を決してグラウンドを通ることにする。

 だけど、大っぴらに進むことはしない。

 飽くまで最小限の被害に抑えるんだ。

 ルートはこうだ。

 まず一度昇降口で靴に履き替える。そして木や建物を使って隠れながら、まずは水飲み場まで行き、何やかんやでグラウンド前まできたら、あとは全速疾走で部室棟へ向かいアニメ研究会に駆け込む。

 ふっふっ、自分ながら怖いよ。

 こんな穴だらけな作戦しか思いつかないなんて。


「でもやるしかないよな。まずは靴を取りに行かないと」


 昇降口に隠れながら進む。しかし、昇降口にはすでに何人かの生徒がたむろしている。

 初っ端からつまずいてしまった。


「いやまだだ。最悪俺だとばれなければいいんだ」


 俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女……

 唇を噛みながら必死に自分に言い聞かせる。

 そうだ、俺は女だ。決して男じゃない。守谷廉じゃない。

 私は別の人。そうよ守谷廉じゃないわ。名前は……森田もりたすず


「よし! 行くわよ私!」


 女性らしく、かつ自然に自分の下駄箱に。

 全員こちらを見ているけど、誰も私を守谷廉だとは気づいてない様子。

 それならすぐに済ませて靴に履き替え──


「あっ! さっきの美少女! おーい!」


 誰か呼んでますよ。聞き覚えのある声の気がしますけど、きっと気のせいですよね。

 早く返事してあげてください。

 そう思っていると、私の肩を誰かに叩かれた。


「急にいなくなっちゃったからびっくりしたよ。トイレに行きたかったならそう言ってくれればいいのに」


 逃げられた現実を受け止めたくないからって、その自己補完は女性に嫌われるわよ。


「そ、そうですね。次があれば気を付けます」

「……あれ? ここって俺のクラスの」


 すぐさま下駄箱に手を伸ばそうとすると、祐太は違和感に気づいてしまった。

 まずい……早く気をそらせないと。


「あー! ただでさえ夏服なのに、あまりの暑さで生徒会長が着崩してる! しかもヘソチラまで!」


 男女問わず、一斉に私が指差した方向に振り向く。

 その隙に靴を入れ替え急いで逃げる。

 だけどそれが返って他の生徒達に注目されることになってしまった。

 昇降口から慌てて出てくる(認めたくはないけど)美少女の私を放ってはおけないらしく、周りの生徒(特に男性陣)が周りを囲んで声をかけてくる。


「どうしたの?」「何か困ってるなら力になるよ」「君可愛いね」


 普段の守谷廉だったらいつものように舌打ちとともに嫉妬の目を向けられているはずなのに、森田鈴の私にはお姫様対応。

 複雑な気持ちを抱きながらやんわりと断って進む。

 でも、一々処理しながらでは進みは遅いわけで、当然……


「あ、いた!」


 裕太に追いつかれそうになる。

 急いで人の壁を縫って抜けると、間違ってもスカートがめくれ上がらないギリギリのラインで全力で走った。

 逃げる相手を追いかけたくなる反応でもあるのか、みんなこぞって私を追いかけてくる。


「待って!」「せめて連絡先だけでも!」「私達と友達になりましょうよ!」


 じわりじわりと距離が縮まっていく。

 なんとかしないとと思いながら建物の角を曲がる。

 と、同時に、腕を引っ張られた。

 唐突なことで悲鳴をあげそうになったけど、私の口は誰かの手によって塞がれる。


「シッ、静かにして。他の生徒に気づかれる」


 人差し指を立てる爽やかなイケメンが目と鼻の先に。


「あれ?」「あの子はどこいった!?」「絶対私のものにしてやる!」


 建物の陰とこの男子生徒の体のおかげで生徒達は私に気づかずに通り過ぎていく。


「ふぅ……よかった」


 私から体を離す男子生徒。

 この人はどうやら私を助けてくれたらしい。

 お礼を言わないと。


「あ、あの……ありがとうございます。犬井先輩」


 犬井先輩はニコッと笑った。


「気にしなくていいよ。当然のことをしたまで」


 と、まっすぐ私の目を見て答える。

 きっと本心なのだろう。


「でもここじゃ、すぐに見つかると思うから一旦ここに入って待った方がいいね」


 そう言って窓を開けて中に入る。


「ほら、手を出して」


 言われた通りに手を差し出すと、私の手を持って中へと持ち上げた。


読んでくださり、ありがとうございます!

感想等ありましたら気軽に書いてください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ